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13 教会での治療
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黒霧について聞くため、教会に向かう馬車の中で妖精を呼び出した。こちらの呼びかけに三人の妖精が現れてくれて、樹里と私の肩や膝に座った。
「黒霧の淀みは君たちから加護を授かった人にしか見えないのかな?」
『 そう、加護があると、見える 』
『 加護が少しだと、見えるのも少し 』
『 黒霧がたくさんなら、誰でも見える 』
ギルドの地下牢の淀みに気づいていなかったようなので、よっぽど溜まっていないと目視は出来ないということか。そうなると、気付かないうちに影響を受けている可能性が高いという事になる。
「地下牢はあんなに淀んでいたのに見えていないみたいだったし、あれじゃあ気付かずに黒霧の影響を受けちゃうよね。どうすればいいかな…」
樹里も問題に気付いたようだ。見えるのが私達二人ではどうしても限界がある。考え込んでいたら妖精が心配そうにのぞきこんできた。
『 黒霧は浄化の石で、遠ざけることが、出来るよ 』
『 浄化を込めた、石 』
「え? それって浄化魔法を魔石に溜めるってことかい? どんな魔石でも良いの?」
妖精が物凄いヒントをくれた。それが可能なら何とかなるかもしれない。
妖精から色々聞いている途中で馬車が教会に着いてしまった。ギルドから近い場所に建っていたようで、思っていたよりも早く到着したようだ。妖精にはまた話を聞かせてもらう約束をしてから帰ってもらって馬車を降りた。
護衛を引き連れた馬車の到着に何事かと周辺住民が周りに集まって来ている中、そこでもリントナー侯爵が声を張って二人を紹介して周知を促してくれた。
司祭様や教会関係者に出迎えられて教会に併設されている治癒院に向かう。
治癒院の中は患者で溢れていた。
「私共の治癒魔法では十分な治療を施すことが出来ません。愛し子様のお力でどうか癒しをお与え下さい」
司祭様が深々と頭を下げて懇願してきた。
治癒魔法の能力鑑定で(大)を持っている人はごくわずかだと聞いている。そういう人は王宮の治療師だったり貴族のお抱えになっているので、ここで治癒魔法を使える人は良くて(中)あたりなのだろう。
「司祭様、どうぞ顔を上げて下さい。そのために私達は来たのです」
顔を上げた司祭様に頷いてから部屋の中央に移動すると、妖精が現れて私の肩に座った。どうやら私のことも手助けしてくれるらしい。
部屋の中央で片膝をつき両手の指を組む。治癒魔法を使う時に一番集中できる姿になって、患者たちが治るようにと願い、祈る。魔力が高まると私を中心に光のリングが広がって、妖精が私の肩から飛びたち部屋の上空をまわって魔力の粒子を振りまいていく。しばらくすると部屋の中に回復を喜ぶ声が上がり始めた。
「あ、傷が光って。…うそ、もう痛くない。治ってる⁉」
「俺の、俺の足が元に戻った⁉ これでまた冒険者に戻れる! う、うぅ…」
どうやら治癒魔法の効果は無事患者に届いたらしい。文献では歴代の聖女様は全ての患者を瞬く間に癒したと記されていたので、自分にも出来るのか不安だったけど何とかなって良かった。妖精が肩に戻って来たので立ち上がり振り返ると、司祭様と教会関係者がさっきまでの私と同じポーズをして涙を流しながらこちらを見ていた。
「愛し子様の御業に感動しました! これからは祈りを捧げる際の姿勢もこちらにしていきます。本当に、本当に、ありがとうございます…、うぅぅ…」
「いえ、そんな、姿まで真似なくても…。妖精の加護は皆さんを癒すために授かったものですからそれを行使しただけです」
そう言ったら肩に乗っていた妖精がクスクス笑いながら飛び立ち、私の頬にチョンとキスをしてから消えていった。司祭様は「なんと謙虚な!」と言って更に涙を溢れさせていて、周りを見ると患者たちまでが同じポーズでこちらに向かって膝をついていた。
「愛し子様! ありがとうございます」
「小柄なお姿なのに大きな癒しを与えて下さった!」
なにこれ。どうしてこんなことに? 助けを求めてレヴァンテ達の方を見れば、樹里が満面の笑みでサムズアップしているし、護衛達の瞳がキラキラ…ギラギラ?こっちを見ている。リントナー侯爵が高らかに宣言した。
「皆もトモヒロ様の素晴らしさを理解したようだな。先程ギルドでは樹里様が素晴らしい浄化のお力を示して下さった。妖精の加護を授かったお二人に感謝を‼」
治癒院が歓声と拍手に溢れた。側に来てくれたレヴァンテに連れ出されて治癒院を出るまで感謝の言葉をかけられて、戸惑いもあったけど皆が喜んでくれていたのは素直に嬉しかった。
教会の敷地内に停めてある馬車に二人が乗り込むと、開かれた扉の前に同行の護衛たち全員が跪いた。驚いている樹里と私に、魔法師団団長であるリントナー侯爵がはじめに声を上げた。
「この度お二人の護衛につかせていただき、そのお力とお人柄の素晴らしさに私ども一同感動いたしました。惜しげもなく民にお力を使って下さり感謝致します!」
「「「「「 感謝致します‼ 」」」」」
護衛達の声に周りに集まって来ていた人々も口々に感謝の言葉をあげている。中には地下牢にいた人の仲間も居たようで、樹里の浄化のおかげで元に戻ったと喜んでいる声も聞こえてきた。
こんなに人から感謝されたのははじめてかもしれない。同じ気持ちなのか樹里も嬉しそうに笑顔で手を振っている。
元の世界で私はどちらかと言えば役に立たない部類だったと思う。勤めていた書店でも、体格を理由に力仕事はきついだろうと判断されて女子社員に混ざっての仕事が多かった。だから少しでも足を引っ張らないようにとジョギングで体力作りをして、健康にも気を付けていたし、誰よりも早く出社して仕事をしていた。
そんな私が人から感謝されているのは授かった加護のおかげだし、それも本来なら樹里が授かるはずだったものだ。だから彼女を助け、この力はこの国の人々に還元していかなければと改めて思った。
人々の歓声の中、護衛達に守られて教会を後にした。
「黒霧の淀みは君たちから加護を授かった人にしか見えないのかな?」
『 そう、加護があると、見える 』
『 加護が少しだと、見えるのも少し 』
『 黒霧がたくさんなら、誰でも見える 』
ギルドの地下牢の淀みに気づいていなかったようなので、よっぽど溜まっていないと目視は出来ないということか。そうなると、気付かないうちに影響を受けている可能性が高いという事になる。
「地下牢はあんなに淀んでいたのに見えていないみたいだったし、あれじゃあ気付かずに黒霧の影響を受けちゃうよね。どうすればいいかな…」
樹里も問題に気付いたようだ。見えるのが私達二人ではどうしても限界がある。考え込んでいたら妖精が心配そうにのぞきこんできた。
『 黒霧は浄化の石で、遠ざけることが、出来るよ 』
『 浄化を込めた、石 』
「え? それって浄化魔法を魔石に溜めるってことかい? どんな魔石でも良いの?」
妖精が物凄いヒントをくれた。それが可能なら何とかなるかもしれない。
妖精から色々聞いている途中で馬車が教会に着いてしまった。ギルドから近い場所に建っていたようで、思っていたよりも早く到着したようだ。妖精にはまた話を聞かせてもらう約束をしてから帰ってもらって馬車を降りた。
護衛を引き連れた馬車の到着に何事かと周辺住民が周りに集まって来ている中、そこでもリントナー侯爵が声を張って二人を紹介して周知を促してくれた。
司祭様や教会関係者に出迎えられて教会に併設されている治癒院に向かう。
治癒院の中は患者で溢れていた。
「私共の治癒魔法では十分な治療を施すことが出来ません。愛し子様のお力でどうか癒しをお与え下さい」
司祭様が深々と頭を下げて懇願してきた。
治癒魔法の能力鑑定で(大)を持っている人はごくわずかだと聞いている。そういう人は王宮の治療師だったり貴族のお抱えになっているので、ここで治癒魔法を使える人は良くて(中)あたりなのだろう。
「司祭様、どうぞ顔を上げて下さい。そのために私達は来たのです」
顔を上げた司祭様に頷いてから部屋の中央に移動すると、妖精が現れて私の肩に座った。どうやら私のことも手助けしてくれるらしい。
部屋の中央で片膝をつき両手の指を組む。治癒魔法を使う時に一番集中できる姿になって、患者たちが治るようにと願い、祈る。魔力が高まると私を中心に光のリングが広がって、妖精が私の肩から飛びたち部屋の上空をまわって魔力の粒子を振りまいていく。しばらくすると部屋の中に回復を喜ぶ声が上がり始めた。
「あ、傷が光って。…うそ、もう痛くない。治ってる⁉」
「俺の、俺の足が元に戻った⁉ これでまた冒険者に戻れる! う、うぅ…」
どうやら治癒魔法の効果は無事患者に届いたらしい。文献では歴代の聖女様は全ての患者を瞬く間に癒したと記されていたので、自分にも出来るのか不安だったけど何とかなって良かった。妖精が肩に戻って来たので立ち上がり振り返ると、司祭様と教会関係者がさっきまでの私と同じポーズをして涙を流しながらこちらを見ていた。
「愛し子様の御業に感動しました! これからは祈りを捧げる際の姿勢もこちらにしていきます。本当に、本当に、ありがとうございます…、うぅぅ…」
「いえ、そんな、姿まで真似なくても…。妖精の加護は皆さんを癒すために授かったものですからそれを行使しただけです」
そう言ったら肩に乗っていた妖精がクスクス笑いながら飛び立ち、私の頬にチョンとキスをしてから消えていった。司祭様は「なんと謙虚な!」と言って更に涙を溢れさせていて、周りを見ると患者たちまでが同じポーズでこちらに向かって膝をついていた。
「愛し子様! ありがとうございます」
「小柄なお姿なのに大きな癒しを与えて下さった!」
なにこれ。どうしてこんなことに? 助けを求めてレヴァンテ達の方を見れば、樹里が満面の笑みでサムズアップしているし、護衛達の瞳がキラキラ…ギラギラ?こっちを見ている。リントナー侯爵が高らかに宣言した。
「皆もトモヒロ様の素晴らしさを理解したようだな。先程ギルドでは樹里様が素晴らしい浄化のお力を示して下さった。妖精の加護を授かったお二人に感謝を‼」
治癒院が歓声と拍手に溢れた。側に来てくれたレヴァンテに連れ出されて治癒院を出るまで感謝の言葉をかけられて、戸惑いもあったけど皆が喜んでくれていたのは素直に嬉しかった。
教会の敷地内に停めてある馬車に二人が乗り込むと、開かれた扉の前に同行の護衛たち全員が跪いた。驚いている樹里と私に、魔法師団団長であるリントナー侯爵がはじめに声を上げた。
「この度お二人の護衛につかせていただき、そのお力とお人柄の素晴らしさに私ども一同感動いたしました。惜しげもなく民にお力を使って下さり感謝致します!」
「「「「「 感謝致します‼ 」」」」」
護衛達の声に周りに集まって来ていた人々も口々に感謝の言葉をあげている。中には地下牢にいた人の仲間も居たようで、樹里の浄化のおかげで元に戻ったと喜んでいる声も聞こえてきた。
こんなに人から感謝されたのははじめてかもしれない。同じ気持ちなのか樹里も嬉しそうに笑顔で手を振っている。
元の世界で私はどちらかと言えば役に立たない部類だったと思う。勤めていた書店でも、体格を理由に力仕事はきついだろうと判断されて女子社員に混ざっての仕事が多かった。だから少しでも足を引っ張らないようにとジョギングで体力作りをして、健康にも気を付けていたし、誰よりも早く出社して仕事をしていた。
そんな私が人から感謝されているのは授かった加護のおかげだし、それも本来なら樹里が授かるはずだったものだ。だから彼女を助け、この力はこの国の人々に還元していかなければと改めて思った。
人々の歓声の中、護衛達に守られて教会を後にした。
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