画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

文字の大きさ
24 / 103
youれい!

23.彼女の残したもの……。

しおりを挟む
「いや、だから別にお礼をもらうほどの事なんて……。てか、何それ……」

 消えかかっている彼女からお礼の品としてポシェットを差し出された僕はただただ困惑するばかりだった。

「そうですよね……こんなものを貰っても、嬉しくはありませんよね……」

 彼女はそう言って悲しげな表情になる。

 確かにそれは僕にとっては何の役にも立たない物だ。それは持ち主同様にこの世にはもう存在しないものなのだから。

 だが彼女にとっては、全焼したはずの焼け跡から見付け出してきた唯一の所持品でもあり、彼女にとってそれは掛け替えのない物なのかもしれない。

 にもかかわらず、彼女は僕に対して何かしらのお礼をしたいと……唯一の持ち物であるその品を渡そうとしてくれたのだと、そう考えるのならば、そんな彼女の最後の申し出を無下に断るというのも目覚めが悪い気がしてならない。

 もしそれが彼女にとって幽霊となっても唯一取り戻したいと思うほどの思い出の品とかだったりするなら、そんな大事な物を差し出そうとしてくれているということでもあるからだ。

 たとえそうではなくたまたま持っていただけなのだとしても、彼女にはそれしか差し出せる物が無いというのは、それはそれで哀れを誘う話で、やっぱり断りづらい。

 決して同情とかではなく、結局は自分の気分の問題でしかないが。ならせめて、思いっきり喜んでみせるべきだろうと決めるのだった

「ふっ、よくぞ見破ったな」

「は?」

「実は僕は鞄マニアなのだ! そう、世界中のありとあらゆる鞄を手に入れたいという、そんな野望を抱いていたのだよ」

「いえあの……無理に気を使わないで良いですよ。家探しした時もそんな痕跡は一切ありませんでしたし、だいたいこのポシェットというその名称すらも、どうやら知らなかったようですし」

「ぐヌぅ……」

 どちらかと言えばポシェットよりも通園バッグの方が正式名称っぽいのだが、そんな事など知らない僕は、返す言葉に詰まってしまっていたが、何だか後には引けない気分だった。

「いや、確かに僕は今まで実行どころか下調べもしていなかったのだが、これから世界一の鞄……じゃなくて、そのポシェット? の、コレクターとなるべく、その活動を始める予定だったのだよ」

「いやそれ、絶対夢を叶えられないタイプの妄言みたいじゃないですか『小説家になりたいと言いながら小説を読んだ事もない』みたいな」

――そりゃそーだよ。たった今この場で咄嗟にひねり出した作り話だからな!!

 と心の中で思いつつも、僕は更に言葉を絞り出す。

「ふははは! よくぞ見破ったな、そう、僕の目的は実はそのポシェットではなく、その中身に過ぎないのだ!」

 なんとか言葉を繋げた僕に、彼女は言う。

「とは言っても、チャックが空かないので中身はわたしも知らないですが?」

――いや、普段天然なくせになんでこっちの矛盾を突く時だけ、そんなに指摘が的確なんだよ……。

 そんな苦情を述べる余裕も無しに、僕は即座に言い訳を展開する。

「そう、そうなんだが、そう、僕の霊感が告げているのだ! その鞄の中には、僕にとってとても貴重な、そんなお宝が眠っているのだとな!」

『それを売って、大金持ちに……』

 そう続けようとしてから危うく思い留まる。
 せっかく彼女がなけなしの思いで渡そうとしているのかもしれない物を売ってしまうというのも、なんだか相手に悪い気がしたからだ。

 なので別の理由をひねり出す。

「ではなくて、そう。その中には僕にとって神や仏のように崇拝すべきものが隠されているのだと、そう感じるのだ!」

「いや……だとしてもタケトさんもこのポシェット開けられないでしょう? 触る事すら出来ないのですから」

 だからこっちはただ君に合わせようとしているだけなのに、なんでそっちがそれを的確に否定して来るんだよ?

 そんな理不尽を正す余裕もないまま、僕は続ける。

「確かに今はそうだろう。しかし僕は、この人生の一生を掛けてでも必ずそれを開ける方法を見付け出して、中に封印されている御神体をそこから解放して差し上げることに残りの人生を掛けてみせるだろう!!……」

 自分で言ったセリフに恥ずかしくなってきた。

 やはり友人も無く孤立した人生を送って引き籠り生活を送ってきた人間が咄嗟に思い付ける嘘などこの程度が限界なのだろうと、そんな感じで軽く自己嫌悪に陥りかけていた時だった。

「それはつまり……あなたは、それが叶うまで生き続けるという事なのでしょうか?」

 彼女は僅かに考えを巡らせるようにしてから、一転してこちらに調子を合わせるようなことを言い始める。

「え? ああ、うん。もちろんだ!」

「本当に?」

「僕が君に嘘をつくとでも?」

――ううっ、歯が浮くセリフだな!

 言うこと為すこと片っ端から否定されるというのも傷付いたが、受け入れられたら受け入れられたで何だか恥ずかしさでいっぱいになってしまう。元々、苦し紛れの無理な主張でしかない自覚はあったので、もう謝ってしまって楽になりたい気持ちになりながらも、そんなこちらを哀れに思ったのだろう彼女の優しさを無下にも出来ず、事の成り行きを見守るしかない。

「そうですね……。ならこのポシェットはタケトさんにさしあげましょう」

 彼女は嬉しそうな笑顔を見せると、改めてそれを僕に差し出した。

「お、おおそうか。ありがたくいただいておこう」

「大事にしてくださいね」

「もちろんだ。他の何よりも大事にするさ」

「絶対ですね、約束ですよ」

「ん、ああ、約束しよう」

 それで彼女が納得してくれるならと安請け合いする僕だったが、信用が無いのだろう彼女は更に念を押す。

「頼みますよ、これからはそのポシェットの中身ですか? それを第一に考えて生きてくださいね……」

「お、おう……そうしよう……」

 何だか妙に強く押してくるなと不審に思いながら相槌を打っている僕に、彼女は言う。

「わたしの事は忘れてもいいですから、それだけはお願いします」

「は? 何だそりゃ? いくら僕が人でなしのダメ人間だとしても、忘れるなんて事は出来ないほど君はインパクトが強い属性持ちだろう……」

「わたしはいいのです。それこそ今日の出来事は全て忘れてくれても」

「いや、だから幽霊、じゃなくて透明人間との出会いなんてさすがに忘れられないって……」

 そんな僕の言葉に被せるように、彼女は笑顔で言う。

「いいの忘れて忘れて、あ……」

 その時、彼女の手からポシェットが零れ落ちた。
 足元から次第に消えゆく、その症状が既に腕にまで達していて、その支えを失ったのだ。

「おっと……」

 僕は反射的に、そのポシェットを受け止めようとしたのだが、ピンク色の小さなその鞄は僕の手もすり抜けてしまう。

「え? うわっ!」

 僕はそれを反射的に攫み直そうとして、座っていたイスから転げ落ちてしまう。

「あだぁっ!?」

 地面に這いつくばるような形になった僕は、かっこ悪い声を上げながら、とりあえず床に落ちたポシェットを見つめる。

「いてて……。はぁ? 何だよこれ?」

――僕の手はすり抜けるのにこの床はすり抜けないんだ。どういう仕組みだよ……。

 などという、たわいもない疑問を抱きかけた俺は、ハッとして頭を上げる。

 すると彼女の姿は、もううっすらと輪郭を残すのみとなっていた。

――こんな時に俺は、何をやっているんだ。やっぱり人でなしだな!!

 と、自己嫌悪する僕に、彼女はまさに消え去りそうな声で何かを言っている事に気付く。

 その声はもう聞き取れなかったのだが、最後の言葉だけは聞こえた気がした。


『……生きて……』

 そう言っているのを読み取った僕は茫然となった。

「!? き、君は……」

 そう言いかけたが、彼女はそのまま透明になり、その姿は完全に消えてしまう。

 僕は、その場から消えてしまった彼女が、それまで存在していた空間をしばらく茫然と見上げながら思った。

 自分が言い出した事とはいえ、この一大事に本当に彼女の事よりもポシェットのほうを優先した僕に対してどう思っただろう。

 そんな僕を見て悲しかったのだろうか。

 それとも、触れられないポシェットを必死に掴もうと足掻く僕を見て、ざまあ見ろとでも思っていたのだろうか。

 そんな疑問が、矢継ぎ早に心に浮かび上がりその胸の内を締め付け始める。

 自責の念に捕らわれかけた、その時……。どこかで聞いたような気がする言葉が、僕の頭をよぎる……。

『いいの。忘れて、忘れて』

――いいわけないだろ!!

 という思いとともに

「それが君の願いなら……」

 という、相反する感情が濁流のように頭の中で交錯したまま。

「君って誰だっけ……?」

 僕の頭はその言葉に従うかのように次第に真っ白になってゆくのだった……。



第一章「画廊寄武等とyouれい!」終。

 第二章『画廊寄武等とゆーじん!』へと続く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...