怖いお話。短編集

赤羽こうじ

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初めての男 事後処理③

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 杠は朦朧とする隆を車に残し、一人、目の前の小屋へ向かった。

「こんばんは。ちゃんと生きてる?」

 小屋の扉を開け、語りかけると全身を縛られた下着姿の若い女が驚いたようにこちらを向く。

「ああ、よかった。まだ無事のようね」

 杠はそのまま若い女に近付きさらに語りかける。
 縛れている女はあの時の化粧品店の店員だった。

「さぁ出番よ。……何か言ってるみたいね。何言ってるかよくわからないからちょっとだけ猿ぐつわ外してあげよっか」

 そう言って杠は口に貼ってあるガムテープを雑に剥がした後、猿ぐつわも外す。

「はぁ、はぁ、……お願い、何でもするから助けて。私何もしてないでしょ?貴女の味方だから。お願いします。それに次はちゃんと貴女を満足させるように上手くするから」

 まだ全身を縛られたままの女は目に涙を浮かべながら必死に懇願する。

「あはは、そっか。でもごめんね。貴女とは試しにしてみただけなの。私はやっぱり百合は好みじゃないみたい。全然興奮しなかったもの。それに確かに貴女は何もしてないけど、私の事憶えてたでしょ?だからね、もう無理なのよ」

 杠は含み笑いを浮かべ注射器を手にする。

「ちょ、ちょっと待って。お願い。それ何なの?どうするつもり?」

 縛られて自由のきかない身体をくねらせ、女は必死に抵抗する。

「中身はただのお酒よ。アルコール度数は90%以上あるけどね。貴女と隆は居酒屋で酒を飲んだ後、無謀にも海を見にドライブに出かけて誤って車ごと海に転落。そんな所かな」

「ちょっと待って。本当に何でもするから。お願いします。助けて」

「ふふ、駄目。今日はわざわざ貴女のこの派手目な服着て街に出歩いてたんだから。ちょっとビッチみたいで恥ずかしかったのよ」

 そう言って微笑みながら容赦なく注射器で高アルコールの酒を注入する。
 すぐにアルコールは全身を巡り、女の意識は朦朧とし虚ろな目をしていた。

「さてと、じゃぁまずこの服着てね。そしてドライブに出かけましょう」

 杠はほとんど意識のない女に服を着せ、引きずって行き車に乗せる。

 そのまま酩酊状態の二人を乗せ、人気のない港までやって来た杠は車のシフトレバーをドライブに入れたまま車から離れる。

 離れる寸前、虚ろな目をした隆と目が合った気がしたが車はそのまま進み、海へと転落した。

『ああ、駄目。あんな目されたらゾクゾクしちゃう。本当はこの手でやってあげたかったけど、今回はこれで我慢しなくちゃ』

 そんな事を考えながらゆっくりと沈んでいく車を確認した後、港を後にする。

 ――数日後

「本日、釣りに来ていた人から『海に車が沈んでいる』と警察に通報があり、駆け付け確認した所、車内から男女二人が発見されました。所持品等から男性は無職、岩坂隆さん、女性は化粧品店勤務、秋村梓さんと判明しました。警察では街の防犯カメラには飲食店に入り数時間後に仲睦まじく出てくる二人が映っていた事等から、飲食店で飲酒した後、海に行き誤って転落したと見ています。
 いやぁコメンテーターの木嶋さん。いまだ無くならない飲酒運転ですがどう思いますか?――」

 部屋のテレビから流れるニュースを見ながら杠は好みの紅茶を飲み、微笑んでいた。

「ふふふ、駄目よ、今どき飲酒運転なんて」

 そう言って杠は街へと繰り出して行く。
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