画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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第三章『画廊寄武等とYouしょく!』

56.イマトオの説明

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「言っちゃうとね、今のキミは既に彼女に食べられちゃっていてその胃の中に入っているような状態なのさ」

「はあ?」

 そんな荒唐無稽な言葉に戸惑う僕に、イマトオはソファーで寛ぎながら始めた説明の内容はこうだった。


***

 まずタケト君が知っておくべきなのは、彼女は神様とか悪魔とかそういった範疇ですら括れない、そんな特別な存在らしいということだ。

 だからボクにも〝あーちゃん〟という存在に関してはまだ不明な所が多くてね。今は彼女を明確に定義できる言葉は無い。

 とりあえず分かっている事から説明していくと、キミが彼女と交わした契約によって得られたのは、〝彼女との能力の共有〟であって〝不老不死〟ではないということなんだ。

 どういう意味なのかというと、今のタケト君が不老不死であるのは〝彼女が不老不死だから〟でしかないんだよね。

 キミは将来彼女に食べられるという契約を交わす事で今もこうして生きているわけだ。

 生き物の摂理として捕食者の側は、被食者の肉体を栄養として吸収する。

 それはつまり、食べられた側は相手と同化させられているともいえる状態だ。

 まあ、実際に尊敬する人とか家族に自分の中で生きてもらおうとその遺骨を食べちゃったりする人間も居るよね。

 とはいってもそれは人それぞれの個人的な思想でしかないし、それには異論もあるんだろうけれども、彼女は神や悪魔をも超越する存在なのだから、そんな個人的な生命観を現実世界の摂理としてしまう力が有った。

 そんな彼女の特殊な理屈でいうと捕食するのは被食者に恩恵を与えているのと同義なんだろう。

 彼女は時空やら物事の摂理なんかを全く無視したような存在だからね。

 人が移動すれば、食べたお腹の中の物も一緒に移動することになる。その人が自分の身を危険から守れば、当然お腹の中の物も守られるってわけだ。

 まあ、当然食べられた側にはもう意識なんてものも残っていないんだから、それを恩恵だとか言われても何だそりゃ? って話でしかないんだけれどね。

 それは本来捕食されて相手の体を構成する細胞組織の一部となって初めてその恩恵が発生するものなのだからね。

 で、彼女は自分に肉体の全てを捧げる行為に褒美を与えることにした。

 ちなみにキミは、タイムパラドクスっていう言葉を知っているかい?

 昔の自分を殺そうと過去に行っても、自分を殺しちゃった時点で未来の自分は存在しなくなる、みたいなそんな矛盾が起こって、結局そんな感じで歴史を変えることは不可能なのだとかいうアレだよ。

 〝あーちゃん〟との契約っていうのは、そんな矛盾を強引に利用したんだ。簡単に言っちゃうと、食べ物を食べる前と食べた後との順番を、自分の都合のいいように変えてしまったとでもいえばいいのかな。

 つまり今のキミはもう食べられていて彼女と同化しているという扱いをされているってわけさ。

 なのでキミはこれ以上死なない。既に彼女に消化吸収されちゃっているわけだからね。

 そして、彼女と同じ能力を使う事が出来る。既に彼女の体を構成する体の一部なわけだしね。

 まあ、証拠隠滅のために食べちゃったものを他の誰かが奪って食べることは出来ないってわけだね。

 もしそれが出来るとしたなら、それを上回る捕食者が彼女ごと食べてしまう事くらいだろうけれども、それが出来る可能性のあるバカ女神ちゃんは自滅しちゃったしねぇ……。まあ、それは今は別の話だね。話を戻そう。

 つまり彼女はタケト君が彼女に食べられるという出来事を未来の確定事項とすると同時に、契約という形で原因と結果の順番を強引に捻じ曲げることによって、本来ならば捕食者に吸収されてから得られるべき恩恵を先払いさせてもらっている、そんな状態なんだよ。


**

「まあ、キミと彼女の契約はそんな感じだ」

「分かったような、分らないような……」

 あらかたの説明を聞き終えた僕は、素直な感想を言う。

「それはどうでもイイんだけどね。結局〝あーちゃん〟自体が訳の分からない存在だしね、あはは、困ったもんだよ」

「まあ僕にすればそれを知った所でどうすりゃ良いんだよって話だよな」

「理解できないならそれでいいよ。ボクとしても、せっかく苦労して調べたことだから、せめてキミへの嫌がらせになってくれればいいわけだし」

「なんだよそれ……」

 結局無駄な話を聞かされただけだったのかと、ゲンナリした気分になっている僕に追い打ちを掛けるようにイマトオは話を続ける。

「で、ここからが本題だ。キミは何故そんな契約を交わしてまで生きようとしたんだろうねぇ?」

「何故って、だいたい僕はそんな契約内容を事前に知らされたわけじゃないし、誰だって死にそうになってる時に助かる方法があったならそうするんじゃないのか? 溺れる者は藁をも掴むってやつだろ?」

「その認識が違っているんだよねぇ」

「は? 何が違うって言うんだよ?」

「違うでしょ? キミは生き返りの方法を自分で試してみたかったんじゃないのかい?」

「まあ、可能性が有るならチャレンジはするだろう?」

「じゃなくてさ、どこかの誰かさんを生き返らせたくって、自らの身でそれを試してみたかったんじゃないのかい?」

 まったく理解できない話にうんざりしていた僕に彼は言う。

「はぁ? 僕にはそんな親しい知り合いなんて居ないし、あの状態でそんなことを考えてる余裕なんて無かったよ。それこそ命の危機に晒されて生き延びたいと願うなんてのは、ただの生存本能でしかないだろ」

「ふーん。自分じゃそういった認識なんだ」

「何だよそれ。だとしてもそれがどうしたっていうんだ」

「ま、そんなのは彼女からしたら余計なお世話って感じだろうね」

「その彼女って誰の事だよ? あーちゃんじゃないよな?」

「キミが忘れた事にしているあの幽霊の女の子の事だよ。玲衣ちゃんとか名乗っていたかな?」

「あれは夢だろ……ってか何だそりゃ? そんな夢を見たという記憶も無いんだが」

「うんうん、そうだよね」

 意図せず勝手に自分から出た言葉に戸惑っている僕に対し、イマトオは訳知り顔で頷きながら言うのだった。

「あの子は『自分の事は忘れてほしい』と、そう言っていたものね。で、キミはそれには逆らえないんだよね。だけど忘れたくはないものだから全ての出来事を夢だったことにして、心の隅へと留め置いているんだよねぇ」
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