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二人の行方④
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ラーメン屋を出た二人はそのまま街を少し散策する事にした。
「実はこの街に来てから心霊スポット巡りやバイトなんかで、観光みたいな事してないんだよね。案内してくれる?」
「勿論。でもここ海水浴がメインだから観光スポットってあんまりなくて、海鮮系の美味しい店とかならあるんだけど」
「あら、そうなんだ。お腹は今満足したし、なんか適当にお店巡ってみようかな」
そうして幸太は洋服店や雑貨屋が立ち並ぶ街の中心部に叶を案内する事にした。叶は楽しそうに笑顔を浮かべながら一軒一軒店を回って行く。
『やっぱり叶さんも買い物とか好きなんだな』
幸太が叶を見つめながらそんな事を考えていると、叶が笑顔で振り返る。
「何?何か言いたげね」
「いや、やっぱり服とか好きなんだなぁって思って」
「ふふ、そりゃねぇ。だって結構それなりの見た目なんだからオシャレしなきゃ勿体ないでしょ?」
満面の笑みを浮かべながらそんな事を言う叶に幸太は思わず苦笑いを浮かべた。
「……ねぇ、せめて何かつっこんでくれなきゃ私だいぶ痛い奴になるんだけど?」
「あっ、ごめん」
言葉を失い苦笑いを浮かべるだけの幸太に、叶が眉根を寄せて詰め寄るとつい謝罪を口にした。そんな幸太に対して叶は「もう」と言って口を尖らせる。思わず幸太が狼狽える様に取り繕おうとすると叶は楽しそうに笑っていた。
初めの頃は何処か距離を置いて達観視している様な節があった叶が今は楽しそうに笑ってくれている。
二人の距離は縮まっている――。
そう思うと幸太の表情も自然と綻んだ。
「あっ、このお店観ていい?」
そう言いながら幸太の返事を待たずして、叶は雑貨屋へと入って行く。遅れて幸太が店に入ると、叶は既にピアスを手に取り物色を始めていた。
「お気に入りだったピアスこの前なくしちゃってさ。何かいいの欲しいなって思ってたの」
そう言って叶はいくつかのピアスを手に取っては鏡の前で合わせていく。そうして選ばれた三つのピアスを手に持ち、幸太の前に差し出して見せた。
「どれがいいと思う?」
提示されたピアスに幸太が視線を落とす。細いリングタイプにチェーンタイプが二つだった。叶の耳元に視線を移すと今は小さなピンク色の石が付いたスタッドピアスが着いている。幸太がひとまずチェーンタイプの一つを持ち叶の耳元に合わせようとすると、叶が髪を手でかき上げて耳をずいっと幸太の方へ近付けて来た。
叶からしてみれば何気ない仕草だったが、耳元からうなじにかけてがあらわになり、幸太はついそちらに目を奪われ色気を感じてしまう。
しかしそんな心情を表に出さず、幸太は三つのピアスを順に合わせていった。
「俺の好みでいいのかな?直感だけどこのシンプルなチェーンピアスが大人っぽくて良かったんだけど」
幸太が三つの中では一番シンプルなシルバーのチェーンピアスを選ぶと、叶はそれを手に持ち笑顔を見せる。
「よし、じゃあこれにしよう」
そう言って叶がレジに向かって歩き出したが、慌てて幸太が引き止める。
「あっ、叶さん。その、あまり高価な物じゃないから逆にプレゼントさせてもらえないかな?あの、ほら記念にどうかな?」
幸太の言う通りピアスの価格は千円程で、この程度ならプレゼントとして送られても叶が気を使う事はほぼないだろうという幸太なりの気遣いだった。
叶は振り返り首を傾げて満面の笑みを浮かべる。
「嬉しい申し出だけど、私から返せる物はないけどいいのかな?」
「いいですよ、そんなの……それに一緒にいてくれるお礼です」
幸太が少し俯き照れくさそうにしていたが、叶はため息混じりに笑みを浮かべた。
「そんなお礼ならいらないわよ。せめて初デート記念とかにしてくれない?」
眉根を寄せて少し拗ねた様に叶が言うと、幸太は嬉しそうに頷いていた。そんな幸太を見つめて叶も柔和な笑みを浮かべる。
『それにお礼するのは私の方でしょ?君にそんな怪我まで負わせて……まぁでもお礼はあの時したかな』
「……まぁ君は知らないか」
叶が片方の口角を僅かに上げ小さく呟くと、幸太が不思議そうに首を傾げる。
「何か言った?」
「ふふふ、ありがとうって言ってんの」
そう言って叶がピアスを手渡すと、幸太は頷きながらレジへと歩いて行った。
「実はこの街に来てから心霊スポット巡りやバイトなんかで、観光みたいな事してないんだよね。案内してくれる?」
「勿論。でもここ海水浴がメインだから観光スポットってあんまりなくて、海鮮系の美味しい店とかならあるんだけど」
「あら、そうなんだ。お腹は今満足したし、なんか適当にお店巡ってみようかな」
そうして幸太は洋服店や雑貨屋が立ち並ぶ街の中心部に叶を案内する事にした。叶は楽しそうに笑顔を浮かべながら一軒一軒店を回って行く。
『やっぱり叶さんも買い物とか好きなんだな』
幸太が叶を見つめながらそんな事を考えていると、叶が笑顔で振り返る。
「何?何か言いたげね」
「いや、やっぱり服とか好きなんだなぁって思って」
「ふふ、そりゃねぇ。だって結構それなりの見た目なんだからオシャレしなきゃ勿体ないでしょ?」
満面の笑みを浮かべながらそんな事を言う叶に幸太は思わず苦笑いを浮かべた。
「……ねぇ、せめて何かつっこんでくれなきゃ私だいぶ痛い奴になるんだけど?」
「あっ、ごめん」
言葉を失い苦笑いを浮かべるだけの幸太に、叶が眉根を寄せて詰め寄るとつい謝罪を口にした。そんな幸太に対して叶は「もう」と言って口を尖らせる。思わず幸太が狼狽える様に取り繕おうとすると叶は楽しそうに笑っていた。
初めの頃は何処か距離を置いて達観視している様な節があった叶が今は楽しそうに笑ってくれている。
二人の距離は縮まっている――。
そう思うと幸太の表情も自然と綻んだ。
「あっ、このお店観ていい?」
そう言いながら幸太の返事を待たずして、叶は雑貨屋へと入って行く。遅れて幸太が店に入ると、叶は既にピアスを手に取り物色を始めていた。
「お気に入りだったピアスこの前なくしちゃってさ。何かいいの欲しいなって思ってたの」
そう言って叶はいくつかのピアスを手に取っては鏡の前で合わせていく。そうして選ばれた三つのピアスを手に持ち、幸太の前に差し出して見せた。
「どれがいいと思う?」
提示されたピアスに幸太が視線を落とす。細いリングタイプにチェーンタイプが二つだった。叶の耳元に視線を移すと今は小さなピンク色の石が付いたスタッドピアスが着いている。幸太がひとまずチェーンタイプの一つを持ち叶の耳元に合わせようとすると、叶が髪を手でかき上げて耳をずいっと幸太の方へ近付けて来た。
叶からしてみれば何気ない仕草だったが、耳元からうなじにかけてがあらわになり、幸太はついそちらに目を奪われ色気を感じてしまう。
しかしそんな心情を表に出さず、幸太は三つのピアスを順に合わせていった。
「俺の好みでいいのかな?直感だけどこのシンプルなチェーンピアスが大人っぽくて良かったんだけど」
幸太が三つの中では一番シンプルなシルバーのチェーンピアスを選ぶと、叶はそれを手に持ち笑顔を見せる。
「よし、じゃあこれにしよう」
そう言って叶がレジに向かって歩き出したが、慌てて幸太が引き止める。
「あっ、叶さん。その、あまり高価な物じゃないから逆にプレゼントさせてもらえないかな?あの、ほら記念にどうかな?」
幸太の言う通りピアスの価格は千円程で、この程度ならプレゼントとして送られても叶が気を使う事はほぼないだろうという幸太なりの気遣いだった。
叶は振り返り首を傾げて満面の笑みを浮かべる。
「嬉しい申し出だけど、私から返せる物はないけどいいのかな?」
「いいですよ、そんなの……それに一緒にいてくれるお礼です」
幸太が少し俯き照れくさそうにしていたが、叶はため息混じりに笑みを浮かべた。
「そんなお礼ならいらないわよ。せめて初デート記念とかにしてくれない?」
眉根を寄せて少し拗ねた様に叶が言うと、幸太は嬉しそうに頷いていた。そんな幸太を見つめて叶も柔和な笑みを浮かべる。
『それにお礼するのは私の方でしょ?君にそんな怪我まで負わせて……まぁでもお礼はあの時したかな』
「……まぁ君は知らないか」
叶が片方の口角を僅かに上げ小さく呟くと、幸太が不思議そうに首を傾げる。
「何か言った?」
「ふふふ、ありがとうって言ってんの」
そう言って叶がピアスを手渡すと、幸太は頷きながらレジへと歩いて行った。
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