上 下
44 / 84

動き出した運命②

しおりを挟む
――リオがフェリクスに対して軽く嫌味を言っていた同じ頃、記念式典が行われていた高級ホテルの一室でセシルは帰り支度を急いでいた。

「はぁ、メイクの乗りも最悪。目の辺りが特に酷いわね。これは眼鏡でもかけて誤魔化すしかないか」

 鏡に向かい、セシルが慌ただしく支度を進めながらぼやいていた。昨日の一件があり目は充血し、周りは赤く腫れていたのだ。少しだけ色の入った眼鏡をかけてセシルは荷物を抱えて部屋を出る。ホテルを出てターミナル駅に行くと、既にセントラルボーデンの一団は集まっていた。
 セシルがそっと集団に近付くと一人の女性兵士が気付き、声を掛けてくる。

「あらセシルぎりぎりね。今日は単独行動が許されてたみたいだけど何? 結局ホテルから直行で来たみたいだけど?」

「……予定があったんだけどちょっと体調が悪かったのよ」

 視線を逸らしながら強がるセシルを見て女性兵士は口角を上げた。

「へぇ、珍しいわね。貴女が体調管理も出来ないなんて。昨日はお酒でも飲み過ぎた訳?」

「たまにはそんな事もあるでしょ。本当に調子悪いんだからほっといてくれる?」

「あら、相変わらず同性にはつれないわね。まぁいつまでも自分が特別だなんて思わないでね」

 明らかな嫌味な言動に苛立ちを覚えたセシルだったが一呼吸置いて心を落ち着かせる。士官学校時代から抜きん出た実力があり、トップクラスの容姿もあった為、同性から心無い言葉を投げ掛けられたり、ありもしない噂を立てられたりする事などは日常茶飯事だった。その為、この様な時の心を落ち着かせる術は心得ていた。

「じゃあ個室取ってるから先に休ませてもらおうかな。じゃあね万年No.2だったアマンサ」

 セシルが負けじと皮肉った笑顔を見せ一足先に高速鉄道へと歩いて行くのを、アマンサは歯を食いしばりながら睨んでいた。セシルのこういった所も敵を作ってしまう原因だったし本人も自覚していたが、改めるつもりは全くなかった。
 セシルが笑みを浮かべながら高速鉄道へ乗り込むと次はフィリップ中佐と出くわしてしまった。

「おっと、セシルじゃないか。どうした微笑んで、ご機嫌かな?」

「……一難去って……」

 笑顔を見せるフィリップに対してセシルの表情は一瞬にして曇り、うんざりした様にポツリと呟いた。

「どうだ、私の客室は特別室になっている。豪華な部屋で優雅に過ごさないか? 勿論退屈はさせない。セシルが望む――」

「ありがとうございます中佐。お誘い頂き嬉しいのですが本日、私は非常に体調が優れなくて申し訳ございません」

 自信たっぷりに誘うフィリップに対してセシルは無機質な言葉を並べた上で、正に模範になる様な綺麗な一礼をし、その場を後にしようとする。

「いや待ちたまえセシル。昨晩も私の誘いを断っておいて流石に何度も続けるのは失礼だとは思わないか?」

 冷たくあしらおうとするセシルにフィリップも今回ばかりは食い下がり高圧的な態度で迫る。

「……ええ、何度もお断りして申し訳なく思っていますが、女性には体調が悪くなる周期が訪れるのです。フィリップ中佐はご存知ないのですか?」

 セシルが当然の様に言ってのけると、フィリップは何も言えなくなり言葉を失っていた。

「それでは申し訳ございません。失礼します」

 セシルは軽く頭を下げると、誰とも目を合わせずにフィリップ達の横を抜けて自らが取っていた個室へと入って行った。
 部屋に入るなりソファに身体を投げ出すと、カバンからタブレットを取り出す。

「……流石に何も連絡はないか……」

 取り出したタブレットの画面を見ながらポツリと呟いた時、丁度一件のメールが届いた。送り主がフェリクスである事はすぐにわかり指でタップしようとするが、躊躇い、暫し考えた後再びタブレットをカバンに戻した。

「何よ今更……」

 メールを開く事無く呟いたセシルの声が虚しく響く。

 前日、余り眠れなかったせいかセシルは自室をノックされる音で目を覚ます。慌てて飛び起き、部屋を出ると係の人が申し訳なさそうに立っていた。

「セシル様申し訳ございません。到着したのですが部屋から出てこられず、声をお掛けしたのですが返答が無かった為、思わず強めのノックをしてしまい――」

「あっ、いえいえこちらこそすいません。あの、あまりに快適な鉄道の旅だったのでつい寝てしまったんです」

 あまりにも申し訳なさそうに謝る係員を前にして、セシルも丁寧に頭を下げた後、慌てて鉄道を降りる。
 セシルは軍に戻ると、自室に荷物を置きその足でアイリーンの元へと向かった。

「ルカニード王国よりセシル・ローリエ只今戻りました」

「ご苦労様でした。ああいった場は初めてだったかもしれないが良い経験になっただろう?」

 綺麗な一礼をし報告するセシルに対してアイリーンは豪華な椅子に腰掛け、頬杖をつきながら問い掛けていた。

「はい、ありがとうございました。しかし自分にはやはり早かった様に思います」

「何事も経験だセシル。選ばれた者しか味わえないのだから堪能すれば良い。それよりもフェリクス・シーガーとは知り合いだったと報告が上がってきているが?」

 フェリクスとの事がアイリーンの耳に届いているとは思っていなかったセシルは僅かに戸惑った。フェリクスとの細かなやり取りまで知られているとは思えなかったが一体どこまで知られているのか? セシルは探る様にアイリーンに視線を向ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

疾風の蒼鉄 Rise and fall of Blue Iron -伯爵公子、激動の時代を駆け抜ける-

有坂総一郎
ファンタジー
大陸南東部に勢力を誇る帝国。その伝統ある士官学校に主人公エドウィンと従妹のヴィクトリアは入学し、新たな同期と共に冒険に挑む。しかし、帝国内の新旧貴族の対立、複雑な政治勢力、そして外部からの脅威が彼らを巻き込んでいく。 同期たちの力を合わせ、彼らは帝国の未来を担う存在となる。恋愛、友情、そして運命の選択が交錯する中、彼らは帝国という大舞台で成長していく。 ※1月中旬までは連続更新分のストック準備済み

入れ替わった二人

廣瀬純一
ファンタジー
ある日突然、男と女の身体が入れ替わる話です。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました! レンタル実装されました。 初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。 書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。 改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。 〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。 初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】 ↓ 旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】 ↓ 最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】 読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。 ✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - - ――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ  どっちが仕事出来るとかどうでもいい!  お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。  グータラ三十路干物女から幼女へ転生。  だが目覚めた時状況がおかしい!。  神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」  記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)  過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……  自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!  異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい! ____________________ 1/6 hotに取り上げて頂きました! ありがとうございます! *お知らせは近況ボードにて。 *第一部完結済み。 異世界あるあるのよく有るチート物です。 携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。 逆に読みにくかったらごめんなさい。 ストーリーはゆっくりめです。 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

荒野で途方に暮れていたらドラゴンが嫁になりました

ゲンタ
ファンタジー
転生したら、荒れ地にポツンと1人で座っていました。食べ物、飲み物まったくなし、このまま荒野で死ぬしかないと、途方に暮れていたら、ドラゴンが助けてくれました。ドラゴンありがとう。人族からエルフや獣人たちを助けていくうちに、何だかだんだん強くなっていきます。神様……俺に何をさせたいの?

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

処理中です...