35 / 58
あの日のかくれんぼ 遠き日のかくれんぼ
しおりを挟む
「あはは、やっと恵美ちゃんを見つけられた」
そう言って希ちゃんは安堵した様に笑っていた。恵美は溢れる恐怖心を必死で抑えながらようやく口を開く。
「の、希ちゃん……ひょっとしてずっと私を探していたの?」
「そうだよ。当たり前じゃん。だって私が鬼なんだから」
十数年前のあの日、隠れていたのは恵美で探す鬼の役は希だった。
――十数年前
「じゃあ今日は私が鬼ね」
希が笑いながら言うと恵美が笑顔で頷いていた。
「今日はね、絶対見つからないんだから」
「ふふ、じゃあ私は絶対恵美ちゃんを見つけるからね」
二人は笑顔で言葉を交わし、希が壁に顔をつけて数えだすと、恵美は駆け出して行った。
「もういいかーい」
「まぁだだよー」
「もういいかーい」
…………
「返事がないって事はもういいって事だよね?」
恵美からの返事がない為、希は恵美が隠れ終わったと思い探し始める。
しかし探し始めてすぐに近所に住む神戸紗妃が姿を見せた。
「ねぇねぇ、何してるの?」
含み笑いを浮かべながら紗妃が希に尋ねると、希は素直に答えた。
「えっ? 何ってかくれんぼだよ、一緒にする?」
希の誘いに紗妃は更に口角を上げて皮肉めいた笑みを見せる。
「私はいいよ。そんな事より私の家で遊ぼうよ、お菓子もいっぱいあるからさ」
「えっ、今は駄目だよ。私が鬼なんだから探さなきゃ」
戸惑いながら拒否する希に対して紗妃は狡猾な笑みを浮かべて歩み寄る。
「昨日最新のゲームも買ったんだよ、二人でそれで遊ぼうよ」
「えっ、あのゲーム買ったんだ……でもまだかくれんぼの途中だし」
「じゃあ私も一緒に探してあげる。だから早く終わらせて二人で遊ぼ」
子供というのは時に残酷だ。自分の欲望に素直に従ってしまう。最初こそ戸惑っていた希だったが、紗妃の甘い誘惑に乗せられてしまった。
その後、二人で手分けして隠れている恵美を探す事になった。
「恵美ちゃーん! 何処ー? もう出て来てー!」
必死に叫びながら探す希だったが、紗妃は鼻歌交じりで笑みを浮かべながら適当に探していた。結局二人で十分程探したが恵美は見つからず、二人はここで諦める事にした。
「……大丈夫かなぁ。やっぱりもっとちゃんと探した方がよかったんじゃないかな」
「大丈夫よ。私達二人であんなに探したんだから仕方ないじゃん。こんなに探したのに見つからないような所に隠れる方が悪いのよ。それに鬼が探しに来ないからっていつまでも隠れてる訳ないし。そのうち出てきて帰るって」
そんな事を言いながら、かくれんぼの途中で希は紗妃と二人で行ってしまった。
そんな事とは露知らず、恵美は前から見つけていた取っておきの場所にずっと身を潜めていた。
『ふふふ、まだ私を探してるのね。見つけられるかしら』
自らが探し出した取っておきの場所で恵美は笑いを堪えながら身を潜める。
だがあまりにも見つからない為、徐々に不安も増して来ていた。
『……まだ見つけられないの? 早く見つけてくれないと終わらないよ』
『……まだなの?……でも自分で出ていっちゃ駄目。これはかくれんぼなんだから』
ずっと隠れ続けた恵美が自分一人だけ取り残されて、希が既にそこにはいないと悟ったのは、日も暮れて辺りが真っ暗になってからだった。恵美は希が自分の事をほって帰った事が悲しくて、悔しくてたまらなかった。暗くなった住宅街の道を泣きながら帰路に着いた。
恵美が泣きながら自宅に戻ると当然両親は心配して駆け寄って来る。
「恵美! どうしたの? 大丈夫?」
夜になっても戻らない娘を心配して、恵美の両親は町内を駆けずり回り、同級生の家に電話を掛けて探し回っていたのだ。
「恵美何処にいたの?」
「知らない! 言いたくない!」
両親の心配を他所に、恵美は拗ねて自分の部屋に閉じこもってしまった。恵美は自分が裏切られた事をどうしても認めたくなかったのだ。
恵美の両親はひとまず恵美は帰って来たと同級生の家に連絡を入れ、騒動の幕引きをはかった。
一方、紗妃の家で遊んだ後、自宅に戻っていた希は両親から恵美が帰って来ていない事を聞かされる。
「希、恵美ちゃんのお母さんから恵美ちゃんがまだ帰って来てないって連絡があったんだけど、あんた恵美ちゃんの事知らない?」
「え、嘘……恵美ちゃんまだ帰ってないの?」
「そうらしいの。あんた今日は紗妃ちゃんの家行ってたのよね?」
「え、あ、うん」
「じゃあ分からないわねぇ」
希の母はそう言うと、再び恵美の母と電話口で話し出した。
恵美がまだ帰っていない事を知った希はいても立ってもいられなくなり、両親の目を盗んで家を抜け出してしまう。
『どうしよう、私のせいだ。恵美ちゃんまだ団地で隠れてるんだ』
希は幼い足で必死に走った。
この時、恵美があと少し早く自宅に戻っていれば、希があともう少し自宅で待機していれば、痛ましい事故は起こらなかったのかもしれない。
だが二人はすれ違い、事故は起こってしまった。
暗くなった団地に着いた希は張られたロープを潜り団地内に侵入した。明かりを持ってなかった希は暗闇の中、手探りで進みながら恵美を探し続ける。
「恵美ちゃーん! 何処ー? お願いだから出て来てー」
暗闇の中、もう既にいない恵美を一人で必死に探し続けた希は、途中誤って階段を踏み外し二階から転落してしまった。二階から一階に降りる途中の踊り場まで転がり落ちた希の首は不自然に折れ曲がっており既に事切れていた。
そう言って希ちゃんは安堵した様に笑っていた。恵美は溢れる恐怖心を必死で抑えながらようやく口を開く。
「の、希ちゃん……ひょっとしてずっと私を探していたの?」
「そうだよ。当たり前じゃん。だって私が鬼なんだから」
十数年前のあの日、隠れていたのは恵美で探す鬼の役は希だった。
――十数年前
「じゃあ今日は私が鬼ね」
希が笑いながら言うと恵美が笑顔で頷いていた。
「今日はね、絶対見つからないんだから」
「ふふ、じゃあ私は絶対恵美ちゃんを見つけるからね」
二人は笑顔で言葉を交わし、希が壁に顔をつけて数えだすと、恵美は駆け出して行った。
「もういいかーい」
「まぁだだよー」
「もういいかーい」
…………
「返事がないって事はもういいって事だよね?」
恵美からの返事がない為、希は恵美が隠れ終わったと思い探し始める。
しかし探し始めてすぐに近所に住む神戸紗妃が姿を見せた。
「ねぇねぇ、何してるの?」
含み笑いを浮かべながら紗妃が希に尋ねると、希は素直に答えた。
「えっ? 何ってかくれんぼだよ、一緒にする?」
希の誘いに紗妃は更に口角を上げて皮肉めいた笑みを見せる。
「私はいいよ。そんな事より私の家で遊ぼうよ、お菓子もいっぱいあるからさ」
「えっ、今は駄目だよ。私が鬼なんだから探さなきゃ」
戸惑いながら拒否する希に対して紗妃は狡猾な笑みを浮かべて歩み寄る。
「昨日最新のゲームも買ったんだよ、二人でそれで遊ぼうよ」
「えっ、あのゲーム買ったんだ……でもまだかくれんぼの途中だし」
「じゃあ私も一緒に探してあげる。だから早く終わらせて二人で遊ぼ」
子供というのは時に残酷だ。自分の欲望に素直に従ってしまう。最初こそ戸惑っていた希だったが、紗妃の甘い誘惑に乗せられてしまった。
その後、二人で手分けして隠れている恵美を探す事になった。
「恵美ちゃーん! 何処ー? もう出て来てー!」
必死に叫びながら探す希だったが、紗妃は鼻歌交じりで笑みを浮かべながら適当に探していた。結局二人で十分程探したが恵美は見つからず、二人はここで諦める事にした。
「……大丈夫かなぁ。やっぱりもっとちゃんと探した方がよかったんじゃないかな」
「大丈夫よ。私達二人であんなに探したんだから仕方ないじゃん。こんなに探したのに見つからないような所に隠れる方が悪いのよ。それに鬼が探しに来ないからっていつまでも隠れてる訳ないし。そのうち出てきて帰るって」
そんな事を言いながら、かくれんぼの途中で希は紗妃と二人で行ってしまった。
そんな事とは露知らず、恵美は前から見つけていた取っておきの場所にずっと身を潜めていた。
『ふふふ、まだ私を探してるのね。見つけられるかしら』
自らが探し出した取っておきの場所で恵美は笑いを堪えながら身を潜める。
だがあまりにも見つからない為、徐々に不安も増して来ていた。
『……まだ見つけられないの? 早く見つけてくれないと終わらないよ』
『……まだなの?……でも自分で出ていっちゃ駄目。これはかくれんぼなんだから』
ずっと隠れ続けた恵美が自分一人だけ取り残されて、希が既にそこにはいないと悟ったのは、日も暮れて辺りが真っ暗になってからだった。恵美は希が自分の事をほって帰った事が悲しくて、悔しくてたまらなかった。暗くなった住宅街の道を泣きながら帰路に着いた。
恵美が泣きながら自宅に戻ると当然両親は心配して駆け寄って来る。
「恵美! どうしたの? 大丈夫?」
夜になっても戻らない娘を心配して、恵美の両親は町内を駆けずり回り、同級生の家に電話を掛けて探し回っていたのだ。
「恵美何処にいたの?」
「知らない! 言いたくない!」
両親の心配を他所に、恵美は拗ねて自分の部屋に閉じこもってしまった。恵美は自分が裏切られた事をどうしても認めたくなかったのだ。
恵美の両親はひとまず恵美は帰って来たと同級生の家に連絡を入れ、騒動の幕引きをはかった。
一方、紗妃の家で遊んだ後、自宅に戻っていた希は両親から恵美が帰って来ていない事を聞かされる。
「希、恵美ちゃんのお母さんから恵美ちゃんがまだ帰って来てないって連絡があったんだけど、あんた恵美ちゃんの事知らない?」
「え、嘘……恵美ちゃんまだ帰ってないの?」
「そうらしいの。あんた今日は紗妃ちゃんの家行ってたのよね?」
「え、あ、うん」
「じゃあ分からないわねぇ」
希の母はそう言うと、再び恵美の母と電話口で話し出した。
恵美がまだ帰っていない事を知った希はいても立ってもいられなくなり、両親の目を盗んで家を抜け出してしまう。
『どうしよう、私のせいだ。恵美ちゃんまだ団地で隠れてるんだ』
希は幼い足で必死に走った。
この時、恵美があと少し早く自宅に戻っていれば、希があともう少し自宅で待機していれば、痛ましい事故は起こらなかったのかもしれない。
だが二人はすれ違い、事故は起こってしまった。
暗くなった団地に着いた希は張られたロープを潜り団地内に侵入した。明かりを持ってなかった希は暗闇の中、手探りで進みながら恵美を探し続ける。
「恵美ちゃーん! 何処ー? お願いだから出て来てー」
暗闇の中、もう既にいない恵美を一人で必死に探し続けた希は、途中誤って階段を踏み外し二階から転落してしまった。二階から一階に降りる途中の踊り場まで転がり落ちた希の首は不自然に折れ曲がっており既に事切れていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
これ友達から聞いた話なんだけど──
家紋武範
ホラー
オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。
読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。
(*^^*)
タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。
彼ノ女人禁制地ニテ
フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地――
その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。
柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。
今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。
地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――
【本当にあった怖い話】
ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、
取材や実体験を元に構成されております。
【ご朗読について】
申請などは特に必要ありませんが、
引用元への記載をお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる