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7.矜持のありかは人それぞれ
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アレクシスが公務に向かい、がらんとした部屋の中で、サラージュは思いついたばかりの思案を転がしていた。
問題点がないわけではない。が、他の手とも言えない手よりは随分と実のある案に思える。
(手段さえあれば、陛下に確認しておきたいけれど……って、あら?)
ワインレッドの瞳がぱちりと瞬いた。そして糸で引かれたように顔が分厚い扉へと向く。
一拍遅れて、密やかな声がした。
「サラージュ。無事か」
固く閉ざされたドアの向こうから響いた声は平素聞きなれない気づかわしげなトーンではあるが、聞き覚えがある。
「……陛下」
国王陛下だ。実にタイミングがいい。
ベッドから扉へと歩み寄れば、追随するようにじゃらりと真新しい鎖が音を立てた。以前のモノよりだいぶ重い。素人類用から龍種用のものに切り替えられたので仕方ないのだが。
「陛下、今」
「開けなくてよろしい。そなたに欠片でも余のにおいがついたらあれが暴走しかねん」
「もう十分暴走されているかと」
なにせ監禁である。理性と遵法精神があるものならばまず行わない。
ため息交じりの言葉を返せば、からからと王が笑った。
「ははは、暴走した獣人種が城内におったらまずそなたに触れたことのある者すべてが殺されておるわ」
軽やかな調子で飛び出した発言に、サラージュは思わず頭を抱える。
接触がなかったのはアレクシスを刺激しない為に機会を見計らっていた……というのはいいとして、まだ上があるらしい。
王はグリフォンの血が強く出た御仁だ。狼人とは系統が違うとはいえ、獣人系の生態についてはサラージュよりよほど実感を伴う形で把握している。この場面で嘘を言っても何の得にもならない以上、運命のつがいに絡んだ暴走とやらのすさまじさは事実なのだろう。
「……まことにございますか?」
「うむ。なにせ暴走だからな。――して、助けは必要か? 獣人種の本能とはいえ、非同意の行いは例にもれず司法の場で裁けるぞ」
神話の時代から異種族間におけるトラブルは多い。
価値観や認識範囲自体が違うために、判断基準を設けるのがひどく難しいのだ。
一方の種族では合法とされるものが他方の種族では非合法であることなどざらにあるだけでなく、片方の生態として必須のものがもう片方の生態には致死である――なんてどうしようもない摂理の問題まで絡んでくるのだから、当然だろう。
ましてや人間種がランダムに多様な種族の性質を帯びるようになってからは、『ここは人間種が主権を持つ国だから』という建前も通じなくなった。素人間の基準がまかり通る人間の方が少なくなってしまったのだから。
だからこそ、異なる性質を持つ者同士の交流に置いてはいかなる場合であっても「合意が取れている」ことがもっとも重視される。
無論、暗黙の了解でよしとされるなどという甘いことはない。首を縦に振るのが同意の種族と否定の種族が混ざり合っているのだから暗黙などドブに捨てろ、と言ったのは種族間交流黎明期に生きた大賢者だったか。
王族であっても、その原則は絶対だ。
そう示した王は、どうやら軽薄な調子とは裏腹にかなりの怒りを抱えているらしい。
ハレム型の本能を持つ彼には複数人の妃がいる。彼女たちを迎え入れるにあたって全員の同意を得るために奔走した話はこの国では有名な話だ。その際に見せつけた相手への敬意の示し方や一人一人の価値観のすり合わせ方法などは、婚姻以外の場でも応用されるほどに見事なものだったという。
そんな王が、届け出すら出さないまま強行された軟禁を許すはずもない。
(返答を間違えたら、殿下のことを廃嫡してしまいそうなお声ね)
国として考えれば優秀な第二王子がいるので大したダメージにはならないだろうことを思えば、まったく有り得ない話ではない。
王太子が禁を犯して廃嫡など醜聞もいいところだが、自浄作用が正常に働いていることを見せることもできるので最終的に収支はあうだろう。
サラージュ個人としてはこれまでの研鑽を生かす場がなくなるのは惜しいが、それだけだ。
だが、アレクシスはどうだろうか。
廃嫡されれば、アレクシスはこの先確実に生きにくくなるだろう。仮に衣食住を保証されたとしても、今の精神状態のままでは周囲からの『廃嫡子』というレッテルに耐えられるとは到底思えない。
よくて自害、悪くて発狂と言ったところだろうか。
どちらにせよ依存対象であるサラージュへと縋るのは目に見えているし、そんな状態の彼に縋りつかれて閉じ込められればさすがに正気を保つのは難しい。
いかなる罰が下されるにしても、まずは彼の精神の安定こそが急務である。
何より――あんな風に自分を傷つけながら苦しむ姿は、見ていられない。
(なんにせよ、やるしかないわね)
出来れば二人で穏やかな老後にたどり着きたいものだ。そんな風に思いながら息をついて、サラージュは返答する。
「そうですね……ひと月、待っていただけますか?」
その言葉に、扉の外の気配が意外そうに揺れた。
「おや、そなたの性格なら情は情として法に従うかと思ったが」
「それも考えましたが、さすがに溺れかけている仔犬を見捨てるほど情を捨てておりませんの。――さて、陛下。わたくし今、鎖につながれているのです。わたくしならば、容易く引きちぎれる程度の鎖に。それにうちの子も呼んでおりません」
「……なるほど、今の状況は同意のもとである、と?」
「まあ、引き込まれたのこそ急でしたが……発情期にお付き合いするときと同じと思えば」
詭弁の自覚はある。
たしかに特定の種の発現者にはおなじみの強烈な発情期において、パートナーと巣ごもりを行うのは合法である。しかし、サラージュがアレクシスに昏倒させられたのは多数の目撃されているはずだ。同意があればそんなことをする必要はないのだから、アレクシスの一方的な意思によるものだと誰が見ても明白である。
そもそも、さすがのサラージュも龍種用の鎖は引きちぎれない。
だが、扉の向こうの王はサラージュが武芸者であることをよくよく知っている。それでいて室内の様子は確認不可能。
それゆえに――この詭弁は通る。
その確信があった。
王自身と明瞭なやりとりができるほど意識がはっきりしていること。
脱出できる状況であるにもかかわらず脱出を試みないこと。
どこにでも現れることができるはずの従者を呼ぶことすらしないこと。
これらの事実を三点同時に手渡されれば、肯定はできずとも完全否定することもできなくなる。
それで十分だ。
のらりくらりと躱すようなサラージュの応答に、王が深々と息をついた。きっと珍しく眉間に深い皺が寄っているに違いない。
「その甘さが命取りになるかもしれんぞ」
「甘さ? まさか」
サラージュは、その言葉にぱちりと瞬いた。くつくつと喉が鳴る。ワインレッドの瞳が誰にも見られないまま、ギラリと凶暴な光を帯びる。夜のように美しくも獰猛な笑みが口元を彩った。
婚約者に壊れてほしくないという情は本物だ。
原因が自分にあるならばなんとかしてあげたいし、自分にしか救えないならば救いたいとも思う。
だが、それらと並行して、サラージュはうっすらとした苛立ちを覚えていた。
――ザルな警備、やる気のない拘束具、蝶よ花よと愛でるだけで脱出を諦めさせる策もない。
衝動的な犯行にしても、舐めているとしか思えない。
サラージュは騎士だ。戦う者だ。令嬢であることも少女であることも生まれ持った構成要素ではあるが、騎士はサラージュ自らが望んで勝ち得た立場。それゆえ、彼女の矜持が最も深く根付いている。
自分を天下無双と驕るつもりは毛頭ないし、彼が自分を大切にしていることもわかっている。だが――必要以上に軽んじられることは侮辱に他ならない。
(きっと、殿下にそのおつもりはないのでしょうけれど)
悪気があろうとなかろうと、アレクシスはわかり切った逆鱗に触れる真似をしたのだ。
ならば、理解していただかなくてはならないだろう。
「この程度でおめおめと領地に逃げ帰るなど、わたくしの矜持が許さないだけです」
サラージュ・ネクタルはか弱いお姫様などではないということを、しっかりと。
*
いかに騎士とは言えど、貴族令嬢が放つにはあまりに殺気立ち過ぎた声。それをドアの外で聞きながら、王は苦笑した。
幼少期から可愛がってきた親友の娘は、想定していたよりもずっと強く育っていたらしい。
「そなた、顔は母君譲りだが中身は祖父君によう似ておるな」
「ふふ、お褒めの言葉ありがとうございます」
サラージュの祖父は護国の将として名をはせた。その戦いぶりは苛烈にして緻密と知られているが、最も有名なのはけして折れることのなきその誇り高さである。
一歩間違えれば傲慢とも言われかねない姿勢で毅然と立ち続けたその姿は、半ば伝説に近い。
年頃の少女が似ていると言われれば揶揄されているように感じることもある人物ではあるが、サラージュにとっては尊敬すべきお爺様だ。
喜色を声にまで滲ませて、少女は歌うように言葉を続けた。
「つきましては――ご子息、調教しても構いませんわよね?」
軽やかな声とは裏腹に、少女が口にするにはあまりに背徳と違和感を含んだ言葉だ。
だが、王は驚くこともためらうこともなく一つ頷いてから、
「使い物になる程度にな」
と、おまけのように付け足した。
問題点がないわけではない。が、他の手とも言えない手よりは随分と実のある案に思える。
(手段さえあれば、陛下に確認しておきたいけれど……って、あら?)
ワインレッドの瞳がぱちりと瞬いた。そして糸で引かれたように顔が分厚い扉へと向く。
一拍遅れて、密やかな声がした。
「サラージュ。無事か」
固く閉ざされたドアの向こうから響いた声は平素聞きなれない気づかわしげなトーンではあるが、聞き覚えがある。
「……陛下」
国王陛下だ。実にタイミングがいい。
ベッドから扉へと歩み寄れば、追随するようにじゃらりと真新しい鎖が音を立てた。以前のモノよりだいぶ重い。素人類用から龍種用のものに切り替えられたので仕方ないのだが。
「陛下、今」
「開けなくてよろしい。そなたに欠片でも余のにおいがついたらあれが暴走しかねん」
「もう十分暴走されているかと」
なにせ監禁である。理性と遵法精神があるものならばまず行わない。
ため息交じりの言葉を返せば、からからと王が笑った。
「ははは、暴走した獣人種が城内におったらまずそなたに触れたことのある者すべてが殺されておるわ」
軽やかな調子で飛び出した発言に、サラージュは思わず頭を抱える。
接触がなかったのはアレクシスを刺激しない為に機会を見計らっていた……というのはいいとして、まだ上があるらしい。
王はグリフォンの血が強く出た御仁だ。狼人とは系統が違うとはいえ、獣人系の生態についてはサラージュよりよほど実感を伴う形で把握している。この場面で嘘を言っても何の得にもならない以上、運命のつがいに絡んだ暴走とやらのすさまじさは事実なのだろう。
「……まことにございますか?」
「うむ。なにせ暴走だからな。――して、助けは必要か? 獣人種の本能とはいえ、非同意の行いは例にもれず司法の場で裁けるぞ」
神話の時代から異種族間におけるトラブルは多い。
価値観や認識範囲自体が違うために、判断基準を設けるのがひどく難しいのだ。
一方の種族では合法とされるものが他方の種族では非合法であることなどざらにあるだけでなく、片方の生態として必須のものがもう片方の生態には致死である――なんてどうしようもない摂理の問題まで絡んでくるのだから、当然だろう。
ましてや人間種がランダムに多様な種族の性質を帯びるようになってからは、『ここは人間種が主権を持つ国だから』という建前も通じなくなった。素人間の基準がまかり通る人間の方が少なくなってしまったのだから。
だからこそ、異なる性質を持つ者同士の交流に置いてはいかなる場合であっても「合意が取れている」ことがもっとも重視される。
無論、暗黙の了解でよしとされるなどという甘いことはない。首を縦に振るのが同意の種族と否定の種族が混ざり合っているのだから暗黙などドブに捨てろ、と言ったのは種族間交流黎明期に生きた大賢者だったか。
王族であっても、その原則は絶対だ。
そう示した王は、どうやら軽薄な調子とは裏腹にかなりの怒りを抱えているらしい。
ハレム型の本能を持つ彼には複数人の妃がいる。彼女たちを迎え入れるにあたって全員の同意を得るために奔走した話はこの国では有名な話だ。その際に見せつけた相手への敬意の示し方や一人一人の価値観のすり合わせ方法などは、婚姻以外の場でも応用されるほどに見事なものだったという。
そんな王が、届け出すら出さないまま強行された軟禁を許すはずもない。
(返答を間違えたら、殿下のことを廃嫡してしまいそうなお声ね)
国として考えれば優秀な第二王子がいるので大したダメージにはならないだろうことを思えば、まったく有り得ない話ではない。
王太子が禁を犯して廃嫡など醜聞もいいところだが、自浄作用が正常に働いていることを見せることもできるので最終的に収支はあうだろう。
サラージュ個人としてはこれまでの研鑽を生かす場がなくなるのは惜しいが、それだけだ。
だが、アレクシスはどうだろうか。
廃嫡されれば、アレクシスはこの先確実に生きにくくなるだろう。仮に衣食住を保証されたとしても、今の精神状態のままでは周囲からの『廃嫡子』というレッテルに耐えられるとは到底思えない。
よくて自害、悪くて発狂と言ったところだろうか。
どちらにせよ依存対象であるサラージュへと縋るのは目に見えているし、そんな状態の彼に縋りつかれて閉じ込められればさすがに正気を保つのは難しい。
いかなる罰が下されるにしても、まずは彼の精神の安定こそが急務である。
何より――あんな風に自分を傷つけながら苦しむ姿は、見ていられない。
(なんにせよ、やるしかないわね)
出来れば二人で穏やかな老後にたどり着きたいものだ。そんな風に思いながら息をついて、サラージュは返答する。
「そうですね……ひと月、待っていただけますか?」
その言葉に、扉の外の気配が意外そうに揺れた。
「おや、そなたの性格なら情は情として法に従うかと思ったが」
「それも考えましたが、さすがに溺れかけている仔犬を見捨てるほど情を捨てておりませんの。――さて、陛下。わたくし今、鎖につながれているのです。わたくしならば、容易く引きちぎれる程度の鎖に。それにうちの子も呼んでおりません」
「……なるほど、今の状況は同意のもとである、と?」
「まあ、引き込まれたのこそ急でしたが……発情期にお付き合いするときと同じと思えば」
詭弁の自覚はある。
たしかに特定の種の発現者にはおなじみの強烈な発情期において、パートナーと巣ごもりを行うのは合法である。しかし、サラージュがアレクシスに昏倒させられたのは多数の目撃されているはずだ。同意があればそんなことをする必要はないのだから、アレクシスの一方的な意思によるものだと誰が見ても明白である。
そもそも、さすがのサラージュも龍種用の鎖は引きちぎれない。
だが、扉の向こうの王はサラージュが武芸者であることをよくよく知っている。それでいて室内の様子は確認不可能。
それゆえに――この詭弁は通る。
その確信があった。
王自身と明瞭なやりとりができるほど意識がはっきりしていること。
脱出できる状況であるにもかかわらず脱出を試みないこと。
どこにでも現れることができるはずの従者を呼ぶことすらしないこと。
これらの事実を三点同時に手渡されれば、肯定はできずとも完全否定することもできなくなる。
それで十分だ。
のらりくらりと躱すようなサラージュの応答に、王が深々と息をついた。きっと珍しく眉間に深い皺が寄っているに違いない。
「その甘さが命取りになるかもしれんぞ」
「甘さ? まさか」
サラージュは、その言葉にぱちりと瞬いた。くつくつと喉が鳴る。ワインレッドの瞳が誰にも見られないまま、ギラリと凶暴な光を帯びる。夜のように美しくも獰猛な笑みが口元を彩った。
婚約者に壊れてほしくないという情は本物だ。
原因が自分にあるならばなんとかしてあげたいし、自分にしか救えないならば救いたいとも思う。
だが、それらと並行して、サラージュはうっすらとした苛立ちを覚えていた。
――ザルな警備、やる気のない拘束具、蝶よ花よと愛でるだけで脱出を諦めさせる策もない。
衝動的な犯行にしても、舐めているとしか思えない。
サラージュは騎士だ。戦う者だ。令嬢であることも少女であることも生まれ持った構成要素ではあるが、騎士はサラージュ自らが望んで勝ち得た立場。それゆえ、彼女の矜持が最も深く根付いている。
自分を天下無双と驕るつもりは毛頭ないし、彼が自分を大切にしていることもわかっている。だが――必要以上に軽んじられることは侮辱に他ならない。
(きっと、殿下にそのおつもりはないのでしょうけれど)
悪気があろうとなかろうと、アレクシスはわかり切った逆鱗に触れる真似をしたのだ。
ならば、理解していただかなくてはならないだろう。
「この程度でおめおめと領地に逃げ帰るなど、わたくしの矜持が許さないだけです」
サラージュ・ネクタルはか弱いお姫様などではないということを、しっかりと。
*
いかに騎士とは言えど、貴族令嬢が放つにはあまりに殺気立ち過ぎた声。それをドアの外で聞きながら、王は苦笑した。
幼少期から可愛がってきた親友の娘は、想定していたよりもずっと強く育っていたらしい。
「そなた、顔は母君譲りだが中身は祖父君によう似ておるな」
「ふふ、お褒めの言葉ありがとうございます」
サラージュの祖父は護国の将として名をはせた。その戦いぶりは苛烈にして緻密と知られているが、最も有名なのはけして折れることのなきその誇り高さである。
一歩間違えれば傲慢とも言われかねない姿勢で毅然と立ち続けたその姿は、半ば伝説に近い。
年頃の少女が似ていると言われれば揶揄されているように感じることもある人物ではあるが、サラージュにとっては尊敬すべきお爺様だ。
喜色を声にまで滲ませて、少女は歌うように言葉を続けた。
「つきましては――ご子息、調教しても構いませんわよね?」
軽やかな声とは裏腹に、少女が口にするにはあまりに背徳と違和感を含んだ言葉だ。
だが、王は驚くこともためらうこともなく一つ頷いてから、
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と、おまけのように付け足した。
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