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この世界にはダンジョンがあり魔獣がいる。だから勇者は必要なんだ。 でも...
「なあなあ、甘いお菓子ってないの~? 俺の脳味噌が甘味を求めてるんだけど~?」
「ケン~、あたしが甘いキスしてあげるよ♡」
「私がしてあげるっ(チュッ)」
「俺はそろそろポテチ食いたい。この世界にじゃが芋ってないのか?」
「ねぇ、カズ。ふふっ。あん♡」
村長の屋敷の貴賓室のソファーで女を侍れせてだらけている2人の男の問いに、俺は頭を下げたままの姿勢で対応するしかない。
「申し訳ありません。甘味は貴重で手に入りにくく、明日の夕方までにはご用意するよう手配します。『ぽてち』と『じゃがいも』は聞いたことが無いものですので、教えていただければ似たものを手配致しますが…」
答える俺の言葉なんて聞いていないようで、女たちの艶めいた声が聞こえて来たので早々に退室することにした。どうせついさっき言っていたことも忘れている。いつものことなので慣れたが、念のため甘味は用意しておいた方がいいだろう。
『ケン』と呼ばれていた剣士のケント様と『カズ』と呼ばれていた魔導士のカズアキ様、2人はこの世界に召喚された勇者だ。ケント様は身体能力も高く剣技に特化した前衛タイプでカズアキ様は炎魔法が得意な後衛タイプ。 俺がこの2人の男の世話係になってからこんなことの繰り返しだ。
俺の住む村は山や森に囲まれた田舎なので、魔獣被害が毎年少なからずある。魔力の少ない平民には太刀打ち出来ない魔獣でも、召喚勇者なら簡単に倒せる。勇者が来てから村の魔獣被害は激減した。
800年以上前、魔獣に斃れる人々を救うため聖女の祈りによってもたらされたと言われる2つの宝玉。その一つ、召喚の宝玉を使って勇者は召喚される。彼らはこちらの世界に界渡りするとき、強力な魔力を得てやってくる。その証に利き腕の手の甲に魔力紋が刻印されていて、その力で数年に一度起こるスタンピードの被害を最小限に食い止めてもらう為に召喚されてくるのだ。
まあ勇者といえど、いきなりスタンピードの最前線というわけにはいかないから実戦経験を積んでもらう為に俺たちの村のような魔獣被害のある場所に滞在して討伐を経験して慣れていってもらう。国から派遣された勇者対応部隊も来ているのでかなり大所帯だ。兵士達はテント暮らしだが勇者の2人は村長の屋敷で寝泊まりしている。
部屋から出ると屋敷の給仕係の男がうかがうようにこちらを見ていた。俺はまだしばらく2人は部屋から出ないだろうということを伝えて隣に用意された世話係用の部屋のドアノブに手をかけたところで呼び止められた。
「カイ、2人は中か?」
「はい。ですが、少し待たれた方がよろしいかと思います。その…」
「はぁ…、大体わかった。仕方ない、少し後にするか」
少し眉を下げて俺を見下ろしているのはダグラス・エルサリオ様。勇者対応部隊の副隊長で燃えるような赤髪で青紫の瞳をした美丈夫だ。彼は俺が言い淀むだけで察してくれたようだ。
「申し訳ありません」
「カイが悪いんじゃないだろう? また何か無茶な事でも言われたのか?」
「…ケント様が甘味を、カズアキ様からは『ぽてち』と『じゃがいも』という物が欲しいと。こちらは聞いたことがなくて」
ダグラス様は部隊の中でも良く話をする人だ。俺が2人の世話係なのもあるが、平民の俺が無体な事をされていないか気遣ってくれている。勇者対応部隊は貴族出身の者が大半を占めていて、平民を見下している者も少なからずいる。この人も伯爵家の三男らしいけど身分を振りかざしたりはしない。
『ぽてち』と『じゃがいも』の件は食事の時にでも聞き出しておくと言ってくれて俺の頭にぽんぽんと手をのせる。ダグラス様…俺成人しているんですけど…。
年齢が12年も離れているからつい、と言ってよく子供扱いされる。今も俺が少し口をとがらせているのに気付いて笑いながら帰っていった。
この世界にも違う名前だけどじゃが芋があるのを知っているからポテチは作れるんだけど、油が高価なんだよなぁ。ダグラス様が聞き出した後じゃないと作れないけど準備はしておくか。
そう、俺には前世の記憶がある。勇者2人と同じ日本人だった時の記憶が。
俺の場合は召喚で転移してきた2人とは違い転生になるんだと思う。もちろん凄い魔力なんて持っていないし魔力紋もない。日本で死んだはずの俺の意識が戻ったらこちらの世界のカイという名で両親を亡くしたばかりの12歳の少年だった。目の前で両親が魔獣に殺され自分も傷を負い意識を失っている間に前世の記憶が発現して...
はじめは混乱したけどちゃんとカイとして12年過ごした記憶もあったから何とかやってきた。この世界は日本みたいに便利じゃないけど魔法がある。幸いカイは魔法の才能があったらしく、簡単な生活魔法ならどの属性のものも使うことができた。
前世では大学まで行った知識もあるから村の学校での成績もトップだったし、礼儀作法も出来ているからと村人の中から俺が勇者の世話係に選ばれた。
俺は今年で17歳。成人してまだ1年しか経っていないような俺が選ばれたのは他にも理由があるんだけどね...
「なあなあ、甘いお菓子ってないの~? 俺の脳味噌が甘味を求めてるんだけど~?」
「ケン~、あたしが甘いキスしてあげるよ♡」
「私がしてあげるっ(チュッ)」
「俺はそろそろポテチ食いたい。この世界にじゃが芋ってないのか?」
「ねぇ、カズ。ふふっ。あん♡」
村長の屋敷の貴賓室のソファーで女を侍れせてだらけている2人の男の問いに、俺は頭を下げたままの姿勢で対応するしかない。
「申し訳ありません。甘味は貴重で手に入りにくく、明日の夕方までにはご用意するよう手配します。『ぽてち』と『じゃがいも』は聞いたことが無いものですので、教えていただければ似たものを手配致しますが…」
答える俺の言葉なんて聞いていないようで、女たちの艶めいた声が聞こえて来たので早々に退室することにした。どうせついさっき言っていたことも忘れている。いつものことなので慣れたが、念のため甘味は用意しておいた方がいいだろう。
『ケン』と呼ばれていた剣士のケント様と『カズ』と呼ばれていた魔導士のカズアキ様、2人はこの世界に召喚された勇者だ。ケント様は身体能力も高く剣技に特化した前衛タイプでカズアキ様は炎魔法が得意な後衛タイプ。 俺がこの2人の男の世話係になってからこんなことの繰り返しだ。
俺の住む村は山や森に囲まれた田舎なので、魔獣被害が毎年少なからずある。魔力の少ない平民には太刀打ち出来ない魔獣でも、召喚勇者なら簡単に倒せる。勇者が来てから村の魔獣被害は激減した。
800年以上前、魔獣に斃れる人々を救うため聖女の祈りによってもたらされたと言われる2つの宝玉。その一つ、召喚の宝玉を使って勇者は召喚される。彼らはこちらの世界に界渡りするとき、強力な魔力を得てやってくる。その証に利き腕の手の甲に魔力紋が刻印されていて、その力で数年に一度起こるスタンピードの被害を最小限に食い止めてもらう為に召喚されてくるのだ。
まあ勇者といえど、いきなりスタンピードの最前線というわけにはいかないから実戦経験を積んでもらう為に俺たちの村のような魔獣被害のある場所に滞在して討伐を経験して慣れていってもらう。国から派遣された勇者対応部隊も来ているのでかなり大所帯だ。兵士達はテント暮らしだが勇者の2人は村長の屋敷で寝泊まりしている。
部屋から出ると屋敷の給仕係の男がうかがうようにこちらを見ていた。俺はまだしばらく2人は部屋から出ないだろうということを伝えて隣に用意された世話係用の部屋のドアノブに手をかけたところで呼び止められた。
「カイ、2人は中か?」
「はい。ですが、少し待たれた方がよろしいかと思います。その…」
「はぁ…、大体わかった。仕方ない、少し後にするか」
少し眉を下げて俺を見下ろしているのはダグラス・エルサリオ様。勇者対応部隊の副隊長で燃えるような赤髪で青紫の瞳をした美丈夫だ。彼は俺が言い淀むだけで察してくれたようだ。
「申し訳ありません」
「カイが悪いんじゃないだろう? また何か無茶な事でも言われたのか?」
「…ケント様が甘味を、カズアキ様からは『ぽてち』と『じゃがいも』という物が欲しいと。こちらは聞いたことがなくて」
ダグラス様は部隊の中でも良く話をする人だ。俺が2人の世話係なのもあるが、平民の俺が無体な事をされていないか気遣ってくれている。勇者対応部隊は貴族出身の者が大半を占めていて、平民を見下している者も少なからずいる。この人も伯爵家の三男らしいけど身分を振りかざしたりはしない。
『ぽてち』と『じゃがいも』の件は食事の時にでも聞き出しておくと言ってくれて俺の頭にぽんぽんと手をのせる。ダグラス様…俺成人しているんですけど…。
年齢が12年も離れているからつい、と言ってよく子供扱いされる。今も俺が少し口をとがらせているのに気付いて笑いながら帰っていった。
この世界にも違う名前だけどじゃが芋があるのを知っているからポテチは作れるんだけど、油が高価なんだよなぁ。ダグラス様が聞き出した後じゃないと作れないけど準備はしておくか。
そう、俺には前世の記憶がある。勇者2人と同じ日本人だった時の記憶が。
俺の場合は召喚で転移してきた2人とは違い転生になるんだと思う。もちろん凄い魔力なんて持っていないし魔力紋もない。日本で死んだはずの俺の意識が戻ったらこちらの世界のカイという名で両親を亡くしたばかりの12歳の少年だった。目の前で両親が魔獣に殺され自分も傷を負い意識を失っている間に前世の記憶が発現して...
はじめは混乱したけどちゃんとカイとして12年過ごした記憶もあったから何とかやってきた。この世界は日本みたいに便利じゃないけど魔法がある。幸いカイは魔法の才能があったらしく、簡単な生活魔法ならどの属性のものも使うことができた。
前世では大学まで行った知識もあるから村の学校での成績もトップだったし、礼儀作法も出来ているからと村人の中から俺が勇者の世話係に選ばれた。
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