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第一章 はじめての
秘部
しおりを挟む「さて……第一回、新魔王軍会議~」
「おぉ~」
翌日。ダウナーな雰囲気を取り戻しつつも……ちょっと元気な勇者と共に、これからの作戦会議を始める事に。
「魔王様、本当に……」
「まぁ……これしか、道は無いと思うよ」
何処か不安げなスレット。
そりゃあ……昨日まで敵だった勇者が、突然仲間に成りましたと言われても困る……よねぇ。
わかってはいる。けど……どうしようも無いんだ、これ。
「あぁ……あぁ……嘆かわしや嘆かわしや……」
「あっしも……勇者と手を組むのは……」
「すまんね皆……でも、例えどんな手でも……使わないと、だ。辛抱してくれ」
こっちの面子は、スレット率いる魔王の配下の四天王。
勇者が同席してるせいか、皆通夜みたいに暗くて……俯いていて。
「さて、とりあえず第一関門の勇者は突破……とは言い難いけど、一先ず解決した。その次は……」
「…………勇者軍……元い、その……殲滅勇者……殿の、国が相手ですな」
「……そうなるよねぇ。現状はどんな感じ?」
「国境にある小鬼の森前に、前哨基地が建てられている状況ですな。時間を与え過ぎました……」
正直、前哨基地なんて言われても……パッとしない。
「私はそこから一人で来た。恐らく……数日、こちらに動きが無かったら……何か動きがあると思う」
「そうかぁ……」
「……ゴブリンの森の奥にゃ、あっしらの里が有りますで……お早い対処を頼んます……魔王様」
不意に上がる一つの野太い声。その持ち主は……四天王の一人、小さい体躯と、それに似合わぬ屈強な筋肉を持ち合わせた……小人。
毛むくじゃらの、ゴツゴツした小さいオジサンは……体を震わせていて。
「……任せろ、プース」
「有り難き……幸せでございやす」
守りたい、守らなきゃ……そう、改めて思わせてくれて。
「それじゃ……勇者に効果覿面だった僕のお砂糖。これを食べて……皆がどうなるか、実験しようか」
本当に砂糖の力なのか……暫定だから、確定させないと、だね。
どれくらいの効能あるかも知りたいし。
「……オヨヨヨヨ!? オヨ、オヨヨヨヨ!?」
「僕の力はそれだけだし……僕は食べても効果無かったし。フェーリーも頼むね」
「オヨヨォ……ホヨヨォ……」
「言葉を喋れ」
アタフタと、僕の周りを飛び回る妖精を無視して立ち上がる。
さ……吉と出るか凶と出るか、だね。
――――――――――
――――――
――――
――
場所は変わってキッチンに。目の前には、人が入れそうな程大きな寸胴鍋。
中で湯気を出している液体は、ミノタウロスの特濃ミルクと、コカドリーユの卵で作られた……僕特製のミルクセーキ。勿論コテコテに砂糖は入れてある。
個人的にミルクセーキは加熱したのが好き。タンパク質が煮えない、臭みの無い六十度くらいの温度のやつ。
まぁ今はスレットの為に、四十度くらいまで下げてあるけどね。
味見は済んだから、もう関係無いし。
冷ます為に優しく混ぜると、フワッ……と、湯気と共に香るミルクの優しい甘い匂い。
「ひょ~美味そ~」
「……これは、一体……?」
僕の裾を掴み、恐る恐る鍋を覗き込むスレット。
やめろ……女の子じゃなきゃ許されないやつだぞそれ……!!
「君のお風呂……じゃないや……ん、んんー……強化液だよスレット」
「わ、私の!? え……え、私からなのですか!?」
「文句あるかい?」
他の人に食べさせるお菓子は、仕込んで寝かせてるからね。スレットは固形物食えないって言ってたし。
スレットを漬けてる間に、お菓子を焼けば……たぶん、タイミングバッチリ。
それに……今、一番信頼があるのはスレットだから。そんな事、口には出さないけどさ。
「粉骨砕身、頑張らせて頂きます……」
「やめろよ骸骨ギャグ」
「ほほっ……良くお気付きになられましたな。流石で御座います」
カタカタと頭蓋骨を鳴らしつつ、紫のボロ布を脱いで裸になるスレット。裸、という表現が正しいかは知らんけど。
それにしても……まんま人体模型だなぁ。
「では、スレット……参ります。そぉれ!!」
チャポン……と、足先から静かに入水。
「え……まじ? 全身浸かるの……?」
確かに沢山作ったけど……さ、昨日は手で吸うって言ってたじゃん……?
あれか、お風呂とか言ったから真に受けてんのか。
「おお……!! なるほど、これは……美味……美味……」
「聞いちゃいねぇ」
表情の変わらない骸骨が、プカッ……と浮かぶミルクセーキ。
……端的に言ってホラー。しかもどんどん水かさ減ってきてるし。
そうかぁ……マジで吸ってるのかこの骨……。とんでもねぇ生体だ……。
「ねぇ……貴方の周り、変なのしかいないの?」
変なの……ねぇ。まともで、愚直で……真面目な奴らは、国の為に身を賭して行くんだよ。
「……皆、勇敢に散って逝ったんだよ……」
「――――あ、ご、ごめ……」
消えた命は……戻らない。遺された人達のストーリーは……止まらない。
――――日本にいた頃の、過去の出来事を思い出して、ズキッと心が痛む。
「あぁいや……過ぎた事だ。気にしないでくれ」
気を取り直して……皆のお菓子を焼こう。
と言っても、昨日も作った簡単なプレーン味のクッキーだけどね。
バターの風味と、麦の香ばしさ。それを支える砂糖の甘さと、それを楽しませるサクサクの食感。
食いてぇ。
僕も美味しく食べたいからちゃんと焼かないと……ね。
しっかり焼かないと、火がちゃんと通らなくて、口にネチャネチャ残る不味い物になっちゃう。
焼き過ぎると食感がザクザクになって、バターが焼け過ぎて麦の味しかしなくなるし、苦味も出るし。
それと、大きさとか厚さが不揃いだと、ムラが出来て綺麗に焼けないから……丁寧に、神経質にやらないと。
――――あぁ……これだ。これが楽しくて……パティシエの真骨頂なんだよな。
「僕はちょっと焼いてくるから……スレットでも鑑賞して待ってて」
「だ、大丈夫ですかねぇ……スレットさん、助けた方が良いですかねぇ……??」
「いや、あのままで良いでしょ」
恐る恐る、おどおどしながら話し掛けてきたのは……四天王の最後の一人、ヴァンパイアのペール。
僕と同じく青白い肌をしていて、その肌を更に青く染めてブルブルと震えている。
筋の通った高い鼻を小刻みに揺らす、羨ましい程に顔の造形が整った美青年。
……しかし彼、昼間は凄い弱気で体も丈夫じゃないとか。流石ヴァンパイア。
彼は放っておいて、釜の前へ。
魔法で冷やしたクッキー生地を、手で優しく揉んで……ナイフで切り揃えて。
この、焼く前に揉むのも凄く大事で、揉みが甘いとギュッと詰まったような硬いクッキーになるし、かといって揉み過ぎればデローンと伸びて、薄いクッキーになっちゃう。
最初から最後まで気が抜けない……それがお菓子。
轟々と音を立てながら炎を燃やし、口を大きく開けて待っている釜に、クッキーを並べた鉄板を入れて。
火に近い奥は良く焼けて、空気に触れてる釜の入口はちゃんと焼けない……厄介な釜。
あ……そうだ。技巧を操るドワーフなら、もしかして鉄扉とか付けられるかな!?
「あっつ……。魔王の体でも……釜の前は暑いねぇ……」
――――でも……それは平和になってから……じゃないと……か。
自分の考えの甘さが恥ずかしくて……意味も無く独り言ちて。
僕のお菓子が……砂糖が。勇者の力の源になったみたいに……皆も強くしてくれれば、良いけど。
「さて……焼けた焼けた」
こんがりキツネ色に焼けて、麦の焼けた香ばしい匂いを撒き散らすクッキー。
一枚手に取って、サクッと食べても……美味しいだけで、特に力は湧いてこない。
勇者であるサリュは、錯乱するのに……僕は何も起こらないのがちょっと不安。
効果には個人差があります……ってか。そう考えると期待値下がるなぁ。
魔族と人間の種族の差は関係してないと良いけど……。
ま、とりあえず食べさせよう。流石に死にはしないだろうし。
「みん「魔王様ぁぁぁぁ!! 見て下され魔王様ぁぁぁぁぁ!!」煩っ……」
全員を呼ぼうと思ったのに……スレットの雄叫びで掻き消された。
というか、さっきまでのスレットの声は、カサカサでヨボヨボな嗄がれた声だったのに……何となーく声に張りがある感じがする。
あれだ、喉奥で絡んでた痰が取れた感じ。
「どうしたのスレット……静かにして……」
「どうしたもこうしたも!! ほら、見て下され魔王様っ!!」
……何か、脳内でコート一枚の骸骨の図が思い浮かんでしまう。
「露出狂かよ。どん、だけ…………見て…………欲しい……の…………」
粗熱の取れたクッキーを皿に並べていた中、騒がしいスレットの方に目を向けると、そこに居たのは――――。
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