聖女のおまけ

negi

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28 報告

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 快気を祝う会を無事やり過ごした翌日の夜、薬物混入についてダンネベルク侯爵が直接部屋まで報告に来てくれた。

 ワインに入れられていたのは媚薬で、かなり効果の強いものだった事が判明した。
それを聞いてレヴァンテがグルグル唸り声を出している。給仕の男はスクワイア侯爵に金で雇われて犯行に手を貸し、どんな薬物で誰に飲ませるつもりなのかも知らなかったと供述しているらしい。完全に捨て駒だったのだろう。
 そしてスクワイア侯爵はあっさりと大司教の指図だった事を認めた。
聖女様の加護を横取りした私に恥をかかせるようにと言われて、強力な媚薬を手に入れて給仕を使って混入させた事を白状したのだ。あまりにあっさりと認めたことを疑問に思っていたら、ダンネベルク侯爵が教えてくれた。

「スクワイア侯爵は全て話すから減刑して欲しいと取引を持ちかけてきました。彼は大司教のかなり近くにいた人物なので要求に応じました」

なるほど、司法取引したんだ。けれどそんなに近くにいた人物が寝返ってしまったのは何故だろう。もやっとしていたのが顔に出ていたらしく説明を続けてくれた。

 どうやら大司教の権力に陰りが見えているのを感じて、離反する方向に舵を切ったということらしい。今回の事件で、今までであれば身分をかざして簡単に言い逃れ出来ていたはずが追い詰められてしまい、しかも誰も手を差し伸べてくれなかった事も要因のひとつとなり、大司教が権力を振りかざしていた頃とは勝手が違うと悟ったようだ。

「スクワイア侯爵以外にも、嫌がらせを仕掛けるように指示された人物はいたようです。けれど最初に手痛い反撃をされたために実行には至らなかった。トモヒロ様の思惑通りになったと言えます」

「妖精が教えてくれなければあそこまで上手くいかなかったと思います。それに陛下の護衛の皆さんが迅速に対応してくれたおかげです」

 そう答えたらダンネベルク侯爵が微笑んで「そのお言葉、部下達にも伝えておきます」と言ってから目を伏せてすまなそうに告げた内容は信じがたいものだった。

「残念ながら今回の案件で大司教を追及することは出来ませんでした。口約束ばかりで証拠が無いのです。ですが、側近に等しいスクワイア侯爵が離れたことは大きな成果です。ご協力に感謝いたします」

ダンネベルク侯爵が直接赴いてスクワイア侯爵の供述を元に大司教に詰め寄ったけれど、軽くあしらわれてしまったらしい。

 ―――― 私が指示した証拠はあるのですか?身分が高いと陥れようとする輩がいるものです。スクワイア侯爵には今まで良くしてきましたのに残念です。――――

 王族の一人で、大司教の彼にそう言われてしまっては打つ手が無いらしい。そんな言い逃れが通ってしまうなら、全盛期の頃は更にやりたい放題だったことだろう。

 先代の聖女様が亡くなっても変わらぬ振舞に陛下も危惧していて、新しく召喚する聖女様には関わらせないようにと色々と手を回していた。
 幸い魔力量がそこまで多くないのに聖女召喚への参加をねじ込んできたあげく、魔力枯渇で意識不明に陥ってくれたので目覚めるまでに根回しが大分進んだ。

 一応は召喚成功の功労者の一人で大司教でもあるので、私と樹里のお披露目は目覚めてから行う事に決めてしまったが、今となっては済ませておくべきだったと後悔しているらしい。


 報告を終えてダンネベルク侯爵が帰るとつい溜息が出てしまった。国王陛下でさえ手を焼いている権力者に対抗する難しさを改めて実感していたら、レヴァンテの大きな手に引き寄せられて抱きしめられた。私からも腕をまわして胸に顔を埋める。

「私が必ず守ります。あなたを傷つけるもの全てから」

「うん。ありがとう…」

 レヴァンテは可愛いのにいざという時には頼りになるし、腕の中にいると安心する。それにいつも真っすぐ想いをぶつけてくれるから、私はそれに答えることしかしていなかった。最初の触れ合いで私がゆっくりでとお願いしたから、レヴァンテが色々我慢してくれているのもわかっていた。
 だから、背中に回した手でそっと彼の尻尾に触れた。

 ピクリと震えたレヴァンテが驚いて私を見下ろしてきた。見上げる私の顔は赤くなっていると思う。気持ちは伝わっただろうか?

 すぐに私を抱き上げたレヴァンテが小走りと言うには早い歩調で寝室に運んでいく。ベッドに下ろされてまだ信じられないという顔をしたレヴァンテが確認してきた。

「ハイムに注意されたことは覚えていますか? 獣人の尻尾に触れるということは…」

「覚えているし、レヴァンテの勘違いじゃないよ」

 私の答えにレヴァンテがぎゅうっと抱き着いてきた。そして枕元に手を伸ばしてから私の手に何かを握らせた。それはハイムくんが用意した音の出る魔道具だった。
 それを見たら何だかもう彼の事が愛しくてたまらない気持ちになって、目の前でポイッとベッドの外に放り投げてしまった。ついでにブーツも脱いで放り投げたら、レヴァンテが目を丸くして見ていた。

「その、恥ずかしながら経験が無いからどうすればいいのかわからないけど、教えてくれるんだろう?」

 この年で言うにはどうかと思うセリフだけど、大学で出来た初めての彼女とはキスどまりだったし、両親を亡くして弟たちの面倒を見るのに精一杯でそれどころじゃ無かったんだからしょうがないじゃないか。それに受け身になるなんて思っていなかったし、そっちの知識は更に疎い。そんな言い訳じみたことを考えていたら、レヴァンテが手のひらで顔を覆って、……歯を食いしばっているのか? 

 ふぅ、と大きく息を吐き出して顔から手を剥がしてこちらを見た彼の瞳は、獲物を前にした獣の様相を呈していて、グル、と唸り声が聞こえて苦しそうな声が言った。

「これ以上煽らないで下さい。好きなんです。愛しているんです。大事にしたい」

 そんな告白をされたら、もう、胸が苦しくて声も出せずに彼に向かって両手を差し出す事しか出来なかった。


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