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【第三章】お夏の復讐(四)
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やがて季節は夏も過ぎ、秋を迎えようとする頃のことだった。お夏は不思議な夢を見た。
……いつの頃かわからない遠い昔のことである。材木商の武吉は、遊郭で誤って相手の遊女を刺殺してしまう。御上の追っ手を恐れながら必死に逃げる武吉は、不覚にも足を滑らせ、崖から転落する。
幸運にして武吉は九死に一生をえる。たまたま近くを通りかかった商人の娘お達による、献身的な看病によるものだった。やがて二人は愛しあい、結婚をも誓う。しかし幸福は長くは続かなかった。御上の追っ手は、容赦なく迫っていたのである。
ある日、武吉は結婚の前祝いだといって、お達に簪を贈呈する。しかし実は、その簪は武吉が殺した遊女の物だったのである。実は武吉が、達を遊女殺しの犯人に仕立てあげるための罠だったのである。やがて御上の追っ手が迫り、簪が証拠で達は牢にいれられてしまう。
さすがに武吉は、達を罪人にしてしまったことを後悔した。自ら達のいる牢を訪ねて、まず事をわびた。
「出てって! もう二度とあなたの顔なんて見たくもない! 人を呼ぶわよ!」
達は激高するも、武吉は役人に金銭を支払うことで、必ず助けだすという。
「当たり前だろ。じゃないと、もう一度お前の顔をみるためにここにこない。俺は本心からお前を愛しているからさ。もうじき金が入るそれまでの辛抱だ。そしたらここを出て、二人でもう一度やりなおそう」
人のいい達は武吉を信じてしまうが、結局、武吉は戻ってこなかった。商売に失敗して金をつくることはできず、そして他に女ができてしまったのである。やがて厳しい冬がやってくる。武吉を信じて待ち続けた達であったが、牢の寒さにたえきれず、ついに命を落としてしまった。
一方、武吉はというと他の女と結婚して、やがて由利という名の娘ができる。達のことなど忘れた頃に事件はおきる。由利が山で行方不明になってしまったのである。村中総出で捜索したところ、行方不明になった翌日、昼頃に屋敷の近くで救助された。
「今までどこに行ってたんだ!」
「ごめんなさい。私迷子になって……」
と由利は泣きながらいう。
「でも青白い顔をした女の人が助けてくれて、それでここまで送ってくれたの」
「青白い顔……? まあいずれにせよ無事でよかった」
安堵したその時だった。武吉は由利が、今まで見たことのない簪を頭にさしていることに気づいた。
「お前、その簪はどうした?」
問いつめると、簪は問題の青白い顔の女からもらったという。武吉は簪を改めて手にしてみて真っ青になった。武吉が殺した遊女がつけていて、やがて達に渡した簪だったからである。
「恨みは決して忘れない! 例え幾度生まれ変わっても!」
そこで夏は夢からさめた。すでに夢の内容はほとんど忘れていた。隣りで将軍が寝息をたてている。
「そろそろ決着をつけるとするか……」
お夏は不気味な笑みをうかべた。
……いつの頃かわからない遠い昔のことである。材木商の武吉は、遊郭で誤って相手の遊女を刺殺してしまう。御上の追っ手を恐れながら必死に逃げる武吉は、不覚にも足を滑らせ、崖から転落する。
幸運にして武吉は九死に一生をえる。たまたま近くを通りかかった商人の娘お達による、献身的な看病によるものだった。やがて二人は愛しあい、結婚をも誓う。しかし幸福は長くは続かなかった。御上の追っ手は、容赦なく迫っていたのである。
ある日、武吉は結婚の前祝いだといって、お達に簪を贈呈する。しかし実は、その簪は武吉が殺した遊女の物だったのである。実は武吉が、達を遊女殺しの犯人に仕立てあげるための罠だったのである。やがて御上の追っ手が迫り、簪が証拠で達は牢にいれられてしまう。
さすがに武吉は、達を罪人にしてしまったことを後悔した。自ら達のいる牢を訪ねて、まず事をわびた。
「出てって! もう二度とあなたの顔なんて見たくもない! 人を呼ぶわよ!」
達は激高するも、武吉は役人に金銭を支払うことで、必ず助けだすという。
「当たり前だろ。じゃないと、もう一度お前の顔をみるためにここにこない。俺は本心からお前を愛しているからさ。もうじき金が入るそれまでの辛抱だ。そしたらここを出て、二人でもう一度やりなおそう」
人のいい達は武吉を信じてしまうが、結局、武吉は戻ってこなかった。商売に失敗して金をつくることはできず、そして他に女ができてしまったのである。やがて厳しい冬がやってくる。武吉を信じて待ち続けた達であったが、牢の寒さにたえきれず、ついに命を落としてしまった。
一方、武吉はというと他の女と結婚して、やがて由利という名の娘ができる。達のことなど忘れた頃に事件はおきる。由利が山で行方不明になってしまったのである。村中総出で捜索したところ、行方不明になった翌日、昼頃に屋敷の近くで救助された。
「今までどこに行ってたんだ!」
「ごめんなさい。私迷子になって……」
と由利は泣きながらいう。
「でも青白い顔をした女の人が助けてくれて、それでここまで送ってくれたの」
「青白い顔……? まあいずれにせよ無事でよかった」
安堵したその時だった。武吉は由利が、今まで見たことのない簪を頭にさしていることに気づいた。
「お前、その簪はどうした?」
問いつめると、簪は問題の青白い顔の女からもらったという。武吉は簪を改めて手にしてみて真っ青になった。武吉が殺した遊女がつけていて、やがて達に渡した簪だったからである。
「恨みは決して忘れない! 例え幾度生まれ変わっても!」
そこで夏は夢からさめた。すでに夢の内容はほとんど忘れていた。隣りで将軍が寝息をたてている。
「そろそろ決着をつけるとするか……」
お夏は不気味な笑みをうかべた。
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