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第二章 風の国
交流
しおりを挟む正直、この世界にやってくる事に意味が出来るとは思わなかった。
ただひたすらに女の子に種付けして、幸せに死ぬつもりだったんだけどね……。
頭の整理のつかない今は……この狂った世界を正そう、そんな義勇の心は片隅に置いておこう。
そうやって、無理矢理自分を誤魔化して……次の会話の糸口を探していると、ベッドルームから物音が。
「おはようリュカ。戻ってたんだね」
僕とエマの話声で目が覚めたのか、イーリスがキッチンに入って来て、目を擦りながら眠たげにテーブルに着く。
今更だけど、二人暮しを想定しているこのキッチンに備えられたテーブルは二人掛けの小さいテーブル。
申し訳ないけど無理して三人でギュウギュウに囲んでいる。
「起こしちゃいました?すみませんね」
「良い。リュカには色々聞きたかったから」
「奇遇ですね。僕もなんですよ」
丁度良いタイミングだから、イーリスと別のお話をしよう。
明るい話をしていないと……やっていけない。
「私の話からしても良い?」
「勿論。なんでも聞いて下さい」
僕らが会話し始めたからか、エマが僕らに背を向け、火の着くコンロのような魔法具や、水の出る魔法具がある、調理スペースの方に向かう。
「それなら私は料理の仕上げに入ろう。リュカの相手は……一先ず任せた」
「すみませんエマ……ありがとうございます、助かります。それとイーリスも……いつもご飯ありがとうございます」
ヒモみたいな生活をさせてくれる二人に、日頃の感謝を。
……ヒモみたいな生活してるのに、他の女を抱いている自分に少し嫌悪感。
しかし色んな女とヤリたいのが男の欲望……この二つが僕の中でせめぎ合っている。
なんだか心がぐちゃぐちゃだ。
「良い。男を養うなんて……女のロマン」
「その通りだな。気に病む事は無い」
「ははは……」
男がシェルターにしか居ない逆転世界だと……こんな価値観になるのかなぁ……。
今のぐしゃぐしゃな僕にはわかんないや。
「それより、聞きたい話。あの動く土は……何?」
パンッとイーリスが手を叩き、場の空気を変えてから話が始まる。
……アレの作り方、話辛いんだよねぇ。
「えぇっと……」
「どうやったら魔法が意思を持つ?どうしたらアレが出来上がる?何をしたのリュカ」
ずいっと身を寄せ、食い気味に話し掛けられ……寝起きのイーリスの汗と石鹸の混じった匂いにムラッとくる。
後で沢山ぶち込もう。
「あれは……その、僕の精子と魔法を……錬金しました」
隠し様が無いので、素直に伝えたら……スッと身を引かれた。
「どうしたらその思考になるの……勿体ない」
残念な子を見るような目で見られるんだけど……沢山出るんだから勿体ない訳では無いじゃないか。
「いっぱい出ますから勿体なくありません!イーリスも知ってるじゃないですか……!」
「そうだった。つまり……今夜は沢山実験出来るね」
「ヒェッ……勿体ないから中で出させて下さい……」
「……一回だけね」
表情の変化に乏しいイーリスだが、心做しか恥ずかし気に見えて……とても可愛い。抱きたい。
「それにしてもイーリスは……そんなに魔法が好きなんですか?」
セックス以外で積極的なのは余り見ないので、思わず聞いてみた。
「勿論。これには夢と希望が詰まってる」
そう言いつつ、手に魔力を込め……指先に一つの炎を灯す。
「何故人の心を写し、形に出来るのか。この力は何処から来るのか。そもそも魔法とは何なのか……探究心が止まらない。だから好き」
確かに……リュカ君も魔法の存在を知っていて、疑う事も無くて……僕もそうだ。当たり前に魔法を使っている。
「それに『錬金』と精子……新たな分野が加わった。私は生涯飽きる事は無く死ねる」
「そんな大袈裟な……」
目を輝かせるイーリス。
さりげなく生涯僕に付いてくる事を暗示した発言なのは気付いているのだろうか。
「なんだイーリス。私達の夢は諦めるのか?」
料理をテーブルに運びながら、さり気なくエマが会話に入ってくる。
そんな事より……二人には夢があったのか。
「そんな事は無い。それにもう半分実現している」
「そう言われればそう……だがなぁ」
そう言いながら僕を見てくる二人。
僕が関係している……のかな?
「夢、とは……?」
「ん、私は世界一の魔法使いで、エマは世界一の剣士になって……最期はシェルターの一部になって男を守って死ぬこと」
「死に際は誇らしく在りたいからな!」
「それは……」
夢、なのか?
男を守って死ぬ、そんな事が誇りなの……か?
僕と彼女たちの価値観の乖離に、絶句してしまう。
今の僕に……彼女達を庇って死ぬ事が出来るのだろうか。
「リュカにはわからないだろうがな……これは世界中の女の総意だと思っても良い。それくらい誇らしい事なんだぞ?」
「男の精子で子を孕む……その次に女が憧れる夢」
「え、男の精子で……?」
「うん、男の本物の精子で出来た子は、強く優秀な子に育つ」
「逆を言えば女の紛い物の精子だと……それなりだ。私達みたいにな」
自嘲気味に笑うエマに……何も言えなかった。
僕からしたら……若いのに自立して、夢を掲げて生きる、それは凄い事だし、それなりの人間には出来ない事だと思うんだけどなぁ。
「だから男の種は王族や貴族達に優先される」
「なるほど……」
シェルターには富裕層が優先される……こういう仕組だったんだね。
平民と貴族、どんどん隔たりが大きくなる気がするけど……今の僕には変える力は無い。
「だからリュカは貴重な存在なんだ。養われるくらい気にするな」
「わ、わかりました……」
納得し辛い……けど、納得するしか無いよね。
二人と違って、僕には……種をばら撒き、ヒントすらない魔女の呪いを解く。それくらいしか存在意義が無い。
……頑張って生きていこう。今はまだ、守られ養われる……か弱い存在でいられる事に甘えていこう。
丁度エマの配膳が終わり、三人で食事を取る。
この辺りの地域はパン食が主流で、米は見かけない。
硬いパンを薄くスライスして、ペースト状の味の濃い肉料理を乗せて食べたり、野菜たっぷりのスープに浸したり……色んな食べ方がある。
ぶっちゃけ庶民レベルだと作法も糞も無いので、食べたい様に各々好きに食べている。
因みにリュカ君の体がベースなもので、味覚がこの世界の食事に慣れているから大丈夫。
「それで、リュカ……大事な話があるんだ」
「な、なんでしょう……?」
エマが重く、言い辛そうに口を開くんで……僕も緊張して吃ってしまう。
イーリスも食事を中断し、手を止め此方を見ている。
「その……な、私とイーリスは……避妊薬を飲んでいるんだ。女として……リュカの旅の付き添いとして、妊娠して警護出来ないなんて嫌なんだ」
「私も同意見。リュカの旅が終わって……腰を落ち着けたら、薬を飲むのを止めるつもり」
以前、二人には僕の目的を話した事がある。
……その時からずっと薬を飲んでいたのか、気付かなかった。
「……薬の副作用は?」
「特には無い。飲み慣れてくれば……大丈夫」
「そうですか……。なら、二人がそれで良いならば、お願いします」
「良かったぁ……」
胸を撫で下ろし、安堵するエマとイーリス。
子を孕みたい気持ちと、男を守りたい気持ち……その狭間で揺れ動いていたのだろうか。
そして、僕を守るという道を選んでくれた二人……感謝しないと。
「どうして……僕にそこまで出来るのですか?」
「盗賊に襲われたあの日、リュカは男なのに……私達を助けてくれた」
「本来、私達が守るべきなのに……だからな、次は私達が守る番なんだ」
ただ、誰かとセックスしたかっただけなのに……そんな風に思われていたなんて知りもしなかったなぁ。
今まで聞いて来なかった二人の気持ちを聞いたり、これからの事……今までの事、色々聞きながら夜は更けていった。
――勿論イーリスに扱かれながら錬金釜に射精する特殊プレイも枯れる程やった。
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