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真由ちゃんどうしよう……。
しおりを挟む中居真由(なかい まゆ)……。
内気な私にとって、この学校の中で友達といえるのは彼女だけだった。
私よりも背が小さい女の子なのだけれど、その性格は私とは正反対で、頭の回転も速くて明るく社交的。どんな相手にも言いたい事もはっきりと口にする。そんな、私の理想像の塊みたいに行動的な女の子だ。
「今まで住谷さんは、いつも中居に守られてるみたいな感じだったからなぁ」
野村君はテキパキと作業をこなしながらそう言った。
「……う、うん」
それは言われなくても分かっている。
私が今まで自己主張をしてこないで学校生活を送れていたのは、その必要が無かったからだと言ってもいい。
小学校の頃から親友だった真由ちゃんはいつも私のそばに居て、言いたい事は彼女が代わりに言ってくれていた。
そのお蔭もあって私は、こんな優柔不断で引っ込み思案な性格なのにもかかわらず、今までの学校生活は快適だったし、深刻なイジメに合った事も無いのだけれど……。
そんな真由ちゃんは数週間前から唐突に学校に来なくなっていた。
「あいつは登校拒否なんてガラじゃないと思うけど、なんで学校に来ないのかな? 住谷さんは何か聞いてないの?」
「う……うん。『色々と忙しくなったから学校にも行けないし会うこともできないけど、ケガや病気じゃないから心配しなくていい』って……、そんな感じの電話があったきりで……」
「それから、住谷さんは連絡とかしてみたの?」
「う、ううん……。これまでもそんな感じで学校休んだりする子だったから、何日かしたらまた普通に学校に来るんだろうなって思っているうちに、なんだか時間が経っちゃって……。こっちから連絡入れて迷惑になっても悪いし……」
それは本当。
でも、嘘でもある。
本当は、こちらから連絡できないのは、どう話を切り出せばいいのか何から訊けばいいのかも、私一人では思い付かないし決められないからだった……。
そう……真由ちゃんと話をする時は、いつも彼女の方から話し掛けてきてくれた……。
いつだって私が何を話そうか迷ってる間に、幼馴染みの真由ちゃんはそれを察してくれて、こっちが思ってる事、望んでいる事を先回りして話してくれていたから……。
だから私はいままで、自分の考えを言葉にする必要なんて無かったから、その方法が分からない……。
というかキャラ的に、私が登校拒否になるというシチュエーションは有り得ても、その真逆の事態が起こるだなんて……。未来への不安に関する事だけは想像力を発揮する私の思考力を持ってしても、想定できない事態だし……。
実生活に関しての対応力が著しく劣っている私には、登校拒否をしている友人にどう接していいのかも分からない。
「私、優柔不断で真由ちゃんに頼りっきりだから……もしかしたらそんな私に愛想を尽かしてるかもしれないし……」
それはこちらから連絡が出来ない理由として浮かんだ言葉かもしれないけれど……、そう言った私に野村君は言った。
「もしかしたら、中井は住谷さんからの連絡を待ってるのかもしれないよ?」
「……え?」
「いつも内気な感じで自分からは何もしようとしない君に、中井ってやきもきしていたようにもみえてたしさ。そんな君を変えようとして、わざと一人の状態にしているのかも? って、俺は思ったけどね」
野村君はそう言って、笑顔でウインクしてみせた。
その笑顔が素敵すぎる! もう、真由ちゃんの事なんてどうでもいいや! と、そんな気持ちになってしまうくらい私の心が浮き立って……いやいやいや……それは駄目でしょう……。
話を……というか、私の心を元に戻さなければ……。
えーと、何だっけ?
そうそう。私のこの内気な性格を治すために、真由ちゃんがわざと私を孤立させてるのかもって話だった……かな?
「……でも、そんな事のためにこんなに学校を休んだりするかな……?」
「する! あいつなら、それくらい思い付きでする!! というか、あいつが姿を見せないのは俺への嫌がらせの準備を淡々と進めているという、そんな危機感すら覚えずにはいられない」
野村君は断言するように、そう言い切った。
――いや、あの……。私の自立心を育てようとしている説の話はどこへ?
という感じで、いつの間にか問題点がスライドされている気もするけれど、それも私の考えが悲観的にならないように気を使っているのかもしれない。とはいえ、真由ちゃんの弁護はしておいた方が良いだろうと思う。
「……いや。いくら真由ちゃんでもそこまでは……」
「いや、するね! ってか、あいつの君に対する想いは尋常じゃないから! そのおかげで俺は警察に突き出されたりもしたんだぜ!」
「……う」
そんな事件もあったっけ……。
それは、私が初めて野村君に出会った時の出来事だった……。
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