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1章

俺はあたしで、あたしが俺で

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「どうしよっかなー… このテスト……」

俺は学校帰りに呟いた。

なんで0点なんだ?
中学1年の時は、名前を書いただけで10点ぐらいはくれてたのに…
担任が代わってからだよ。
こんなに厳しくなったのは…

…にしても、どうしよう?
また母ちゃんにシバかれちまう。

う~… 足が重い。
大体、なんでテストなんてもんがあるんだ?
テストの点じゃなくて、俺を見てくれよ。
色々あるけど、70点ぐらいの出来だと思うぜ。
0点って言うのは、あまりにも酷すぎるじゃねーか!!!

何度見ても0点のテスト。

一度カバンに入れて、見直してみても0点のまま。

こうなったら
いっそ食っちまおうか…

いやいや、ヤギじゃねーし…

俺って素直だから、顔に出ちまうからな~…
絶対、母ちゃんにバレちまう…


この前だって、帰ったとたん、「今日テスト返して貰ったでしょ!」って、俺の前に仁王立ち。
どうも、同じクラスの奴に聞いたらしい。

「は、は、腹痛ぇ~!」

なんとかトイレに逃げ込んだものの、外からドアを叩きまくりやがる。
ホラー映画のゾンビに襲われる気持ちがよくわかる。

赤ペンを取り出し、0点の左横に10を書き足す。

大きく深呼吸…

よしっ!

満面の笑顔でトイレから出て、テストを見せた。

「…ふ~ん、100点ね…… 嘘つけっ!」


次の瞬間、母ちゃん得意のケツキック炸裂!

そりゃそうだ。
丸が1つもない100点のテストだなんて、有り得ない。


ホントにどうしよう…
これで連続3回目の0点だからなぁ~…
こんなの見せたら何が起きるかわかんね~ぞ。


「お~い! 待ってくれ~!!!」

後ろから聞き覚えのある声。
振り向くと、向こうから担任が走って来る。

「ごめん、ごめん、テストを間違って返しちゃって… はい、これが正しいお前のテスト…」

渡されたテストを見ると、なんと100点!!!

何かの間違いと思い、名前を見ると、確かに俺の字で俺の名前が書いてある。

どう考えても変。
目をこすり再確認。
ある…たしかに100点のテストが俺の手の中に…


♪神さまありがとぉ~ぅ
 僕に100点をくれぇ~てぇ~…


まさにラスカルに出会えた気持ち。


よしっ!
テストを握り締め、家まで走ろうとした時。

「まてぇ~い!!!」

また聞き覚えのある声。
でも今度は、あまり聞きたくない方の声。


恐る恐る振り向くと、そこには仁王立ちの母ちゃんが…!!!


怒りのケツキック炸裂。
吹っ飛ぶ俺。


あ~テストが飛んで行くぅ~…


テスト… テスト… テスト……





「痛ってぇ~…」

ホントに目から星が出るもんだね。

ひっさびさにベットから転げ落ちちまった。

最悪の目覚め。
でも夢で良かった…


時計の針は8時を指していた。

午前8時か…

えっ! 8時!!!


やべっ! 学校!!!


慌てて立ち上がり、セーラー服に着替えてカーテンを開ける。

やっぱいくら俺でも、14歳の女の子が下着姿でカーテンを開ける訳にはいかないだろ。

階段を飛び降り、食卓のトーストをくわえ、家を飛び出す。

「どうして、もっと早く起きれないの… も~う… 毎日、毎日…」

そう思うなら、母ちゃん起こしてくれよ。


やばっ!
あと10分しかない。

でも走るしかない!

制服のボタンなどを留めながら走るのって、なかなか難しいんだぜ。

凄い格好の女子中学生が、猛スピードで商店街を走り抜けて行く…

最初の頃は、みんなビックリして見てたらしいけど、最近じゃ俺が朝の風物詩になってるらしい。
学校が休みの朝は、この「1人全力走」が見れないから、寂しいんだってさ。

「あんた休みの日も走りなさいよ!」

なんか母ちゃんが、薬局店のオヤジからスポーツドリンクを貰ってきた。

商店街では、俺が陸上部でトレーニングの為に毎朝走ってるって噂なんだと。
「頑張ってね♪」なんて、オヤジから渡されたんだってさ。

「あんたの夢はオリンピックになってるのよ。みんなの応援に応えなくっちゃ…ね!」

「ね」じゃね~よ!
噂の発信元は、絶対お前だろ~が!

まあ、こんな親だから、俺がこんな風になったんだろうけど…


ホームルーム中の静まり返る教室。

髪の毛を振り乱したまま、いつものように、そっと後ろの扉から教室に潜入。

「お~い!相沢!…隠れたって見えてるぞ~!」

はい、はい。
わかってますっとも。

一応、立場上、申し訳無さそうに入った方が良いと思いまして。


相沢……

そう、話しの進行上、自己紹介なんぞしなくてはいけないんでしょうね。

俺の名前、相沢奈々子。
只今、思春期真っ只中の14歳。
中学2年生。

…で、なんで女の子なのに「俺」なんだって?
俺だって、自分の友達にそんな奴がいたら気持ち悪いよ。
だから一応人前では「あ・た・し」なんて言うんだぜ。
あ~痒くなる。

俺、すなわち奈々子ちゃんは、7人兄弟の末っ子なわけ。
…で、なんと7人中6人が男… 男だぜ!
どうしても女の子が欲しくて頑張ったらしい。

最初は、やっと女の子が出来たって事で、凄く大切にされたらしいけど、なんたって7人兄弟。
俺だけに構ってられる訳も無く、兄貴たちが面倒を見る事に…

兄貴が6人って強烈だよ。
話しによると、女の子ってもんは、お人形さんやままごとで遊ぶらしいけど、うちにそんなものがある訳がない。

やっぱ、男は黙ってプロレスでしょ。
兄貴たちのウエスタンラリアートやアックスボンバーを何回くらった事か…

最悪だったのが服装。
上からどんどん下がって来る「おさがり方式」。
2、3人なら良いけど、うちは7人兄弟。
うちが貧乏だったのもあるんだけど、そりゃ俺のところに来る頃にゃ、ボロボロのつぎはぎだらけな訳で…

家で散髪をしてたのもあって、何回男の子に間違えられた事か…

「みんな同じにすれば喧嘩しなくて良いでしょ!」

兄弟揃って、半袖半ズボンにおかっぱ頭。

母ちゃん、おそ松くんじゃないんだから…

「何言ってんのよ! おそ松は6人、うちは7人、あんなマンガみたいな兄弟と一緒にするんじゃないわよ! うちの方が1人多いから凄いのよ!」

ああ、母ちゃん……


中学生になる時に大喧嘩。

「なんであんただけ新しい制服が必要なのよ!」

母ちゃん、いくらなんでも学ランは無理だよ…

しかし、全く引かない母ちゃん。
この後、なにやら秘密めいた行動に…

結局、兄貴たちが説得してくれたのもあって、なんとかセーラー服ゲット!

やっと普通の女の子らしく見えるようになった訳で。

中学生になったんで、少しでも女の子らしくしようと髪の毛もちょっとだけロングに。

兄貴たちは「おそ松くんのイヤミか?」と大笑い。

うるせー!
おばあちゃんに泣いて頼まれたんだよ。
「頼むから中学生になったら女の子になってくれ」って…

でもいくらセーラー服を着たって、中身までは変えられない。

ガニ股のイヤミのセーラー服……

せっかく昔の俺を知らない花の中学生活が始まると思ってたのに、少しずつ周りが気づき始めやがった。


夏休みに入る直前のある日。

「あ~い~ざ~わ~!」

クラスの番長から、いつものようにからかわれる。

いつものように無視。

「おい!オトコオンナのあ~い~ざ~わ~!」

その口調、何度聞いてもムカつく。

「ちょ、やめてよ!」

クラスの同級生の女の子が捕まった。

「こいつがな~最近何かにつけてお前の事になると、文句を言って来やがるんだよ~!」

腕を掴まれて、もがく女の子。

「こいつ、ひょっとしてお前の事が好きなんじゃね~の?」

クラス中から「ヒューヒュー」などのヤジが飛ぶ。

「お前を好きだって事は、こいつもオトコオンナの変態かぁ~!」

響き渡る笑い声。
「ヘ~ンタイ! ヘ~ンタイ!」の大合唱。

女の子はうつむいて半泣き状態。

「ほら! 変態同士、仲良くしな!」

突き飛ばされた女の子は、俺の足元で転んでしまった。

「あ、相沢… あたしのせいでごめんね。き、気にしないでね。あたし大丈夫だから…」


兄貴たちが教えてくれた。


女の子を泣かす奴は、最低の人間だって。


女の子に暴力を振るう奴は、人間のクズだって。


おばあちゃん、ごめん。
もう我慢出来ない……


「お前、ちょっと来い!!!」

番長の胸元を掴んで、教室から引きずり出す。

「な、なんだお前!」

必死にもがくけど、逃げられる訳ないじゃん。
こっちは幼い頃から、6人の男相手に喧嘩してんだ。
兄貴たちに教えられてんだよ。
本気で喧嘩をする時は、周りの物が壊れないように、広いところでやれってね。


数分後、運動場をパンツ一枚で泣きながら走り去る番長の姿が…


こう言う世間の仕組みって、どうにかなんないものかな~。
この番長、実はPTA会長の息子。

今回の事件が、中学校設立以来の大事件になったようで…

母ちゃんと一緒に学校に呼び出された。


「相沢君は今まで大人しくて良い生徒だったんですけどね…」

そりゃ良い生徒に決まってるだろ。
おばあちゃんに泣いて頼まれたんだから。

ブツブツ続く学校側の説明。
特にPTA側の怒りが凄かった。

「こんな乱暴な女子生徒を学校に置いていると…」とか「健全な学校生活の風紀が…」とか、好きな事を言いやがる。

お前たち、なぜこんな事になったのか、ちゃんと調べたのかよ。
一方的に勝手なこと言いまくりやがって…

さすがに話しが、母ちゃんの育て方に向かい出すと我慢の限界。

母ちゃんは全く関係ね~だろうが!!!

立ち上がって校長に掴み掛かろとすると、俺より先に母ちゃんが立ち上がった。

「だから私は何度も学ランを着せてくれって頼みに来たじゃないですか!!!」

……母ちゃん。

本気で学校に、訴えに来てたのね……


夏休みに入る事もあって、見事に退学。

絶対、俺だけが原因じゃないと思うんだけど…
あの後、俺より母ちゃんに対する罵声が多かったような…

ちっちゃな町だったから、噂もあっという間に広がり、住みづらくなって引っ越す事に。

…で、去年の2学期から、こっちの中学校になったんだ。
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