最弱の魔王に転生させられたんだけど!?~ハズレスキル【砂糖生成】で異世界を征服してみよう~

素朴なお菓子屋さん

文字の大きさ
上 下
6 / 16
序章 魔王と勇者と

始まり

しおりを挟む


「さぁ……お砂糖は好きなだけどうぞ」


 スレットが机に置いてくれた空の器。その上に人差し指を翳して【砂糖生成】の能力を使う。

 指先が淡く光ったと思うと、コトッ……コトッ……と落ちる角砂糖。

 本来は液糖混ぜて押し固めて、乾燥させないと角砂糖にはならないけど、この力があれば一発で出せる。

 素晴らしい……便利な力だ。態々角砂糖にする意味は無いけどね。


「…………貴方が戦闘を避けた理由がわかった」


 ……そうだよね!! 気付かれるよね!!

 やべぇ……全く気にして無かったよ!!


「……国を押し潰す程の砂糖を流し込めば、無事ではあるまい……魔王の物量を甘く見るなよ、勇者」


 砂糖だけにね。


「じゃあ……何故、やらないの?」


 何故……と言われましても。それは本来の魔王様に聞いて貰いたい訳でして……。
 そんな事、言えないけど。

 僕個人として言えば、食べ物粗末にしたくないからだけどね。


「……後処理、大変でしょ。砂糖まみれの土地とか、どうするのよ」


「まぁ……確かに」


 何とか誤魔化せたかな……?

 い、いかん……ミルクを入れる手が震える。


「ほ、ほら……勇者も、ミルクを入れると良いよ」


「……どうも」


 角砂糖を二つ程沈めて、勇者へ渡す。招く側の僕が先に使うのは良くない気がするけど……一応敵対している訳で、毒味的な意味で先に使おうと思いまして。


「うん……美味い」


 芳醇な香りと共にガツンとくる茶葉の渋み。追従する如く渋みを和らげるミルクのまろやかさと、砂糖の甘み。

 あぁ……紅茶って素晴らしい。

 余韻に浸りながら勇者を見ると……ポチャ、ポチャッ……と角砂糖をミルクティーに沈めていて。

 一個……二個、三個……四個…………。


「……多すぎじゃない?」


「砂糖は高価。沢山使うべし」


「……そう」


 溶けないだろそれ。底がジャリジャリして後半キツいやつ。


「高価だからこそ……貴方は狙われる。力は無いのに……哀れね」


 何気なしに言われた言葉。


「……え? な、なんで……?」


 サッ……と、全身の血が引いたような、心臓に刃を突き立てられた……そんな感覚。


「貴族の利権を侵したから」


「そ、そんな事……」


 そんな理不尽な事、ある……!?

 そんな事の為に、魔王は狙われて……国民が、殺されて……!!!


「お誂え向きに貴方は魔王。殺す理由なんて、必要無い」


「腐ってやがる……!!」


 反吐が出る……!! 金ばっかり言う奴が、一番嫌いなんだよぉ……!!
 怒りで、不快感で……頭が破裂しそうだ……!!


「貴方も、私と同じ……肩書きに弄ばれた人、だね」


 何処の誰だ……そんな事、決められるのは……!?


「くそが!! 人間共め……!! くそっ……ん? え……? 同じ!?」


「勇者だって、魔王を殺す大義名分。ちょっと特別な力を持っただけの……ただの人間。国から押し付けられた、ただの称号」


「はぁ……!?」


 なんだよ、ただの称号って……!!
 なんかこう、剣を抜いたとか、神様から託されたとか……そういう、特別な存在で有れよ!!

 そんなの……ただの、戦争じゃんか……。


「君は……それで良いのかよ!! そんな理由で――――」


「もう疲れたから、考えるの。面倒臭くなっちゃったの」


 抑揚の無い勇者の声に……遮られて。


「――――――そう、かい……」


 巫山戯るな、とか……命を大事にしろ、とか色々言いたかった。
 
 けど……気怠げにティースプーンをグルグル回し、無機質な声で……死んだ目でテーブルを見詰める彼女に、何も言えなかった。


「……でも、僕は諦めて死ぬなんて……やだよ」


 彼女の気に当てられて……僕もなんだか、落ち込んできて。


「あら、何か策でもあるの? こんな貧弱な国で……こんな力の貴方に」


「誰のせいで、こうなってると思ってんだよっ……」


「民を守れぬ愚かな王……かしら」


「てめ――――」


「私だって、一回魔法を使ったら動けなくなる。それで、単身魔王城を破壊してこいですって。捨て駒よ……私は、捨て駒勇者」


「だと、しても……!!」


「成果も無く帰ればどうなることやら。大きな力の前じゃ……ちっぽけな存在よ、勇者なんて。だから……考えるの、面倒臭くなっちゃった」


 グルグルと、頭は怒りで沸きそうで。
 
 滾った血が巡り……体は爆発しそうで。

 握った拳は血で滲んでて。


「私も貴方も……終わりなのよ、此処で。さ……最期のお茶を楽しみましょう」


「ぼ、僕らが手を組めば……!!」


 フンッと、自嘲気味に笑う勇者。


「最弱と名高い魔王と、出来損ないと名高い勇者が? 何が出来るの?」


「…………くそっ」


 勇者を追い返せば何とかなる? 甘かった。

 甘い物でつれば何とかなる? 甘かった。

 初めから彼女は……どうでも良かったんだ。

 もう、ここに来ればお終いだったんだ……。

 僕の話術? 技術力? 魔王の能力?

 そんなもの……何でもなかったんだ……。


「僕は魔王なんかじゃねぇ……。とんだ道化師ピエロじゃないか……」


「道化じゃなくて、素晴らしい給仕じゃない? ほら、温くなったけど、このお茶だって……美味し……い……?」


 僕に気を使ってか、お喋りに夢中で冷めてしまったお茶をゴクリと嚥下する勇者。

 途端、小首を傾げて目を細める彼女。


「…………馬鹿に、してんのかよ……」


 僕の問い掛けには答えず、ゴクリ……ゴクリ……ゴクリと、どんどんお茶を飲み出し……遂には天井を見上げるまでに顔を上げた。
 
 ……飲み干したんか。あの砂糖の量、飲めたんか。


「ねぇ……魔王。これ……何?」


「紅茶だけど……」


 僕が惚けたとでも思ったのか、ギンッ! と目を剥く勇者。


「何を入れた……!? どうやったら、こうなる!?!?」


 ガッ! と勢い良く立ち上がり、僕へと飛び掛ってきて。
 勇者の鎧に引っ掛かり、倒れるケーキトレーがスローモーションに見えて。


「あぁっ!! 僕の愛娘達っ!!」


 無惨に飛び散る飛び散るお菓子。
 
 突然で受け止める事も出来ず……二人仲良く床に叩き付けられる。


「答えろっ!! 魔王っ!!」


 胸倉を掴んで、寝そべった僕を掴みあげて……零距離で睨み付けてくる勇者。

 いやいや……意味わからん意味わからん。
 ひょっとして、スレットが興奮剤でも入れたのか……!?

 横目でスレットを見ても……ガタガタと震え、首を横に振るだけで。
 
 いや、助けろよ。怯えんなや。


「い、いったいどうしたの……」


「わからないの!? ちっ、無駄に頑丈な体してっ!!」


「ぐぇっ!!」
 

 急に僕の胸倉を離すもんだから、床に背中を叩き付けられて……空気が漏れた。
 ついでに、目の前の血走った勇者の顔が怖すぎて……ぐちゃぐちゃだった心が、一つに纏まった気がする。

 今は……目先の恐怖だよ……。


「ちょっと、何するん――――」


「ほら、見なさいっ!! これを見てみなさいっ!!」


 僕の言葉を遮り、手に膨大な量の淡い光を集めている勇者。
 
 渦巻くように……彼女の手を中心にするように。

 ザワザワと……グルグルと。


「……? 綺麗だね……?」


「そうじゃないっ!! この!! 膨大な魔力がわからないのっ!?」


「それが……?」


 流石魔王と言うべきか……目の前で、周りの空気が歪む程の力の奔流を見せられても……あんまこう、パッとしない。
 この体、スペックは一流なんだろうね。能力に恵まれなかっただけで。


「ほんと調子狂う!! ほら、ほら!! 私の力、魔力、体……治ってるっ!!」


 勇者の長い髪が、バッサバッサと波打つ程の、力の奔流。


「……落ち着いて?」


「ふふふ……ははは…………はーっはっはっはぁぁぁ!!!」


 僕にマウントを取りながら雄叫ぶ勇者。

 完全に魔王討伐のシーン…………あっちの方が魔王っぽいけど。


「きっと……貴方の力よ!! 貴方の砂糖よ魔王っ!!」


 なんで……? 僕の愛、かな?
 

「は、はぁ……そりゃ、良かった……?」


 それとも、本来の魔王が能力を使い続けて、鍛えたお陰かな……?


「ふふふ……決めた。決めたわ魔王」


 周囲をガタガタと震わせていた淡い光……魔力を握り潰す勇者。
 そしてまた僕の胸倉を掴み、グイッと顔を寄せて……瞳孔の開いた血走った目を僕に向けてくる。

 ……怖。


「この″殲滅勇者″ことサリュが……手を組んであげる。一緒に世界征服してあげるわっ!!」


 ――――――僕、そんな事望んで無いです。


「は、はい……ありがとう……ございます……」


 そんな事……言える訳、無くて。


「さぁ、貴方の名前を教えなさい」


 なんで……!? 親愛の証……!?

 でも……急に言われても、流石に日本の時の和名を出す訳にはいかないし……!!
 なんか、身近な横文字を……!!


「名前……名前? ええっと……魔王サタン……いや、見習いアプランティ……?」


 あれ……? そもそも、この体の名前を知らないのは……何故?


「アプ……? ん?」


 今は……良いか。考えてる余裕は無いや。


「あー……いや、アラン……魔王アラン。宜しくお願いします……サリュ……」


「ふふふ……ここから、大逆転の快進撃の始まりよ、アラン!!」


「は、はい……」


「手始めに……もっと砂糖を出しなさいっ!! ほらっ!!」


「やめろぉ!! 手から直飲みしようとすんな!! 机の上に散乱してんだろ!!」


「はっ! あれがそうなのねっ!!」


 ガバッ! と僕の上から飛び退き、テーブルの上に散乱したお菓子を貪り始める勇者……もとい、サリュ。

 無駄にしなくて有難いけど……怖いわ。マジで。

 
 ――――無駄に元気になったサリュの言葉で……僕の、波乱の人生の幕が上がった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

都市伝説と呼ばれて

松虫大
ファンタジー
アルテミラ王国の辺境カモフの地方都市サザン。 この街では十年程前からある人物の噂が囁かれていた。 曰く『領主様に隠し子がいるらしい』 曰く『領主様が密かに匿い、人知れず塩坑の奥で育てている子供がいるそうだ』 曰く『かつて暗殺された子供が、夜な夜な復習するため街を徘徊しているらしい』 曰く『路地裏や屋根裏から覗く目が、言うことを聞かない子供をさらっていく』 曰く『領主様の隠し子が、フォレスの姫様を救ったそうだ』等々・・・・ 眉唾な噂が大半であったが、娯楽の少ない土地柄だけにその噂は尾鰭を付けて広く広まっていた。 しかし、その子供の姿を実際に見た者は誰もおらず、その存在を信じる者はほとんどいなかった。 いつしかその少年はこの街の都市伝説のひとつとなっていた。 ある年、サザンの春の市に現れた金髪の少年は、街の暴れん坊ユーリに目を付けられる。 この二人の出会いをきっかけに都市伝説と呼ばれた少年が、本当の伝説へと駆け上っていく異世界戦記。 小説家になろう、カクヨムでも公開してましたが、この度アルファポリスでも公開することにしました。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

処理中です...