聖女のおまけ

negi

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11 獣人の求婚

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 私達の能力を広めていくために、今日から冒険者ギルドと教会へ通うことになった。
はじめのうちは王都とその近隣をまわるので日帰りの予定だ。

 樹里は白い脛丈のドレスに編み上げブーツで白地に金の刺繍が入ったケープを着ていてとても似合っている。そんな彼女と並んで立つ私も、白とグレーを基調にした服装なんだけどフリルが多いような…。クラヴァットもフリルだし、上着の袖からもフリルが出ている。ハイムくんもレヴァンテも似合っていると言ってくれたし、上等な素材を使っているようで着心地はとても良いけど、服に負けているような気がする。

 馬車に私と樹里が乗って、魔法師団団長が率いる騎乗した護衛たちと一緒に出発した。身分の高い人は屋外を徒歩で移動しないらしい。

「知宏、疲れてる? 大丈夫?」

「うん、そうだね、少し疲れてるかもしれない…」

向かいに座る樹里が心配そうに聞いてきた。馬車には二人だけなので気がぬけて、ここ最近の疲れが顔にでてしまっていたらしい。


 二度目の話合いの後がとにかく大変だった。
陛下と宰相からの婚約の打診があったことは瞬く間に知れ渡った。私の身の安全の為にあえて言い広めたのだけれど、返事を保留にしていたら行く先々で求婚されるようになってしまったのだ。

 最初は陛下の側近で護衛のダンネベルク侯爵だった。
大柄な護衛の中でも一回り大きな体躯をしていて虎の獣人だ。二度目の話合いで消音の魔道具の効果を消した直後に、大股で歩み寄って来ていきなり前に跪いて右手を差し出してきたからびっくりした。

「音は聞こえずとも陛下と宰相殿の求婚には応えていない様子であった。ならば私にも機会をいただきたい。貴殿が召喚の間で私が威嚇しても一切ひるまず立ち向かってきた姿に心を打たれた。どうか私の手を取ってもらえないだろうか」

 召喚の間で剣に手をかけて脅してきたあの人か? 接点なんてほとんど無いのにこれも獣人では当たり前の事なんだろうか。
 この人も断ったら駄目なのかなと思っていたら、シリング公爵に返事は保留だと言われて引き下がってくれた。でも手の甲にはやっぱりキスをされてしまって、陛下が「貴様もか」ってグルグル唸り声をあげていた。

 それからは蔵書庫に向かう途中や魔法の訓練場で、熊とか鷹とか山猫とか、他にも色々な獣人の全て男性からの求婚に対応する事になってしまった。特に熊の人は巨漢で迫力があって少し怖かった。断ってもなかなか引いてくれなくて、レヴァンテとシリング公爵が間に入ってくれてやっと諦めてくれたけど、今度は鷹の獣人の魔法師団の団長だという人がやってきて…。

ダンネベルク侯爵の後は全て断っているんだけど、国の上層部三人からの求婚を保留にしている私は一体どんな風に見られているのかも気になるし、とにかく疲れた。

「知宏モテモテだもんね」

「樹里だってモテモテだろ? 殿下がカリカリしてたよ」

聖女である樹里にも求婚が殺到している。特に殿下の従弟のアロルド・フェールマン公爵子息が熱心に口説いていると聞いた。豹の獣人で殿下と同い年らしい。

「私、あんまり成績が良くなかったから良い高校にも行けなくて…でもお姉ちゃんはすっごく優秀で天才フルート奏者って言われてて、両親はお姉ちゃんの事で忙しくてあんまり構ってもらえなかったの。だからこんな風に思うのは良くないかもだけど、今はちょっと楽しいんだ」

樹里からはじめて家族のことを聞いた。バレー部のエースだと言ってたけれど、努力して結果を出しても両親の関心は姉に向いていたんだろうか。

「お姉ちゃんは本当に凄いからしかたないの。私も応援してたんだよ。知宏にもお姉ちゃんのフルート聞かせてあげたかったな。知宏は兄弟いるの?」

「そんなに凄いなら聞いてみたかったな。私は弟が2人いるよ。年が離れていたので色々世話を焼いていたんだけど、成人した頃から鬱陶しかったみたいでだんだん疎遠になってしまったな」

「ふふ、面倒見のいいお兄ちゃんだったんだ」

「どうだろうね…」

 この世界に来て色々あり過ぎて家族の事を思い出す余裕もなかった。
元の世界に帰ることは出来ないと妖精から聞いている。家族は私が獣人の国でこんな事になっているなんて、想像もしていないだろうな。


 馬車が止まり扉が開かれると冒険者ギルドの前だった。
ギルド長と職員が待っていて、少し遠巻きに冒険者達が立っているのが見えた。

 先に樹里が護衛にエスコートされながら降りると、周りからどよめきが上がった。
「聖女様」「聖女様だ」「美しい」と言っているのが聞こえる。
 元々樹里はすらりと背も高く美人だったけど、最近は更に輝くような美しさになった。女の子は注目される程にどんどん綺麗になっていくものなんだろうな。
 続いて私も馬車を降りると「誰だ」「小さい」「男?」「小さいな」と聞こえてきて地味にダメージを受けていたら、魔法師団団長が声をあげた。

「此度の召喚ではこのお二人が加護を授かった! 我が国の危機に妖精が二人も愛し子を授けて下さったのだ。こちらの女性がジュリ様で、お隣の男性がトモヒロ様だ。これからギルドと教会をまわって力を使って下さる事になる」

 魔法師団団長であるリントナー侯爵の言葉に、冒険者達から歓声があがる。その中をギルド長と職員に案内されて中に入って行く。リントナー侯爵が横に来て耳元に顔を寄せて来た。

「冒険者は荒っぽい者が多いですから私から離れないようお願いします。もちろん、トモヒロ様には指一本触れさせませんが」

「リントナー侯爵。トモヒロ様の護衛は私です。それに近すぎます。離れて下さい」

レヴァンテが間に入ってくれた。リントナー侯爵は求婚を断った内の一人だけど、諦めませんと宣言された通り度々絡んでくる。猛禽類らしい鋭い瞳の美丈夫だし、他にいくらでもお相手がいると思うのに…。

 そこからはレヴァンテが私のすぐ横に張り付くようについて歩いた。
そういえば、レヴァンテからもトモヒロと呼ばれるようになった。樹里や求婚してきた人達が名前を呼んでいたのに気付いたレヴァンテから懇願されたからだ。
ずるいって言っていたけど私が決めた訳じゃないよ。


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