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【カイくんとユリちゃんの旅立ち】

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「カイ! 待ってってば!」
 肩に届かない位に伸びた栗毛の髪を激しく上下させ、ユリが僕の後を追い掛けて来る。
 「ユリが追い掛けて来ないなら僕だって逃げないさ! もういい加減諦めて帰ってよ!」
 背負っている銅の剣と盾がち合って、ガチャガチャと鳴る。
「急に『出発する』って言われて、はいそうですか、なんて言える訳ないでしょ!? ちょっと待ちなさいよ!」

 僕はこれから生まれて初めての冒険に出発する。
 行き先は村から遠く離れたお城。
 そこで勇者に成る為の修行を積む。
 そして、いずれは魔王を打ち倒す強い勇者になる!
……ハズなんだけど、幼なじみのユリは僕が出発する事に納得してくれない。

 小さい頃から(今でも僕らは14歳だが)お転婆だったユリは、自分も冒険に出るのだと村中に言い触らした。
 だけど、ユリの両親はそれを許さなかった。
『ーー冒険に出るなんてとんでもない。ユリは女の子なのだから危ない目に遭う必要なんて無いんだよ』『パパの言う通りよ。それに女の子は家事を覚えて良いお嫁さんになる練習をしなくちゃ。それがカイくんの為でもあるんじゃない?』
 ユリの両親は頑なだった。
 とうとうユリは両親を説得できず、村に残る事を決めた。
 なのに僕を笑顔で見送ってくれることは無かった。
 僕だって頑張って決意したのに。

「ユリ、何時か必ず迎えに来るから! だから、待って居て! 僕が勇者に成って世界を守ってみせるから。君を守れるような強い勇者に成って帰って来るから!」
 振り返らず大声で叫ぶ。
 村の皆にも聞こえるように。
 ユリが安心して僕を待って居られるように。
「嫌だ! カイ! 行っちゃヤだ! ずっと一緒だって、一緒に世界を見て回ろうって! 一緒に居てくれるって! そう約束したじゃない! 私をずっと守ってくれるって、そう言ってくれたじゃない!」
 上げられた大声に振り返ると、膝を地に付けて泣きじゃくるユリが居た。
 大粒の涙をポロポロこぼして、僕を見詰めている。
「カイ……一人で行っちゃヤだよ。カイが居ない生活なんて、私には考えられないんだよ。一緒に居てよ……」
 いつまでもお転婆な幼なじみだと思っていた女の子の姿はそこには無かった。
 跳ねた彼女の栗毛を優しく撫で、微笑む。
 
 僕らはこの日、人生のパートナーを自ら選んだのだった。

(To be continued)
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