最弱の魔王に転生させられたんだけど!?~ハズレスキル【砂糖生成】で異世界を征服してみよう~

素朴なお菓子屋さん

文字の大きさ
上 下
13 / 16
第一章 はじめての

心と体

しおりを挟む

「頼む……元の体に戻してくれぇ…………」


「ふむふむ……」


 泣きながらベロベロとお皿を舐めて懇願しているアレット。
 流石に床に直で砂糖を出すのは個人的に嫌なので、ちゃんとお皿の上に出してるんだけど……なんか、余計に卑しい感じになってしまっていて心が痛い。


「見た感じ、体と魔力に変化は……無し、かな?」


「成功?」


「恐らく……ね」


 やはりこの砂糖は僕の意志を映しているみたいで……心を無にして生んだ砂糖は、食べても何も起こらないみたい。
 まだ憶測の域を出ないけどね。


「終わったなら……戻して……戻してぇ……」


 ベロベロ、ベロベロ……と何も無い皿を舐めてるアレット。
 僕の意志の強さでも、効力の増減はありそうだなぁ……。


「いいや、むしろこれからが本番だぞ人間よ」


「なっ……!? そ、そんなぁ…………」


 今後を考えると……治癒効果なんかも欲しい。

 食べて傷を治す……そう言われると、イメージするのは栄養素。いっぱい栄養が取れるように願えば……いけそうだよね?
 だがしかしなぁ……砂糖単体の栄養素なんて、殆どが炭水化物。プリンみたいに、タンパク質が豊富な乳製品を使ったお菓子じゃないと、効能は無さそう。

 炭水化物……か。

 過度な炭水化物は脂肪として蓄積される。
 
 それは……つまり……?


「さぁ…………太れ人間よぉ!!」


「へ……? い、いやだぁぁぁぁ!! それだけは嫌ぁぁぁぁぁあ!!」


 皿に溢れる砂糖。

 溢れ出す女子の悲痛な叫び。

 泣きながら砂糖に顔を突っ込むアレット。

 そうさ……お菓子は、何時だってダイエットの大敵だったんだぜ異世界よぉぉぉ!!


「うぅ……いやだぁ……いやだぁ……」


 これが成功すれば……割と脅威だよね?

 皆が甘いもの大好きになって……いっぱい食べて、めちゃくちゃ太って。
 
 ふふふ…………なんて優しい世界征服だろうか!! 世界が幸せに満ち溢れるね!! 糖尿病怖いけど!!

 しかし残念ながらアレットがブクブクと太り始める……事はなく。


「ふむ……即効性は無し……か」


 即効性の有無も僕次第だったら……最強だよね? 何れ試さなきゃだなぁ!!


「やめて……もう出さないでぇ……」


 お菓子はマジで太るからね。仲良かった先輩が偉くなって、製造じゃなくて指示を出す立場になった途端に凄い太ったし。
 動かないと……まじで肉になる。


「……アラン、酷い事するね」


「恐ろしいかい?」


「味方なら最高」


 イエーイ、とサリュとハイタッチ。パァン! と軽快な音と……パッと晴れたサリュの笑顔。
 アレットへの拷問で……少しでも溜飲が下がったのなら、心を鬼にして良かったなぁ。


「ほっほ……楽しそうですの、魔王様」


 んおっ、スレット!? いつの間に背後に!?


「わぁお帰り!! 無事だったんだね!! もう、いつ帰ってきたんだよー!!」


「ほほっ……たった今で御座いますぞ」


 なんだ、ハイタッチの音で掻き消されたのか! そんなに静かに入ってこなくても……!!

 いやぁ……それにしても、怪我も汚れもない、綺麗なままのスレットで良かったぁ……安心したよ。


「圧勝だったのかな?」


「えぇ。これも魔王様のお力のお陰で御座いますぞ」


「ふふ……なら良かったよ」


 嬉しそうな雰囲気のスレットに触発されて、僕までニコニコしちゃう。

 ――――しかしスレットの雰囲気はガラッと変わり……急にキツイ雰囲気に。

 何故……?


「では魔王様…………話は変わりますが、あそこで意地汚く皿を舐めてる雌はどうされたので?」
 

 そう、スレットの指を差す方には勿論アレットが…………居て…………?

 あれ、何か……今思うと、名前似てない?


「えぇっと……少数で、忍び込んできた……みたい」


 ちょ、ちょっと待って……変な汗かいてきた……。


「ほほ、なるほどなるほど……。何時まで経っても、薄汚いやり方しか出来ん奴だ」


「あの……えっと、その……お知り合いで……??」


 僕の言葉には答えず、ツカツカと歩み寄るスレット。

 こ、こんな刺々しいスレットは初めて……。


「む? なんだ魔物風情が……今、私は忙しいのだ」


 ……皿を舐める事に、ね。


「……その意地汚さは、昔から変わらぬな」


「フンッ……何様だ、お前は」


 犬みたいなポーズで凄まれても……凄くダサいよ、アレットさん……。


「貴様は……自分の殺した相手の骨格も覚えておらぬと言うのかアレットッ!!」
 

 いや、骨格までは流石に覚えてないと思――――――え…………?


「こ、殺したって……どういう事、スレット……?」


 名前が似てるから、血の繋がりは薄々感じた……けど、殺された……!?


「…………自身の昇進の為に肉親を殺めた、卑劣な愚妹で御座います」


「い、妹……」


「な……!? あ、あ……え……!?」


 スレットの言葉を聞いた瞬間、ガタガタ……ガタガタ……と、皿を舐める事を忘れて震え始めるアレット。
 ……そりゃそうだよね、自分が殺した相手が目の前で魔物の姿で現れるとか、どんな悪夢だよ……。


「あ、あ、あ……あの、本当に……スレット、兄さん……?」


「……ゴブリンの森で背後から刺されたあの日を、一度も忘れた事はないぞアレット。化けて出るとは……場所が悪かったな」


 僕の知ってる、優しげなスレットじゃない……紛れもなく、怒りに満ち溢れた……一人の、男の声。


「い、いや……あの、あれは、誤解で、違くて……その……!!!」


「黙れぃっ!! 貴様が喚いた所で……私の無念も、お前の無様さも……最早、何も変わらん」


 そう言って顔を伏せてしまう姿は……見て、られなくて。

 魔物の姿のスレット。

 魔物のような心のアレット。

 傍から見たらスレットの方が外道なのに……人間の方が、外道で。

 ズキズキと心が痛くて……モヤモヤと、何とも言えない嫌な気持ちが心を染めて。


「ペール。ソイツ牢屋にぶち込んどいて」


「…………仰せのままに」


 もう……今は、何も考えたくないや。

 なんだろう……この遣る瀬無い気持ち。
 
 能力を確認、なんて……今はしたくないや。もう……全部、嫌。


「皆……今日はもう休もう」


 さっさと寝て……忘れよう。



 ――――――――――


 ――――――


 ――――


 ――


 フカフカのベッドに身を委ねても……頭の中が騒がしくて、寝れなくて。無意味に寝返り打って……目が覚めて。

 僕には……姉が居る。
 どんな経緯が知らないけど、姉を殺して階級を上げる……そんな事、考えつく事も出来ない。

 どうしてそんな事が出来るんだろう。

 なんで、殺せてしまうんだろう。

 どうして自分の存在を見せる為に、他者を引き摺り降ろすんだろう。

 どうして……どうして?

 理解出来ない考えが、頭の中をグルグル駆け巡って。


「はぁ…………寝られない」


 掻き消すように独り言ちても、消える事は無く。

 気晴らしに窓辺に立ち、窓を開けて月明かりを見ても……晴れる事は無く。


「怖い……怖いよ……異世界……」


 心のどこかで、自分の置かれてる状況を楽しんでいた。でも…………現実は、キツくてドロドロで。

 ″死″という概念が……直ぐ隣に居て。

 仲間を生かす為に強くする……即ち、敵を殺すという意味だと……気付いてしまって。

 僕は……僕は、どうしたら良いんだろう……?

 そうやって……一人でごちゃごちゃと考えていたら、不意にコンコンッ、とノックの音が響いてきた。


「……? どうぞ」


 部屋の鍵を開けると、静かに開かれる扉。こんな真夜中に……誰が……?


「こんばんは、アレン」


 扉の先に居たのは……サリュで。何か用事でも……あるのだろうか。
 アレットの処遇とか?


「やぁこんばんは。昼間寝たから寝れないのかい?」


 そんな風に話しながら、部屋に招き入れて。

 今は……少し、誰か傍に居て欲しいと思ってたから、素直に嬉しい。


「別に、そうじゃないけど……ただ」


「ただ……?」
 

 何故か言い淀み、窓際までゆっくりと歩き出すサリュ。
 僕もその後をゆっくりと追い掛けて。


「ただ――――貴方の顔が、辛い時の顔……してたから」


 クルッとこちらに振り返り、いつも通りの無表情な顔から放たれた言葉。

 顔に出てた恥ずかしさと、指摘された恥ずかしさに……カッと顔が熱くなって。

 自分で思ってたより……現実味のある兄妹の話で、心にダメージを受けていた事が恥ずかしくて。


「そう……見えた?」


 そんな……陳腐な言葉しか言えなかった。


「うん。全部が面倒臭くなった私のちょっと前くらい。一人で抱え込むと……いつか心が、壊れちゃう」


「そう……かな。自分じゃわかんないなぁ」


「一人で処理出来る問題なんて……僅かだから。これは、体験談」


 静かに……懇懇と話すサリュ。


「サリュが言うと、何だか現実味があるね」


「でしょ? 一度壊れた心は……そう易々と戻らない。だから私が助けてあげる」


 そう言って無表情で両手を広げるサリュ…………え? 飛び込めと??


「……どうして、そこまでしてくれるの?」


 流石にまだ……飛び込む勇気は、無い。


「ん……貴方が私を、当たり前に受け入れてくれたから。初めて出来た……居場所だから」


「それは――――――」


 僕にも思惑があっての行動……なのに。そう言われてしまうと……途端に、申し訳なくなる。


「何でも良い。ただ……居心地良いから、ここ」


「そう……?」


「うん。口煩い先輩も、こき使う上官も……利益しか考えない王様も、名誉しか見ない父親も…………誰も、居ない」


 日本に居た頃、似たような話聞いたなぁ……なんて思ったら、笑えてきて。


「ふふ……そんな国、無くなっても良いよね?」


 ちょっとだけ……現実を忘れられて、元気が出て。


「その通り」


 サリュもニヤッと笑ってくれて……心が、雰囲気が軽くなって。


「僕、さ…………あの兄妹の話、しっかり聞いた方が良いかな」


 心の奥底で渦巻いてた想いも……スッと言葉に出来た。
 魔王という立場……彼らの心に歩み寄る必要がある気がして、そう思ってしまう。


「アランのやりたいようにすれば良い。魔王だからって肩書気にして……全てを背負い込むのは、しんどいと思うけど」


 ……それもバレてるの? 僕……顔に出過ぎ?
 いや、どちらかというと″勇者″の経験から、かな?


「そっか」


 僕は……魔王らしさに必死だったのかな? 周りの評価を気にし過ぎたのかな。


「……気が向いたら聞いてみるよ」


「それが良い」


 こうなってくると……やっぱり僕は、お菓子作ってるのが一番だなぁ。余計な事は考えないで……目の前のお菓子と、一対一で話し合うのが一番楽しいや。

 あ……! サリュの国は砂糖を作る貴族が居るって言ってたし……狙い目だよね?

 やっちゃう?

 征服しちゃう??

 ――――そんな風に、萎びた心を鼓舞して。


「じゃ……今は一先ずあれだね。サリュの祖国……攻め入っちゃおうか? ずっと防戦だったし……そろそろ、ね」


 砂糖事業を拡大させて、人間に働いて貰って……鉄や銅も製菓器具に変えちゃおうか?

 そんでそんで……人間達に製菓技術も教えて、スイーツコンテストなんてやらせてみたり……!?

 この苦い世界に、甘いお菓子屋さんを沢山作っちゃって……!?

 ふふふ……ワクワクしてきたぞぉ!!


「アラン……悪くて――――凄く、良い顔してる」


「だろ?」


 楽しい事を考えて……辛い事は、かき消しちゃえ!


「明日、また会議する? 題名は……ホーヴル王国殲滅戦はどう?」


 ホーヴル王国……って言うのかサリュの祖国。


「殲滅はちょっと……命が勿体ないかな。貴重な労働力なんだから! 殺すより死ぬ程働かせようよ!!」


「そう……残念。でもきっと抵抗する。だから一部は私が殲滅する」


「…………明日の会議で話し合おう?」


「ふふふ……そうね。お休み、アラン」


「お休みサリュ。色々……ありがとうね」


「気にしないで」


 そう言って部屋から出ていくサリュ。

 去り際に見せたフワッとした笑顔は――――――凄く、綺麗で。

 月明かりに照らされた、薄い寝間着から出る色気は……とても、魅力的で。


「良し……適度に、頑張ろうかなぁ!!」


 また明日から頑張ろう……なんて、思えたり。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。 自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。 魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...