夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

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告白⑤

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「ねぇ倉井君。ひょっとして海の家に行った?」

「ええ、はい。それで弘人に鬼龍さんがさっき帰ったって聞いたから探してたんです」

 二人並んで歩きながら会話を重ねていく。先程までの沈んでいた気持ちも忘れて、幸太は心踊らせていた。

「そっか、なるほどね。とりあえず喉渇かない?私珈琲飲みたいんだけど」

「じゃあ何処か喫茶店入りますか?」

 叶が笑顔で頷くと、幸太は片手で自転車を押しながらもう片方の手でスマホを操作し近くで開いている喫茶店を探す。だがそれを見ていた叶が足を止め、優しく語り掛けた。

「危ないよ。特に君は怪我してるんだから。喫茶店は私が探すからちょっと止まろうか」

 叶がスマホを取り出し検索を始めるのを幸太は苦笑いを浮かべながら見つめていた。
『鬼龍さん、なんだかんだ言っても気遣ってくれるんだよな』
 叶の何気ない気遣いを嬉しく思いながら見つめていると幸太はふとある事を思い出す。
『スマホ……鬼龍さんの連絡先聞かなきゃ』

「倉井君、ここ良さげなんだけどどうかな?」

「えっ?ああ、いいと思いますよ。そこなら近くですし」

 幸太の反応を見て、叶は首を傾げながら覗き込んだ。

「何か別の事考えてた?それともまた私の事いやらしい目で見てたのかな?」

「いや、違います違います。その……鬼龍さんの連絡先聞いてなかったから聞いてもいいのかなって」

 少し俯き、弱々しく呟く様に言う幸太を見て、叶は呆れた様に小さなため息をつく。

「ふう、聞くならもうちょっと堂々と聞いてくれない?自意識過剰な人は論外だけど、倉井君はもうちょっと自信持った方がいいと思うんだけど」

「あはは、いや、まぁ……えっ、堂々と聞いたら教えてくれるんですか?」

「倉井君と私の関係ってそんな希薄だっけ?連絡先ぐらい教えるから早くお店に行こ」

 笑顔で歩き出した叶の後を、幸太が追いかける。暫く歩くと目的の喫茶店へと辿り着いた。
 店に着いた二人は席に案内されるとそれぞれドリンクを注文し、椅子の背もたれにゆっくりと身体を預ける。

「ふう、今日は結構疲れたな。分かってるつもりだったけどあそこのバイト結構ハードだよね?」

 眉尻を下げて笑顔で叶が問い掛けると、幸太も楽しそうに頷いていた。

「そうなんですよ。慣れるまでは結構きついんですよ。あっ、でも俺が復帰したら鬼龍さんは辞めるんですよね?」

「まぁ、倉井君が復帰するまでとは思ってたんだけど、どうしよっかな。まだ働いてほしいって言われたら暫く続けるかもしれないし、もういいって言われたら辞めるし。楓さんの考えもあるでしょ?私を雇い続けたらその分人件費もかかっちゃうんだからさ」

「確かにそうですね。ただ個人的には一緒に働けたらいいなって思ったんで」

「へぇ……まぁその時の状況次第よね。働ける状況なら働くしね」

「状況……ですか?」

 少し考える様に遠くを見つめた叶を見て、幸太が不思議そうに首を傾げる。

「……そう。だってあそこ暑いでしょ?じゃあやっぱり薄着になるじゃん。咲良ちゃんに至っては下水着だったし。そしたら倉井君がずっといやらしい目で見てくるんでしょ?その視線に私、耐えられるかどうか……」

 叶が薄目で幸太の方を見つめると幸太は身を乗り出し慌てて否定する。

「いや、ちょっと、変態みたいに言わないで下さいよ!そんな風に見ないですよ」

「じゃあ絶対見ない?私が水着姿になっても絶対に私の事見ない?」

「いや、そりゃ鬼龍さんは見ますよ。その……健全なエロい目で見ます」

「ふふ、正直ね」

 上手くはぐらかされた様な気もしたが、幸太は楽しく笑っていた。
 この楽しい時間がもっと続いてほしい――。
 そんな事を考えながら暫く話し込み、三十分程が経った頃、幸太が徐に立ち上がる。

「ちょっとトイレ行ってきてもいいですか?」

「どうぞ。なんならついでに一服してきたら?ずっと我慢してるんでしょ?」

 叶が指二本立てて煙草を吸う仕草をすると、幸太は頭を描きながら眉尻を下げた。

「はは、ばれてたんだ。じゃあお言葉に甘えて一本だけ吸って来ます。勝手に何処か行かないで下さいよ」

 笑いながら言う幸太を叶は笑顔で見送っていた。

「まだ行かないって」

 呟いた後、小さくため息をついた。
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