上 下
41 / 67

ガルフ・シュタット③

しおりを挟む
 バロンと共に人気のない所に場所を移したガルフはまだ少し警戒していた。

「一体何の用だ? てめぇは誰だ?」

「先程も申したでしょう、私はバロン。まぁ話すよりこうした方が早いですかね」

 そう言ってバロンは人虎ワータイガーへと姿を変えた。
 それを見てガルフは特に驚く訳でもなく、自らも人狼ワーウルフへと姿を変える。

「はっはっは、なんとなく同族のような気はしていたが虎かよ。それで? 何の用だ?」

「ふっふっふ、噂通り人狼でしたか」

 そう言ってバロンはガルフに対する噂を説明し始めた。
 どうやらこの前壊滅させたギャング団からガルフが人狼だという噂は広まりつつあるらしい。

「まぁ俺は噂がどう広がろうとも気にしちゃいないがな」

 ガルフは両手を広げながらそう言って意に介さずに笑っていた。

「まぁそう言うかとは思ってましたが……我々ライカンスロープの秘密教えましょう」

「秘密だと……?」

 先程まで余裕を見せていたガルフだったが一転して怪訝な顔を見せる。

「はい。実は我々ライカンスロープはそもそも──」

「──マジかよ……」

 バロンから衝撃の事実を聞かされガルフは困惑に満ちた表情を見せる。

「ええ、だからこれ以上噂が広がれば、中央政府から狙われるかもしれないと思い、同族のよしみで忠告に参ったまでです」

 そう言ってバロンが一礼をする。
 もしバロンの言う事が真実なら政府から狙われる可能性は十分にあった。
 自分一人ならどうとでもなるが、仲間達やミアの事を考えるとやはり巻き込みたくはない。
 ガルフは思いを巡らせた。

「……はっはっは、まさかここに来てアイツらが重荷になるか。……一人の方が楽だったか? いや、今更考えても仕方ねぇか」

 結局ガルフはミアに産まれたばかりの子を連れて少し離れるよう説得する事にした。

「なんで行かなきゃいけないの? あんたがいたら大丈夫でしょ?」

「まぁあくまで念の為だ。すぐに迎えに行ってやるからよ」

「……ふぅ、じゃあ三人で写真撮ろうよ。あんた写真とか嫌がるけどさ、今回ぐらいいいでしょ? それ御守り代わりにこの子と待っとくからさ」

 離れる事を渋るミアにそう提案されてはガルフも了承する他なく、三人で少し離れた町へ行き、そこで親子三人、写真を撮った後潜伏させる事になった。

「ふん。家族写真か……ガラでもねぇな」

 町へ戻る車中で撮ったばかりの写真を見てガルフが一人苦笑いを浮かべて呟く。
 そんな時、突然ガルフの電話が鳴った。
 慌てて着信画面に目をやると、仲間の名前が表示されていた。
 
「おお、俺だ。どうした!?」

 嫌な予感が頭をよぎり慌ててガルフは電話に出る。

「ガルフさん!! 駄目だ。帰って来ちゃ駄目だ!!」

 電話の向こうでは仲間が焦りながら必死にそう伝えてきた。そんな仲間の後から聞こえてくる激しい銃声と爆発音。そして誰の物とも言えない悲鳴や叫び声が響いていた。

「どうした!? 何があった!? もうすぐ戻れる! 待ってろ!!」

「駄目だ!! 戻って来たら!! そのままあんたは――」

 そこまで言って仲間との通話は突然途切れる。その後、何度もガルフが電話の向こうへ呼び掛けるが再び仲間が応える事はなかった。

 ガルフが町へ戻ると、そこには惨状が広がっていた。至る所から炎と煙が上がり、そこらかしこから銃声と爆発音が鳴り響いている。

「ふ、ふざけるなよ……なんだこりゃ」

 ガルフは立ち尽くし、震えていた。
 何に? 恐怖か? 驚愕か? 怒りか?
 恐らくその全ての感情が混ざり合っていたのではないだろうか?
 目の前に広がる劣悪な惨状を前に暫く呆けていたガルフだったが、突然思い出したかのように走り出した。

『アイツらはどうなった? 無事か?』

 瓦礫に埋もれた町のメインストリートではそこら中に逃げ遅れた町の住人達が横たわっていた。そんな中、炎や煙をかき分けアジトにしていた建物まで駆けて行く。

 ガルフが駆けつけた時、そこにアジトは無かった。
 あったのは瓦礫の山と横たわり、もう二度と立ち上がる事はない仲間達の遺体であった。

「ふん。ようやく登場か。お前がいないせいで被害がこんなに拡大したぞ。後始末する身にもなれよ。面倒臭いんだから」

 そう言って軍の指揮官とおぼしき男がニヤつきながら瓦礫の中に立っていた。

「……てめぇら……俺達でもここまではしねぇぞ」

 ガルフの怒りももっともだ。
 軍の攻撃はガルフ達のギャング団を対象とした物というより、町全体を対象としていたかのような攻撃だ。

「ふふふ……だからこうなったんだろ? 徹底的にしないから情報が漏れてこんな事になる。敵対勢力は徹底的に潰さなきゃな。こんな風に」

「……はっはっは、そうか。そうだよな……確かに俺がぬるかったようだ。いいぜ、やろうぜ。戦争だ。お前ら全員徹底的に潰してやるよ!!」

 そう言ってガルフは人狼へと姿を変え、ゆっくりと軍に向かって一歩踏み出す。
 その後軍の総攻撃を受けるも、そんな騒乱の中ガルフは笑いながら全身を血に染め、一人一人血祭りにあげていく。

 その後、何処とも知れぬ森の中でガルフは目を覚ます。慌てて起き上がろうとしたが激痛が全身を駆け巡り再び倒れた。
 よく見ると全身に傷を負い、一人で起き上がる事すらままならないような状態であった。

「ようやく気が付きましたか」

 声がした方に目をやるとバロンが腕を組んでこちらを見ていた。

「……どうなってる?」

「貴方はあの人数相手に大乱戦を繰り広げていた訳ですよ。まぁ最後は力尽きてしまいましたが。ギリギリの所でなんとか助け出したんですけど、それでも敵の目をあざむけたかどうか……」

「クソっ……まだ足りねえ。暴れ足りねえぞ!!」

「ええ、わかりますよ。奴らは調子に乗り過ぎですね。手伝いましょうか?」

 横になり片手で顔を覆いながらもう一方の手で何度も地面を殴るガルフにバロンが手を差し出す。
 何も言わずにその手をがっちりと握り返すガルフ。

 この日一つの町が消滅し、一つの反抗勢力が産まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

超常戦記II 第二章~世界を滅ぼす程の愛を~

赤羽こうじ
ファンタジー
 第一章完結時より遡る事三年。  N.G397年。  世界連合に対する不満や怒りがピークに達したラフィン共和国は遂に戦争へと舵を切った。  ラフィン共和国のザクス・グルーバー大佐は自らが開発した新型バトルスーツを装備し、戦争へと身を投じていく。  そんな中、敵であるセントラルボーデン軍の美しい兵士クリスティーナ・ローレルと出会ってしまう。  徐々に惹かれ合う二人を待ち受ける運命は?  現代に戻りN.G400年、セントラルボーデン軍のウィザード、セシル・ローリエは中立国ルカニード王国のフェリクス・シーガーと出会い……  交差する運命に翻弄される者達。その結末は?  そして新たな戦いが起こった時それぞれが選ぶ道とは?

王家から追放された貴族の次男、レアスキルを授かったので成り上がることにした【クラス“陰キャ”】

時沢秋水
ファンタジー
「恥さらしめ、王家の血筋でありながら、クラスを授からないとは」 俺は断崖絶壁の崖っぷちで国王である祖父から暴言を吐かれていた。 「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」 「黙れ!お前のような無能が我が血筋から出たと世間に知られれば、儂の名誉に傷がつくのだ」 俺は爺さんにより谷底へと突き落とされてしまうが、奇跡の生還を遂げた。すると、谷底で幸運にも討伐できた魔獣からレアクラスである“陰キャ”を受け継いだ。 俺は【クラス“陰キャ”】の力で冒険者として成り上がることを決意した。 主人公:レオ・グリフォン 14歳 金髪イケメン

闇ガチャ、異世界を席巻する

白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。 寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。 いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。 リアルガチャ屋でもやってみるか。 ガチャの商品は武器、防具、そして…………。  ※小説家になろうでも投稿しております。

転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~

すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。 若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。 魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。 人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で 出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。 その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。

処理中です...