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31 謝罪

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 翌朝のまだ早い時間、微かな物音に目を覚ますとベッド脇に殿下が立っていて既に身支度を整えていた。俺が目を覚ましたことに気付いてベッドに腰かけてきて身体を起こした俺の顎を持ち上げ、唇が合わさり小さな音を立ててから離れていく。

「身体は辛くない? まだ早いから寝ていていいんだよ」

 顎から頬を撫でてそのまま移動した指が髪を梳き額にもキスをされた。振れる指が優しくて、身体を繋げた翌朝は甘くて恥ずかしくて頬が熱くなる。

「身体は平気です。お帰りになるなら起きます。…お見送りさせて欲しいです」

  そう言ったら殿下が手で顔を覆って何やら唸っている。ぶつぶつ小声で呟いてて「可愛すぎる」「攫って閉じ込めたい」って聞こえた気が…。流石に閉じ込めるのは止めて欲しい。

 少し怠い身体で見送るために扉前まで行き、そこでもキスをして、そのキスが長くて酸欠でふらふらになって、俺を抱きしめて「帰りたくない」と言っている殿下をいつの間にか現れたヒューイが促してようやく帰って行ったのだった。



 ***



 俺は今、殿下と一緒に生徒会室のサロンでクラレンスとアリスターから滅茶苦茶謝られている最中だ。

「本当に申し訳なかった。私達の問題に巻き込んでしまい迷惑をかけたことを心から謝罪する」

「セレスティン様、殿下とは誓って何もありません。私の言動が誤解を招いてしまったことを深くお詫びいたします!」

 並んで座っている二人が深々と頭を下げている。俺の隣に座る殿下を見て頷いてくれたのを確認してから返事を返した。

「わかりました。謝罪を受け入れます。それよりも、一緒に謝ってくれていると言う事はそちらの問題は解決したということですか?」

 俺に言われたクラレンスが嬉しそうに頷きアリスターの肩を抱き寄せた。こんなクラレンスは初めて見たかもしれない。肩を抱かれたアリスターは頬を染めていて何とも初々しい。クラレンスが強硬手段に出る前に上手くいって本当に良かった。

 心の中でうんうん頷いていたらアリスターが目を伏せて悲しそうに呟いた。

「でも、インファント様に申し訳なくて。復学する支援をしていただいたのに…」

 確かにインファントは激しい性格だし激怒するだろうな。それに面目を潰されたゾンマーフェルト侯爵家が黙っていないかもしれない。貴族は本当に面倒くさいのだ。

「ヒューイ、どうなった?」

 急に殿下が呼んだからびっくりしていたら普通に扉からヒューイが入って来てトレーに乗せた一枚の書類を差し出した。それを殿下が内容を確認して頷いてから二人の前のテーブルの上に置いて見るように促した。

「クラレンスの婚約者候補については円満に解決したから気にするな。ほら、ちゃんと両家のサインもあるだろう?」

 どうやらその書類は両家が婚約解消を認めたもので両当主のサインもある正式な契約書みたいだ。クラレンスが手に取ってアリスターにも確認させている。

「安心したか? それにインファントは既に他の者との婚約が進められている」

 殿下と クラレンスはアリスターの養子縁組と同時にインファントとの婚約解消の手続きも進めていたようだ。それってアリスター以外と伴侶になるつもりは全くないって事だし断れないように外堀から埋めていってる気がするんだけど…。

 そして驚いたことに、インファントは隣国の第三王子との婚約が決まり今はその国の学園への留学の為の準備で忙しいらしい。最近見かけないと思ったらそんなことになっているとは思わなかった。

( その隣国ってやり直す前の世界でこの国に攻め込んできた国、だよな? もしかしてこの婚約の本当の意味は… )

 はっきりとは言わなかったけれどやはり婚姻という名の人身御供なんだと思う。王子の側近の婚約者候補だった侯爵家の優秀なオメガを差し出すことで、両国の関係をより深めるつもりなのだろう。

 だけど第三王子がインファントを一目見て気に入り熱心に口説いているらしく、当の本人もまんざらではない様子だと聞いた。
 そしてゾンマーフェルト侯爵家には隣国との国交に貢献したとして多額の褒賞金が与えられる事になり、むしろクラレンスとの婚約解消を喜んでいるような素振りまであったとかなかったとか…。打算的な貴族も多いよね。

 それにしても殿下とクラレンスの暗躍というか根回し? とかが本当に凄くて、優秀なアルファって皆こんな感じなんだろうか。



 一息ついて出されたお茶を飲んでいたら唐突にクラレンスが発した言葉に危うく吹き出しそうになった。

「セレスティンは殿下にこんなに溺愛されていても不安になるんだな」

「ごほっ、え? な、なにを…っ」

( 真面目な顔で何言ってんのこの人? ていうか、傍から見た俺達ってそんななの? うわわわ、それはちょっと恥ずかしんだけど~! )

 いたたまれない気持ちでいっぱいの俺の肩を殿下が抱き寄せてこめかみに柔らかな感触が触れた。

「セレスは初心だからな。私が至らないせいで不安にさせてしまった」

「殿下!? こんな、人前でっ、」

( ぎゃーー! なにしてくれてんの!? こんなん恥ずかし過ぎるって! )

 離れようと腕を突っ張っても肩に回された手の力が強くてむなしい抵抗にしかならない。頬が熱いから顔も真っ赤になってしまっていると思う。
 そんな俺達を見たクラレンスが更に続けて言った内容にびっくりしてしまった。

「隣国は最初セレスティンを望んだんだ。それを知った殿下の怒りは凄まじかったと聞いている。…まさか本人に知らせていないのか?」

「セレスは私の伴侶になるのだから知らせる必要が無かっただけだ。クラレンスだって第三王子とインファントを引き合わせる事には協力的だったじゃないか。ゾンマーフェルトを黙らせる口実を作ってやっただろう?」

「利害が一致したのだから協力もするさ。それに女神の力を授かったセレスティンを国外に、しかもあの隣国に渡すなど有り得ないからな。結果的には双方上手くまとまったようで良かった」

 ……二人の会話について行けないです。将来国のトップになる人達ってこれくらい強かじゃないといけないのかもしれないけど、敵に回したら絶対にいけない人種だ。
 女神の力を授かったっていうのも何とか訂正したいんだけど、今更無理かなぁ…。

 優秀なアルファって怖いよね、と同意が欲しくてアリスターを見たら彼まで勢い込んで言ってきた。

「セレスティン様を隣国に渡すことにならなくて良かったです。それに殿下の伴侶に相応しいのもセレスティン様以外いません。あの、えっと、おめでとうございます」

 チラッと俺の首辺りを見たアリスターが真っ赤になって視線を逸らしてしまう。
それはつい最近自分も経験したことで……

 思わず襟の合わせ目を掴んでしまった。まさか見えるところに付けられていたなんて。ちゃんと確認すれば良かったと後悔してももう遅い。
 今までどれくらいの人に見られてしまったのかと思うと気が遠くなった。



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