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第二章 『画廊寄武等とyouじん!』
25.夢から覚めて……。
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眠りから目覚めた僕は体を起こした。
「なんだか幸せな夢を見ていたような……いや、なんだかただひたすら怖い感じだった、かな?」
いつ眠ったのかは覚えていないが、今の時刻は昼前といったところだろうか。まあなんの変哲もない普段の日常だ。
――その夢の中で着物を着た女の子と楽しくも幸せな時を過ごした、そんな気もするんだが……。
そんな事を思ったものの交友範囲がゼロに等しいニート男子のこの僕が、今どき珍しい和服を着た十代の女の子になど、出会う事すら難しいだろう。
「そういった意味では現実味の無い夢だったんだろうな」
次第に僕の意識がはっきりしてくるとともに、そういった記憶の残滓すらもやんわりと薄れてゆく。夢とはそういうものだ。
「なんだかなぁ……」
……理由の分からない虚しさのような感情に包まれつつもベッドから降りようとした、その時だった。
「……え?」
ふと視線を向けた先の床に……とある物が落ちていた……。
「何だあれ……?」
それは一般的に通園バッグと呼ばれている、幼稚園児用の肩掛けカバンだったが、俺にとってその呼称はポシェット以外の何物でもなかった。
――あれはあの子が残していった物だ……。
と、そんな思考が頭の片隅によぎったものの。
その床に落ちていたポシェットの存在が僕の中で次第に大きくなってゆき、相対的に『あの子とは誰だったのか』という疑問が思考の隅へと追いやられてゆく……。
「いや何だそれ!?」
――それもあの子が『これからはこれをわたし以上に大事にして生きろ』なんてことを言うから……。
そんな言葉が浮かびかけたが、『いいの忘れて』的な声が頭の中で響くと共に、そんな考えも消えてゆく。
「だから何なんだよそれ? 僕はまだ夢を見ている最中なのか?」
次々に浮かんでは消えてゆく思考に戸惑いながらも、何だかそのポシェットが不憫に思え始めた。
例えるなら、特に信仰心などは無くとも仏像なんかがあったりしたら、それを床に転がしっぱなしにしておくのは、なんとなく気が咎めたりする。
言葉にするとそういった感情だろうか。せめてもっと良い場所に移しておくべきだとか、そんな使命感じみた衝動が湧き上がってきて、その側まで歩み寄って膝をつき手を差し伸べたのだが。
しかし……。
その手は、なんの感触もないままにすり抜けてしまった。
はっきりと視覚で認識している筈の物体に触れない。
そんな、脳の認知機能にバグが発生するかのような違和感を、僕は既に体験している気がした。
「いやまさかな。だとするならいつだ? ごく最近な気もするな、それもここ数日だってくらいに……」
そう思って過去の記憶を辿ろうとして、ふと気付く、
「あれ? 昨日、僕は何してた?」
思い返そうと思ったが、今日が何日で何曜日なのか分からない。当然、昨日の曜日すら覚えていないからだ。
引き籠り生活で特に誰かと会うなんてこともない。そんな変化の乏しい単調な日々を繰り返し続けていたせいで、毎日の出来事に関しての記憶を留めておくという、そんな習慣を失っていたからだ。
テレビどころかスマホすら無く、新聞もとってはいない。唯一日付を知る事が出来る物はと言えば、食料の買い出しに行った時に受け取るレシートくらいだ。
「いや、そういえば確か昨日、市のフリーペーパーが届いていたよな?」
それは、市内の近隣市町に関する情報や広告が載っていて、週に二回ほど無料で各家庭に配られるものだ。
それを思い出した僕は、二階の自室から一階のリビングに向かうと、食器棚の一番下にある引き出しを開ける。
そこに古新聞として纏めてある一番上のフリーペーパーで確認すると、どうやら昨日は2日の金曜日だった事が判明……するのか?
そもそも今日が何日なのかを確認するすべがないので、そこで分かるのは今日が翌3日の土曜以降だというだけで、実はそれから数日経っていた、なんていう、そんな可能性だってあるのだ。
「まあ、次のが来てないようだから、まだ火曜日にはなっていないという、そんな事だけは確定されたわけだが……」
そんな結論に至った所で、昨日の出来事が夢ではなかったことの確認にはならない。
「ああ、ごみの収集日が載ってるカレンダーもあったな。てか、今日が何日なのかも分からない状態でカレンダーを見たからって何の役にも立たないのは変わらないか……」
結局、久しぶりに気になった今日の日付けどころか曜日すら知ることも出来ない。そんなもやもや感に包まれていた。
――とりあえず朝飯を食え。それから考えよう。
「それもそうだな。生きていくためには食事が必要だものな……」
と、僕はそんな事を呟きながら一階のキッチンへと向かう。
そうして僕の主食である買い置きのインスタント麺を手早く作り、缶詰と一緒に平らげていると、僕の心の中に作られた会話相手が言う。
――今日は、外に出かけてみようか。
「なんでだよ?」
――とりあえず買い物をすればそのレシートで日付けが分かる。そうすれば今日が何日かが分かるだろ。
「うーん、そのへんは何だかもうどうでもよくなってきたんだけどな……」
その提案にたいした意味は感じない。ただ、ふと思った。
「あのポシェットにお供え物を買ってくるべきだな、僕にできるのはそれくらいかもしれないし」
――いや……なんだそれ?
「何故だか急に信仰心に目覚めたみたいでな」
――ただのポシェットに?
「ただのポシェットじゃない、触る事すらできない不思議な存在だ。霊的なパワーみたいなものを感じる。きっとあの中には僕が信仰の対象にするべき御神体が収められているに違いない」
――何だかなぁ……。
呆れる心の声をよそに僕は、とりあえず家の中で一番高価そうなグラスに水を注いで部屋のポシェットの前に供え、正座で両手を合わせ仏教的な祈りをささげた後、お供え物を買うために少し離れたスーパーへ行くために出掛けるのだった。
「なんだか幸せな夢を見ていたような……いや、なんだかただひたすら怖い感じだった、かな?」
いつ眠ったのかは覚えていないが、今の時刻は昼前といったところだろうか。まあなんの変哲もない普段の日常だ。
――その夢の中で着物を着た女の子と楽しくも幸せな時を過ごした、そんな気もするんだが……。
そんな事を思ったものの交友範囲がゼロに等しいニート男子のこの僕が、今どき珍しい和服を着た十代の女の子になど、出会う事すら難しいだろう。
「そういった意味では現実味の無い夢だったんだろうな」
次第に僕の意識がはっきりしてくるとともに、そういった記憶の残滓すらもやんわりと薄れてゆく。夢とはそういうものだ。
「なんだかなぁ……」
……理由の分からない虚しさのような感情に包まれつつもベッドから降りようとした、その時だった。
「……え?」
ふと視線を向けた先の床に……とある物が落ちていた……。
「何だあれ……?」
それは一般的に通園バッグと呼ばれている、幼稚園児用の肩掛けカバンだったが、俺にとってその呼称はポシェット以外の何物でもなかった。
――あれはあの子が残していった物だ……。
と、そんな思考が頭の片隅によぎったものの。
その床に落ちていたポシェットの存在が僕の中で次第に大きくなってゆき、相対的に『あの子とは誰だったのか』という疑問が思考の隅へと追いやられてゆく……。
「いや何だそれ!?」
――それもあの子が『これからはこれをわたし以上に大事にして生きろ』なんてことを言うから……。
そんな言葉が浮かびかけたが、『いいの忘れて』的な声が頭の中で響くと共に、そんな考えも消えてゆく。
「だから何なんだよそれ? 僕はまだ夢を見ている最中なのか?」
次々に浮かんでは消えてゆく思考に戸惑いながらも、何だかそのポシェットが不憫に思え始めた。
例えるなら、特に信仰心などは無くとも仏像なんかがあったりしたら、それを床に転がしっぱなしにしておくのは、なんとなく気が咎めたりする。
言葉にするとそういった感情だろうか。せめてもっと良い場所に移しておくべきだとか、そんな使命感じみた衝動が湧き上がってきて、その側まで歩み寄って膝をつき手を差し伸べたのだが。
しかし……。
その手は、なんの感触もないままにすり抜けてしまった。
はっきりと視覚で認識している筈の物体に触れない。
そんな、脳の認知機能にバグが発生するかのような違和感を、僕は既に体験している気がした。
「いやまさかな。だとするならいつだ? ごく最近な気もするな、それもここ数日だってくらいに……」
そう思って過去の記憶を辿ろうとして、ふと気付く、
「あれ? 昨日、僕は何してた?」
思い返そうと思ったが、今日が何日で何曜日なのか分からない。当然、昨日の曜日すら覚えていないからだ。
引き籠り生活で特に誰かと会うなんてこともない。そんな変化の乏しい単調な日々を繰り返し続けていたせいで、毎日の出来事に関しての記憶を留めておくという、そんな習慣を失っていたからだ。
テレビどころかスマホすら無く、新聞もとってはいない。唯一日付を知る事が出来る物はと言えば、食料の買い出しに行った時に受け取るレシートくらいだ。
「いや、そういえば確か昨日、市のフリーペーパーが届いていたよな?」
それは、市内の近隣市町に関する情報や広告が載っていて、週に二回ほど無料で各家庭に配られるものだ。
それを思い出した僕は、二階の自室から一階のリビングに向かうと、食器棚の一番下にある引き出しを開ける。
そこに古新聞として纏めてある一番上のフリーペーパーで確認すると、どうやら昨日は2日の金曜日だった事が判明……するのか?
そもそも今日が何日なのかを確認するすべがないので、そこで分かるのは今日が翌3日の土曜以降だというだけで、実はそれから数日経っていた、なんていう、そんな可能性だってあるのだ。
「まあ、次のが来てないようだから、まだ火曜日にはなっていないという、そんな事だけは確定されたわけだが……」
そんな結論に至った所で、昨日の出来事が夢ではなかったことの確認にはならない。
「ああ、ごみの収集日が載ってるカレンダーもあったな。てか、今日が何日なのかも分からない状態でカレンダーを見たからって何の役にも立たないのは変わらないか……」
結局、久しぶりに気になった今日の日付けどころか曜日すら知ることも出来ない。そんなもやもや感に包まれていた。
――とりあえず朝飯を食え。それから考えよう。
「それもそうだな。生きていくためには食事が必要だものな……」
と、僕はそんな事を呟きながら一階のキッチンへと向かう。
そうして僕の主食である買い置きのインスタント麺を手早く作り、缶詰と一緒に平らげていると、僕の心の中に作られた会話相手が言う。
――今日は、外に出かけてみようか。
「なんでだよ?」
――とりあえず買い物をすればそのレシートで日付けが分かる。そうすれば今日が何日かが分かるだろ。
「うーん、そのへんは何だかもうどうでもよくなってきたんだけどな……」
その提案にたいした意味は感じない。ただ、ふと思った。
「あのポシェットにお供え物を買ってくるべきだな、僕にできるのはそれくらいかもしれないし」
――いや……なんだそれ?
「何故だか急に信仰心に目覚めたみたいでな」
――ただのポシェットに?
「ただのポシェットじゃない、触る事すらできない不思議な存在だ。霊的なパワーみたいなものを感じる。きっとあの中には僕が信仰の対象にするべき御神体が収められているに違いない」
――何だかなぁ……。
呆れる心の声をよそに僕は、とりあえず家の中で一番高価そうなグラスに水を注いで部屋のポシェットの前に供え、正座で両手を合わせ仏教的な祈りをささげた後、お供え物を買うために少し離れたスーパーへ行くために出掛けるのだった。
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