2 / 13
☆2.
しおりを挟む
★
「第二理科室」の曲がった看板の下。
そっと扉をあけて、中に入る。
一番窓側の席にそっと腰かけて、ため息ひとつ。
「ああー。今日もあいつ、モテモテだったなあ」
「俺のこと?」
「わっ!」
幸成が扉の向こうから教室に入ってくる。
「脅かさないでよ」
「は? 俺がここ来るの、お前知ってんのに。何、驚く必要があるわけ?」
悪戯をしたあとの子どものような表情を浮かべて、幸成が、わたしの正面に座った。
「それで、今日の御馳走は? お姫さま」
「だれがお姫さまじゃい!!」
「しー。大きな声たてると、ここにいるってのが誰かにばれちゃうかも?」
「うっ」
それはまずい。
幸成と一緒に――二人っきりでいるだなんてばれたら、学校に来れなくなっちゃう。
「ま、俺はばれてもいいんだけどね」
「よくないよくない」
「あはは、そんな顔真っ青になるなよ、ばーか」
そうなのです。
この男。
普段は、クールでミステリアスという印象の一匹男でございます。
ですが、なぜかわたしの目の前だけでは、こんな感じの人懐っこい男子、一匹狼どころか、どこかかわいいオオカミさんになってしまうのです。
まあ、それも、わたしが「餌付け」しているせいかもしれませんが。
「はいはい、オオカミさん。本日のお弁当はオムライス弁当でございます」
「おおっ! 開けていい?」
冷凍バックの中には、ふたつお弁当箱が入っている。
わたしのと、こいつの。
目をキラキラさせながら、お弁当箱の蓋を開けた、オオカミさんは、ぱあっと満面の笑みを浮かべた。
「すげえ! かわいい!」
「かわいいのは、きみのほうだと思うけど?」
「は?」
「ううん、なんでもない、なんでもない」
たかがお弁当にこんなにほっぺた赤くして、無邪気に喜んでいる姿のほうがかわいい気がするんだけどなあ。
なんて、言ったら、何か言い返されてしまいそうだから、言わないことにする。
「日夏! これの上にケチャップでニコちゃん書いて!」
「はいはい」
子どもか!
まあ、サービスしてやらないこともない。わたしは、黄色い卵の上に、そっとケチャップを落とす。きれいな笑顔のマークを書いてやった。
「よし、できた!」
「すげえ! うーわ、俺、食べられない! さいこー!」
「うわっ。抱きつくなって、ばか!」
オーバーすぎやしないか?
「じゃ、俺が日夏の書いてやる」
「えっ、いいよ、そんなの」
「謙遜するなって。はい、やるぞ!」
腕まくりしてから、彼はケチャップと格闘しはじめた。
本気で頑張っているのは、わかるのだが、手元がちょっと不安。
「うっ、あっ! うう、で、できたけど……」
「ああ、うん。頑張ったね」
かろうじて、ニコちゃんって感じ。
「ごめん」
「いや、なんで? つか、食べちゃえば同じだし。ほら、いただきますして」
「うん。いただきます」
ちゃんと合掌してから食べ始まるところ、わたしは好きだ。
「で、肝心のデザートは、ですね~」
「お、なになに?」
「じゃじゃーん!」
わたしは、冷凍バックの中から、それを取り出した。
「ま、まふぃんっ!」
途端に、星がまたたくように輝く幸成の顔。
「そーです、アップルシナモンマフィン! ちゃんと、お弁当食べおわってから、召し上がってくださいね」
「ありがと~、日夏、大好き!」
「えっ、あ、う、うん」
大好き。
そう簡単にこいつは、好意を口にする。
そういうのには、馴れているつもりなんだけれど、どきって心臓が跳ねてしまうのは――まだ馴れない。
「日夏?」
「ううん。なんでもない。ほら、昼休み、終わっちゃうよ。早くお食べな」
「それは俺のセリフ。日夏も食べなよ。あーんしてあげようか」
「へ!?」
「ざーんねん。冗談」
「もうっ!!」
「第二理科室」の曲がった看板の下。
そっと扉をあけて、中に入る。
一番窓側の席にそっと腰かけて、ため息ひとつ。
「ああー。今日もあいつ、モテモテだったなあ」
「俺のこと?」
「わっ!」
幸成が扉の向こうから教室に入ってくる。
「脅かさないでよ」
「は? 俺がここ来るの、お前知ってんのに。何、驚く必要があるわけ?」
悪戯をしたあとの子どものような表情を浮かべて、幸成が、わたしの正面に座った。
「それで、今日の御馳走は? お姫さま」
「だれがお姫さまじゃい!!」
「しー。大きな声たてると、ここにいるってのが誰かにばれちゃうかも?」
「うっ」
それはまずい。
幸成と一緒に――二人っきりでいるだなんてばれたら、学校に来れなくなっちゃう。
「ま、俺はばれてもいいんだけどね」
「よくないよくない」
「あはは、そんな顔真っ青になるなよ、ばーか」
そうなのです。
この男。
普段は、クールでミステリアスという印象の一匹男でございます。
ですが、なぜかわたしの目の前だけでは、こんな感じの人懐っこい男子、一匹狼どころか、どこかかわいいオオカミさんになってしまうのです。
まあ、それも、わたしが「餌付け」しているせいかもしれませんが。
「はいはい、オオカミさん。本日のお弁当はオムライス弁当でございます」
「おおっ! 開けていい?」
冷凍バックの中には、ふたつお弁当箱が入っている。
わたしのと、こいつの。
目をキラキラさせながら、お弁当箱の蓋を開けた、オオカミさんは、ぱあっと満面の笑みを浮かべた。
「すげえ! かわいい!」
「かわいいのは、きみのほうだと思うけど?」
「は?」
「ううん、なんでもない、なんでもない」
たかがお弁当にこんなにほっぺた赤くして、無邪気に喜んでいる姿のほうがかわいい気がするんだけどなあ。
なんて、言ったら、何か言い返されてしまいそうだから、言わないことにする。
「日夏! これの上にケチャップでニコちゃん書いて!」
「はいはい」
子どもか!
まあ、サービスしてやらないこともない。わたしは、黄色い卵の上に、そっとケチャップを落とす。きれいな笑顔のマークを書いてやった。
「よし、できた!」
「すげえ! うーわ、俺、食べられない! さいこー!」
「うわっ。抱きつくなって、ばか!」
オーバーすぎやしないか?
「じゃ、俺が日夏の書いてやる」
「えっ、いいよ、そんなの」
「謙遜するなって。はい、やるぞ!」
腕まくりしてから、彼はケチャップと格闘しはじめた。
本気で頑張っているのは、わかるのだが、手元がちょっと不安。
「うっ、あっ! うう、で、できたけど……」
「ああ、うん。頑張ったね」
かろうじて、ニコちゃんって感じ。
「ごめん」
「いや、なんで? つか、食べちゃえば同じだし。ほら、いただきますして」
「うん。いただきます」
ちゃんと合掌してから食べ始まるところ、わたしは好きだ。
「で、肝心のデザートは、ですね~」
「お、なになに?」
「じゃじゃーん!」
わたしは、冷凍バックの中から、それを取り出した。
「ま、まふぃんっ!」
途端に、星がまたたくように輝く幸成の顔。
「そーです、アップルシナモンマフィン! ちゃんと、お弁当食べおわってから、召し上がってくださいね」
「ありがと~、日夏、大好き!」
「えっ、あ、う、うん」
大好き。
そう簡単にこいつは、好意を口にする。
そういうのには、馴れているつもりなんだけれど、どきって心臓が跳ねてしまうのは――まだ馴れない。
「日夏?」
「ううん。なんでもない。ほら、昼休み、終わっちゃうよ。早くお食べな」
「それは俺のセリフ。日夏も食べなよ。あーんしてあげようか」
「へ!?」
「ざーんねん。冗談」
「もうっ!!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる