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1 妖精の導き
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早朝の冷たい空気はけっこう好きだ。夜明前の街は静かで黙々と走るのに向いていると思う。本屋で働くのは意外と体力を使う。持久力アップのために始めたジョギングは毎朝の日課になってから随分経つ。
いつものコースを走って交差点に着くと日が昇り始めて明るくなってきていた。ぼんやり空を見ていたら後頭部に何か硬いものが当たった。
「わっ、すみません!」
信号待ちをしていた私にぶつかって来たのは高身長の女子高生だった。スマホを持っているので前を見ていなかったようで立ち止まっていた私に気付かなかったようだ。まあ、早朝で車も人もいないんだけど、そこは日本人だし?信号が赤なら渡らない。
「大丈夫です。ぼぉっと立っていただけなんで…」
ずれた眼鏡を直して背の低い私が見上げて返事をすると、突然、彼女の足元の地面が光り出して瞬く間にその光は私のところまで広がって……
二人共、その光の中に落ちた。
落ちた瞬間に閉じてしまっていた目を開くと、そこは光の差し込む洞窟の様な場所だった。座り込んでいるのは柔らかい芝草の上で所々綺麗な花々が咲いている。すぐ近くに女子高生も居た。
「大丈夫ですか?怪我とかしていませんか?」
「え? あ、はい。大丈夫です。ここってどこなんでしょう?」
二十畳くらいの空間の底が花畑のようになっていて、遥か上から光が差し込んでいて中心は明るいが周りは暗く光の中にいるためよく見えない。そもそもあの上空の穴から落ちたんだろうか?さすがに無事では済まないはずだが…。二人揃ってぐるりと見まわしていたら複数の光るものが飛んでいて……え? あれは、まさか。
「 …うそ⁉ 妖精がいる!可愛い!あ、こっち来た!」
彼女の言う通り、それは妖精と呼ばれるものに見えた。人形くらいの大きさで背中に昆虫の羽がありひらひらと飛んでいて、彼女が差し出した手に乗って身を乗り出している。よく見ると、何かを伝えようとしているようだ。しきりに一定の方向を指している。
「何か伝えようとしているみたいですよ。…あっちに何かあるのかい?」
「え? そうですかぁ? あっちって…なんか暗い場所のこと?」
女子高生は嫌そうな顔をしているけど、妖精たちは私の問いかけに嬉しそうな顔になって同じ方向に飛んでいく。今の状況を解決する糸口があるかもしれない。
「こういうのは従って行動した方が良いと思います。どう考えてもこの状況はおかしいですし、何か手がかりが見つかるかもしれませんから。…あ、私は 藤崎知宏 と言います」
「斉藤樹里です。高二です。藤崎さんは何歳ですか?」
「34歳。おじさんだよ」
先導する妖精について行く後ろで「え~見えな~い⁈」と言いながら斉藤さんも続く。童顔なのはコンプレックスだからあまり刺激しないで欲しいな。
「それ、スポーツウェアですよね。何かやってるんですか?」
「日課でジョギングしてるんだ。斉藤さんも羨ましいくらい背が高いし、運動部なんでしょ?」
「バレー部のこれでもエースなんですよ! でも~この身長のせいで彼氏が出来ないんですよ~」
明るい性格の子で良かった。この異常事態でも泣き出したりしないのは本当にありがたい。
導かれた先は同じように上からの光で明るい所で、せりあがった台のような岩の平らな上面に片方は透けるシルクのような白いショール、もう片方はレースや小さな宝石のようなものを散りばめたショールが置かれていた。
妖精たちは白い布をしきりに勧めている。これは寓話でよく見るものではないだろうか? 『金の斧銀の斧』とかの…
「うわー! 綺麗~。軽くてさらさら~」
いつの間にかレースでキラキラの方のショールを斉藤さんが嬉しそうに羽織っていた。周りで妖精たちが剝がそうと引っ張ている。それにも「なになに~? 遊んで欲しいの⁈ 」なんて答えていて、
「斉藤さん⁈ 違います、そっちじゃないです!」
「え~、こっちのほうが可愛いですよ?」
「妖精たちがこっちを選べと指しています。ここはこの子達に従いましょう? この状況が打開できるかもしれないんですよ」
寓話のことも交えて話をしたら「え? そういうものなの⁈」と驚いて素直に白いショールを羽織ってくれた。
その次も同じような所に銀の鎖に涙滴型のパールのシンプルなペンダントと、複雑に編まれた金の鎖に大きな宝石のペンダントが置いてあった。斉藤さんは大きな宝石の方を手に取って名残惜しそうに戻し、パールのペンダントを首にさげた。
三か所目には銀のリングと繊細な金細工でレースのように編まれた美しい指輪があった。その金の指輪は男の自分から見てもとても魅力的に見えて、斉藤さんは右手の中指にはめてしばらく眺めていた。
「両方って駄目なんですよね…?」
「駄目なんだと思いますよ。こういうのは欲張ったら大変な目に合うと相場が決まっています」
余程気に入ってしまったのか、しばらく唸ってから渋々と言った感じで外してシンプルで少し幅のある銀の指輪を同じ中指にはめた。不思議とどちらも斉藤さんのサイズぴったりのようだった。
彼女が指輪をつけた手を上げるとそこから光の筋が出て当たった所に扉が出現した。妖精たちが周りを飛び回り、きらきらと光の粒が舞い散って扉が開いていく。扉の中は光っていて何も見えないが、私達は妖精たちに導かれてその扉をくぐった。
その光の中は不思議な感覚だった。進んでいるのはわかるけど時間の感覚がわからなくなり、どのくらいそこにいるのかが曖昧になったころ突然景色が変わった。
私達はいつの間にか広い空間の真ん中に立っていた。
いつものコースを走って交差点に着くと日が昇り始めて明るくなってきていた。ぼんやり空を見ていたら後頭部に何か硬いものが当たった。
「わっ、すみません!」
信号待ちをしていた私にぶつかって来たのは高身長の女子高生だった。スマホを持っているので前を見ていなかったようで立ち止まっていた私に気付かなかったようだ。まあ、早朝で車も人もいないんだけど、そこは日本人だし?信号が赤なら渡らない。
「大丈夫です。ぼぉっと立っていただけなんで…」
ずれた眼鏡を直して背の低い私が見上げて返事をすると、突然、彼女の足元の地面が光り出して瞬く間にその光は私のところまで広がって……
二人共、その光の中に落ちた。
落ちた瞬間に閉じてしまっていた目を開くと、そこは光の差し込む洞窟の様な場所だった。座り込んでいるのは柔らかい芝草の上で所々綺麗な花々が咲いている。すぐ近くに女子高生も居た。
「大丈夫ですか?怪我とかしていませんか?」
「え? あ、はい。大丈夫です。ここってどこなんでしょう?」
二十畳くらいの空間の底が花畑のようになっていて、遥か上から光が差し込んでいて中心は明るいが周りは暗く光の中にいるためよく見えない。そもそもあの上空の穴から落ちたんだろうか?さすがに無事では済まないはずだが…。二人揃ってぐるりと見まわしていたら複数の光るものが飛んでいて……え? あれは、まさか。
「 …うそ⁉ 妖精がいる!可愛い!あ、こっち来た!」
彼女の言う通り、それは妖精と呼ばれるものに見えた。人形くらいの大きさで背中に昆虫の羽がありひらひらと飛んでいて、彼女が差し出した手に乗って身を乗り出している。よく見ると、何かを伝えようとしているようだ。しきりに一定の方向を指している。
「何か伝えようとしているみたいですよ。…あっちに何かあるのかい?」
「え? そうですかぁ? あっちって…なんか暗い場所のこと?」
女子高生は嫌そうな顔をしているけど、妖精たちは私の問いかけに嬉しそうな顔になって同じ方向に飛んでいく。今の状況を解決する糸口があるかもしれない。
「こういうのは従って行動した方が良いと思います。どう考えてもこの状況はおかしいですし、何か手がかりが見つかるかもしれませんから。…あ、私は 藤崎知宏 と言います」
「斉藤樹里です。高二です。藤崎さんは何歳ですか?」
「34歳。おじさんだよ」
先導する妖精について行く後ろで「え~見えな~い⁈」と言いながら斉藤さんも続く。童顔なのはコンプレックスだからあまり刺激しないで欲しいな。
「それ、スポーツウェアですよね。何かやってるんですか?」
「日課でジョギングしてるんだ。斉藤さんも羨ましいくらい背が高いし、運動部なんでしょ?」
「バレー部のこれでもエースなんですよ! でも~この身長のせいで彼氏が出来ないんですよ~」
明るい性格の子で良かった。この異常事態でも泣き出したりしないのは本当にありがたい。
導かれた先は同じように上からの光で明るい所で、せりあがった台のような岩の平らな上面に片方は透けるシルクのような白いショール、もう片方はレースや小さな宝石のようなものを散りばめたショールが置かれていた。
妖精たちは白い布をしきりに勧めている。これは寓話でよく見るものではないだろうか? 『金の斧銀の斧』とかの…
「うわー! 綺麗~。軽くてさらさら~」
いつの間にかレースでキラキラの方のショールを斉藤さんが嬉しそうに羽織っていた。周りで妖精たちが剝がそうと引っ張ている。それにも「なになに~? 遊んで欲しいの⁈ 」なんて答えていて、
「斉藤さん⁈ 違います、そっちじゃないです!」
「え~、こっちのほうが可愛いですよ?」
「妖精たちがこっちを選べと指しています。ここはこの子達に従いましょう? この状況が打開できるかもしれないんですよ」
寓話のことも交えて話をしたら「え? そういうものなの⁈」と驚いて素直に白いショールを羽織ってくれた。
その次も同じような所に銀の鎖に涙滴型のパールのシンプルなペンダントと、複雑に編まれた金の鎖に大きな宝石のペンダントが置いてあった。斉藤さんは大きな宝石の方を手に取って名残惜しそうに戻し、パールのペンダントを首にさげた。
三か所目には銀のリングと繊細な金細工でレースのように編まれた美しい指輪があった。その金の指輪は男の自分から見てもとても魅力的に見えて、斉藤さんは右手の中指にはめてしばらく眺めていた。
「両方って駄目なんですよね…?」
「駄目なんだと思いますよ。こういうのは欲張ったら大変な目に合うと相場が決まっています」
余程気に入ってしまったのか、しばらく唸ってから渋々と言った感じで外してシンプルで少し幅のある銀の指輪を同じ中指にはめた。不思議とどちらも斉藤さんのサイズぴったりのようだった。
彼女が指輪をつけた手を上げるとそこから光の筋が出て当たった所に扉が出現した。妖精たちが周りを飛び回り、きらきらと光の粒が舞い散って扉が開いていく。扉の中は光っていて何も見えないが、私達は妖精たちに導かれてその扉をくぐった。
その光の中は不思議な感覚だった。進んでいるのはわかるけど時間の感覚がわからなくなり、どのくらいそこにいるのかが曖昧になったころ突然景色が変わった。
私達はいつの間にか広い空間の真ん中に立っていた。
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