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5.鎖を引きちぎらない理由
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時を戻し、現在。
サンルームで昏倒してから目が覚めると、サラージュの身は別の部屋へと移されていた。
ここはアレクシスの私室の一つだ。ランプや燭台が壊される前に見えた調度品や間取りが幾度か訪れた時の記憶と合致している。
「――油断した、としか言いようがないわね」
サラージュは改めて自分の状況を整理して、ため息交じりに呟いた。
アレクシスは公務をこなすために留守にしているので、思案を嗅ぎ取られる心配はない。
(『運命』……ねえ。実在するのは知っていたけれど、まさか自分がそう言われるとは思っていなかったわね)
『運命のつがい』と呼ばれる現象がある。
獣人種の発現者を中心として感知される「この上なく遺伝子上の相性がいい存在」のことを示し、特に一夫一妻制をとる種に多く見られるものだ。ようは数より質を求めるようになった生物に見られる「よりよい相手」を見定める性質の極致のようなものだろう。
そして、その『運命』とやらは必ず存在するわけではないものの、この世に生まれ落ちているならば必ずその獣人種は相手を見つけ出す――らしい。その執着の強烈さから相性の良さを「致命的」と揶揄する声すらある。
アレクシスは狼人の血を強く引くヒトだ。彼がサラージュを『運命』と呼んだ以上、今回のことはそれが原因だと見て間違いない。
彼の『運命のつがい』と判定されたサラージュが――アレクシスにとって【この上ない相手】が、他のモノの手を取る可能性が少しでも生まれたことに耐えきれなかったのだ。
「陛下がハレム型だから、殿下もそうとばかり……まあ、言っていてもどうしようもないわね。これからどうしましょう」
親子で発現種が違うことなどザラにある。それを言い訳にしても何も始まらない。
今考えるべきは、閉じ込められているとう現実にどう対処するかだ。
(あの時からどれだけ時間が経ったかは、わからない)
時計を壊され、陽の光を遮断され、果ては散々甘やかされては眠ることを繰り返しているので体内時計もなにもあったものではない。だが、筋力の衰えなどは見られず、幾度か取らされた食事の回数もそう多くはない。この部屋に繋がれてから経過している実際の期間は一週間を超えていれば長い方だろう。
(城内である以上、捜索がそれほど難航するとは思えないわ。見捨てられた? ……いえ、発覚時にネクタルから責められることを陛下が看過されるとは思えない。有り得るとすれば、従者たちが揃ってサンルームでの出来事を隠蔽して、まだ陛下のお耳に届いていないとか……ないわね。あの場にはわたくしが連れてきた子たちもいたもの。少なくともあの二人であれば問答無用で探し回るわ。契約も問題なく繋がっている以上、数日見つけられないなんてまず無理。と、なれば……)
「自分で出てこい、ということかしらね?」
呟いて、サラージュは改めて自身の足を繋ぐ鎖に手をかけた。
金属製の武骨なソレは、線の細いその身を繋ぐには充分に見える。
――だが、幾度かガチガチと引いて具合をたしかめたサラージュは「呆れた」と言わんばかりに目を細めた。
「……引きちぎれなくはない、わね」
サラージュの体は、獣人の形質を持つうえに異性でもあるアレクシスと並べば確かに細い。だがそれは、か弱いだとか華奢だとかを意味しない。
国境を守る辺境伯の一員として相応しくあるよう日々努めるその肉体は、その身体機能と立場の許す上限いっぱいまで鍛え上げられている。王太子の婚約者という立場上公的な場に出ることもあるのでドレスに影響が出ないように気を配ってはいるものの、その実、この肉体を柔らかいと認識できるのはアレクシスが頑強な肉体を持つ獣人種だからに他ならない。
しなやかで弾力のある筋肉を絞り上げたが故の細身は、さすがに獣人相手に純粋な筋力勝負で挑めば競り負けることもあるが、非戦闘種用の拘束具で完全に動けなくなるはずもないのである。
(殿下ったら、わたくしの筋力忘れたのかしら。それとも、獣人基準の枷だと怪我をさせるとでも?)
侮りとも取れる鎖を指先で弄びながら、サラージュは重ねて思考する。
今すぐにでも外せるそれをそのままにしているのは、一つの懸念があるからだ。
(これを外して脱出したら、たぶん悪化するわよね)
獣人種のうち、生涯つがいと見初めたものだけを愛するタイプのものは総じて相手への依存傾向を持つ。
これは相手が『運命』であるか否かを問わず確認される性質だ。
マーキングに始まり、囲い込み、営巣、軟禁、監禁……独占欲の発露は枚挙にいとまがない。強弱こそ個体差があるとはいえ、つがいを先に亡くし気が狂ってしまったものもいると言う以上、その情の深さは余人の感覚で量ることはできない。
サラージュは別にアレクシスに狂ってほしいわけではないし、この蛮行も許してしまう程度には好ましいと思っているのだから。
(……初恋だもの、仕方がないわ)
幸いなるかな、アレクシスは王族としての責務を放棄する様子はない。
これでアレクシスが公務を放棄し、昼夜問わずサラージュの傍について離れないようなことがあれば、脱出はしないまでも枷を引きちぎって脅しの一つでもかけるところだったのだが。
それに、とため息をひとつついて、鎖を離した手で髪を掻き上げれば、軋みも縺れもない月白色の髪が指の間をしゅるりと滑った。身づくろいすべてを嬉々としてアレクシスが行い、外的な刺激がまるでなくなったからか、艶もコシもむしろ改善している気すらする。いっそ自慢と言っていいほどの仕上がりだ
「うちのメイドよりも手入れがお上手って、どういうことかしら……殿下自身の御髪は短くていらっしゃるのに」
ストレスのひとつも感じ取れない髪を手慰みに編み込みながら、サラージュはため息をつく。
――手櫛で編んでいるというのにあまりにすっきりと纏まっていくこの髪がいっそ荒れていたら、こんなにも対処に迷うこともなかったのに、と。
畢竟、アレクシスがしていることは、サラージュの行動をこれでもかと制限しているだけ。ただそれだけなのだ。
伽の一つにでも付き合わされるかと思っていたが、それもない。
性的なニュアンスを含んだ触れ方と言えば、サラージュの言葉を奪う時や意識を落とす際に施されるやたらと粘着質な深い口づけ程度。
この状況で嬉々として手を出されたいと思うほど歪んだ嗜癖は持っていないので、サラージュとしては助かるのだが……アレクシスが本能に従っているにしては、不自然であることは確かだろう。
これが彼がつがいを求める本能がとらせた囲い込み行動の一環であるのならば、むしろ抱き潰してひたすら孕ませようとするのが自然な行動だ。
いかにロマンティックでお伽話のような響きをしていようが、『運命のつがい』とはそういうものである。
(殿下が我慢している? でも、そうする理由がないわ)
貞操を慮って? ――数年前に訪れた発情期の関係で既に契りを済ませている。今更だ。
了承を得ずに懐胎させることへの危惧が残っている? ――正式な婚姻までの保護処置としてアレクシスにもサラージュにも避妊魔術がかけられている。仮に行為に及んだとしても実際に実を結ぶことはない。
では反対に、避妊魔術があるから無意味として抱かないのか? ――精を注ぐ行為自体がマーキングとして有効だ。囲い込みに走るほどの独占欲ならば、むしろ実行しない手はないだろう。
考え得る理由はどれも反証が可能で、ただ眼前に横たわる「アレクシスはサラージュを閉じ込めている」という事実だけが確かだ。
(殿下は、何を考えておられるのかしら)
わからない。だからこそ、悩む。
このまま安穏としていていいとは思わないが、脱出は悪手。説得はそもそも対話状態に持ち込めないとなると、もはやサラージュに残されているのは機を待つほかには武力制圧くらいしかない。
まともな武器になりそうなものを取り上げられている以上格闘勝負になるだろうが、勝率は五分といったところか。殺害を目的とするのであればもう少し確率は上がるが、それをする気は毛頭ない。
失敗すれば今度こそ両手両足を拘束されるだろうし、『脱出の傾向あり』と認識され、かろうじて行っている公務さえ放棄しはじめる可能性は極めて高い。
つまり、一回だけで一方的な縛りをかけた格闘勝負に勝ち、その上で彼をこちらの意図に添うように篭絡――あるいは完全に屈服させなくてならないのだ。
(確度が低いくせに、リスクが高すぎる)
行動の難易度は勿論だが――なにより、サラージュにとっての心理的な壁があまりにも大きい。
アレクシスを一人前にするための方便ならばまだしも、「自分の拘束」を解くために職務放棄の可能性が飛躍的に跳ね上げる行動をとる。それは、民草への献身で織りなした貴族令嬢としての責任感が人一倍強い彼女にとって下策も下策。
検討リストから外すには十分すぎる理由だった。
(どうすればいいのかしらね)
そして思考はふりだしに戻る。
サンルームで昏倒してから目が覚めると、サラージュの身は別の部屋へと移されていた。
ここはアレクシスの私室の一つだ。ランプや燭台が壊される前に見えた調度品や間取りが幾度か訪れた時の記憶と合致している。
「――油断した、としか言いようがないわね」
サラージュは改めて自分の状況を整理して、ため息交じりに呟いた。
アレクシスは公務をこなすために留守にしているので、思案を嗅ぎ取られる心配はない。
(『運命』……ねえ。実在するのは知っていたけれど、まさか自分がそう言われるとは思っていなかったわね)
『運命のつがい』と呼ばれる現象がある。
獣人種の発現者を中心として感知される「この上なく遺伝子上の相性がいい存在」のことを示し、特に一夫一妻制をとる種に多く見られるものだ。ようは数より質を求めるようになった生物に見られる「よりよい相手」を見定める性質の極致のようなものだろう。
そして、その『運命』とやらは必ず存在するわけではないものの、この世に生まれ落ちているならば必ずその獣人種は相手を見つけ出す――らしい。その執着の強烈さから相性の良さを「致命的」と揶揄する声すらある。
アレクシスは狼人の血を強く引くヒトだ。彼がサラージュを『運命』と呼んだ以上、今回のことはそれが原因だと見て間違いない。
彼の『運命のつがい』と判定されたサラージュが――アレクシスにとって【この上ない相手】が、他のモノの手を取る可能性が少しでも生まれたことに耐えきれなかったのだ。
「陛下がハレム型だから、殿下もそうとばかり……まあ、言っていてもどうしようもないわね。これからどうしましょう」
親子で発現種が違うことなどザラにある。それを言い訳にしても何も始まらない。
今考えるべきは、閉じ込められているとう現実にどう対処するかだ。
(あの時からどれだけ時間が経ったかは、わからない)
時計を壊され、陽の光を遮断され、果ては散々甘やかされては眠ることを繰り返しているので体内時計もなにもあったものではない。だが、筋力の衰えなどは見られず、幾度か取らされた食事の回数もそう多くはない。この部屋に繋がれてから経過している実際の期間は一週間を超えていれば長い方だろう。
(城内である以上、捜索がそれほど難航するとは思えないわ。見捨てられた? ……いえ、発覚時にネクタルから責められることを陛下が看過されるとは思えない。有り得るとすれば、従者たちが揃ってサンルームでの出来事を隠蔽して、まだ陛下のお耳に届いていないとか……ないわね。あの場にはわたくしが連れてきた子たちもいたもの。少なくともあの二人であれば問答無用で探し回るわ。契約も問題なく繋がっている以上、数日見つけられないなんてまず無理。と、なれば……)
「自分で出てこい、ということかしらね?」
呟いて、サラージュは改めて自身の足を繋ぐ鎖に手をかけた。
金属製の武骨なソレは、線の細いその身を繋ぐには充分に見える。
――だが、幾度かガチガチと引いて具合をたしかめたサラージュは「呆れた」と言わんばかりに目を細めた。
「……引きちぎれなくはない、わね」
サラージュの体は、獣人の形質を持つうえに異性でもあるアレクシスと並べば確かに細い。だがそれは、か弱いだとか華奢だとかを意味しない。
国境を守る辺境伯の一員として相応しくあるよう日々努めるその肉体は、その身体機能と立場の許す上限いっぱいまで鍛え上げられている。王太子の婚約者という立場上公的な場に出ることもあるのでドレスに影響が出ないように気を配ってはいるものの、その実、この肉体を柔らかいと認識できるのはアレクシスが頑強な肉体を持つ獣人種だからに他ならない。
しなやかで弾力のある筋肉を絞り上げたが故の細身は、さすがに獣人相手に純粋な筋力勝負で挑めば競り負けることもあるが、非戦闘種用の拘束具で完全に動けなくなるはずもないのである。
(殿下ったら、わたくしの筋力忘れたのかしら。それとも、獣人基準の枷だと怪我をさせるとでも?)
侮りとも取れる鎖を指先で弄びながら、サラージュは重ねて思考する。
今すぐにでも外せるそれをそのままにしているのは、一つの懸念があるからだ。
(これを外して脱出したら、たぶん悪化するわよね)
獣人種のうち、生涯つがいと見初めたものだけを愛するタイプのものは総じて相手への依存傾向を持つ。
これは相手が『運命』であるか否かを問わず確認される性質だ。
マーキングに始まり、囲い込み、営巣、軟禁、監禁……独占欲の発露は枚挙にいとまがない。強弱こそ個体差があるとはいえ、つがいを先に亡くし気が狂ってしまったものもいると言う以上、その情の深さは余人の感覚で量ることはできない。
サラージュは別にアレクシスに狂ってほしいわけではないし、この蛮行も許してしまう程度には好ましいと思っているのだから。
(……初恋だもの、仕方がないわ)
幸いなるかな、アレクシスは王族としての責務を放棄する様子はない。
これでアレクシスが公務を放棄し、昼夜問わずサラージュの傍について離れないようなことがあれば、脱出はしないまでも枷を引きちぎって脅しの一つでもかけるところだったのだが。
それに、とため息をひとつついて、鎖を離した手で髪を掻き上げれば、軋みも縺れもない月白色の髪が指の間をしゅるりと滑った。身づくろいすべてを嬉々としてアレクシスが行い、外的な刺激がまるでなくなったからか、艶もコシもむしろ改善している気すらする。いっそ自慢と言っていいほどの仕上がりだ
「うちのメイドよりも手入れがお上手って、どういうことかしら……殿下自身の御髪は短くていらっしゃるのに」
ストレスのひとつも感じ取れない髪を手慰みに編み込みながら、サラージュはため息をつく。
――手櫛で編んでいるというのにあまりにすっきりと纏まっていくこの髪がいっそ荒れていたら、こんなにも対処に迷うこともなかったのに、と。
畢竟、アレクシスがしていることは、サラージュの行動をこれでもかと制限しているだけ。ただそれだけなのだ。
伽の一つにでも付き合わされるかと思っていたが、それもない。
性的なニュアンスを含んだ触れ方と言えば、サラージュの言葉を奪う時や意識を落とす際に施されるやたらと粘着質な深い口づけ程度。
この状況で嬉々として手を出されたいと思うほど歪んだ嗜癖は持っていないので、サラージュとしては助かるのだが……アレクシスが本能に従っているにしては、不自然であることは確かだろう。
これが彼がつがいを求める本能がとらせた囲い込み行動の一環であるのならば、むしろ抱き潰してひたすら孕ませようとするのが自然な行動だ。
いかにロマンティックでお伽話のような響きをしていようが、『運命のつがい』とはそういうものである。
(殿下が我慢している? でも、そうする理由がないわ)
貞操を慮って? ――数年前に訪れた発情期の関係で既に契りを済ませている。今更だ。
了承を得ずに懐胎させることへの危惧が残っている? ――正式な婚姻までの保護処置としてアレクシスにもサラージュにも避妊魔術がかけられている。仮に行為に及んだとしても実際に実を結ぶことはない。
では反対に、避妊魔術があるから無意味として抱かないのか? ――精を注ぐ行為自体がマーキングとして有効だ。囲い込みに走るほどの独占欲ならば、むしろ実行しない手はないだろう。
考え得る理由はどれも反証が可能で、ただ眼前に横たわる「アレクシスはサラージュを閉じ込めている」という事実だけが確かだ。
(殿下は、何を考えておられるのかしら)
わからない。だからこそ、悩む。
このまま安穏としていていいとは思わないが、脱出は悪手。説得はそもそも対話状態に持ち込めないとなると、もはやサラージュに残されているのは機を待つほかには武力制圧くらいしかない。
まともな武器になりそうなものを取り上げられている以上格闘勝負になるだろうが、勝率は五分といったところか。殺害を目的とするのであればもう少し確率は上がるが、それをする気は毛頭ない。
失敗すれば今度こそ両手両足を拘束されるだろうし、『脱出の傾向あり』と認識され、かろうじて行っている公務さえ放棄しはじめる可能性は極めて高い。
つまり、一回だけで一方的な縛りをかけた格闘勝負に勝ち、その上で彼をこちらの意図に添うように篭絡――あるいは完全に屈服させなくてならないのだ。
(確度が低いくせに、リスクが高すぎる)
行動の難易度は勿論だが――なにより、サラージュにとっての心理的な壁があまりにも大きい。
アレクシスを一人前にするための方便ならばまだしも、「自分の拘束」を解くために職務放棄の可能性が飛躍的に跳ね上げる行動をとる。それは、民草への献身で織りなした貴族令嬢としての責任感が人一倍強い彼女にとって下策も下策。
検討リストから外すには十分すぎる理由だった。
(どうすればいいのかしらね)
そして思考はふりだしに戻る。
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