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海女
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少しだけ長いキスを終えると二人きりの時間の終わりを告げる様に叶が立ち上がった。
「これ以上ここで君といちゃついてたら押し倒されそうだしそろそろ行こうか」
そう言って叶が屈託の無い笑みを浮かべると幸太は眉根を寄せて少し残念そうに笑う。
「えっ、もう行かなきゃ駄目?もう少し二人で居れないのかな?」
「もうチェックアウトの時間も迫ってるし、こんな時間もなくてムードもないまま押し倒されたら流石に嫌なの。だから続きはまた今度ね」
そう言って悪戯っぽく笑う叶を見て、幸太も笑って頷いていた。
二人はそのまま部屋を出てチェックアウトを済ませるとホテルを後にする。
「実はこの後も予定入れてるんだけど付き合ってくれる?」
「そりゃ勿論。それで予定って?何処か行くの?」
幸太が尋ねると前を行く叶は振り返り口角を上げた。
「ダンディなおじ様がやってそうなサーフショップ。そこで少しお話を伺いたくてね」
そう言って再び颯爽と歩き出す叶を、幸太が慌てて追いかける。幸太が横に並んで歩き始めると、叶はすっと腕を絡ませた。内心驚いた幸太だったが、澄まし顔で前を向き二人並んで歩いて行く。
「ふふ、何顔強ばらしてるの?普通にしたら?」
叶が幸太の顔を覗き込んで少しからかうように笑うと幸太は少し焦った様に笑みを見せる。
「はは、いや、普通にしたつもりだったんだけどな」
「ふふ……慣れないんなら離れた方がいい?」
「いや、それは駄目だって」
そう言って幸太は叶の腕をしっかりと掴むと、叶も満更でもなさそうに微笑んだ。
そうして二人は暫く並んで歩いて行き、一件の少し古ぼけたサーフショップの前に立った。
「ここが目的の店?」
「そう、さぁ入ろうか」
そう言って叶が入ると、続けて幸太も店に入る。
店内のスペースはそれ程広くはなく、壁には所狭しとサーフボードが飾られていた。アコースティックギターが奏でる軽快で疾走感のある音楽が流れる店内で、叶も何時しか身体を合わせて揺らしていた。
「いらっしゃい、お客さんて感じじゃないかな?」
店内の奥から現れた店員と思わしき中年男性が声を掛けると、叶と幸太は慌てて向き直り軽く頭を下げた。
「あ、すいません。先日電話させて頂いた鬼龍です」
「ああ、お姉ちゃんがそうだったか。まぁ今は客もいないから丁度良かったな。それで何だったかな?」
男性はやや警戒する様に問い掛けると、叶が丁寧に頭を下げて満面の笑みを見せる。
「お忙しい所すいません。実はこの辺りに伝わる海の怪談『海女』についてお伺いしたくて」
「はは、怪談話か。まあ海に怪談なんて付き物かもしれないが、海女か……聞いた事ないな」
少し考えた後、笑ってそう言ってのける男性を見て叶は首を傾げた。
「……?結構昔からある怪談で有名と伺ってまして、何か実際に十数年前には行方不明になった方もいて、そこから海女の話が広まったとも聞いてるんですが?」
「そうなのか?……うん、海女の話は知らないが多分その行方不明になった奴なら少し知ってるぞ。名前は確か羽生蛇崇。俺の古い友人のツレだった筈だ」
「行方不明になった方、お知り合いだったんですか?知らなかったとはいえ、失礼な事を聞いて申し訳ありません」
叶が神妙な面持ちで丁寧に頭を下げると、男性は苦笑いを浮かべながら頭を振った。
「いやいや、知り合いって程でもない。さっきも言ったが友人のツレって感じで一、二回会った事があるだけだった。確か愛想も良くて感じの良い奴で女の子からも結構人気があったんじゃないか?隣町の奴だったからそんなに詳しくは知らないが、なんだったら詳しそうな奴に連絡してやろうか?」
「本当ですか?もし可能ならお願いします」
「まぁ少し気難しい奴だからどう言うかは分からないけど少し待ってくれ」
男性はそう言うと徐にスマートフォンを取り出し電話を掛け始めた。幸太はこの時、漠然とした妙な胸騒ぎを覚えた。
「これ以上ここで君といちゃついてたら押し倒されそうだしそろそろ行こうか」
そう言って叶が屈託の無い笑みを浮かべると幸太は眉根を寄せて少し残念そうに笑う。
「えっ、もう行かなきゃ駄目?もう少し二人で居れないのかな?」
「もうチェックアウトの時間も迫ってるし、こんな時間もなくてムードもないまま押し倒されたら流石に嫌なの。だから続きはまた今度ね」
そう言って悪戯っぽく笑う叶を見て、幸太も笑って頷いていた。
二人はそのまま部屋を出てチェックアウトを済ませるとホテルを後にする。
「実はこの後も予定入れてるんだけど付き合ってくれる?」
「そりゃ勿論。それで予定って?何処か行くの?」
幸太が尋ねると前を行く叶は振り返り口角を上げた。
「ダンディなおじ様がやってそうなサーフショップ。そこで少しお話を伺いたくてね」
そう言って再び颯爽と歩き出す叶を、幸太が慌てて追いかける。幸太が横に並んで歩き始めると、叶はすっと腕を絡ませた。内心驚いた幸太だったが、澄まし顔で前を向き二人並んで歩いて行く。
「ふふ、何顔強ばらしてるの?普通にしたら?」
叶が幸太の顔を覗き込んで少しからかうように笑うと幸太は少し焦った様に笑みを見せる。
「はは、いや、普通にしたつもりだったんだけどな」
「ふふ……慣れないんなら離れた方がいい?」
「いや、それは駄目だって」
そう言って幸太は叶の腕をしっかりと掴むと、叶も満更でもなさそうに微笑んだ。
そうして二人は暫く並んで歩いて行き、一件の少し古ぼけたサーフショップの前に立った。
「ここが目的の店?」
「そう、さぁ入ろうか」
そう言って叶が入ると、続けて幸太も店に入る。
店内のスペースはそれ程広くはなく、壁には所狭しとサーフボードが飾られていた。アコースティックギターが奏でる軽快で疾走感のある音楽が流れる店内で、叶も何時しか身体を合わせて揺らしていた。
「いらっしゃい、お客さんて感じじゃないかな?」
店内の奥から現れた店員と思わしき中年男性が声を掛けると、叶と幸太は慌てて向き直り軽く頭を下げた。
「あ、すいません。先日電話させて頂いた鬼龍です」
「ああ、お姉ちゃんがそうだったか。まぁ今は客もいないから丁度良かったな。それで何だったかな?」
男性はやや警戒する様に問い掛けると、叶が丁寧に頭を下げて満面の笑みを見せる。
「お忙しい所すいません。実はこの辺りに伝わる海の怪談『海女』についてお伺いしたくて」
「はは、怪談話か。まあ海に怪談なんて付き物かもしれないが、海女か……聞いた事ないな」
少し考えた後、笑ってそう言ってのける男性を見て叶は首を傾げた。
「……?結構昔からある怪談で有名と伺ってまして、何か実際に十数年前には行方不明になった方もいて、そこから海女の話が広まったとも聞いてるんですが?」
「そうなのか?……うん、海女の話は知らないが多分その行方不明になった奴なら少し知ってるぞ。名前は確か羽生蛇崇。俺の古い友人のツレだった筈だ」
「行方不明になった方、お知り合いだったんですか?知らなかったとはいえ、失礼な事を聞いて申し訳ありません」
叶が神妙な面持ちで丁寧に頭を下げると、男性は苦笑いを浮かべながら頭を振った。
「いやいや、知り合いって程でもない。さっきも言ったが友人のツレって感じで一、二回会った事があるだけだった。確か愛想も良くて感じの良い奴で女の子からも結構人気があったんじゃないか?隣町の奴だったからそんなに詳しくは知らないが、なんだったら詳しそうな奴に連絡してやろうか?」
「本当ですか?もし可能ならお願いします」
「まぁ少し気難しい奴だからどう言うかは分からないけど少し待ってくれ」
男性はそう言うと徐にスマートフォンを取り出し電話を掛け始めた。幸太はこの時、漠然とした妙な胸騒ぎを覚えた。
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