お兄ちゃんは妹の推しキャラに転生しました

negi

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5 馬車の中で

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 ガタゴトパカパカと四頭立ての馬車は石畳を学園に向かって進んで行く。

 王族が使う馬車は流石に乗り心地が良くて広いな。周りを騎乗した護衛が一緒に移動するから安心だ。殿下の身の安全の為にはこれくらい普通なんだろうなぁ。

 ……なんてことをつらつら考えていないと心臓が持ちそうもない。

 孤児院から帰るために学園行きの馬車を待とうとしたら、殿下がそれなら一緒に乗って行けばと言ってくれて、そんな申し出を断る事なんか出来るわけも無く今現在同じ馬車の中に二人きりのこの状況…。正面に座る殿下の端正な顔を前に兎に角落ち着こうとしているところだ。セレスティン、今はちょっと出てこないでくれ。
 それにこれは親しくなる絶好のチャンスじゃないか。

「セレスティンは孤児院を訪問したのはこれが初めてなのかな?」

「はい。恥ずかしながら寄付をしているだけで直接訪問したのは今回が初めてです」

「そうか。その割には子供たちに随分好かれているようだったな。皆セレスと親し気に呼んでいた。それにあんな遊びを知っていたのにも驚いたよ。」

「私の名は長くて小さな子には呼びづらいですから、そう呼んでもらうよう私から言いました。遊びは、その、実家の使用人たちから聞いて…。それより殿下の孤児院への差し入れは流石ですね。私は購買のクッキーくらいしか思いつきませんでした」

 うん、なんとか会話が繋がっているな。遊びの知識は前世のものだから誤魔化してしまったけど、少しは親密度が上がっただろうか?

「クッキーを差し入れたのかい? それはとても嬉しかったと思うよ。砂糖を使ったお菓子は滅多に食べないだろうからね」

 殿下が笑顔で言った言葉に気付かされる。そうか、孤児院だもんな。甘味は贅沢品なのかもしれない。今度はもっと色々持って行ってあげようかな。
 そんなことをぐるぐる考えていたら前に座る殿下から笑う気配がした。

「君がこんな人物だったとは今まで気付かなかったよ。今日はそれを知る事ができて良かった」

 そりゃそうだ。中身が別人だからな。これからはこんな感じなんで慣れて行ってくださいね~、と心の中で思いながら取りあえず笑顔で受け答えをしておいた。

「学園の外だからでしょうか? 子供たちが可愛かったので羽目を外してしまったかもしれません。殿下に不敬を働いていなかったか今頃心配になってきました」

「そんなことはないよ。それに私達は同級生だろう? もう少し砕けて接してもらえると嬉しい。駄目かな?」

 おぉ、これはかなり好感度が上がった証拠なんじゃないか? 殿下の提案に手応えを感じる。滅亡回避へ一歩進んだ気分だ。
 殿下からの「お願い」に鼓動が早くなっているのを抑えて答えた。

「駄目ではないです…けど、少しづつ頑張りますっ、頑張る、でいいかな?」

 セレスティンの気持ちも混ざってちょっと恥ずかしい返事になってしまった。語尾は首を傾げての疑問形だし、これは大丈夫だったのか? 不敬じゃないよな? 伺うように見たら、殿下が口に手を当てて視線を逸らしていた。ヤバい、失敗したかも。

「んんっ、その、私も君の事をセレス、と呼んでもいいだろうか?」

 あ、大丈夫だったっぽい。良かった~。どうぞ気楽に呼んで下さいね~。
安心したら自然と笑顔になった。

「はい! もちろん構いません。嬉しいです」


 それからそこそこ会話も弾んで、学園に着くころには少しだけ砕けた態度も出来ていたと思う。セレスティンの記憶にある貴族の常識が言葉を発する時にどうしても出て来てしまって、まだまだこれから慣れていかないとって感じだな。


 学園の入口に停まった馬車の扉が開かれて先に殿下が降りた。続いて降りようとしたら振り返った殿下が俺の手を取って笑顔で言った。

「ニールだけに恰好つけさせたままなのもね? さあ、足元に気を付けて」

 ここにきてまさかのエスコートですか⁈ かぁっと顔に熱が集まるのがわかった。
もう、このイケメンは何をしてくれてんのかな? 俺の中のセレスティンの恋心が悲鳴を上げている。心拍数が一気に跳ねあがって指先が震えてきた。

「あり、がとう、ございます…」

 何とかふり絞って出した声は、途切れているうえに震えてしまっていた。多分顔も真っ赤になっていると思う。なのに殿下はやたらと嬉しそうでちょっと憎らしい気持ちが湧いてしまった。こっちは馬車のステップを踏む足まで震えそうなのに。


 この後殿下は約束があるらしく、昼食を一緒に出来ない事を残念そうにしながら寮とは反対の方へ歩いて行った。今日一日、いや半日?で随分と距離が縮んだような気がする。やっぱり行動あるのみで正解だったな。

 寮に帰って食事を取ったら部屋にこもって今日の事をノートにまとめて色々な反省点をあげていく。このノートは常に吸収して誰の目にも触れない様にしなくてはいけないな。明日から授業も始まるし、セレスティンの記憶をもう一度良く思い出して振舞がおかしくならないように鏡の前で確認もした。授業の内容も予習しておいた方が良いだろう。セレスティンは成績優秀なのだ。どんな質問をされても答えられるようにしておかないとな。幸い大学まで行った俺の記憶もあるから、教科書や授業で書き取ったノートの内容は問題なかった。


 気付けば夕方を過ぎてしまっていた。机の上を片づけて夕食を取るために食堂に向かう事にした。全寮制のこの学園には貴族子息達の舌を満足させてくれる料理を出してくれる食堂が併設されているのだ。生徒の親からの寄付でまかなっているからそんな贅沢が出来るんだけどな。貴族凄い。


 そして俺は、親密度が上がるとどういう事になるのかを全くわかっていなかった。



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