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二人きりの旅行④
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二人はそのまま部屋で会話を重ねながらゆっくりとした時間を楽しんでいた。そんな二人の時間を切り裂く様に部屋に設置されていた電話のベルが鳴る。
驚いた二人だったが、すぐに叶が受話器を取った。
「はい。あっ、はい、部屋でお願いします。はい、じゃあそれで」
叶が丁寧に受話器を置くと幸太の方へと振り向く。
「晩御飯部屋でいいよね?十九時頃に部屋まで運んで来てくれるって。それまではちょっと横になっててもいい?」
「えっ、ああ、うんいいよ。疲れたもんね」
幸太が戸惑いながらも頷くと叶も眉尻を下げて微笑む。
「ごめんね、私から誘ったのに」
そう言って叶は自分の荷物が置いてある方へ行くと横になりすぐに寝息を立て始めた。
一人取り残された様になった幸太は少し離れた位置にいる叶を見つめる。
叶さんも一緒にいて楽しそうにしてくれてるし悪い気はしてないよな?それに今日誘ってくれたのも叶さんの方からだし。ひょっとして待ってるのかな?もうちょっと強気で攻めてもいいのかな?……いやでもそれなら、返事くれてもいいよな?……駄目だ、分からん……叶さんの寝顔見たいな――。
もどかしい想いに悩みながら幸太もいつの間にか眠ってしまった。
「幸太君……幸太君」
優しく呼び掛ける声と共に幸太が目覚めると、叶が優しく微笑み、覗き込んでいた。
「ごめん、寝てた」
「はは、なんで謝るの?いいって、私も寝てたんだから。もうすぐ食事が来るみたいだよ」
叶にそう言われ時計に目をやると針は既に十九時を指そうとしていた。
せっかくの二人だけの時間を無駄にしてしまった――。
幸太が頭を描きながら後悔していると部屋をノックされた。叶が扉を開けるとホテルの従業員が食事を運び込み、準備を整えていく。幸太は目の前に用意されていく料理を見て驚いていた。
用意されたテーブルの上には近海で採れたであろう新鮮な魚介類の刺身が並び、一人用の紙鍋では山菜と魚介類が茹でられていた。鉄板の上ではサシの入った肉がジュージューと音を立てて焼かれている。
「それではゆっくりと堪能して下さい」
準備が整うとホテルの方々は丁寧にお辞儀し部屋を後にした。
「か、叶さん。ちょっとこれ豪華過ぎませんか?」
戸惑う幸太と対照的に落ち着いた笑顔で叶が語り掛ける。
「確かに豪勢だね。まぁいいじゃん、せっかくだし美味しくいただこうよ。さぁ早く座って」
叶に促され、幸太も戸惑いながらも腰を下ろした。
「いただきます」
二人手を合わせ目の前にある豪勢な食事に舌鼓を打つ。新鮮な魚介類は程よい弾力があり、噛む度に口の中で美味みが広がっていく。鉄板で程よく焼かれた肉は口に入れた瞬間甘味が広がりとろけるようだった。
幸太は一つ一つ感動を噛み締める様に箸を進めていく。
そんな幸太を叶は笑顔を浮かべて見つめていた。
「美味しいね。ここ温泉もあるみたいだし後で行こうか」
そう言って微笑む叶を見て、幸太も笑顔で頷く。
食事を終えた二人は暫くすると、浴衣を手に温泉のあるフロアへと歩いて行く。
「一応言っとくけど混浴じゃないみたいだからね」
叶が悪戯っぽく笑って軽く肩を叩くのを、幸太は寧ろ心地よく感じていた。
「分かってますよ。でも露天風呂があるんですよね?それが少し楽しみです」
「ふふふ、まぁ普段の疲れを癒そうか」
そう言って手を振り叶は女湯の暖簾をくぐって行った。幸太も男湯の方へ行くと、汗ばんだ体を綺麗に流し、ゆっくりと露天風呂に向かった。幸い先客は一人しかおらずゆっくりと湯船に入った。外気に触れながら湯船に浸かり、眼下には街の光が広がっていた。非日常を味わい、まだ体の傷に少し滲みるがそれ以上に癒されるような気がした。
驚いた二人だったが、すぐに叶が受話器を取った。
「はい。あっ、はい、部屋でお願いします。はい、じゃあそれで」
叶が丁寧に受話器を置くと幸太の方へと振り向く。
「晩御飯部屋でいいよね?十九時頃に部屋まで運んで来てくれるって。それまではちょっと横になっててもいい?」
「えっ、ああ、うんいいよ。疲れたもんね」
幸太が戸惑いながらも頷くと叶も眉尻を下げて微笑む。
「ごめんね、私から誘ったのに」
そう言って叶は自分の荷物が置いてある方へ行くと横になりすぐに寝息を立て始めた。
一人取り残された様になった幸太は少し離れた位置にいる叶を見つめる。
叶さんも一緒にいて楽しそうにしてくれてるし悪い気はしてないよな?それに今日誘ってくれたのも叶さんの方からだし。ひょっとして待ってるのかな?もうちょっと強気で攻めてもいいのかな?……いやでもそれなら、返事くれてもいいよな?……駄目だ、分からん……叶さんの寝顔見たいな――。
もどかしい想いに悩みながら幸太もいつの間にか眠ってしまった。
「幸太君……幸太君」
優しく呼び掛ける声と共に幸太が目覚めると、叶が優しく微笑み、覗き込んでいた。
「ごめん、寝てた」
「はは、なんで謝るの?いいって、私も寝てたんだから。もうすぐ食事が来るみたいだよ」
叶にそう言われ時計に目をやると針は既に十九時を指そうとしていた。
せっかくの二人だけの時間を無駄にしてしまった――。
幸太が頭を描きながら後悔していると部屋をノックされた。叶が扉を開けるとホテルの従業員が食事を運び込み、準備を整えていく。幸太は目の前に用意されていく料理を見て驚いていた。
用意されたテーブルの上には近海で採れたであろう新鮮な魚介類の刺身が並び、一人用の紙鍋では山菜と魚介類が茹でられていた。鉄板の上ではサシの入った肉がジュージューと音を立てて焼かれている。
「それではゆっくりと堪能して下さい」
準備が整うとホテルの方々は丁寧にお辞儀し部屋を後にした。
「か、叶さん。ちょっとこれ豪華過ぎませんか?」
戸惑う幸太と対照的に落ち着いた笑顔で叶が語り掛ける。
「確かに豪勢だね。まぁいいじゃん、せっかくだし美味しくいただこうよ。さぁ早く座って」
叶に促され、幸太も戸惑いながらも腰を下ろした。
「いただきます」
二人手を合わせ目の前にある豪勢な食事に舌鼓を打つ。新鮮な魚介類は程よい弾力があり、噛む度に口の中で美味みが広がっていく。鉄板で程よく焼かれた肉は口に入れた瞬間甘味が広がりとろけるようだった。
幸太は一つ一つ感動を噛み締める様に箸を進めていく。
そんな幸太を叶は笑顔を浮かべて見つめていた。
「美味しいね。ここ温泉もあるみたいだし後で行こうか」
そう言って微笑む叶を見て、幸太も笑顔で頷く。
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