画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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第二章 『画廊寄武等とyouじん!』

29.沸き上がる怒り。

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 生きる気力を失った僕はその場に崩れ落ちていた。

 それは、たった今、巨乳美人の胸を思いっきり揉んだ十代の男子としては、ありえない反応だったのかもしれない。

 だが僕にとってそれは、生きる希望を失うほどの絶望だったようだ。

「もーやる気無くした……家に帰る。帰ってもう一人の自分と鬱々とした独り言の会話を延々と続けてやる!」

 自分でも理解できない虚無感に包まれながら、そのまま倒れ込んで横になりつつも、世界の不条理に対しての恨み言を吐き続ける。

「ってかありえねーし!! これじゃあ俺は、何のために頑張ればいいってんだよぉ!? モチベーションゼロ!! いや、マイナス100だよ!! もーいいわ殺せよ! もうこんな世界で生きていきたくねーよ。だいたいなぁ……」

 その声はだんだんと小さくなってゆき、蚊の鳴くような声でボソボソと聞き取れないような状況になっていったが、それでも何かを呪うかのような呟きを続けていた。

 僕の意識はそんな……自分自身でも理解できない絶望感の闇へと飲み込まれてゆくのだった。

「ええーとぉ……」

 訳が解からない男子を見つめるしかない、そんな自称女神がそこにいた……。

 そんな彼女の視線の先には、先ほどの元気な僕はもう居ない。

 それはまるで、憔悴しきった餓死寸前の子供のようなありさまだっただろう。

 この心の中には期待通りになってはくれない、そんなこの世界への恨みだけが燃えているのだ。

「あ、あのー。なんじゃか知らんが、儂が神ではないという事は理解してもらえたのかの?」

 今はもう画廊寄がろうより武等たけとという男子だった物の抜け殻といっていい、そんな僕は力なくかすれた声で言葉を返す。

「……ああ、もーいいです」

「もういいって、何が?」

「だから、あんたが神様だろうが幽霊だろうが、それ以外の何かだろうが、もー、どーでもいいんだって……」

 その言葉に、今度は美女が絶叫で返す。

「なんじゃそれは!! 儂は人格に関してならともかく、こと胸の見た目や触り心地でそんなふうに言われる謂れなぞは無いはずじゃぞ!?」

 そんな怒号と共に何だか格闘漫画のような、大地を揺るがす怒りの波動で周囲が押し包まれたような気もするが。もうそれすらもどうでも良く、反応を返す気力も湧かない。そんな僕に対し、彼女は更に怒りを増幅させた様子で続けていた。

「てか、胸を揉せてそこまで絶望される儂の立場って!? ってか私、まだ名前すら名乗って無いじゃん!! ねえ答えなさいよ!!!!!!!」

 どうやら自分のキャラ口調を忘れてしまうくらい激怒しているようだ。そんな彼女に、僕は横たわったまま答える。

「あー、なんだか知りませんが、僕にとってあなたには女性として必要なものが決定的に掛けているような、そんな気がします。いうなれば僕からすれば人間以下、この世に存在する意味も無いってくらいです。そんな下等生物とも言えない存在とは、もう関わり合いたくないです。どっか行っちゃってください」

 ぶちっ!!

 と、ものすごい音がした。

 もちろん、彼女がブチ切れた音である。

 次の瞬間、彼女の周りの空間が炎につつまれていた。

 彼女はそんな劫火を身に纏うようにしながら、颯爽と言い放つ。

「誰が下等生物以下だというのじゃ!! こっちから見れば貴様ら人間のほうがよっぽど下等じゃ!! 儂を何者だと思っておる!? 聞いて驚くがよい! 日夜戦い続ける炎を纏いし戦いの女神、アリア=ド=ラガーディア=カサールとは儂の事じゃあ!! って、まさかのこれにも無反応っ!?」

 もう今の僕には『何それ?知らないです』と返す気力すら無く、ぐったりと、やる気の無い感じで横たわっているだけだった。

 僕はもう何も語らない。

 彼女の名乗りに対して『なにその中二設定!?』とか、

 髪が伸びて金髪になっちゃっていますけど、『「髪の色を変えたり短くして変装している」という設定を思い付いたのはいいけれど、長髪金髪姿での挿し絵を既に描いちゃっていたのを思い出して、描き直すのも面倒だからこれを切っ掛けにしれっと元の設定に戻そうとしている』のですか? とか……。 

 そんな、創作裏話的なツッコミを入れる事も無いのだった。

「いい加減にせんかーー!!」

 そんなこちらの無反応が、文字通り火に油を注いだかのように彼女の怒りの炎がさらに勢いを増した。

「あぢぢぢぢっ!?」

 それは漫画とかでよく使われる心理描写とかいうものではなく本物の炎のようだった。

 僕はその暑さに慌てて転げまわりながらその炎を避ける。その数センチ上を炎の波が通過すると、その激しい火柱は、その熱気だけでも人間の命を奪い去るには充分なのではないかと、そう思えるほどの熱だった

「うおぉいいっ!! 心理描写で人を焼き殺す気かっ!!」

「心理描写というよりは、ただのツッコミじゃな」

「そんなのはツッコミでも何でもない、ただの物理攻撃だ!!」

 その熱気から逃れるために転げ回りながら必死に道路まで這い出し、ようやくそれらの炎を改めて見返す。

 すると、地面に転がっていた瓦礫……。元々木造建築だったのだろう消し炭となった燃え残りの灰どころか、それだけでは足りないとばかりに鉄の水道管やコンクリっぽいものまで燃えていた。

 それは言ってみれば、本物の炎ではもう燃えない筈の物ですら更に焼き焦がす、そんな人知を超えた炎だった。

 更にはこれだけ騒ぎ立てているというのに、近所の住人がその様子を見に現れるという、そんな様子すらも無い。

 それは彼女が何らかの神がかり的な能力を発揮し、人が寄り付かないようにでもしているかのようで。

 ふと、僕の中に疑問が浮かび上がる。

――もしこの状況で建物が焼けていたのなら……それこそ、その建物が全焼するまで消防車も間に合わないかもしれない……。

 と、そう思った時、僕の心の中で何かが弾けたような感覚に包まれた。

「……あんたが、やったのか?」

「は? 何の事じゃ?」

 僕自身は全てがどうでもいい気分で答えを考えるのも面倒くさいという精神状態だったにも関わらず、あろうことか勝手に立ち上がって言葉を繰り出す。

「この焼跡……これは普通の火事とは思えない。だが……あんたのような力があれば……」

 そんなこちらの言葉に、アリアと名乗った彼女は不敵な笑みを浮かべながら火災現場跡を見回すようにして言った。

「まあ確かに、人間ごときには短時間でここまで焼き尽くすというのは難しいじゃろうな」

「じゃ、じゃあ……」

――そんな炎であの子はその身を焼かれたというのか……。

 といった、そんな想像が頭をかすめた。ただそれだけなのに、僕は理性的な思考が出来ないほどに怒りの感情に包まれる自分を感じた。理屈も何も無しに相手への憎悪だけが膨らんでゆく。

「だというのなら僕はあんたを許すわけにはいかないな!」

「あん? ああ、お主もしかして儂が……」

 相手の言葉を聞き終える事も無く、僕は叫んでいた。
「あんたにはしかるべき報いを受けてもらう!」

「儂が犯人だと疑っておるってか? 儂なら灰も残さず焼き尽くしとるわい」

「うおおおおおっっ!!」

 相手の声も耳に入らない状態で怒りに我を失っていた僕は、その湧き上る感情のままに拳を握って飛び掛かって行くのだった。
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