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第二章 風の国

事実

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 朝からセックスし始めたけど……終わったのは夕方。

 水分は補給したが……ご飯は食べないで、ずっと激しいセックス三昧。
 何度も狂った様にイきまくるメロディさんに……食い殺されるかと思った。

 ご飯を食べなかったのは……ご飯食べてセックスするとお腹痛くなるよねっていう僕の我儘。

 そんなこんなで……今はまったりとベッドで並んで寝ている。


「や、やばかった……とんだ拾いもんしたぜ……」


「僕も凄かったです……売春とか忘れちゃいましたもん」


 本来の目的を忘れ、すっかりセックス漬けの一日。金云々よりも大事な何かが芽生えた気がする。
 ……こういう恋愛体質、というか情が湧きやすい性格で売春出来んのか僕……。


「あぁー……そういやそうだったなぁ。幾ら払えば良い?」


「えぇっと……メロディさんからは貰いたく無くなっちゃいました」


「なんじゃそりゃ。それで良いのかよぉ?」


 呆れた様に苦笑いするメロディさん。

 なんとなく、此処でメロディさんからお金を受け取ってしまうと……体だけの関係で終わってしまうと思うんだ。

 それに対して、寂しいと思う僕が居て……つい口走ってしまった。
 この世界に結婚なんて無いから、これ以上関係が発展する事は無いんだけどね。それでもなんだか寂しいんだ。

 ま、メロディさんからお金を取るのが無理なら……別の人から取れば良いよね。


「思ってたよりメロディさんと相性が良くて……。そうだ!代わりに……一緒にビジネスしません?」


 僕の提案に不思議そうな顔をするメロディさん。


「ビジネスって……?」


「メロディさんの知り合いとか同僚とかを連れて来て貰って……メロディさんは仲介料を。僕は売春で代金を貰うんです!」


 警邏隊が売春斡旋ってのはどうかと思うけどね。
 知り合ってしまったんだから……そして、知ってしまったから。


「とんだ淫乱だなリュカ……」


「はい、ご存知の通りセックス大好きですからっ!」


「それは身をもって知ったよ……」


 ヤレヤレ、といった風に首を振り……突然僕の性器を鷲掴みして、人差し指と親指で輪を作る。
 そして魔力を込めながら亀頭から根元までゆっくりと輪を通し……何してんだこれ。


「メロディさん……?何を……?」


「何って……スキャンしてんだよ。リュカのチンコがどんくらいデケェかサンプルが必要だろうが」


 つまりこれが男根魔法……!?
 なるほど……だから玉が無いのか。竿しか輪を通せないから……凄い納得した。

 暫く僕の性器をスキャンして、ブツブツとメロディさんが何かを唱えると魔力が霧散していった。


「よっし終わり。そんじゃ……手当り次第声掛けてやるよ」


「という事は一緒にやってくれるんですね!?ありがとうございますメロディさんっ!」


 飛びつく様にメロディさんに抱き付けば、優しく頭を撫でられる。
 なんだか犬になった様な気持ち……だがそれが良い。

 ……情が移らない様に目隠ししながらやろう。便器になるんだ僕は……!

 その後、話を詰めていき……
 隔日朝9時からこの部屋集合という話に。
 暫くはメロディさんがついてくるけど、慣れてきたら客だけがくるという形に。
 期限は、約一ヶ月。

 メロディさんがこの宿の経営者と仲が良いらしく、部屋の確保もお任せした。

 警邏隊の仕事は良いのか……と思ったけど、この世界の人達は最低二人以上で仕事をするらしく、ペアの女性に話を付けてなんとかしてくれるみたい。

 女性ばかりの社会だからか、妊娠して動けなくなると困るので、普通は二人以上で仕事に当たるらしい。
 だからペアの両方が辞める、イーリスとエマは引き継ぎに時間が掛かるのかなぁ。

 一人で仕事しているのは、何かしらの理由があるか……若しくは国が貧困だからか、という話になるみたい。


「それじゃ……明後日から宜しくな」


「こちらこそ宜しくお願いしますねっ」


 腕枕をされつつ、頭を撫でながら言われ……なんだか愛人契約したみたいになっている。

 実際は売春の斡旋……余計質悪いな。

 宿+メロディさん+メロディさんの相方にもお金を分配するので……お客は一人当たりの単価は高くなり、僕の手元にくる金額は少なくなるけど……仕方が無い。

 薄利多売で巨根リーピーター作戦だ。

 目隠し薄情作戦が成功する事を祈るしかない。



 話も終わり、気怠げな雰囲気で僕らは服を着て……最後にハグとキスを。

 唇を離すと……モジモジと、何かを言いたげな空気を出すメロディさん。


「どうかしました?」


「あ?あぁ~……いや、なんでもねぇ」


 ばつが悪い顔をして、歯切れの悪い言い方。
 逆転した世界でも……女にこういう顔をさせちゃダメだよね。

 僕も同じ気持ちだと思うから……メロディさんの言いたい事は分かっているつもり。


「また、二人っきりでセックスしましょうねメロディさん」


「バッ……!わかってんなら聞くなっ!!」


 褐色肌の頬を染め、照れ隠しに僕の背中を叩き、朱に染めようとしてくる。
 どうやら合っていたみたいで、僕も嬉しくて……たぶん、顔が赤い。


「それと……俺の事は呼び捨てで良い」


「わ、わかりましたメロディ……!」


「お、おうっ……!」


 なんだか無性に照れ臭い雰囲気になってしまい、二人足早に連れ込み宿を出る。

 受付で代金を払うメロディさんにお礼を言いつつ外に出てみると……僕らみたいに真っ赤な夕日。

 こんな長居するつもりじゃなかった……早く転移で帰らないと……!


「それじゃあメロディ、僕はここで」


「あぁ?……ひょっとして空間魔法使えんのか」


「えぇ。ですから明後日からは部屋の中で待ってますね」


「おう……じゃ、またな」


「はい。また会いましょう」


 寂しげなメロディに手を振り、転移でイーリス達の寮に戻る。


 ───────────────────────


 パッと切り替わった視界。
 転移した場所はリビング。

 真っ先に映った物は……まるで生き物の様に自分の意思で動く、馬の形をした小さな土塊。

 ……コイツ絶対僕が生み出した土塊だろ。イーリスの仕業かな……?


「お、戻ってたのか。遅かったな、リュカ殿」


 イーリスを探そうかと思ったら、キッチンからエプロンを着けたエマが顔を出して挨拶してきた。
 良い感じに口調が砕けてきて嬉しい。


「遅くなってすみません。ただいま戻りました。それと……この土塊は……」


「心当たりが?イーリスが自立する珍しい土があると遊んでましたよ。それで……ほら、疲れ果ててベッドに」


 優しそうな目でベッドルームに視線を送るエマの視線を追うと、ベッドでスヤスヤと眠るイーリスの姿が。

 エマの優しそうな目を見て……二人の仲の良さがわかる。
 けれど僕は……彼女たちの事を全然知らないや。
 ヤルだけヤッて……体だけの関係。

 なんだかこのままじゃいけない気がして、馬の土塊を避けつつキッチンに向かう。


「ん?飯はまだ出来ていないぞ?」


「はい。なんだか……エマ達の話を聞きたくなっちゃって」


「そ、そうか……!料理しながらで良ければ、なんでも聞いてくれっ!」


 嬉しさか、恥ずかしさか……笑いながら語気を強く言うエマに微笑みつつ、テーブルに着く。


「それじゃ遠慮無く。まず……お二人は何処で知り合ったんですか?」


「む?私達は同じ病院で……あぁそうか、リュカ殿はシェルター産まれだったな」


「はい、男ですから。だからこの世界の女性達を知らなくて……」


 この身体の中の、リュカ君の残滓が偶に物事を教えてくれるけど……出生の話とか、余り重要じゃない話は残っていなかったんだ。


「ならば、まず常識の話からしていこうか。リュカ殿は……女性の妊娠から出産までどれくらいかかると思う?」


「えっ……一年、とかですか?」


「いいや……基本一月だ。魔力量で若干前後するがな」


 嘘だろマジで……?そんな早く産まれるの……?


「妊娠するとな……胎内に魔力が吸われ、集中するんだ。それで妊娠を自覚する」


 魔力って……凄い。
 この世界の根幹じゃないか。不思議パワー……そんなので片付けられる物じゃない。


「ペアの人に警護されつつな、近くの病院で鑑定魔法を受けるんだ。そこで女の子ならばそのまま産み、男の子なら近くのシェルターに連れて行かれる、そんな仕組だ」


「な、なるほど……」


 未だに魔力という謎の力に引っ掛かりを覚えていて――


「ん?何か疑問でもあったか?」


 ――表情を読まれたのか、料理しているエマが此方を振り返り聞いてきた。


「あ、いえ……魔力ってなんだろうって……皆当たり前に使ってますけど、不可思議な力ですよね、これ」


「ん?リュカ殿は……シェルターで習ったんじゃないのか?」


 思い出そうと考えても……見つからない知識。
 リュカ君……それは残しておいて欲しかった知識だよ……。

 そもそも、魔力の知識をそっちの世界に持って行っても……残念ながら地球には魔力無いんだよ……。


「そうか。魔力はな、魔女の呪いに対抗する力……そう言われている」


「えっ……?呪いが発動する前の世界はどうなって……?」


「む……?昔の事だからなぁ……」


 唸り、鍋をかき混ぜながら首を捻るエマの背中を見つめる。
 普通の世界……だったのか?謎だ……。

 というより、魔力の存在が呪いの後だったら……


「それならば、シェルターの存在が間に合わないじゃない……ですか」


「あぁ、その知識も無いのか。シェルターとは……元々は魔物の脅威から身を守る為に、神様に供物を捧げて賜っていたと伝えられているんだ」


 元々は魔力じゃない、神様の力……?余計分かんなくなったなぁ。


「……それが魔力のせいで形骸化して、新たに男を守るシェルターになった……」


「うむ」


「供物って何だったのでしょうねぇ……」


「それは――人間だ。今でも、シェルターの力が弱まれば……魔力の多い人間が人柱になる事もある」


 ドクンと心臓が跳ね、全身の血が引いていく様な感覚に陥る。

 魔力だけじゃなく……人体も必要な程、力を消費しないとシェルターは保てないのか……?
 元は神様の力……そう言われればそうだと納得できる。けれど……そんなもの信じたくない。


 知り合いが犠牲になった訳じゃないのに……誰かの命の上で成り立っているシェルターという存在に、何とも言えない嫌な気持ちが沸いた。

 そして……この世界を歩き回れる男、そんな自分じゃ無きゃ、特別な僕が動かなきゃ……そんな義勇に駆られた。
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