画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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第三章『画廊寄武等とYouしょく!』

52.不毛なやり取り。

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「その不老不死の契約ってそもそもなんなんだ? もっと詳しく説明してほしいんだが」

「それはそうと、あなたの名前を聞いていいかな? これから一緒に暮らすんだから、それくらい知っとかないと!」

「こっちにとっては『それはそうと』の一言で済ませられる問題じゃないんだが……は? てか『一緒に暮らす』って何だ?」

「だって、あたし達もう百メートル以上は離れられないのよね。うん」

「なんだそれ? それ以上離れようとしたらどうなるんだ!?」

「というか、物理的に離れられなくなってるから、綱引き状態で力の強い方に引っ張られるのよ。ん」

「それは嫌だなぁ……」
 人間嫌いを自称する僕は本心から嫌そうに、そう呟く。

「でも、生き別れになっちゃったりしたら、食べられなくなっちゃうでしょ?」

「いや、いつ自分を食べちゃうか分からない相手とは、ぜひとも生き別れになりたいところなんだが……」

 新たに付け足されてゆく契約内容に僕がたじろいていると、彼女は尤もらしく言った。

「自分で歩けるうちならそれもいいけど、食べかけ状態のままどこかで永遠に痛みを感じたままの肉片として存在し続ける事になってもいいの? ねえ」

「それは勘弁してほしいな……」

「でしょ? そのための摂理なのよ。せっかくのごはんなのに失くしちゃったらもったいないから。ね」

「人をごはん扱いすんな」

「あなたに人を語る資格有るのかな? 女性のことなんてブラを飾る台くらいにしか思ってないくせに」

「んなことは……いや、あるかな。確かに言われてみりゃそうだ」

「でしょ?」

「だがなぜ分かる? この価値観に目覚めてから日が浅いせいで僕自身ですら気付いていなかったのに」

「それくらい勘で解るよぉ。何千年生きていると思ってるのよ? ねえ」

「それこそ知らないが……。そういや、吸血鬼みたいな感じで僕は君の同類になったわけだよな。ってことはあんたも不老不死なのか?

「まあ、そう言われればそうよね。うん」

「あんたはいったい何者なんだよ?」

「人に何者なのかを訊ねる時は、まず自分が何者なのかを明かすのが礼儀でしょ?」

 そんなものなのだろうか……。人付き合いなどしたことが無いのでよく分からないが、とりあえず名前も分からないのでは話が進まないので、とりあえず相手の流儀に従うことにした。

「じゃあこっちから名乗ろう。ブラジャー様を神と崇め奉る者、画廊寄がろうより武等たけとだ」

「なるほど! 読み方を変えると、『エロよりブラ』とも読めるのね! まさに名は体を表すというやつだね。さすが、すごーい!」

「そうなのか……」

 自分も言われて初めて気付いたのだが、なんだか生まれて初めて人から褒められた気がする。そんな高揚感に包まれながら、今度は彼女に訊ねた。

「で、君は?」

「何が?」

 本気でポカンとした顔で訊ね返してくる彼女に我慢しながら言う。

「何がじゃなねーわ、人に名を聞くならまず自分から名乗れってそういう話の流れだろ。だからこっちが名乗ったんだから次はそっちの番だろ!」

「ああそうだっけ? うん。えーと……、何だったけぇ? しばらくそんなの気にしたことも無かったから忘れてる。えーとぉ、この前テキトーに付けた名前はどんなだったっけ?」

「なんだそりゃ? 自分の名前くらい覚えておけ!」

 何だか知らないうちに新しい人格が板についてきている僕なのだった……。

「んー、えーとぉー、なんかすんごい気に入った名前だったんだけどなぁ……」

 そんな彼女に対し、話を進めるべく僕は言う。

「もう名前なんかどうでもいいから、不老不死の契約特典としてブラジャーをくれないか」

 てか、話を進めるよりも先に自分の欲求に従っている僕がいた。だんだんと新しい性格が板に付いてきたという感じだが、自分の名前を思い出そうとしているのを邪魔された彼女は言う。

「人の名前をなんだと思ってんのよ!? えーと……、ナニ君? だったっけ?」

「そっちこそ人の名前をなんだと思ってんだよ。もう忘れてんじゃねーか!!」

「自分の名前を忘れる人がさぁ、他人の名前なんて一回聞いただけで覚えられると思う? ねぇ?」

「なに尤もらしげに主張してんだ。とにかくブラジャーをくれよ!!」

 もう話を元に戻す気も無くなっているらしい僕だったが、彼女はようやく思い出したようにガッツポーズを決めた。

「えーとぉ、あたしの名前は『ああああ』に決定! んっ!」

「すでにもう思い出す気が無いどころか、偽名を考える気持ちすら無くしてんなおい!!」

 そんなツッコミもいに書いていない様子で彼女は言う。

「というわけで、あたしの名前は『あーちゃん』と呼んでね、うん!」

「さらっとニックネームの話まで進んだけど、それでいいのかよ!?」

「何か問題でも? ん?」

「君が良いなら、もうそれでいいさ。んで、本題のブラジャーの件なんだが」

 互いに名乗り合った(?)ところで、その勢いでこちらの主張を通してしまおうと思ったのだが、

「それはヤっ! だってあたし、今付けてるのしか持ってないんだもん。だからあげないよ、めっ!」

 自ら〝あーちゃん〟という適当なニックネームを自らに名付けた女は、自分が何も所持していない事を示すように両手をひらひらさせながらそう答える。

「というかぁ、身に付けてるの以外には何にも持ってないんだよね、あたし。ん」

「なるほど、身軽でいたい主義なのか。女の子には珍しいな」

 そんな感想に対し彼女は呑気に答える。

「んにゃっ、そんな主義は持った事はないよぉ。いつもどっかに無くしちゃうだけ。うん!」

「……君の人生、それで大丈夫なのか?」

「〝あーちゃん〟と呼びなさい。ゆークン!」

「なんで今になって自分の名前に対してこだわるんだよ。てか、だったらこっちもそのあだ名はきっぱりと拒否したはずだろ! 僕の名ははタケトだ!」

「んん? そーだっけ? というか、そっちもなんで急に自分の名前にこだわるの?」

「いや、こっちはただ単に、そのあだ名が嫌なだけだ」

「あーん? あんた……タケトは、あたしのネーミングセンスにケチをつける気? 何様?」

「まあいいさ。君の好きなように呼んでくれ……」

 僕は、ここにきて彼女と真面目に話すのを諦める。というか、もうそんな相手に対してツッコミを入れるのは時間や労力のムダだと、これまでの出会いでそう学んでいたのかもしれない。

「そんな事よりもだ……」

 とにかく話を戻そうと僕は彼女に訊ねる。

「君は、身に付けてる物しか持ってないと言ってたが、ブラジャーを洗濯する時とかはどうしてるんだ?」


 普通なら他の人や何なら心の声とかにツッコミを入れられる所なのかもしれないが、あーちゃんはそこで『戻すべき話を間違ってない?』とか『結局ブラの話かい!』とか『そこは〝着てる服を〟とかじゃないの?』とか言ったりはしない。

 よく分かっている彼女は完全スルーで普通に答えを返してくる。

「だからぁ、ひとつしかないから洗濯の余地は無いんだよね。うん」

「上手い!……のか? って、ブラジャーって洗濯しなくても大丈夫なものなのだろうか?」

 洗濯しなくてもよい下着などあるわけもない。というか、ブラジャー至上主義を名乗る割に、現実ではまだ日も浅いため情報収集が十分ではなかった僕はそんな質問をする。

「えーと……洗濯した事が無いから分かんない。ん」

「ブラジャー様を蔑ろにするな!! 身に付けたりせずにちゃんと神棚に飾っておけ、罰当たりめが!!」

「なにそれ? ごめん、ちょっとなに言ってるか分かんない……」

 やはり少しばかり買いかぶりすぎていたらしい、まだ彼女には僕の崇高な意識が理解できてはいないようだった。

――なんだそりゃ……。
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