甘いもの、ちょーだい☆

設楽シイ(旧 甘瑠川椋心)

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☆2.

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「第二理科室」の曲がった看板の下。
 そっと扉をあけて、中に入る。

 一番窓側の席にそっと腰かけて、ため息ひとつ。

「ああー。今日もあいつ、モテモテだったなあ」

「俺のこと?」

「わっ!」

 幸成が扉の向こうから教室に入ってくる。

「脅かさないでよ」

「は? 俺がここ来るの、お前知ってんのに。何、驚く必要があるわけ?」

 悪戯いたずらをしたあとの子どものような表情を浮かべて、幸成が、わたしの正面に座った。

「それで、今日の御馳走は? お姫さま」

「だれがお姫さまじゃい!!」

「しー。大きな声たてると、ここにいるってのが誰かにばれちゃうかも?」

「うっ」

 それはまずい。

 幸成と一緒に――二人っきりでいるだなんてばれたら、学校に来れなくなっちゃう。

「ま、俺はばれてもいいんだけどね」

「よくないよくない」

「あはは、そんな顔真っ青になるなよ、ばーか」

 そうなのです。
 この男。

 普段は、クールでミステリアスという印象の一匹男でございます。
 ですが、なぜかわたしの目の前だけでは、こんな感じの人懐っこい男子、一匹狼どころか、どこかかわいいオオカミさんになってしまうのです。

 まあ、それも、わたしが「餌付け」しているせいかもしれませんが。

「はいはい、オオカミさん。本日のお弁当はオムライス弁当でございます」

「おおっ! 開けていい?」

 冷凍バックの中には、ふたつお弁当箱が入っている。

 わたしのと、こいつの。

 目をキラキラさせながら、お弁当箱の蓋を開けた、オオカミさんは、ぱあっと満面の笑みを浮かべた。

「すげえ! かわいい!」

「かわいいのは、きみのほうだと思うけど?」

「は?」

「ううん、なんでもない、なんでもない」

 たかがお弁当にこんなにほっぺた赤くして、無邪気に喜んでいる姿のほうがかわいい気がするんだけどなあ。
 なんて、言ったら、何か言い返されてしまいそうだから、言わないことにする。

「日夏! これの上にケチャップでニコちゃん書いて!」

「はいはい」

 子どもか!

 まあ、サービスしてやらないこともない。わたしは、黄色い卵の上に、そっとケチャップを落とす。きれいな笑顔のマークを書いてやった。

「よし、できた!」

「すげえ! うーわ、俺、食べられない! さいこー!」

「うわっ。抱きつくなって、ばか!」

 オーバーすぎやしないか?

「じゃ、俺が日夏の書いてやる」

「えっ、いいよ、そんなの」

「謙遜するなって。はい、やるぞ!」

 腕まくりしてから、彼はケチャップと格闘しはじめた。
 本気で頑張っているのは、わかるのだが、手元がちょっと不安。

「うっ、あっ! うう、で、できたけど……」

「ああ、うん。頑張ったね」

 かろうじて、ニコちゃんって感じ。

「ごめん」

「いや、なんで? つか、食べちゃえば同じだし。ほら、いただきますして」

「うん。いただきます」

 ちゃんと合掌してから食べ始まるところ、わたしは好きだ。

「で、肝心のデザートは、ですね~」

「お、なになに?」

「じゃじゃーん!」

 わたしは、冷凍バックの中から、それを取り出した。

「ま、まふぃんっ!」

 途端に、星がまたたくように輝く幸成の顔。

「そーです、アップルシナモンマフィン! ちゃんと、お弁当食べおわってから、召し上がってくださいね」

「ありがと~、日夏、大好き!」

「えっ、あ、う、うん」

 大好き。

 そう簡単にこいつは、好意を口にする。

 そういうのには、馴れているつもりなんだけれど、どきって心臓が跳ねてしまうのは――まだ馴れない。

「日夏?」

「ううん。なんでもない。ほら、昼休み、終わっちゃうよ。早くお食べな」

「それは俺のセリフ。日夏も食べなよ。あーんしてあげようか」

「へ!?」

「ざーんねん。冗談」

「もうっ!!」
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