12 / 37
11 獣人の求婚
しおりを挟む
私達の能力を広めていくために、今日から冒険者ギルドと教会へ通うことになった。
はじめのうちは王都とその近隣をまわるので日帰りの予定だ。
樹里は白い脛丈のドレスに編み上げブーツで白地に金の刺繍が入ったケープを着ていてとても似合っている。そんな彼女と並んで立つ私も、白とグレーを基調にした服装なんだけどフリルが多いような…。クラヴァットもフリルだし、上着の袖からもフリルが出ている。ハイムくんもレヴァンテも似合っていると言ってくれたし、上等な素材を使っているようで着心地はとても良いけど、服に負けているような気がする。
馬車に私と樹里が乗って、魔法師団団長が率いる騎乗した護衛たちと一緒に出発した。身分の高い人は屋外を徒歩で移動しないらしい。
「知宏、疲れてる? 大丈夫?」
「うん、そうだね、少し疲れてるかもしれない…」
向かいに座る樹里が心配そうに聞いてきた。馬車には二人だけなので気がぬけて、ここ最近の疲れが顔にでてしまっていたらしい。
二度目の話合いの後がとにかく大変だった。
陛下と宰相からの婚約の打診があったことは瞬く間に知れ渡った。私の身の安全の為にあえて言い広めたのだけれど、返事を保留にしていたら行く先々で求婚されるようになってしまったのだ。
最初は陛下の側近で護衛のダンネベルク侯爵だった。
大柄な護衛の中でも一回り大きな体躯をしていて虎の獣人だ。二度目の話合いで消音の魔道具の効果を消した直後に、大股で歩み寄って来ていきなり前に跪いて右手を差し出してきたからびっくりした。
「音は聞こえずとも陛下と宰相殿の求婚には応えていない様子であった。ならば私にも機会をいただきたい。貴殿が召喚の間で私が威嚇しても一切ひるまず立ち向かってきた姿に心を打たれた。どうか私の手を取ってもらえないだろうか」
召喚の間で剣に手をかけて脅してきたあの人か? 接点なんてほとんど無いのにこれも獣人では当たり前の事なんだろうか。
この人も断ったら駄目なのかなと思っていたら、シリング公爵に返事は保留だと言われて引き下がってくれた。でも手の甲にはやっぱりキスをされてしまって、陛下が「貴様もか」ってグルグル唸り声をあげていた。
それからは蔵書庫に向かう途中や魔法の訓練場で、熊とか鷹とか山猫とか、他にも色々な獣人の全て男性からの求婚に対応する事になってしまった。特に熊の人は巨漢で迫力があって少し怖かった。断ってもなかなか引いてくれなくて、レヴァンテとシリング公爵が間に入ってくれてやっと諦めてくれたけど、今度は鷹の獣人の魔法師団の団長だという人がやってきて…。
ダンネベルク侯爵の後は全て断っているんだけど、国の上層部三人からの求婚を保留にしている私は一体どんな風に見られているのかも気になるし、とにかく疲れた。
「知宏モテモテだもんね」
「樹里だってモテモテだろ? 殿下がカリカリしてたよ」
聖女である樹里にも求婚が殺到している。特に殿下の従弟のアロルド・フェールマン公爵子息が熱心に口説いていると聞いた。豹の獣人で殿下と同い年らしい。
「私、あんまり成績が良くなかったから良い高校にも行けなくて…でもお姉ちゃんはすっごく優秀で天才フルート奏者って言われてて、両親はお姉ちゃんの事で忙しくてあんまり構ってもらえなかったの。だからこんな風に思うのは良くないかもだけど、今はちょっと楽しいんだ」
樹里からはじめて家族のことを聞いた。バレー部のエースだと言ってたけれど、努力して結果を出しても両親の関心は姉に向いていたんだろうか。
「お姉ちゃんは本当に凄いからしかたないの。私も応援してたんだよ。知宏にもお姉ちゃんのフルート聞かせてあげたかったな。知宏は兄弟いるの?」
「そんなに凄いなら聞いてみたかったな。私は弟が2人いるよ。年が離れていたので色々世話を焼いていたんだけど、成人した頃から鬱陶しかったみたいでだんだん疎遠になってしまったな」
「ふふ、面倒見のいいお兄ちゃんだったんだ」
「どうだろうね…」
この世界に来て色々あり過ぎて家族の事を思い出す余裕もなかった。
元の世界に帰ることは出来ないと妖精から聞いている。家族は私が獣人の国でこんな事になっているなんて、想像もしていないだろうな。
馬車が止まり扉が開かれると冒険者ギルドの前だった。
ギルド長と職員が待っていて、少し遠巻きに冒険者達が立っているのが見えた。
先に樹里が護衛にエスコートされながら降りると、周りからどよめきが上がった。
「聖女様」「聖女様だ」「美しい」と言っているのが聞こえる。
元々樹里はすらりと背も高く美人だったけど、最近は更に輝くような美しさになった。女の子は注目される程にどんどん綺麗になっていくものなんだろうな。
続いて私も馬車を降りると「誰だ」「小さい」「男?」「小さいな」と聞こえてきて地味にダメージを受けていたら、魔法師団団長が声をあげた。
「此度の召喚ではこのお二人が加護を授かった! 我が国の危機に妖精が二人も愛し子を授けて下さったのだ。こちらの女性がジュリ様で、お隣の男性がトモヒロ様だ。これからギルドと教会をまわって力を使って下さる事になる」
魔法師団団長であるリントナー侯爵の言葉に、冒険者達から歓声があがる。その中をギルド長と職員に案内されて中に入って行く。リントナー侯爵が横に来て耳元に顔を寄せて来た。
「冒険者は荒っぽい者が多いですから私から離れないようお願いします。もちろん、トモヒロ様には指一本触れさせませんが」
「リントナー侯爵。トモヒロ様の護衛は私です。それに近すぎます。離れて下さい」
レヴァンテが間に入ってくれた。リントナー侯爵は求婚を断った内の一人だけど、諦めませんと宣言された通り度々絡んでくる。猛禽類らしい鋭い瞳の美丈夫だし、他にいくらでもお相手がいると思うのに…。
そこからはレヴァンテが私のすぐ横に張り付くようについて歩いた。
そういえば、レヴァンテからもトモヒロと呼ばれるようになった。樹里や求婚してきた人達が名前を呼んでいたのに気付いたレヴァンテから懇願されたからだ。
ずるいって言っていたけど私が決めた訳じゃないよ。
はじめのうちは王都とその近隣をまわるので日帰りの予定だ。
樹里は白い脛丈のドレスに編み上げブーツで白地に金の刺繍が入ったケープを着ていてとても似合っている。そんな彼女と並んで立つ私も、白とグレーを基調にした服装なんだけどフリルが多いような…。クラヴァットもフリルだし、上着の袖からもフリルが出ている。ハイムくんもレヴァンテも似合っていると言ってくれたし、上等な素材を使っているようで着心地はとても良いけど、服に負けているような気がする。
馬車に私と樹里が乗って、魔法師団団長が率いる騎乗した護衛たちと一緒に出発した。身分の高い人は屋外を徒歩で移動しないらしい。
「知宏、疲れてる? 大丈夫?」
「うん、そうだね、少し疲れてるかもしれない…」
向かいに座る樹里が心配そうに聞いてきた。馬車には二人だけなので気がぬけて、ここ最近の疲れが顔にでてしまっていたらしい。
二度目の話合いの後がとにかく大変だった。
陛下と宰相からの婚約の打診があったことは瞬く間に知れ渡った。私の身の安全の為にあえて言い広めたのだけれど、返事を保留にしていたら行く先々で求婚されるようになってしまったのだ。
最初は陛下の側近で護衛のダンネベルク侯爵だった。
大柄な護衛の中でも一回り大きな体躯をしていて虎の獣人だ。二度目の話合いで消音の魔道具の効果を消した直後に、大股で歩み寄って来ていきなり前に跪いて右手を差し出してきたからびっくりした。
「音は聞こえずとも陛下と宰相殿の求婚には応えていない様子であった。ならば私にも機会をいただきたい。貴殿が召喚の間で私が威嚇しても一切ひるまず立ち向かってきた姿に心を打たれた。どうか私の手を取ってもらえないだろうか」
召喚の間で剣に手をかけて脅してきたあの人か? 接点なんてほとんど無いのにこれも獣人では当たり前の事なんだろうか。
この人も断ったら駄目なのかなと思っていたら、シリング公爵に返事は保留だと言われて引き下がってくれた。でも手の甲にはやっぱりキスをされてしまって、陛下が「貴様もか」ってグルグル唸り声をあげていた。
それからは蔵書庫に向かう途中や魔法の訓練場で、熊とか鷹とか山猫とか、他にも色々な獣人の全て男性からの求婚に対応する事になってしまった。特に熊の人は巨漢で迫力があって少し怖かった。断ってもなかなか引いてくれなくて、レヴァンテとシリング公爵が間に入ってくれてやっと諦めてくれたけど、今度は鷹の獣人の魔法師団の団長だという人がやってきて…。
ダンネベルク侯爵の後は全て断っているんだけど、国の上層部三人からの求婚を保留にしている私は一体どんな風に見られているのかも気になるし、とにかく疲れた。
「知宏モテモテだもんね」
「樹里だってモテモテだろ? 殿下がカリカリしてたよ」
聖女である樹里にも求婚が殺到している。特に殿下の従弟のアロルド・フェールマン公爵子息が熱心に口説いていると聞いた。豹の獣人で殿下と同い年らしい。
「私、あんまり成績が良くなかったから良い高校にも行けなくて…でもお姉ちゃんはすっごく優秀で天才フルート奏者って言われてて、両親はお姉ちゃんの事で忙しくてあんまり構ってもらえなかったの。だからこんな風に思うのは良くないかもだけど、今はちょっと楽しいんだ」
樹里からはじめて家族のことを聞いた。バレー部のエースだと言ってたけれど、努力して結果を出しても両親の関心は姉に向いていたんだろうか。
「お姉ちゃんは本当に凄いからしかたないの。私も応援してたんだよ。知宏にもお姉ちゃんのフルート聞かせてあげたかったな。知宏は兄弟いるの?」
「そんなに凄いなら聞いてみたかったな。私は弟が2人いるよ。年が離れていたので色々世話を焼いていたんだけど、成人した頃から鬱陶しかったみたいでだんだん疎遠になってしまったな」
「ふふ、面倒見のいいお兄ちゃんだったんだ」
「どうだろうね…」
この世界に来て色々あり過ぎて家族の事を思い出す余裕もなかった。
元の世界に帰ることは出来ないと妖精から聞いている。家族は私が獣人の国でこんな事になっているなんて、想像もしていないだろうな。
馬車が止まり扉が開かれると冒険者ギルドの前だった。
ギルド長と職員が待っていて、少し遠巻きに冒険者達が立っているのが見えた。
先に樹里が護衛にエスコートされながら降りると、周りからどよめきが上がった。
「聖女様」「聖女様だ」「美しい」と言っているのが聞こえる。
元々樹里はすらりと背も高く美人だったけど、最近は更に輝くような美しさになった。女の子は注目される程にどんどん綺麗になっていくものなんだろうな。
続いて私も馬車を降りると「誰だ」「小さい」「男?」「小さいな」と聞こえてきて地味にダメージを受けていたら、魔法師団団長が声をあげた。
「此度の召喚ではこのお二人が加護を授かった! 我が国の危機に妖精が二人も愛し子を授けて下さったのだ。こちらの女性がジュリ様で、お隣の男性がトモヒロ様だ。これからギルドと教会をまわって力を使って下さる事になる」
魔法師団団長であるリントナー侯爵の言葉に、冒険者達から歓声があがる。その中をギルド長と職員に案内されて中に入って行く。リントナー侯爵が横に来て耳元に顔を寄せて来た。
「冒険者は荒っぽい者が多いですから私から離れないようお願いします。もちろん、トモヒロ様には指一本触れさせませんが」
「リントナー侯爵。トモヒロ様の護衛は私です。それに近すぎます。離れて下さい」
レヴァンテが間に入ってくれた。リントナー侯爵は求婚を断った内の一人だけど、諦めませんと宣言された通り度々絡んでくる。猛禽類らしい鋭い瞳の美丈夫だし、他にいくらでもお相手がいると思うのに…。
そこからはレヴァンテが私のすぐ横に張り付くようについて歩いた。
そういえば、レヴァンテからもトモヒロと呼ばれるようになった。樹里や求婚してきた人達が名前を呼んでいたのに気付いたレヴァンテから懇願されたからだ。
ずるいって言っていたけど私が決めた訳じゃないよ。
69
お気に入りに追加
869
あなたにおすすめの小説
【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!
ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。
僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。
僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。
えへへ。
はやくニールと結婚したいなぁ。
17歳同士のお互いに好きすぎるお話。
事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。
ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。
_______________
*ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。
*短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。
*不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。
*甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
愛を知らずに生きられない
朝顔
BL
タケルは女遊びがたたって現世で報いを受け命を失った。よく分からない小説の世界にノエルという貴族の男として転生した。
一見なに不自由なく、幸せな人生を手に入れたかに見えるが、実はある使命があってノエルとして生まれ変わったのだ。それは果たさなければタケルと同じ歳で死んでしまうというものだった。
女の子大好きだった主人公が、男同士の恋愛に戸惑いながらも、愛を見つけようと頑張るお話です。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
置き去りにされたら、真実の愛が待っていました
夜乃すてら
BL
トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。
というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。
王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。
一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。
新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。
まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。
そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?
若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる