村に勇者が来た

negi

文字の大きさ
1 / 22

1

しおりを挟む
 この世界にはダンジョンがあり魔獣がいる。だから勇者は必要なんだ。 でも...

「なあなあ、甘いお菓子ってないの~? 俺の脳味噌が甘味を求めてるんだけど~?」

「ケン~、あたしが甘いキスしてあげるよ♡」

「私がしてあげるっ(チュッ)」

「俺はそろそろポテチ食いたい。この世界にじゃが芋ってないのか?」

「ねぇ、カズ。ふふっ。あん♡」

村長の屋敷の貴賓室のソファーで女を侍れせてだらけている2人の男の問いに、俺は頭を下げたままの姿勢で対応するしかない。

「申し訳ありません。甘味は貴重で手に入りにくく、明日の夕方までにはご用意するよう手配します。『ぽてち』と『じゃがいも』は聞いたことが無いものですので、教えていただければ似たものを手配致しますが…」

 答える俺の言葉なんて聞いていないようで、女たちの艶めいた声が聞こえて来たので早々に退室することにした。どうせついさっき言っていたことも忘れている。いつものことなので慣れたが、念のため甘味は用意しておいた方がいいだろう。

 『ケン』と呼ばれていた剣士のケント様と『カズ』と呼ばれていた魔導士のカズアキ様、2人はこの世界に召喚された勇者だ。ケント様は身体能力も高く剣技に特化した前衛タイプでカズアキ様は炎魔法が得意な後衛タイプ。 俺がこの2人の男の世話係になってからこんなことの繰り返しだ。

 俺の住む村は山や森に囲まれた田舎なので、魔獣被害が毎年少なからずある。魔力の少ない平民には太刀打ち出来ない魔獣でも、召喚勇者なら簡単に倒せる。勇者が来てから村の魔獣被害は激減した。

 800年以上前、魔獣に斃れる人々を救うため聖女の祈りによってもたらされたと言われる2つの宝玉。その一つ、召喚の宝玉を使って勇者は召喚される。彼らはこちらの世界に界渡りするとき、強力な魔力を得てやってくる。その証に利き腕の手の甲に魔力紋が刻印されていて、その力で数年に一度起こるスタンピードの被害を最小限に食い止めてもらう為に召喚されてくるのだ。

 まあ勇者といえど、いきなりスタンピードの最前線というわけにはいかないから実戦経験を積んでもらう為に俺たちの村のような魔獣被害のある場所に滞在して討伐を経験して慣れていってもらう。国から派遣された勇者対応部隊も来ているのでかなり大所帯だ。兵士達はテント暮らしだが勇者の2人は村長の屋敷で寝泊まりしている。

部屋から出ると屋敷の給仕係の男がうかがうようにこちらを見ていた。俺はまだしばらく2人は部屋から出ないだろうということを伝えて隣に用意された世話係用の部屋のドアノブに手をかけたところで呼び止められた。

「カイ、2人は中か?」

「はい。ですが、少し待たれた方がよろしいかと思います。その…」

「はぁ…、大体わかった。仕方ない、少し後にするか」

 少し眉を下げて俺を見下ろしているのはダグラス・エルサリオ様。勇者対応部隊の副隊長で燃えるような赤髪で青紫の瞳をした美丈夫だ。彼は俺が言い淀むだけで察してくれたようだ。

「申し訳ありません」

「カイが悪いんじゃないだろう? また何か無茶な事でも言われたのか?」

「…ケント様が甘味を、カズアキ様からは『ぽてち』と『じゃがいも』という物が欲しいと。こちらは聞いたことがなくて」

ダグラス様は部隊の中でも良く話をする人だ。俺が2人の世話係なのもあるが、平民の俺が無体な事をされていないか気遣ってくれている。勇者対応部隊は貴族出身の者が大半を占めていて、平民を見下している者も少なからずいる。この人も伯爵家の三男らしいけど身分を振りかざしたりはしない。

『ぽてち』と『じゃがいも』の件は食事の時にでも聞き出しておくと言ってくれて俺の頭にぽんぽんと手をのせる。ダグラス様…俺成人しているんですけど…。
年齢が12年も離れているからつい、と言ってよく子供扱いされる。今も俺が少し口をとがらせているのに気付いて笑いながら帰っていった。

 この世界にも違う名前だけどじゃが芋があるのをからポテチは作れるんだけど、油が高価なんだよなぁ。ダグラス様が聞き出した後じゃないと作れないけど準備はしておくか。
 
そう、俺には前世の記憶がある。勇者2人と同じ日本人だった時の記憶が。

 俺の場合は召喚で転移してきた2人とは違い転生になるんだと思う。もちろん凄い魔力なんて持っていないし魔力紋もない。日本で死んだはずの俺の意識が戻ったらこちらの世界のカイという名で両親を亡くしたばかりの12歳の少年だった。目の前で両親が魔獣に殺され自分も傷を負い意識を失っている間に前世の記憶が発現して...

はじめは混乱したけどちゃんとカイとして12年過ごした記憶もあったから何とかやってきた。この世界は日本みたいに便利じゃないけど魔法がある。幸いカイは魔法の才能があったらしく、簡単な生活魔法ならどの属性のものも使うことができた。

前世では大学まで行った知識もあるから村の学校での成績もトップだったし、礼儀作法も出来ているからと村人の中から俺が勇者の世話係に選ばれた。

俺は今年で17歳。成人してまだ1年しか経っていないような俺が選ばれたのは他にも理由があるんだけどね...


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...