のんあくしょん!

須江まさのり

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出会いの話でどうしよう……。

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 それは真由ちゃんとお祭りに行った時の事だった。

 金魚すくいをするか綿あめを買うか、それを決めようかどうかと迷っていた私は、気が付くと人混みの中で真由ちゃんとはぐれて一人っきりになってしまっていた。

 私は、持ち前の優柔不断さでどうしていいのかも分からず、その場でただただオロオロと立ち尽くしていると、酔っ払いのおじさん3人組に絡まれてしまい、上手く対応する事も出来なかった私はそのまま連れて行かれそうになってしまったのだけど……。

 そんな所を、偶然通りかかった野村君に助けられたのだ。


**


「やあ久しぶり。何してるの? その人達お知り合い?」

 その時は全くの初対面で、そんな言葉は私に助け船を出すために知り合いを装った演技だったのだけど……。

 動揺しまくっていた私は、その言葉に対して「え? ええ?」と戸惑う事しかできなくて……。

「何だテメーは? 知り合いじゃねーだろ?」

「せっかく俺達がナンパに成功したのを横取りに来やがったのかよ?」

「いや、傍から見てたらこの子は口に出して言えないだけで思いっきり嫌がってるようだったし、どう考えても良い感じになるようには見えなかったから、両方の顔も立つような形で助けに入ろうとしたんだけどなぁ……」

「正義の味方気取りでこっちのやり取りに割って入ってんじゃねえぞ、このクソガキが!」

 という感じで、あれよあれよという間に乱闘騒ぎになってしまった。

 相手は三人だし、助けを呼ぶべきかどうかと迷いながらもスマホを取り出そうとあたふたしているうちに、野村君はあっさりとそのガラの悪いおじさん達を既にノックアウトしていて……。

「大丈夫かい?」

 オロオロと泣くことしかできなかった私に、さわやかな笑顔でそう言ってくれた男子にときめきながら、少女漫画の主人公よろしく恋の始まりを感じた時だった。

「ノンちゃん、大丈夫っ!?」

 そこに騒ぎに気付いた真由ちゃんがやってきて……。

「いったい何の騒ぎですか!?」

 ついでに、お巡りさんもやってきて……。

 真由ちゃんは、私の代わりにお巡りさんに言った。

「こいつらが、この子にいたずらしようとして仲間割れをしたんです!!」

 と、その場で伸びている酔っ払いたちを指差したのだけれど、その指先が示す先には私を助けた野村君も含まれていて……。

「え? ええ!? そ、そうじゃなくて…もがっ!?」

「ノンちゃん怖かったわね! あなたを襲った犯罪者達がおまわりさんに連れて行かれるまで、あたしの胸で泣いて忘れるといいわ」

 勘違いを正そうとした私の口を塞ぐかのように真由ちゃんはそう言うと、その小柄な体からは想像できないほどの強さで私の体をぎゅっと抱きしめ……。口を塞がれてしまい呻き声を上げている間に、野村君は酔っ払いのおじさん達と共にパトカーで連れていかれてしまったのだった……。

 ……それが真由ちゃんの単なる思い込みや勘違いではなく、たぶん確信的にやっているのだからタチが悪いとしか言いようが無い……。

 野村君は彼女の中の法律で『自分を差し置いて私に馴れ馴れしく声を掛けた』という罪で警察送りになったのだ……。


**


 それで、私に芽生えかけた初恋は終わり……。
 の筈だったのだけれど……そんな夏休みも終わり、新学期が始まった日。

「転校生を紹介する。今日から一緒に学ぶ事になった野村寿蔵君だ」

 偶然にも彼は私のクラスへと転校してきて……。

 私は再び少女漫画のヒロインになった気分で、その奇跡的な運命に心から感謝を捧げた。

 のと同時に、真由ちゃんの歯ぎしりがクラスに響き渡った。

 野村君は……。その壮絶な歯ぎしりに気を取られて、というか真由ちゃんの記憶が強烈過ぎて、私の事を思い出してくれたのがそのついでみたいな感じになってしまった……のだけれど……。

……あれ? これ、私の親友の思い出話だよね?

……なんだかこんな女の子が私の唯一の親友でいいの!? という気がしてきた……。

 そんな感じで私を異常に独占したがる彼女なんだけど、私はそんな真由ちゃんの事が嫌いにはなれない。

 だって、真由ちゃんは私を誰よりも理解してくれて優先してくれる(野村君に関する事以外は、だけれど……)。

 そんな感じで、ファーストコンタクトから二人の仲は最悪で、それに巻き込まれる形で私も野村君とまともに会話する事もままならない日々を送っていた……。

 そうこうしているうちに、それまで事あるごとに私と彼の接触を妨害してきた真由ちゃんが不登校になって……。

 その結果、こうして初めて野村君と二人っきりという状況になれたのだけれど……私は『できたら3人で仲良くしたいなぁ……』とも思っていた……。
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