お兄ちゃんは妹の推しキャラに転生しました

negi

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 それからの殿下と側近候補二人は凄かった。
殿下の采配でイグナーツとクラレンスも連携して動き指示出しをして、生徒会役員が一丸となって今回の被害者たちの聞き取りと各家への報告、療養が必要な生徒への支援など、物凄い速さで様々な問題を解決していった。

 生徒会役員たちには殿下の筋書きの方を話して動いてもらっている。もちろん俺の力の事は内緒だ。事件に直接関わっていなかった役員たちもアリスターの非常識な行動は知っていたけれど、それが悪霊の仕業だったと聞いて以外にもすんなり納得してくれた。

「あまりに酷い有様だと思ったら悪霊に取り憑かれていたとは驚きです。あれに寄り付く人がいる事が信じられませんでしたが呪いにかかっていたのなら理解できます」

 相変わらず手厳しい言い方だけどイサイアスも納得出来たなら良かった。でもクラレンスが被害を受けた事を知った彼の婚約者候補のインファントは機嫌が悪い。

「僕はまだ彼が信用できません。でも、役員の仕事はちゃんとやります」

 入学式でアリスターがクラレンスに熱心に話しかけていた時から腹を立てていたようで、良い感情が持てないみたいだ。そんなインファントの言葉をたまたま奥の部屋からこちらに出て来ていたクラレンスが聞いてしまった。

「インファント、アリスターも被害者だ。今後は生徒会が支援していくことになるのだから偏見は無くした方が良いと思うぞ」

「クラレンス様…。はい、申し訳ありません…」

 インファントはゲームではクラレンスルートのライバル令息で中々激しい性格だった記憶がある。彼はクラレンスと年が二つ離れているため、学園で一緒に過ごせる期間はこの一年しかない。その間に少しでも近づきたいのはわかるけど、少し焦っているように感じる。



 入学初日からあれだけ目立っていたアリスターの姿が見えず、欠席している生徒も複数いる事で生徒の間でも色々な憶測が出始めている中、やっと公表する時が来た。

 全校生徒と教職員も集められた広間の壇上から殿下が直接伝える事になっていて、俺達生徒会役員も全員その後ろに並んで立っている。
 殿下が手を上げると少しざわついていた生徒達は静まり壇上に注目が集まった。

「今日は私から皆に伝える事があって集まってもらった。現在この学園内には休学している生徒が複数いる。その生徒達に起きた災難について聞いてもらいたい」

 そこから丁寧に悪霊に取り憑かれたアリスターと呪いをかけられた生徒の事を説明していった。皆悪霊の仕業と聞いてはじめは驚いていたけれど、ほとんどの生徒が納得しているようだった。俺にはちょっと不思議な感覚だ。
 今回の説明でアリスターだけは実名を公表して、呪いをかけられた生徒だけでなく彼も被害者である事を伝える事になっている。

「アリスターに取り憑いていた悪霊はある生徒が女神から授かった力で消滅させたのだが、私はそれを目の前で見た」

( ちょぉぉっ、殿下――っ⁉ その説明って必要ですか? 俺のことは公表しないってっ言ってたよね? )

 そんな話が出ると思っていなかったからこっちは顔に出さない様に必死に取り繕っているというのに更に殿下が続ける。

「その生徒が女神の力を発動させるとまばゆい光が溢れ、悪霊はアリスターから弾き出されて消滅した。その神々しい光景はその場に居た兵士達だけでなく、イグナーツとクラレンスも見ている」

 殿下の言葉に並んで立つ二人が頷いているのを見て、生徒達から驚愕とも感嘆とも取れる声が上がった。

( ああああ、もうやめて~! 顔に出そうだし心臓がもたないよぉぉ! )

 なんとか無表情を保っているけどそろそろ表情筋が痙攣しそうだ。っていうかイグナーツ先輩、今横目でこっち見てませんでしたか? 本当に止めて下さい…。

 俺の願いが届いたようで、やっと殿下の話が女神ネタから逸れてくれた。

「アリスターは学園に入学する前から悪霊に取り憑かれてしまっていたようだ。そして悪霊から解放された後は家族を思い涙を流していた。彼はやっと自分を取り戻すことが出来たのだ。皆には彼も被害者なのだと言う事を理解してもらいたい」

 そして、別人として入学したことになっていたので編入する形を取ることにして再試験を受けてもらう事になったと殿下が言うと、生徒達から同情するような声が聞こえてきた。編入試験は入学試験とは比較にならないほど厳しい内容なのを知っているからだ。


 最後に今回被害を受けた生徒達に偏見を持つ事無く接して欲しいと言う事と、疑問に思う事などは生徒会が対応する事を伝えて全ての説明は終了となった。


 広間を出て行く生徒を教職員に任せて俺達も会場を後にした。
殿下にこの後話したいことがあると言われていたので他の役員達と別れて一緒に歩いているんだけど、この道順って…。




「他に聞かせたくない話だから私の部屋に来てもらった。セレスには報告しておきたい事があるんだ」

 予想通り殿下の私室に来てしまった。前にも座ったことのあるソファーで隣に殿下がいるのも同じだ。やっぱり緊張するけど、俺に報告って何だろう。
殿下が少し目を伏せて俺の肩に手を回してから言った。

「ケイデン・サージェンは退学処分になった」

 その名前を聞いた途端身体がビクッと跳ねてしまい、肩にまわされた腕に引き寄せられて胸に収まった頭を殿下が優しく撫でてくれる。それでも、やり直してもまた襲ってきたあの男への恐怖が蘇って身体が震えだした。

「あの男は魅了が解けてもセレスに危害を加えようとしたことがヒューイの証言で明らかとなった。その為今回の事件の被害者には含まれないと判断され退学処分を言い渡した。既に退去してもうこの学園には居ない」

「もう、いない…?」

「ああ、寮部屋の荷物も全て引き払ったし、サージェン侯爵家はケイデンを廃嫡して国外に追放すると報告があった。もう二度と見ることは無い」

「廃嫡、国外追放…」

 殿下に聞かされた事が少しづつ頭に入って来て俺の中のセレスティンの傷ついた心に沁み込んでいく。「もう二度と見ることは無い」と殿下は言った。 ……涙が溢れた。

「こんなに震えて…。セレス、大丈夫だ。あの男はもういない」

 殿下がなだめてくれるけど気持ちが乱れて自分でも制御できない。

「ひっく、こわ、怖かった。ひっ、凄く、嫌だった。助けてって叫んで、でもっ」


 あの時は誰も助けてくれなかった。


 でも、俺はヒューイに助け出されて、ケイデンは処分されることになって……

 なんだか心と頭がぐちゃぐちゃで涙が止まらない。きっと酷い顔になっている筈なののに殿下が両手で包んで瞼、額、鼻の頭に唇を落としていく。

「大丈夫。もう二度とあんなことは起こらない。私が守るよ」

「ジークハルト、さま…んぅ、」

 唇が塞がれて深く合わさり絡まる舌に息が上がる。泣いていた余韻で震えている身体を強く抱きしめられて苦しさに呻いたら、ハッとしたように殿下が離れた。

「ごめん。抑えられなかった。まだ怯えている君にこれ以上はしないよ」

 そう言って涙を拭い髪を梳いて整えてくれる。

「落ち着いたら夕食を食べに行こうか」

 頭を撫でながら語りかけてくれる殿下の優しさに乱れていたセレスティンの自我も癒され、落ち着きを取り戻していった。

( 殿下の香りに包まれていると安心する。セレスティンもだろう? もうあの男に怯えなくてもいいんだ… )


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