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第四章 水の国
水の国
しおりを挟む「なるほど……そんな理由が……」
戻ってきたメリッサさんに筆記具を借り、今は手紙を書きながらティナさんに詳しい話を聞いた所。
ミアさんは泣き止み、泣き疲れたのかベッドの上で静かに寝ていて……メリッサさんはティナさんにさっきの事をツッコまれて……頬を染めつつ、壁際に立っている。
それで、ティナさんの詳しい話を纏めると……
・まず、今居る場所は、フルグンド王国。通称……水の国。
そこの王城の一室。やっぱりね。
・フルグンド王国は一つの大きい島を国としている。
・有翼族、人魚族が主な国民。
・風の国とかがある大陸からは、結構離れているらしく、転移での移動は厳しい可能性。
長距離移動が可能な有翼族か、若しくは人魚族くらいじゃないと、移動が厳しいみたい。
船での往来も出来るけど……距離を考えて、補給地点が無い為に物資がしんどいとかなんとか。
それで、一番大事な国が滅びる云々の話はというと……
・災厄と呼ばれる……巨大な海龍がポップアップする予兆があるらしい。
・具体的には……島の周りに強力な魔物のポップアップが盛んになるとか。
・今のフルグンド王国の国力での討伐は厳しく……それで滅びる云々の話に。
ちょっとティナさんが先走ってる感あるけどね。
・歴史を遡ると……男が居た時代に、多大な犠牲を払って漸く討伐出来た程強力な海龍だとか。
・ティナさん曰く、俺様が泳げれば倒せる。らしい……。
「ティナさん、泳げないんですか……?」
「泳げねぇっつうか……息が出来ねぇ。潜られたら終いだな」
なるほど……そりゃそうか。
「それで……僕が呼ばれた理由は?」
「あぁー……女王陛下がな、その……忙しくて……男を抱けねぇってボヤいてたからさ。そんで知り合いが風の国でリュカの話を聞いてだな……」
少し言い辛そうにしているけど……僕にとってはご褒美だよ、それ。
「なるほど……慰安ですか。お任せ下さい!!得意分野ですっ!!」
僕のその言葉に……ガタッ!!と反応したメリッサさん。
皆がそちらに視線を向けると……澄まし顔で虚無を見つめている。バレバレで可愛い。
「ま、先に陛下ん所に弁明に行って……だな。そしたら俺様は手紙を運びに行く。……なぁに予兆があるだけだ。直ぐに滅ぶって訳じゃねぇから心配すんなよ?」
「は、早く帰って来て下さいね……」
不安が顔に出ていたのか……ティナさんがフォローしてくれた。
思わずお嫁さんムーブになってしまうが……気にしない。
「リュカは堪らんなぁ……帰ってきたらたっぷりセックスするからな?覚悟しとけよぉ?」
「ふふふ……また気絶させてあげますよ!」
「言うじゃねぇかぁ!!!次は負けねぇぞ!?」
盛り上がる僕達を割くように、メリッサさんが間に入ってきて……
「んんっ!!!では、私は陛下の元へ。少々お待ち下さいませリュカ様」
咳払いを一つしてそう言い放ち、優雅に立ち去るメリッサさんを見送り……手紙の続きを書き進める。
陛下は忙しいのに謁見の時間くれるのかね?余り長居しない様にしないと……。
手紙の内容は、僕は無事な事……それと、皆が無事かの確認。
暫く戻れない事を書き、帰還時はエルフの森に行く事等、必要な事を纏めていく。
「しかし、女王陛下ですか……緊張しますね」
「……向こうからしたら男と会う方が緊張すんぜ?」
「ティナさん達はそうでも無かったですよね?」
「……興奮し過ぎて暴れた節はあるな。それに……ほら、リュカが俺様を挑発するもんだからよぉ……つい、な?」
なんとも難儀な世の中だなぁ……。
手紙を書き終え封をして、ティナさんに託し……まだメリッサさんが戻らないので、二人雑談を重ねる。
「それにしても……滅び行く国、ですか。それなのに僕が思っている程……皆悲壮感がありませんね」
「まぁな。最悪、俺様達有翼族が要人抱えて飛べば問題ねぇ……だからよ、皆悲壮感がねぇんだ。自分達が死んでも……陛下がいりゃ、国はまた建つ。だったら……命を賭してでも、戦ってやろうってな。男達の為によぉ」
「それは……!!そんなのって……!!」
重い話を……軽く笑って言うティナさんが……理解出来ない。
皆で逃げて……生きた方が良いに決まっているじゃないか……!!
「ま、そうすっと……人魚族が絶滅の危機になるがな。そんときゃリュカ……頼むぜぇ?」
「そんなの……そんな事、僕は……約束したく……ありません……!!それに、この国のシェルターの中にいる男の人達は……皆……!!」
「……だから皆、死んででも抗おうとするんだよ。男を守る為に……俺様達女は……暴力に立ち向かうんだよ、リュカ」
「ティナ……さん……」
僕が皆とセックスするから大丈夫、だから皆で逃げよう……なんて軽口が叩けないくらい、真剣な表情。
例えば……僕がティナさんの立場だったとしたら、同じ事が言えたのだろうか。
好きでも無いのに……ただ、異性というだけで……命を賭けられるだろうか。
「凄いですね……ティナさんは。僕だったら……自分の命の方が大事だと……逃げちゃいます。きっと」
「はっ!!男のリュカはそれで良いんだよっ!!」
高らかに笑いながら頭を撫でられ……なんだか、無性に悔しかった。
たぶん、この世界の男なら受け入れていると思う……けど、僕はそれだけじゃないんだ。
この世界じゃない……日本人としての心があるんだ……!
弱いから守られる……それだけじゃダメなんだよ……僕……!!
燃えろよ大和魂。探すんだ……セックス以外に僕が出来る事。
きっと、今のこの状況は……僕に成長しろと、淫紋が導いた結果なのかも知れない。
この先……何が待ち受けているかわからないこの世界で、生き延びる為に……一歩成長しないといけない……そんな風に都合良く解釈して、強く……強くならないと……!!
だから……寂しいけど、エマ達とは暫くの別れ。僕が強くなる、その日まで。
そう決意した所で……水を差す様にノックが響き、ティナさんが扉を開けるとメリッサさんが入ってきた。
「貴方は……。リュカ様が居られるのです。少しは気を遣いなさい」
「わりぃわりぃ……。一回セックスするとな、リュカは普通じゃねぇってわかるんだけどなぁ……」
ニヤニヤしながらメリッサさんを煽るもんだから……メリッサさんの瞳孔が縦長に開き、ギンギンの殺意が部屋に充満する。
「ふぇっ……!?な、何事ぉ……!?」
……殺意の余波でミアさんが起きたのは良かったのかも知れない。
「兎に角……陛下が時間を開けて下さるそうです。直ぐに向かいますよ……リュカ様、宜しゅう御座いますか?」
「あ……え、えぇ!勿論です!!直ぐに行きましょう!!」
殺気の残滓でちょっとビビったけど……ま、まだ強くなってないからセーフ。
時間が無いし急ごう!!
皆で部屋を出て、メイドさん達が並ぶ廊下に。
僕が出てきたからか、壁際に並んだメイドさん達が一斉に頭を下げて……ちょっと廊下が歩き辛い。
……本来、この人達は僕の警護なんてしてないで……国防に回らなきゃいけない人達……な筈。
あれ……メイド服だから違うかな?
まぁ何にせよ余計な仕事な事は確かだ。女王陛下に余分な警護は不要だとお伝えしないと。
「では……此方へ」
「はい、メリッサさんっ!」
当たり前の様に頭を下げるメイドさん達の中を通るメリッサさんのデカいお尻を追って廊下を進んでいく。
グルグルグルグルと……目が回るくらい色んな廊下を突き進み、漸く辿り着いた扉は……凄く豪華な装飾が施された扉。たぶん……謁見の間かな?
良く考えれば……カトリーヌ様の城は転移でピョンピョン飛んでたし、余り扉に注目しなかったなぁ。
ボーッと扉を眺める僕を他所に、メリッサさんは扉を護る様に両脇に立つ、三叉槍を持った兵士に話し掛けている。
その兵士二人は……二足歩行なんだけど、翼が生えていない。
有翼族じゃないなら……人魚族なのかな?
でも、足がなぁ……普通なんだよなぁ……。
見たい、生足を見たい……けれども鎧が邪魔だ……。
「リュカ様。それでは参りますよ。マルティーナとミアも……覚悟は良いですね?」
「へっ!」
「お、お手柔らかにぃ~……」
「……行きましょうか」
鼻で笑うティナさんと泣きそうなミアさん。
……ティナさんは陛下と仲が良いのか、それとも……龍人らしく傲岸不遜なだけなのか。
まぁ……それは陛下に会えば分かるか。
門番さんが開けてくれた、豪華で重そうな扉の先へと歩んで行く。
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