恋する魔法のエトセトラ さくらドロップス

ノリック

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さくらの想い

中学生

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   中学生

 私、さくらと私も含めた八人の仲間たちは、中学三年生になっていた。私達は皆、春風小学校からそのまま春風中学校に進学している。

「今年、本当だったら受験の年よね。単位は皆大丈夫かしら」

「そうね、単位を取れていればね。小中高一貫校はいいわね」

 牡丹と私が会話をする。私達の学校の母体である春風学園は、小中高一貫校で、中学から高校への進学は単位があれば進学できる。張り詰めた空気の受験を行わずに済むので、一度春風学園に入れればそこまで受験に捉われなくて済む。しかし、勉強には力を入れている学園なので、皆勉学には励んでいた。



 私達は中学校でも仲が良かった。転校生だった楓も、小中といつの間にか仲間達に溶け込み、皆ととても仲良くしていた。ただ、私はなんとなく不安だった。春楓が、私が気付くと楓とよく一緒に居たからだ。春楓の事が気になる私は、思春期が来た事も自覚して、ハラハラドキドキする事が多くなってきた。妙に仲が良いというよりは、気付くと春楓から楓に話をしている感じで、何か春楓が楓を頼りにしているようで、私はヤキモキしていた。春楓には、私に話しかけてほしいな。

 楓はやっぱりお洒落さんで、髪型は今では可愛いお団子ヘアーになっている。私はいつもロングヘアーで定評があったから、ずっとそうしている。



 中学三年生、三月、いよいよ中学校の卒業式がある月。小中高一貫校ではあるけれど、他校に進学していなくなる仲間もいるし、別れの季節のムードがいよいよ高まってきた。

 そんな三月の十四日、私は春楓からお返しにホワイトデーのプレゼントをもらった。優樹と健大からもお返しのクッキーを貰ったのだけれど、春楓からは特別な物だった。



 二月、高校受験もそんなに忙しくないという事で、私はバレンタインデーのプレゼントに春楓に手作りチョコレートを作ることにした。もちろん、バレンタインデーには優樹と健大にもチョコを贈る。しかし、優樹と健大にはパッケージだけ春楓と同じにして買ってきたチョコで、春楓には手作りチョコレートを贈る事に決めた。

(春楓、私の想い、受け取ってね)

 手作りチョコレート作りには牡丹と桔梗、百合、楓の力も借りた。特に牡丹はお菓子作りが得意で、一緒にチョコレート作りをしてとても為になった。

「そう、チョコレートは細かく刻んで、ボウルに入れておいてね」

「うん、生クリームは中火で沸騰直前まで温めて、刻んだチョコレートに一気にかけて、湯気が出なくなったら泡だて器で混ぜて」

 牡丹の的確な指示によって作っていくチョコレートは、段々とその形を成していき、遂にバレンタインデーのチョコレートは完成した。

「皆で頑張って、手作りチョコレートが完成したわね」

「さくらは、春楓に手作りチョコレート上げるのよね?しょうがないから、私達は優樹と健大にも上げようかな~」

 桔梗と百合がバレンタインデーのチョコレートの完成を喜ぶ。私も自分達で作ったチョコレートに感慨深いものがあった。

「さくら、春楓に手作りチョコレート上げるのよね、頑張って!」

「楓……」

 私は楓からエールを送られたのだけれど、少し複雑なものがあった。楓は、春楓とよく仲良さそうに喋っている。

 それでも、私は手作りチョコレートの完成を喜び、春楓が喜んでくれる姿を想像しチョコレートを渡すのを楽しみにしていた。



 二月十四日、私は春楓に手作りチョコレートを渡した。

「はい、これ春楓に、バレンタインデーのチョコレート」

 春楓は「わぁ、うん」と返事をしてチョコレートを受け取った。

「あ、ありがとう、さくら」

 春楓は照れていたが嬉しそうにしていた。私は春楓が受け取ってくれて嬉しいのを悟られないようにしながら「それから」と言って優樹と健大を呼んだ。

「優樹と健大にも、バレンタインデーのチョコレート」

 優樹が「ありがとう」と言って受け取る。健大が「なんか春楓のついでみたいだな」と言ったが「貰える物は貰っておく」とチョコレートを受け取った。

「さくら、春楓への気持ち上げたわね」

「牡丹……そうだといいわね」

 牡丹が私を労う。私は春楓がバレンタインデーのチョコレートを開けて食べてくれるのを想像してきっとニヤニヤしていただろう。



 そして三月十四日、ホワイトデー。私は春楓から「これ、バレンタインデーのお返し」とホワイトデーのプレゼントを貰った。開けてみると、クッキーが入っていた。

「あっ、これ」

「それ、手作りクッキーじゃない!?」

 百合も中身に驚く。春楓からのホワイトデーのお返しは手作りクッキーだった。中身のクッキーは茶色や所々に黒色など、試行錯誤した感が窺えて、匂いを嗅いでみると甘い香りがして、食べてみた。

「甘くて、美味しい」

 春楓が作った手作りクッキーはなかなかに美味しくて、春楓がとても頑張ったのが窺えた。

(春楓、手作りクッキー、ありがとう)

 私は心の中で春楓に感謝を述べた。



「仰げば尊し、我が師の恩……」

 中学三年生、三月、卒業式。仰げば尊しの歌が体育館に響く。私達は中学三年間の思い出を振り返り、この日を迎えたことにとても掛け替えのないものを感じていた。春風中学校の校庭の桜も咲き始めていて、春の出会いと別れの季節を彩っていた。

「卒業、おめでとう!」

 卒業式が終わると、先生方も言葉で卒業を祝福してくれた。

 そんな中、春楓は下級生の女子に校庭の隅に呼び出された。

「春楓先輩!制服の第二ボタンをください!」

 春楓はどうやら困ってしまったようだけれど、女子生徒の気迫に負けて制服の第二ボタンをあげたようだ。

 春楓を好きな私はその話を聞いて、ちょっと複雑な気持ちになったのだけれど、春楓がそれだけいい男なんだなと自分に言い聞かせる事にした。

 卒業式後、私達八人は打ち上げをする事にしていた。どこに行こうかとしていた所、カラオケ店がいいんじゃないという事で、カラオケ店に行く。

「さくら、さくら、ただ舞い落ちる……」

 健大なんかや皆が春の曲を中心に歌う。私も桜の曲なんかを皆が歌うので嬉しくなる。

「さくら、春楓、制服の第二ボタンを下級生の女子に上げたみたいね」

「――あっ、うん……」

 牡丹が私を心配して話しかけてきた。「いいの?」と聞く牡丹に、私は「大丈夫、うん、それだけだし」と答えた。



 春休み、私は五年前、春楓に「五年置きに四月五日、ここで会わないかい」と街の公園で会う約束をしていた事を思っていた。あの時の事は、今でも覚えている。春楓は、五年後の今も会ってくれるかな?

 そんな時、私のスマホに通知が入った。見ると春楓からのLINEだ。私は飛び起きてスマホにかじりつき春楓からのLINEを見た。



春楓 さくら、五年前の約束、覚えてる?



 春楓から例の約束の話が持ちかけられた。私は素直に返信する。



さくら 五年前の約束ね。二人の家の近くの街の公園で四月五日に会うって話ね



春楓 うん、そう!また四月五日午後二時に会えるかな?



さくら 分かったわ、四月五日、午後二時に会いましょう!



春楓 うん、じゃあその日に街の公園で会おう!



春楓からのLINE。私は嬉しくなって、四月五日のその日を待ちわびた。



 四月五日、私は午後二時に街の公園で春楓と待ち合わせをして、春楓に会いに行った。私が着くと春楓はもう私を待っていて、私は春楓に挨拶をした。

「春楓、こんにちは」

「さくら、こんにちは」

 四月の街の公園の桜はたいへん綺麗に花が咲いていて、満開のその桜は、まるで公園に来た人達を祝福しているようにピンク色の花びらを揺らしていた。街の公園の一番大きな桜は、公園にその存在を主張する様に綺麗な桜の花が咲いていて、私達は街の公園の一番大きな桜の前のベンチに座って話をした。

「ところで春楓、なんで五年置きに街の公園で会おうと思ったの?それに、なんで四月五日なの?」

 私は春楓に疑問を問うてみた。春楓は「うん」と言ってから返事をした。

「さくらに、想いを伝えてくてさ。俺の中の決意、約束」

 春楓が神妙に自分の想いを伝えてくるので、私は「そうなんだ」と何だか納得して返事をしてしまった。でも、春楓の言葉は嬉しかった。

 私は、春楓に自分の中のモヤモヤをぶつけてみた。最近春楓と妙に仲の良いあの子。

「春楓、何だか最近、楓と仲が良いんじゃない?」

 春楓は、「そう?」と言ってから、こう答えた。

「楓には、お世話になってるからね」

 春楓に「何お世話になってるの?」と聞くと「それはさくらに話すのはちょっと……」と言うので私は「もう」と膨れてしまった。

 公園に来てから暫く経って、春楓はこう口にした。

「桜……綺麗だね」

 私は一瞬、私が綺麗だねと言われたようで顔を真っ赤にしたことだろう。公園の桜だと分かると、私も「そうね、綺麗ね」と繕って桜の木、桜の花を褒める。

 そして、小一時間ほど、私達は街の公園で話をした。街の公園は、晴れた中、公園で過ごす人達の声で賑やかに湧き、時折吹く風が桜の木を揺らして桜の花が舞う。満開の桜の木は、皆の事を見守りながら、そのピンク色の花を誇るように咲いていた。
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