19 / 84
N.G397年 ラフィン戦争⑰
しおりを挟む
「ネルソン博士か。なんだ? 嫌味か?」
「はは、まさか。ただウィザードでなくても魔法が使えるようにクリスタルの力に着目し、実際その理論を実現したザクス大佐がまだ悩んでいる事に驚きましてね。私は大佐のおかげで次のステージに移りましたよ。大佐がお使いの力を秘めたクリスタルなんか中々ないので私は魔力を貯められるクリスタルを使う事で様々な兵が魔法を使えるようにしました」
ネルソン博士と呼ばれた女性は終始ニヤニヤとした笑顔を見せながらずっとザクスに語り掛けていた。その口調は敬語ではあるものの明らかに
高慢な態度であり、自らの研究成果を自慢してるようだった。
「いいですか大佐。そもそも貴方のやり方ではごく限られたエース級の戦力は上げられるかもしれませんが軍全体の戦力アップにはなりません。その点私が開発したクリスタル内蔵バトルスーツはウィザードに魔力を込めてもらえば一般兵でも簡単に魔法が使えるという――」
「ああ、すまないが今メンテナンスの重要な所なんだ、後にしてくれるかな?」
尚もほっとけばあと一時間は続きそうなネルソンの話をザクスはうんざりした様子で遮る。
「おっと、これは失礼失礼。まぁせいぜい己の能力を上げるだけのバトルスーツを頑張って完成させて下さい。私は次はバトルスーツ無しで誰でも魔法が使えるように実験をしていくので」
「な? 何をするつもりだ!?」
「ふふふ、企業秘密ですよ。そんな簡単に教える訳ないでしょう。では私は忙しいのでこれにて」
ネルソンはそう言うと不敵な笑みを浮かべて部屋を後にする。
試行錯誤しながら問題の解決に悩んでいる時にいきなり現れたかと思うと一方的に自慢話を始め、挙句最後は「忙しいので」と言って去って行かれてザクスは一人残された部屋でなんとも言えない怪訝な表情を浮かべていた。
「あら、どうしたの? そんな難しそうな顔して」
ネルソンと入れ替わるように部屋に入ってきたクリスが首を傾げて不思議そうに問い掛ける。
「いや、まぁ大した事じゃない。少し不可解な事が重なっただけだ」
「ふ~ん、で? 今出て行った人誰? なんか感じ悪く思ったんだけど」
「ああ、その直感は合ってるぞ。彼女はアンナ・ネルソン博士。簡単に説明するとマッドサイエンティストってやつだ。自分の研究にしか興味がない」
ザクスがやや嫌悪感を含み、吐き捨てるように言うとクリスは少し困った様な笑顔を見せていた。
「なるほどね。それで? まだかかりそう? 私はまだ放置される感じかな?」
ザクスが研究室に篭って丸二日。満面の笑みで語り掛けるクリスだったがその言葉には僅かに棘がある様にも感じられる。
「い、いや、ちょうど休憩を入れようかと思ってた所だったんだ。クリス外の空気でも吸いに行こうか」
「なんかついでみたいに聞こえますけど? まぁいいわ、一緒に散歩でもしましょう」
少し納得がいっていないようなクリスを連れてザクスは施設の外に出る。二日ぶりに外に出ると心地よい風が頬を撫でる。固まった関節を伸ばすように伸びをしていると横にいるクリスが微笑みながらこちらを見ていた。
「どうした? 何か面白いか?」
「ふふ、集中するとのめり込んで自分の世界に入るタイプね」
「まぁよく言われるな。どうだ? こっちも少しは慣れたか?」
「ええ、まぁ皆貴方と私の関係を気付いてるから気を使ってるのかもね。じゃないとセントラルボーデンから突然来た女をすんなり受け入れてはくれないと思うし。ある意味貴方の名前に守られてる感じかな」
「そうか、まぁあと暫くの辛抱だろうな……戦争はもうすぐ終わる。そうすれば何のしがらみも無く暮らしていけるはずだ」
そう言ってザクスは煙草を咥えて火をつけると、クリスは何も言わずに横で微笑み、遠い空を見つめていた。
数日後、変わらず研究室に篭っていたザクスだったが外の騒がしさに気付き研究室から顔を覗かせる。すると少し先の研究室前に人だかりが出来ており衛兵達が集まっていた。
「ネルソン博士、中止命令が出ている! 速やかに実験を中止して同行するように!」
「ここに来て今更中止とか馬鹿げている! この実験が成功した暁にはウィザードが作り出せるんだぞ!!」
衛兵が厳しい口調でネルソンに実験の中止を求めるとネルソンは一応従いながらも悪態をつき不満を露わにしていた。ザクスも事の顛末を見届けようと思わず人だかりに近付いて行く。
その後ネルソンが連行されるような形となり騒動は収まりを見せた。
その後暫くしてネルソンの解雇が通達されネルソンの研究室は封鎖されデータ等は抹消される事となった。軍から正式な発表等は無かったがネルソンは秘密裏に犯罪者や囚人達を見繕って非人道的な人体実験を繰り返していたようでそれが原因だろうとまことしやかに噂された。
「はは、まさか。ただウィザードでなくても魔法が使えるようにクリスタルの力に着目し、実際その理論を実現したザクス大佐がまだ悩んでいる事に驚きましてね。私は大佐のおかげで次のステージに移りましたよ。大佐がお使いの力を秘めたクリスタルなんか中々ないので私は魔力を貯められるクリスタルを使う事で様々な兵が魔法を使えるようにしました」
ネルソン博士と呼ばれた女性は終始ニヤニヤとした笑顔を見せながらずっとザクスに語り掛けていた。その口調は敬語ではあるものの明らかに
高慢な態度であり、自らの研究成果を自慢してるようだった。
「いいですか大佐。そもそも貴方のやり方ではごく限られたエース級の戦力は上げられるかもしれませんが軍全体の戦力アップにはなりません。その点私が開発したクリスタル内蔵バトルスーツはウィザードに魔力を込めてもらえば一般兵でも簡単に魔法が使えるという――」
「ああ、すまないが今メンテナンスの重要な所なんだ、後にしてくれるかな?」
尚もほっとけばあと一時間は続きそうなネルソンの話をザクスはうんざりした様子で遮る。
「おっと、これは失礼失礼。まぁせいぜい己の能力を上げるだけのバトルスーツを頑張って完成させて下さい。私は次はバトルスーツ無しで誰でも魔法が使えるように実験をしていくので」
「な? 何をするつもりだ!?」
「ふふふ、企業秘密ですよ。そんな簡単に教える訳ないでしょう。では私は忙しいのでこれにて」
ネルソンはそう言うと不敵な笑みを浮かべて部屋を後にする。
試行錯誤しながら問題の解決に悩んでいる時にいきなり現れたかと思うと一方的に自慢話を始め、挙句最後は「忙しいので」と言って去って行かれてザクスは一人残された部屋でなんとも言えない怪訝な表情を浮かべていた。
「あら、どうしたの? そんな難しそうな顔して」
ネルソンと入れ替わるように部屋に入ってきたクリスが首を傾げて不思議そうに問い掛ける。
「いや、まぁ大した事じゃない。少し不可解な事が重なっただけだ」
「ふ~ん、で? 今出て行った人誰? なんか感じ悪く思ったんだけど」
「ああ、その直感は合ってるぞ。彼女はアンナ・ネルソン博士。簡単に説明するとマッドサイエンティストってやつだ。自分の研究にしか興味がない」
ザクスがやや嫌悪感を含み、吐き捨てるように言うとクリスは少し困った様な笑顔を見せていた。
「なるほどね。それで? まだかかりそう? 私はまだ放置される感じかな?」
ザクスが研究室に篭って丸二日。満面の笑みで語り掛けるクリスだったがその言葉には僅かに棘がある様にも感じられる。
「い、いや、ちょうど休憩を入れようかと思ってた所だったんだ。クリス外の空気でも吸いに行こうか」
「なんかついでみたいに聞こえますけど? まぁいいわ、一緒に散歩でもしましょう」
少し納得がいっていないようなクリスを連れてザクスは施設の外に出る。二日ぶりに外に出ると心地よい風が頬を撫でる。固まった関節を伸ばすように伸びをしていると横にいるクリスが微笑みながらこちらを見ていた。
「どうした? 何か面白いか?」
「ふふ、集中するとのめり込んで自分の世界に入るタイプね」
「まぁよく言われるな。どうだ? こっちも少しは慣れたか?」
「ええ、まぁ皆貴方と私の関係を気付いてるから気を使ってるのかもね。じゃないとセントラルボーデンから突然来た女をすんなり受け入れてはくれないと思うし。ある意味貴方の名前に守られてる感じかな」
「そうか、まぁあと暫くの辛抱だろうな……戦争はもうすぐ終わる。そうすれば何のしがらみも無く暮らしていけるはずだ」
そう言ってザクスは煙草を咥えて火をつけると、クリスは何も言わずに横で微笑み、遠い空を見つめていた。
数日後、変わらず研究室に篭っていたザクスだったが外の騒がしさに気付き研究室から顔を覗かせる。すると少し先の研究室前に人だかりが出来ており衛兵達が集まっていた。
「ネルソン博士、中止命令が出ている! 速やかに実験を中止して同行するように!」
「ここに来て今更中止とか馬鹿げている! この実験が成功した暁にはウィザードが作り出せるんだぞ!!」
衛兵が厳しい口調でネルソンに実験の中止を求めるとネルソンは一応従いながらも悪態をつき不満を露わにしていた。ザクスも事の顛末を見届けようと思わず人だかりに近付いて行く。
その後ネルソンが連行されるような形となり騒動は収まりを見せた。
その後暫くしてネルソンの解雇が通達されネルソンの研究室は封鎖されデータ等は抹消される事となった。軍から正式な発表等は無かったがネルソンは秘密裏に犯罪者や囚人達を見繕って非人道的な人体実験を繰り返していたようでそれが原因だろうとまことしやかに噂された。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
疾風の蒼鉄 Rise and fall of Blue Iron -伯爵公子、激動の時代を駆け抜ける-
有坂総一郎
ファンタジー
大陸南東部に勢力を誇る帝国。その伝統ある士官学校に主人公エドウィンと従妹のヴィクトリアは入学し、新たな同期と共に冒険に挑む。しかし、帝国内の新旧貴族の対立、複雑な政治勢力、そして外部からの脅威が彼らを巻き込んでいく。
同期たちの力を合わせ、彼らは帝国の未来を担う存在となる。恋愛、友情、そして運命の選択が交錯する中、彼らは帝国という大舞台で成長していく。
※1月中旬までは連続更新分のストック準備済み
【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す
狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!
主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー!
※現在アルファポリス限定公開作品
※2020/9/15 完結
※シリーズ続編有り!
アルケミア・オンライン
メビウス
SF
※現在不定期更新中。多忙なため期間が大きく開く可能性あり。
『錬金術を携えて強敵に挑め!』
ゲーム好きの少年、芦名昴は、幸運にも最新VRMMORPGの「アルケミア・オンライン」事前登録の抽選に当選する。常識外れとも言えるキャラクタービルドでプレイする最中、彼は1人の刀使いと出会う。
宝石に秘められた謎、仮想世界を取り巻くヒトとAIの関係、そして密かに動き出す陰謀。メガヒットゲーム作品が映し出す『世界の真実』とは────?
これは、AIに愛され仮想世界に選ばれた1人の少年と、ヒトになろうとしたAIとの、運命の戦いを描いた物語。
転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい
高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました!
レンタル実装されました。
初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。
書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。
改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。
〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。
初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】
↓
旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】
↓
最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】
読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。
✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - -
――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ
どっちが仕事出来るとかどうでもいい!
お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。
グータラ三十路干物女から幼女へ転生。
だが目覚めた時状況がおかしい!。
神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」
記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)
過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……
自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!
異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい!
____________________
1/6 hotに取り上げて頂きました!
ありがとうございます!
*お知らせは近況ボードにて。
*第一部完結済み。
異世界あるあるのよく有るチート物です。
携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。
逆に読みにくかったらごめんなさい。
ストーリーはゆっくりめです。
温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する
鈴木竜一
ファンタジー
旧題:工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~
【お知らせ】
このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。
発売は今月(6月)下旬!
詳細は近況ボードにて!
超絶ブラックな労働環境のバーネット商会に所属する工芸職人《クラフトマン》のウィルムは、過労死寸前のところで日本の社畜リーマンだった前世の記憶がよみがえる。その直後、ウィルムは商会の代表からクビを宣告され、石や木片という簡単な素材から付与効果付きの武器やアイテムを生みだせる彼のクラフトスキルを頼りにしてくれる常連の顧客(各分野における超一流たち)のすべてをバカ息子であるラストンに引き継がせると言いだした。どうせ逆らったところで無駄だと悟ったウィルムは、退職金代わりに隠し持っていた激レアアイテムを持ちだし、常連客たちへ退職報告と引き継ぎの挨拶を済ませてから、自由気ままに生きようと隣国であるメルキス王国へと旅立つ。
ウィルムはこれまでのコネクションを駆使し、田舎にある森の中で工房を開くと、そこで畑を耕したり、家畜を飼育したり、川で釣りをしたり、時には町へ行ってクラフトスキルを使って作ったアイテムを売ったりして静かに暮らそうと計画していたのだ。
一方、ウィルムの常連客たちは突然の退職が代表の私情で行われたことと、その後の不誠実な対応、さらには後任であるラストンの無能さに激怒。大貴族、Sランク冒険者パーティーのリーダー、秘境に暮らす希少獣人族集落の長、世界的に有名な鍛冶職人――などなど、有力な顧客はすべて商会との契約を打ち切り、ウィルムをサポートするため次々と森にある彼の工房へと集結する。やがて、そこには多くの人々が移住し、最強クラスの有名人たちが集う村が完成していったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる