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あの日のかくれんぼ 始まり
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「もういいかーい」
「まぁだだよー」
「もういいかーい」
…………。
「返事がないって事はもういいって事だよね?」
『ふふふ、ここなら絶対に見つからないんだから』
あの日恵美達は廃墟となった団地でかくれんぼをして遊んでいた。元々その団地にはいわくがあり、大人達からは入っては駄目だと何度も言われていたのだが、幼い子供からしてみれば大人達がいない自分達だけの格好の遊び場だった。
そんな恵美達だけの楽しい時間をあの子はいつも邪魔をしに来ていた。
「ねぇねぇ何してるの?」
「えっ? 何ってかくれんぼだよ、一緒にする?」
「私はいいよ。そんな事より私の家で遊ぼうよ、お菓子もいっぱいあるからさ」
「えっ、今は駄目だよ。私が鬼なんだから探さなきゃ」
「昨日最新のゲームも買ったんだよ、二人でそれで遊ぼうよ」
「えっ、あのゲーム買ったんだ……でもまだかくれんぼの途中だし」
「じゃあ私も一緒に探してあげる。だから早く終わらせて二人で遊ぼ」
子供というのは時に残酷だ。自分の欲望に素直に従ってしまう。
「……大丈夫かなぁ。やっぱりもっとちゃんと探した方がよかったんじゃないかな」
「大丈夫よ。私達二人であんなに探したんだから仕方ないじゃん。こんなに探したのに見つからないような所に隠れる方が悪いのよ。それに鬼が探しに来ないからっていつまでも隠れてる訳ないし。そのうち出てきて帰るって」
そんな事を言いながら、かくれんぼの途中であの子と二人で行ってしまった。
『ふふふ、まだ私を探してるのね。見つけられるかしら』
『……まだ見つけられないの? 早く見つけてくれないと終わらないよ』
『……まだなの?……でも自分で出ていっちゃ駄目。これはかくれんぼなんだから』
―数日後―
団地には様々なテレビ局が大挙して押しかけていた。
「今団地では一人の女の子が見つかり現場で死亡が確認されたようです。女の子の遺体は数日前から行方がわからなくなっていた近所に住む東海林希ちゃんではないかと見て確認を急いでいるようです。希ちゃんは数日前から行方がわからなくなり警察と消防では行方を探していましたが――」
―十数年後―
その日、恵美が帰り支度をしていると噂話をするクラスメイトの女の子達の声が耳に入ってきた。
「ねぇねぇ今週末とかどう? 希ちゃんの噂確かめに行かない?」
「今週は駄目だわぁ、予定あるし。それに夜に行かなきゃ駄目なんだから計画的に行こうよ」
クラスメイトの話を聞きながら恵美は苛立ちを覚え、机の中の物を乱暴にカバンに詰めると足早に教室を後にした。苛立ちを抑え切れず、学校の廊下を早足で歩いていると突然後ろから声を掛けられる。
「あっ、恵美、ちょっと待ってよ」
恵美が慌てて振り返ると麗が小走りで駆け寄って来る。
林原麗。背が低く、ショートカットが似合う恵美の一番の友人だ。噂では男子からはミステリアスな女の子として隠れた人気があるらしいが、恵美からしてみればただ単に男性慣れしてない奥手な女の子だと思っていた。
「そんな慌てて走ってたらまた転んで足首捻るよ」
「そんな毎回転ばないわよ。それに恵美がそんなにスタスタ早足で歩いてるから私も走って追いかけたんじゃない」
恵美が少しからかうように言うと麗は眉根を寄せてムキになって反論してくる。恵美にはやはり麗のミステリアスさは微塵も感じられなかった。
「ごめんごめん。それで? 何かあった?」
「あ、別に何かあった訳じゃないんだけど一緒に帰ろうかと思ってさ。それより恵美の方こそ何かあった? なんか眉間に皺を寄せながら物凄い形相で歩いてたよ」
少し笑みを浮かべながら麗に尋ねられて恵美は初めて気が付いた。確かにクラスメイトの希ちゃんの話を聞いてから抑え切れない苛立ちが顔に出ていたのかもしれないと。恵美は慌てて笑顔を作る。
「あはは、そんなにやばい顔してた?」
「うん、恵美は顔立ちがはっきりしてるからちょっとムッとしてるだけでもかなり怖いよ。前に立ったらいきなり殴られそうな気さえするもん」
笑いながら言う麗を見て、恵美も何時しか普段通りの笑顔になっていた。
「何かムカつく事でもあった? 彼氏に浮気されたとか?」
「ははは、まさか。今からデートなんだからそれはないよ。まぁ……色々あるのよ」
そう言って恵美が微笑むと麗は不思議そうに首を傾げた。恵美は先程の教室での出来事を言うべきか悩んだが、麗はどちらかと言うとオカルト好きな側面もあり、言った所でわかってもらえないかもしれないと思い、無難に答える事にした。何より恵美はあの時の事を思い出したくもなかったのだ。
「そっか今日はデートなんだ。恵美と何処か寄り道してから帰ろうと思ってたのに仕方ない。一人で本屋にでも寄って行こうかな。恵美、あんまり眉間に皺を寄せちゃ駄目だよ。あんな顔してデートに行ったら彼氏ビビって帰っちゃうよ」
「はは、そんなにやばかったか。彼氏といる時は基本笑顔だよ私は、ありがとね」
結局その日は恵美と麗は最寄り駅までは一緒に帰りそこで別れる事にした。
「まぁだだよー」
「もういいかーい」
…………。
「返事がないって事はもういいって事だよね?」
『ふふふ、ここなら絶対に見つからないんだから』
あの日恵美達は廃墟となった団地でかくれんぼをして遊んでいた。元々その団地にはいわくがあり、大人達からは入っては駄目だと何度も言われていたのだが、幼い子供からしてみれば大人達がいない自分達だけの格好の遊び場だった。
そんな恵美達だけの楽しい時間をあの子はいつも邪魔をしに来ていた。
「ねぇねぇ何してるの?」
「えっ? 何ってかくれんぼだよ、一緒にする?」
「私はいいよ。そんな事より私の家で遊ぼうよ、お菓子もいっぱいあるからさ」
「えっ、今は駄目だよ。私が鬼なんだから探さなきゃ」
「昨日最新のゲームも買ったんだよ、二人でそれで遊ぼうよ」
「えっ、あのゲーム買ったんだ……でもまだかくれんぼの途中だし」
「じゃあ私も一緒に探してあげる。だから早く終わらせて二人で遊ぼ」
子供というのは時に残酷だ。自分の欲望に素直に従ってしまう。
「……大丈夫かなぁ。やっぱりもっとちゃんと探した方がよかったんじゃないかな」
「大丈夫よ。私達二人であんなに探したんだから仕方ないじゃん。こんなに探したのに見つからないような所に隠れる方が悪いのよ。それに鬼が探しに来ないからっていつまでも隠れてる訳ないし。そのうち出てきて帰るって」
そんな事を言いながら、かくれんぼの途中であの子と二人で行ってしまった。
『ふふふ、まだ私を探してるのね。見つけられるかしら』
『……まだ見つけられないの? 早く見つけてくれないと終わらないよ』
『……まだなの?……でも自分で出ていっちゃ駄目。これはかくれんぼなんだから』
―数日後―
団地には様々なテレビ局が大挙して押しかけていた。
「今団地では一人の女の子が見つかり現場で死亡が確認されたようです。女の子の遺体は数日前から行方がわからなくなっていた近所に住む東海林希ちゃんではないかと見て確認を急いでいるようです。希ちゃんは数日前から行方がわからなくなり警察と消防では行方を探していましたが――」
―十数年後―
その日、恵美が帰り支度をしていると噂話をするクラスメイトの女の子達の声が耳に入ってきた。
「ねぇねぇ今週末とかどう? 希ちゃんの噂確かめに行かない?」
「今週は駄目だわぁ、予定あるし。それに夜に行かなきゃ駄目なんだから計画的に行こうよ」
クラスメイトの話を聞きながら恵美は苛立ちを覚え、机の中の物を乱暴にカバンに詰めると足早に教室を後にした。苛立ちを抑え切れず、学校の廊下を早足で歩いていると突然後ろから声を掛けられる。
「あっ、恵美、ちょっと待ってよ」
恵美が慌てて振り返ると麗が小走りで駆け寄って来る。
林原麗。背が低く、ショートカットが似合う恵美の一番の友人だ。噂では男子からはミステリアスな女の子として隠れた人気があるらしいが、恵美からしてみればただ単に男性慣れしてない奥手な女の子だと思っていた。
「そんな慌てて走ってたらまた転んで足首捻るよ」
「そんな毎回転ばないわよ。それに恵美がそんなにスタスタ早足で歩いてるから私も走って追いかけたんじゃない」
恵美が少しからかうように言うと麗は眉根を寄せてムキになって反論してくる。恵美にはやはり麗のミステリアスさは微塵も感じられなかった。
「ごめんごめん。それで? 何かあった?」
「あ、別に何かあった訳じゃないんだけど一緒に帰ろうかと思ってさ。それより恵美の方こそ何かあった? なんか眉間に皺を寄せながら物凄い形相で歩いてたよ」
少し笑みを浮かべながら麗に尋ねられて恵美は初めて気が付いた。確かにクラスメイトの希ちゃんの話を聞いてから抑え切れない苛立ちが顔に出ていたのかもしれないと。恵美は慌てて笑顔を作る。
「あはは、そんなにやばい顔してた?」
「うん、恵美は顔立ちがはっきりしてるからちょっとムッとしてるだけでもかなり怖いよ。前に立ったらいきなり殴られそうな気さえするもん」
笑いながら言う麗を見て、恵美も何時しか普段通りの笑顔になっていた。
「何かムカつく事でもあった? 彼氏に浮気されたとか?」
「ははは、まさか。今からデートなんだからそれはないよ。まぁ……色々あるのよ」
そう言って恵美が微笑むと麗は不思議そうに首を傾げた。恵美は先程の教室での出来事を言うべきか悩んだが、麗はどちらかと言うとオカルト好きな側面もあり、言った所でわかってもらえないかもしれないと思い、無難に答える事にした。何より恵美はあの時の事を思い出したくもなかったのだ。
「そっか今日はデートなんだ。恵美と何処か寄り道してから帰ろうと思ってたのに仕方ない。一人で本屋にでも寄って行こうかな。恵美、あんまり眉間に皺を寄せちゃ駄目だよ。あんな顔してデートに行ったら彼氏ビビって帰っちゃうよ」
「はは、そんなにやばかったか。彼氏といる時は基本笑顔だよ私は、ありがとね」
結局その日は恵美と麗は最寄り駅までは一緒に帰りそこで別れる事にした。
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