怖いお話。短編集

赤羽こうじ

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初めての男 獲物②

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 杠を化粧品売り場に連れて行き知り合いの店員に軽くメイクの手解きを受けると、それだけで杠は見違えるほど美しくなった。

「お客様。元が素晴らしいので映えますね。基本的な化粧品だけでも十分かもしれませんよ」

 店員が少々大袈裟に褒めるがあながち間違ってはいなかった。

「じゃあこのセットでください」

 化粧で見た目は変わっても愛想の無い中身までは変わらないようだ。

「いや、お近付きの気持ちとしてここは俺が出しとくよ」

「いえ、ここで出してもらうと引け目を感じるので自分で払います」

 そう言って杠は自分で支払いを済ませ店を後にする。

「やっぱり軽くメイクをしただけで綺麗になったね。どう?自分でも満足出来たんじゃない?」

「ええ、まぁ。ありがとうございました」

 ようやくこの女から前向きな言葉を貰った気がした。

「それでさぁ、この後の予定なんだけど」

「ああ、すいません。この後は予定があるのでここで失礼します」

 まさか本当に化粧品店に連れて来ただけで帰られたらたまらないので引き止めようとした時、杠の方から更に続けた。

「ですが、ここまでして頂いてここでお別れするのも何なんで、どうでしょう?日を改めて遊びに行きませんか?」

 向こうの方から思いもよらない提案だった。
 余程化粧が気に入ったのだろうか。

「そうだね。今日は急だったしまた今度にしようか。どうしよう、俺は明日でも明後日でもいいんだけど」

「では三日後にしましょう。ただし条件を出していいですか?」

 そう言って杠が出した条件とは
①必ず二人で
②まずは映画館がいい
③ここら辺一帯ではなく少し離れた郊外で

「いや二人でとかは全然いいんだけどなんで離れた所がいいの?ここら辺の方が色々あって便利でしょ?」

「ええ勿論そうですがここら辺は私の生活圏でもあるんです。私達二人の容姿のギャップを考えてみて下さい。私と貴方が並んで歩いる所を知り合いに見られたりすると、私が貴方に貢いでいる様に思われかねないからです」

 意外にもそういった所を気にするようだ。
 だがそんな事よりもこの女の方からその気になったんなら乗らない手は無い。
 三日後に約束しその日は別れる事にした。

 杠と別れた後スマホをチェックすると他の女達から連絡が来ていた。

『とりあえず優里亜ゆりあに連絡するか』

 そう思い現彼女の優里亜にメッセージを送る。


 ようやく手に入れた獲物をどう料理するか、この三日間で考えなくてはならない。
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