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「先輩っ!? どしたの!?」
みじめだ。
最後まで、ちゃんと浅田の憧れの先輩を演じていたかったのに。
「な、なんでもないから……っ!!」
「なんでもないわけないじゃん!! だったらどうして泣いているわけ!?」
それは……ッ!!
「ね、浅田」
あたしは涙を拭った。
そして。
浅田に向き直った。
「ショーブ、しない?」
「え?」
「最後にあたしと勝負しようよ」
***
夕暮れの中に沈むテニスコート。
ネットを間に挟んで向き合うあたしと浅田。
「それじゃ、始めるから」
引退してから、半年以上。
あたしはグリッブを持ったことはない。
だけど。
負けるわけにはいかない。
サーブ。
打ち返してきた浅田の玉を撃ち返す。
まずは様子見ってわけ?
やけに甘ぬるい返しにヤキモキする。
ラリーは続く。
次第に浅田は攻撃性を高めていった。
明らかにあたしの打ち返しにくい場所、狙ってきてる。
足首がなる。
瞬時に、動かないと。
取られる……!!
「あっ!」
ラケットすれすれにボールが落ちていく。
最初はあたしの失点。
切り替え、切り替え。
まだゲームはこれからだから。
だけど。
やっぱり、浅田、強い。
確実に狙いに来たとき、ちゃんとやつは仕留めてくる。
だけど。
その強さの理由の一つが見えた。
浅田はあたしを見ている。
ものすごく、注意深く。
そして、あたしを追いかけてきたその執念で、あたしのことをいっぱい知っている。
浅田は、ラケットをふる前に、あたしがどう動くのかをぜんぶ、わかっているのだ。
だから。
このラリーの中で、あたしが、ほんの少しでもいいから、
むかしの自分以上に、なれたら……、
浅田の目算は崩れるはず。
前に……!!
恐れずに前に出よう……!!
いままでしてこなかった、戦い方をして、
浅田のボールを打ち返せ!!!!
***
「はぁ、はぁっ」
あたしは疲れてその場にへたり込んだ。
負けた……。
何点かは取ったけど、完全に。
浅田がこっちに来る。
「先輩」
その顔は逆光でよくわからない。
「がっかりした?」
「え?」
「あんたの憧れなんてこんなもんだったの」
「先輩?」
「あたし、本気出しても、いまのあんたには負けちゃうし。幻滅したよね」
「そんなっ」
「それでも、あたしのこと、好き?」
浅田……。
あたしは…………。
「好きです」
浅田は、そう言った。
「先輩に憧れていたのはありました。そして、いまでも憧れています」
「へ?」
「最後の最後に進化しちゃうの、ずるいですよ。ずっと先輩は慎重なプレーするんだって思ってたのに、ものすごく派手なプレースタイルに変わっちゃって……」
浅田はあたしの前にひざまついた。
みじめだ。
最後まで、ちゃんと浅田の憧れの先輩を演じていたかったのに。
「な、なんでもないから……っ!!」
「なんでもないわけないじゃん!! だったらどうして泣いているわけ!?」
それは……ッ!!
「ね、浅田」
あたしは涙を拭った。
そして。
浅田に向き直った。
「ショーブ、しない?」
「え?」
「最後にあたしと勝負しようよ」
***
夕暮れの中に沈むテニスコート。
ネットを間に挟んで向き合うあたしと浅田。
「それじゃ、始めるから」
引退してから、半年以上。
あたしはグリッブを持ったことはない。
だけど。
負けるわけにはいかない。
サーブ。
打ち返してきた浅田の玉を撃ち返す。
まずは様子見ってわけ?
やけに甘ぬるい返しにヤキモキする。
ラリーは続く。
次第に浅田は攻撃性を高めていった。
明らかにあたしの打ち返しにくい場所、狙ってきてる。
足首がなる。
瞬時に、動かないと。
取られる……!!
「あっ!」
ラケットすれすれにボールが落ちていく。
最初はあたしの失点。
切り替え、切り替え。
まだゲームはこれからだから。
だけど。
やっぱり、浅田、強い。
確実に狙いに来たとき、ちゃんとやつは仕留めてくる。
だけど。
その強さの理由の一つが見えた。
浅田はあたしを見ている。
ものすごく、注意深く。
そして、あたしを追いかけてきたその執念で、あたしのことをいっぱい知っている。
浅田は、ラケットをふる前に、あたしがどう動くのかをぜんぶ、わかっているのだ。
だから。
このラリーの中で、あたしが、ほんの少しでもいいから、
むかしの自分以上に、なれたら……、
浅田の目算は崩れるはず。
前に……!!
恐れずに前に出よう……!!
いままでしてこなかった、戦い方をして、
浅田のボールを打ち返せ!!!!
***
「はぁ、はぁっ」
あたしは疲れてその場にへたり込んだ。
負けた……。
何点かは取ったけど、完全に。
浅田がこっちに来る。
「先輩」
その顔は逆光でよくわからない。
「がっかりした?」
「え?」
「あんたの憧れなんてこんなもんだったの」
「先輩?」
「あたし、本気出しても、いまのあんたには負けちゃうし。幻滅したよね」
「そんなっ」
「それでも、あたしのこと、好き?」
浅田……。
あたしは…………。
「好きです」
浅田は、そう言った。
「先輩に憧れていたのはありました。そして、いまでも憧れています」
「へ?」
「最後の最後に進化しちゃうの、ずるいですよ。ずっと先輩は慎重なプレーするんだって思ってたのに、ものすごく派手なプレースタイルに変わっちゃって……」
浅田はあたしの前にひざまついた。
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