最後に恋した一か月

+4.

***


――久しぶりに先輩とテニスしたいなぁ。



　家。

　ひとりでゆっくりしてたいのに。

　何故かあいつの声、思い出してる。


「テニスって、あのバーカ」


　男と女って。

　違うんだよ？？


　確かに一年のときに、
　男子テニスの新入部員をめっためったにした思い出がある。

　うちの学校の恒例？みたいな感じで、女テニと男テニの交流があるから。

　その時、やけに悔しそうにしてたのが、あいつ。

　そして。

　あたしの実力を見て、目を輝かせていたのも、あいつ。


　だけどさ。


　今、きっと、浅田と向かい合って、
　コートの上で戦っても、


　きっと、あたしは負けてしまう。


　後から始めた浅田だけど、その成長スピードは早すぎて、

　あっという間に、あたしの手の届かないところまで進化してしまった。


　背が止まってしまったあたしと、
　今も成長している浅田。


　……悔しいよね。


　そんなやつが、あんなにも単純に。


――久しぶりに先輩とテニスしたいなぁ。


　あんなこと、言うから。


　今のあたしの実力を、見たら。

　どう思うのかな？？


　ガッカリするかな？？

　そしたら……。



　もう、あたしなんて眼中になくなっちゃう？？


　あたしは浅田がそばにいなくなるのを、想像して、


　ぞっとした。



　あー、だめだめ。

　どうして、こんなこと、考えちゃうんだろう。


　残りは一ヶ月しかない。


　最後、なんだ。


　こんな、シラケてちゃ、ダメダメだよ。

　あたし、しっかり！！




***


　学校。


「ねー、先輩」


　ほら、また来た。


「なに？」

「考えてくれた？」

「え？」

「オレとデートしてくれるか、ムリか？」


　あー。

　確かに。

　そんなこと、言ってたっけなぁ。


「えー、なによ、それ……」

「先輩ってフリーなんでしょ」

「ズケズケ聞くな、バカ！」

「って反応、フリーってことじゃん」

「そーだよ、わりーかよ！！」

「全然っ！　むしろ、オレもだし」


　へー。
　てことは。

「あんた、片思いってこと？」

「へっ」

「前に好きなやついるって言ってたじゃん。あ、いや、言うんじゃなくて口滑らせてた」

「あー！　それ、ヒミツだから！」

「全然ヒミツになってないからなー！」


　真っ赤になって慌てる浅田。

　ほんと、おもしろーっ。

　こいつ、いなくなったら、寂しいだろうな。

　卒業かぁ。


「とにかく！　週末、オレとどっか行こ！」

「どこ行くのさ？」

「映画！」


　映画か。
　そういや、あたしの推している俳優さんが出演する作品がそろそろ上演するのだ。

　それをみたいななぁ。


「先輩、前に言ってたじゃん。酒田耕一が好きって」

「へっ」


　覚えてたの……！？
　あたしの好きな役者！！


「だから、見に行こ？」

「うんっ」


　あたしはうなづいてしまった。