怖いお話。短編集

赤羽こうじ

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あの日のかくれんぼ 真相

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 D団地での騒動から一週間後、恵美と麗は公園のベンチに腰掛けていた。

「退院おめでとう。やっとだね」

 恵美が両手を叩いて祝福すると、麗の顔も破顔する。

「ありがとう。本当はもうちょっと早く退院出来たんだけど、騒動がもう少し落ち着いてからの方がいいだろうって事になったからね」

 女子高生二人が相次いで行方不明となり、その後心霊スポットとして有名な団地内で発見されたという事はニュースにもなり、その当事者である恵美や麗はちょっとした有名人になってしまっていた。

「貴女は入院してたから知らないかもしれないけど、私結構色んな人から質問されてさぁ、学校に行ってても好奇の目で見られるし、先生達からも呼び出されて色々聞かれるしさぁ、その上警察まで学校に来て話聞かせろって言われたんだよ」

「あはは、そうなんだ。警察は入院してる私の所にも来たけど、覚えてないんですって言ってしんどそうに俯いてたらすぐに帰ってくれたよ」

「貴女はそうでしょうよ。私の場合は『当時の状況を詳しく』とか言われても、どう説明したらいいのか分かんないし」

 恵美が眉根を寄せて困り顔で両手を広げながらおどけて見せると麗は楽しそうに笑っていた。

「だいたいさぁ、あの団地に近付いちゃ駄目だって言ってなかったっけ?」

「ああ、迂闊に近付いちゃ駄目なのは分かってたんだけどさぁ、恵美のあの話聞いたら、恵美がまだあの団地に縛られている様な気がして、なんとか出来ないかなって思ってさ」

 そう言って眉尻を下げて笑う麗を見て、恵美の表情も思わず綻んだ。

「そっか、ありがとうね。おかげで助かったよ」

 そう言うと恵美は笑顔で空を見上げる。

 ――数年前。

 中学生だった恵美は依然として希の事故の事に悩まされていた。A市に移り住み、数年が経っていたがいまだに時折悪夢にうなされるのだ。
 やっぱり希ちゃんに謝らなきゃ。私だけが楽しく生きてて希ちゃんは怒ってるのかも。そんな事ばかり考えていた。思春期に当時のトラウマに悩まされて、恵美は若干ノイローゼ気味になっていたのだ。

 一人思い悩んでいた恵美はある日D団地に行く事を決意する。休日を利用し一人O市にやって来た恵美は一目散にD団地へと向かった。
 団地に辿り着いた恵美は周囲を少し警戒すると、急いで団地内へと侵入して行く。
 団地内へ侵入を果たした恵美は用意していた物を鞄から取り出し準備を進める。
 ろうそくやぬいぐるみを並べるとお菓子を供えて恵美は手を合わせて祈りだした。

 恵美がしようとしている事、それは正に降霊術だった。

 ネットで調べ、見よう見まねで希の霊を呼び出そうとしていたのだ。
 廃墟となった団地内で女子中学生がろうそくとぬいぐるみを並べて祈っている。周りから見れば不気味で奇妙な風景だが、精神的に追い詰められていた当時の恵美からしてみれば藁にもすがる思いだった。

 そんな恵美がろうそくに囲まれたぬいぐるみに祈りを捧げていた時、突然後ろから声を掛けられた。

「ちょっと、何してるの?」

 いきなり声を掛けられた恵美は飛び上がる程驚き、慌てて振り返ると一人の女の子が立っていた。よく見るとその女の子は自分と歳はそれ程変わらないように思える。

「……紗妃ちゃん?」

「ええ……あんた恵美ちゃんよね?」

 思いもよらない再会だった。あの日、希の死に関わってしまったかもしれない二人が、因縁の場所で再会してしまった。

「突然逃げる様に引っ越したあんたが今頃どういう風の吹き回し?  何してる訳?」

「逃げる様にか……随分な言い方ね。貴女こそ何してるのよ?」

「私はたまたまあんたを見掛けて、不思議に思ったから後をつけてみたら怪しい儀式始めるじゃない。怪しい黒魔術でこれ以上惨劇起こされたら堪らないのよ」

「何が黒魔術よ。他人の後つけるなんて相変わらず趣味悪いわね。それにあの事故だって貴女が関わったからでしょ」

 会って早々に互いを批判し合う二人。会話を続けるにつれて、非難の応酬は激しさを増して行く。

「何よ、希ちゃんの事故に関しては私は何も悪くない!  あんたがとっとと家に帰ってれば大事にならなかったんじゃない。あんたが帰らなかったから希ちゃんがまたこの団地に来て事故になっちゃったんでしょ!」

「私が帰らない要因作っといてよく言うわね。だいたい貴女あの日の夜、私の親から電話あった時『今日は恵美ちゃんには会ってないから知らない』とか言ってたらしいね」

 恵美が立ち上がり詰め寄ろうとすると、紗妃は口角を上げて鼻で笑う。

「はは、あんたには会ってないんだから嘘じゃないからね。あんたはいいわね、親の都合とか言ってこの街を出て行けたんだから。あの事故以来、この街に残された私は居心地悪いなんてもんじゃなかったんだから」

 紗妃は鋭い視線で恵美を睨みつける。二人の間に不穏な空気が漂っていた。
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