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26.貴婦人のお悩み相談室
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厚い人望のたまものか、イリスが去った後もサラージュの元にはひっきりなしに見舞客が訪れた。
最初はケロっとしていたサラージュもさすがに疲れを見せ始めるころになって、そのヒトは現れた。
「やあやあ儂のかわゆいかわゆいひ孫ちゃん。見事に飼い犬に噛みつかれたのう」
「ひいおばあさま」
当然の如く窓からのご来訪である。
月白色の髪に夜空を映す肌、血とベリーを煮詰めてガーネットの器にしまい込んだような瞳。サラージュのそれとは系統が違うものの、幼き日に見た時から一切陰ることはない時知らぬ美貌は今日も健在だ。
わりと神出鬼没だが血縁に駄々甘い彼女の来訪は予期できたので腰を抜かさずに済んだが、すべてを見透かすような目と口ぶりはどうにも心臓に悪い。
そんなサラージュの心境もお見通しのはずだが、夜闇の貴婦人たる彼女は「手短にいこうかの」といつも通りの調子で呟くと室内で最もふかふかな椅子に腰かけた。すらりと長い脚が優美に組まれる。
「中途半端に躾けるからこうなるんじゃ。マ、飼い主に噛みつく犬も犬じゃがな」
いったいどこからどこまで見ていたのだろう。
「飼い犬では御座いませんよ」
「似たようなもんじゃろ。というか、あやつらは飼われたがってるんじゃから、その気遣いはむしろ苦しめるやつじゃな」
「話が早すぎて怖いのですが」
「千年万年生きとると大体のことはわかるんじゃよ。かわゆいベイビーちゃん。にしても儂らのなかからあやつらの運命が出るとはのぅ……ヒトの血とはげに面白きものよ」
くつくつと笑う曾祖母の言葉に、思わず目を見開く。
「エルフにはこれまで出たことがないのですか?」
「うむ。種族を跨ぐ交配自体がヒト……今は素人間とかいうんじゃったか。
あれのあらゆる種族を内包する匣になる特質とやらを使っておるから瑕疵がないだけで、離れすぎた種の混ぜものというのはいろいろ負債も大きいのが世の常でな。交配を目的としておる『運命』というのは往々にして同種のみの発現よ。儂の直系とはいえ、ひ孫ちゃんもヒトじゃったのね。儂ビックリ」
「ひいおばあさまはわたくしを何だと思っておられたので?」
「かわゆい同種の雛」
即答された。
文脈から行くと『同種』とはエルフ種、もっと狭めればダークエルフのことだけを示しているのだが。そうなると一つ、気になることがある。
「……兄上たちは?」
長兄、次兄、そして末妹。サラージュ以外の『ひ孫』は全員エルフ種以外を発現している。
これまでの曾祖母の態度からするに身内判定はされているはずだが、『同種』ではないというのならばいったいなんだと思っているのだろうか。
おそるおそる訊ねれば、ふむ、と一拍。
「かわゆいひ孫じゃが同種ではないのう」
「感覚がわかりかねますわね……」
血縁と種族の感覚がバラバラということだろうか。そもそも種族というもの自体にそう違いを感じてこなかったサラージュには、あまりピンとくる感覚ではない。
そんなひ孫をしげしげ眺め、曾祖母はにんまり口角を吊り上げた。
「そりゃそうじゃろうね。ひ孫ちゃんはあんまり本能が強くないから。そういうところは息子君に似たんじゃろな。カッチカチ」
面白がられている。
そういえば普段は厳格で落ち着き払っている祖父が曾祖母のことになるとよく胃を痛めていた。なるほど、種は違えど次兄の悪戯好きはこのヒトからの遺伝か。
つまりはまともにやり合うだけ此方が疲弊するだけ。理解した。
サラージュはひとり頷いて、とりあえず聞きたかったことを聞いてしまおうと気を取り直した。
「ねえ、ひいおばあさま」
「なんじゃいひ孫ちゃん」
「……殿下は、どうしてわたくしを噛んだの?」
「ん? 好いとるからじゃろ」
「んえ」
気恥ずかしさと習性の違いに思わず変な声が出た。
愛情表現なのか、あれは。いや、それで恋心を自覚した身で言うのもおかしな話なのだが、いささか血なまぐさい愛情表現過ぎないか。
混乱しかけた頭を叱咤し、こほんとすまし顔に戻る。
「……いえ、そうではなくて。どうして、突然?」
躾は成功し、安定していたはず。なのに何故?
愛情表現だろうと何だろうと、それまではやらなかった手段に打って出たのだ。何か理由があるはずだろう。
そう思っていれば、曾祖母の口から意外な言葉が飛び出した。
「ああー。そりゃ、そもそもひ孫ちゃんの躾が失敗しとったからじゃろ」
「失敗……?」
きゅっとシーツを握りしめる。耳の奥でドクンと心臓が鳴った。
「大人しくしてたのはあの坊主のヒトの部分であって、狼じゃなかったってことじゃの。狼の躾に成功しとったらあやつら忠義者じゃから絶対噛みついたりせんよ。手綱のかけかたが中途半端じゃったから、ひ孫ちゃんを主じゃなく雌として、つがいとして見る本能のほうが優先されちゃったんじゃろうな」
「じゃあ……わたくしがしたことは、無駄だった?」
声が震えた。
顔から火が出てしまいそうだ。
悪戯にアレクシスを傷つけ、余計な負担をかけたくせに――自分の成果だと誇っていたのか。
悪癖めいた自罰思考が加速し俯いていく頭に、ぽん、と曾祖母の手がのった。星の散る夜空の手によしよしと撫でられ、するんと髪が肩を落ちる。
「どうじゃろうなあ」
のんびりとした調子の曾祖母の声が降ってきて、ゆるゆると顔を上げる。
そこにはいつも通りの凪いだ瞳と飄々とした笑みがあって、なんだか気が抜けた。
「報酬が足りなかったか、方向性がズレとったかはわからんが……別の主に代替を頼まなかったあたり、まだひ孫ちゃんに手綱を握ってもらいたがってるような気はするが……それこそ、話し合いじゃろ」
「話し合い……」
そんなことでいいのだろうか。
そんな、子供でもできるようなことで。
「話し合うというのは、ひ孫ちゃんが思っておるよりずぅっと難しいことじゃよ」
「むずかしい……?」
首を傾げたサラージュをからかうこともなく、曾祖母は滔々と語る。
その口調は歌うようで、妙に聞き心地がいい。
「言葉というのは完璧なものではない。世に在るものをひとまず名付け、形容し、評してみておるが、それはどれも芯にはいまだ遠い。同じ文化、同じ言語で育った同種や隣人。いや、家族であっても、通じぬ時は通じぬものじゃよ。ひょっとしたら、自分のことも言葉でわかった気になっておるだけやもしれぬ。扱いが難しく、互いを摺り寄せるにはあまりにも未完成の道具が『言葉』じゃ。
じゃが、それでも儂らは言葉を紡ぐ。魔術があるんじゃから波形でも送った方がずっと正しい感情が伝わるというのに、言葉で想いを語り合う。さて……なぜじゃと思う?」
「……、わからないです」
そうじゃろうな。と曾祖母は頷いた。そして、にっこりと笑みが深まる。
「儂も答えは知らん」
「えっ」
「じゃが儂の知る限り、言語は交流手段として我らが持つものの中で最も恐ろしく、そして優しい手段じゃと思っておる」
恐ろしさと、優しさ。
それは相反する概念だ。だが――不思議と、納得できる言葉だった。
「わたくしに、できるでしょうか」
サラージュは理知的な言動を好むがその実、即断即決即行動こそが一番やりやすい直感型だ。監禁されたときでさえ説得は早々に無理だと見限った程度には、言葉で自分の心を伝えることが不得手である。
弱音を零すひ孫に、珍しく夜闇の貴婦人はきょとんとした顔を浮かべた。
そんなことを言う道理がどこにあるのかとでも言うように。
「出来るまで努力するのは、ひ孫ちゃんの得意分野じゃろ?」
曾祖母の「当然」と言わんばかりの発言に、サラージュはいよいよ泣きそうになった。
そうか。そう見えていたのか。
星を目指して足掻いていた醜い姿を、この夜空の化身のような人は――努力と称してくれるのか。
「もちろん、ひ孫ちゃんがもうあんな雄こりごりじゃって言うなら別じゃよ。スパッと切ってお仕舞いじゃ。……さ、どうしたい?」
「迷うまでもありませんわね」
言葉を飾り、自分を惑わすのはやめにして――狩人の師匠に本音をぶちまけることにする。
狼としての彼を好いたならば、ヒトでない自分の気持ちにも正直になってしまおう。
愛玩上等。それでもこれは恋である。
「わたくし、飼い犬を野良犬にする趣味はないの」
ベリー色の瞳が、いつもよりもずっと赤みを帯びて煌めいた。
最初はケロっとしていたサラージュもさすがに疲れを見せ始めるころになって、そのヒトは現れた。
「やあやあ儂のかわゆいかわゆいひ孫ちゃん。見事に飼い犬に噛みつかれたのう」
「ひいおばあさま」
当然の如く窓からのご来訪である。
月白色の髪に夜空を映す肌、血とベリーを煮詰めてガーネットの器にしまい込んだような瞳。サラージュのそれとは系統が違うものの、幼き日に見た時から一切陰ることはない時知らぬ美貌は今日も健在だ。
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そんなサラージュの心境もお見通しのはずだが、夜闇の貴婦人たる彼女は「手短にいこうかの」といつも通りの調子で呟くと室内で最もふかふかな椅子に腰かけた。すらりと長い脚が優美に組まれる。
「中途半端に躾けるからこうなるんじゃ。マ、飼い主に噛みつく犬も犬じゃがな」
いったいどこからどこまで見ていたのだろう。
「飼い犬では御座いませんよ」
「似たようなもんじゃろ。というか、あやつらは飼われたがってるんじゃから、その気遣いはむしろ苦しめるやつじゃな」
「話が早すぎて怖いのですが」
「千年万年生きとると大体のことはわかるんじゃよ。かわゆいベイビーちゃん。にしても儂らのなかからあやつらの運命が出るとはのぅ……ヒトの血とはげに面白きものよ」
くつくつと笑う曾祖母の言葉に、思わず目を見開く。
「エルフにはこれまで出たことがないのですか?」
「うむ。種族を跨ぐ交配自体がヒト……今は素人間とかいうんじゃったか。
あれのあらゆる種族を内包する匣になる特質とやらを使っておるから瑕疵がないだけで、離れすぎた種の混ぜものというのはいろいろ負債も大きいのが世の常でな。交配を目的としておる『運命』というのは往々にして同種のみの発現よ。儂の直系とはいえ、ひ孫ちゃんもヒトじゃったのね。儂ビックリ」
「ひいおばあさまはわたくしを何だと思っておられたので?」
「かわゆい同種の雛」
即答された。
文脈から行くと『同種』とはエルフ種、もっと狭めればダークエルフのことだけを示しているのだが。そうなると一つ、気になることがある。
「……兄上たちは?」
長兄、次兄、そして末妹。サラージュ以外の『ひ孫』は全員エルフ種以外を発現している。
これまでの曾祖母の態度からするに身内判定はされているはずだが、『同種』ではないというのならばいったいなんだと思っているのだろうか。
おそるおそる訊ねれば、ふむ、と一拍。
「かわゆいひ孫じゃが同種ではないのう」
「感覚がわかりかねますわね……」
血縁と種族の感覚がバラバラということだろうか。そもそも種族というもの自体にそう違いを感じてこなかったサラージュには、あまりピンとくる感覚ではない。
そんなひ孫をしげしげ眺め、曾祖母はにんまり口角を吊り上げた。
「そりゃそうじゃろうね。ひ孫ちゃんはあんまり本能が強くないから。そういうところは息子君に似たんじゃろな。カッチカチ」
面白がられている。
そういえば普段は厳格で落ち着き払っている祖父が曾祖母のことになるとよく胃を痛めていた。なるほど、種は違えど次兄の悪戯好きはこのヒトからの遺伝か。
つまりはまともにやり合うだけ此方が疲弊するだけ。理解した。
サラージュはひとり頷いて、とりあえず聞きたかったことを聞いてしまおうと気を取り直した。
「ねえ、ひいおばあさま」
「なんじゃいひ孫ちゃん」
「……殿下は、どうしてわたくしを噛んだの?」
「ん? 好いとるからじゃろ」
「んえ」
気恥ずかしさと習性の違いに思わず変な声が出た。
愛情表現なのか、あれは。いや、それで恋心を自覚した身で言うのもおかしな話なのだが、いささか血なまぐさい愛情表現過ぎないか。
混乱しかけた頭を叱咤し、こほんとすまし顔に戻る。
「……いえ、そうではなくて。どうして、突然?」
躾は成功し、安定していたはず。なのに何故?
愛情表現だろうと何だろうと、それまではやらなかった手段に打って出たのだ。何か理由があるはずだろう。
そう思っていれば、曾祖母の口から意外な言葉が飛び出した。
「ああー。そりゃ、そもそもひ孫ちゃんの躾が失敗しとったからじゃろ」
「失敗……?」
きゅっとシーツを握りしめる。耳の奥でドクンと心臓が鳴った。
「大人しくしてたのはあの坊主のヒトの部分であって、狼じゃなかったってことじゃの。狼の躾に成功しとったらあやつら忠義者じゃから絶対噛みついたりせんよ。手綱のかけかたが中途半端じゃったから、ひ孫ちゃんを主じゃなく雌として、つがいとして見る本能のほうが優先されちゃったんじゃろうな」
「じゃあ……わたくしがしたことは、無駄だった?」
声が震えた。
顔から火が出てしまいそうだ。
悪戯にアレクシスを傷つけ、余計な負担をかけたくせに――自分の成果だと誇っていたのか。
悪癖めいた自罰思考が加速し俯いていく頭に、ぽん、と曾祖母の手がのった。星の散る夜空の手によしよしと撫でられ、するんと髪が肩を落ちる。
「どうじゃろうなあ」
のんびりとした調子の曾祖母の声が降ってきて、ゆるゆると顔を上げる。
そこにはいつも通りの凪いだ瞳と飄々とした笑みがあって、なんだか気が抜けた。
「報酬が足りなかったか、方向性がズレとったかはわからんが……別の主に代替を頼まなかったあたり、まだひ孫ちゃんに手綱を握ってもらいたがってるような気はするが……それこそ、話し合いじゃろ」
「話し合い……」
そんなことでいいのだろうか。
そんな、子供でもできるようなことで。
「話し合うというのは、ひ孫ちゃんが思っておるよりずぅっと難しいことじゃよ」
「むずかしい……?」
首を傾げたサラージュをからかうこともなく、曾祖母は滔々と語る。
その口調は歌うようで、妙に聞き心地がいい。
「言葉というのは完璧なものではない。世に在るものをひとまず名付け、形容し、評してみておるが、それはどれも芯にはいまだ遠い。同じ文化、同じ言語で育った同種や隣人。いや、家族であっても、通じぬ時は通じぬものじゃよ。ひょっとしたら、自分のことも言葉でわかった気になっておるだけやもしれぬ。扱いが難しく、互いを摺り寄せるにはあまりにも未完成の道具が『言葉』じゃ。
じゃが、それでも儂らは言葉を紡ぐ。魔術があるんじゃから波形でも送った方がずっと正しい感情が伝わるというのに、言葉で想いを語り合う。さて……なぜじゃと思う?」
「……、わからないです」
そうじゃろうな。と曾祖母は頷いた。そして、にっこりと笑みが深まる。
「儂も答えは知らん」
「えっ」
「じゃが儂の知る限り、言語は交流手段として我らが持つものの中で最も恐ろしく、そして優しい手段じゃと思っておる」
恐ろしさと、優しさ。
それは相反する概念だ。だが――不思議と、納得できる言葉だった。
「わたくしに、できるでしょうか」
サラージュは理知的な言動を好むがその実、即断即決即行動こそが一番やりやすい直感型だ。監禁されたときでさえ説得は早々に無理だと見限った程度には、言葉で自分の心を伝えることが不得手である。
弱音を零すひ孫に、珍しく夜闇の貴婦人はきょとんとした顔を浮かべた。
そんなことを言う道理がどこにあるのかとでも言うように。
「出来るまで努力するのは、ひ孫ちゃんの得意分野じゃろ?」
曾祖母の「当然」と言わんばかりの発言に、サラージュはいよいよ泣きそうになった。
そうか。そう見えていたのか。
星を目指して足掻いていた醜い姿を、この夜空の化身のような人は――努力と称してくれるのか。
「もちろん、ひ孫ちゃんがもうあんな雄こりごりじゃって言うなら別じゃよ。スパッと切ってお仕舞いじゃ。……さ、どうしたい?」
「迷うまでもありませんわね」
言葉を飾り、自分を惑わすのはやめにして――狩人の師匠に本音をぶちまけることにする。
狼としての彼を好いたならば、ヒトでない自分の気持ちにも正直になってしまおう。
愛玩上等。それでもこれは恋である。
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