16 / 19
流れ星
しおりを挟む
日高山に着くと、佐伯先輩がいよいよだと期待して嬉しそうだ。
「着いたな。日高山。ロープウェイが来たら、乗って山頂の広場まで行こうか」
「はい、流星群、もうすぐ観られますね」
と相槌を打つ。ロープウェイを待つ。そして、話をする時間は、付き合いたての仲睦まじい時だから?先輩も凄く嬉しく、楽しそうで、私も心から素敵だと思える。
日高山の麓には、他にもお客さんがいて、その人達も、流星群観測の為だろう。期待を込める様にロープウェイを待っている。
やがてロープウェイが来ると、私達や他のお客さん、係の人が乗って、日高山山頂へと出発する。
「夜でもライトアップされて明るいな」
「そうですね」
日高山のロープウェイは、夜でも照明でライトアップされてなかなかに明るい。私達の街ではメジャーで人気のある山の為、上り下りする人の為にも、夜も明るくして、夜登山も出来るだけやりやすい様にしているようだ。標高二百メートル程の山。親しみやすいけれど、もし夜登山をするなら気を付けなきゃね。
やがて、ロープウェイが山頂に着く。他のお客さんたちは降りて、それぞれ山頂の広場に向かったりしている。私と先輩も降りて、広場へと向かう。時間を確認する先輩。
「今、七時四十五分だな。そろそろ暗いから、ペルセウス座流星群も見えるかもな」
「はい!楽しみです!」
空は暗くなって、夜の闇が地上を覆う。きっと流れ星も綺麗に見えるのだろう。
私は期待感でいっぱいだ。佐伯先輩と流れ星を観る。素敵で、とてもロマンチックだ。いよいよね、と私も嬉しく、楽しくなってくる。
広場の照明がある所から、山頂の暗がりの方へ歩んでゆく。他にも観測者が居て、日高山はちょっと賑わっている。
日高山の山頂の暗がり。しかし、そこに着いて、星がよく見える筈の空を見上げると……。
「――空、曇ってるな……」
照明の届かない暗がりまで行って見上げた空は、曇っていて、星がほとんど見えなかった。先輩は残念そうにして、俯いている。
(そんな、せっかく来たのに……)
絶望に近い感情を私は感じる。先輩との取って置きのデート。上手くいかないで終わるの?私も俯いて、曇っている空が憎く思えてくる。その時……。
「キュルキュル―!」
キュリルが声を上げる。キュリル、急に鳴いて……。佐伯先輩に気付かれたらどうするの……?と先輩を見たが、先輩は気付いていないようだ。私のトートバッグの中、キュリルを見ると、大人しく動かないでいた。
「キュルキュル―!」
またキュリルの声がした。だけれどキュリルは口を閉じている。なに?と不思議がっていると、キュリルが喋る声がする。
「キュルキュル―!夏稀ちゃん、驚かせてごめんね。夏稀ちゃんの心に、直接話し掛けているの!」
キュリルの声に驚く私。やはりキュリルは、私のトートバッグの中で大人しくしている。
(えっ、キュリル、そんな事が出来るの?)
私が心の中で思っていると、再びキュリルが話し掛けてきた。
「キュルー!そうなの!それから、夏稀ちゃんが心の中で思っている事もキュリルは分かるの!キュリルは凄いの!心で会話するの!」
(そうなんだ)、と感心していると「そうなの!キュリルは凄いの!凄いの!」とキュリルは喜んでいる。
何だか、落ち着くな。と私は感じる。どうも、私はこのキュリルという妖精を憎めないでいる。愛おしく、可愛いくらいだ。
「池澤、どうかしたか?」
キュリルと心の中で会話していると、挙動不審に思ったのか、佐伯先輩に心配される。
「何でもないです――」
先輩に聞かれても誤魔化して、その場を収める。佐伯先輩は、「そうか」と言って空の様子を気にし出した。キュリルに大人しくしてもらわなきゃ。
(キュリル、今は佐伯先輩とのデートで、とても大切な時だから、大人しくしていてね)
「そうなの?でも、夏稀ちゃん、困っているみたいなの。キュリルが助けてあげるの!キュリルが何とかするの!」
キュリルが何だか私を心配して、想っている様に感じられた。
(キュリル……でも、どうするの?)
キュリルに問う私に、自信を持ってキュリルは応える。
「キュリルが、魔法を使って何とかするの!」
(キュリル、大丈夫なの?)と心で聞いてみる。キュリルは「大丈夫なの!」と自信たっぷりだ。
「でも、それは大きな魔法なの!天気を左右するのは、大きな力なの!でも、キュリルは頑張るの!夏稀ちゃんの為だから、キュリルは頑張るの!お天気を晴れにするの!キュリルは、頑張るの!」
天気を変える……。そんな魔法が、本当に使えるのかな?
(そんな事が出来るの?キュリル――)
キュリルは自信を持って、妖精としての誇りを持って、答えた。
「出来るの!」
そう言ったキュリルから、何だか凄い力が出ているのを感じた。
「キュルー!キュルキュル―!キュルー!キュルー!キュルルルル―!」
キュリルが言っているのが、何だか呪文のようだ。私の心の中だけで聞こえているのね、と辺りを見回して、皆はやはり気付いていない。やっぱり私にしか聞こえていないようだ。この凄まじいパワーは、私しか感じていないのね。
「キュルー!キュルキュル―!キュルキュルキュルキュルー!お天気が、晴れるのー!」
その時、空の様子が、変わった。曇っていた空は、雲が段々と切れて、晴れ間が覗いてきた。星々が、その姿を現してくる。
「あっ、晴れてきたな!」
佐伯先輩が声を上げる。キュリルの力なの?空が、星明りで、明るい。
(凄い、本当に晴れてきた!)
驚きと喜びで、口を開けて(凄い!)という顔をする私。そして、顔を空に向けて目を輝かせる。
(キュリル、ありがとう――)
「こちらこそ、ありがとうなの!キュリルは、疲れたなの。ちょっと休むのなの――」
すると、キュリルの声が聞こえなくなった。キュリル、本当にありがとう。と呟いて、佐伯先輩の方を見る。
「ほら、池澤、星が見えるよ」
空を指差す先輩。晴れてきて、星が見える。空を見上げる先輩は、やっぱり凄く嬉しそうだ。先輩の笑顔は、素敵で、魅力的だ。好きなものを好きなのは、うん、凄くいい事だ。
その時、空に、一条の光が流れた。
「あっ!流れ星!」
流れ星が、空から流れ落ちてきた。
「池澤!ペルセウス座流星群だ!」
一、二、三、四――流れ星が空から降る。佐伯先輩はデジタルカメラを手にして、流星を撮ろうとする。
「連写機能を使って撮るんだけれど……手で持って撮影すると、やっぱりブレるんだけれどな……。上手く撮れるといいな――」
佐伯先輩は流星を撮ろうと、デジタルカメラに顔を近づける。
その時、キュリルの声が聞こえた。
「キュルキュル―!」
(キュリル!)
キュリルから、また大きな力を感じる。キュリルは、私の心の中に話し掛けてきた。
「キュルキュル―!涼太君が上手く流れ星を撮れるように力を振り絞るの!キュルキュルー!」
キュリルから、どんどん大きな魔法のパワーを感じる。私、そんな力を感じ取ってる、と気付かされる。キュリルは、また魔法を使おうとしている。
「キュルー!キュルー!キュルルルルー!涼太君に、凄く綺麗な写真を撮ってもらうの!キュルルルルー!」
キュリルは呪文を唱えて、魔法を使う。
その時、一、二、三、四と、流れ星が流れた。
カシャカシャカシャ
「撮れたか!」
佐伯先輩は、連写機能を使ってその流れ星を撮る。上手く撮れたかな……?
カメラで写真を確認する先輩。「あっ!」と声を上げる。
「凄い!凄く綺麗に撮れてる!」
先輩は小躍りして喜ぶと、「池澤、ほら!」と私にも写真を見せる。
「ホントだ!凄く綺麗な流れ星!」
流れ星が四つ、空の星々と共に写真に映っていた。流れ星はブレる事もなく、長い尾を引いて光りながら、地上に降り注いでいた。日高山から見える流れ星は、こんなにも綺麗だ。
「やったな!」
「はい!」と答える。嬉しそうな先輩は、笑顔がとても魅力的だ。私も嬉しくなってくる。
――佐伯先輩と、目と目が合った。真顔になって、私を見つめる先輩。
その時、流れ星が、三つ、四つと流れた。「綺麗だな」と言う先輩。「そうですね」と私。
また佐伯先輩と目が合った。先輩の顔が、どんどん近づく。
私達は、唇と唇を重ねた。キスをした。
初めてのキスは、甘酸っぱくて、切なくて、先輩への愛おしさで溢れていた。先輩の、熱い吐息が聞こえる。先輩の体温が、唇を通して伝わってくる。
数秒間キスをして、私達は笑顔を見せあう。
「夏稀、って、呼んでもいいかな」
「はい!私も、涼太先輩、って呼ばせてください!」
「ああ」と答えると、佐伯先輩は照れくさそうに笑顔を見せた。私も照れてしまい、思わず笑みが零れる。
私と涼太先輩は、手と手を繋いで、二人寄り添った。温かくて心地よい空気が、私達を包む。
流れ星が、一つ、二つと流れる。こんなロマンチックで素敵な時間があるなんて、ちょっと前の私には想像出来なかっただろう。
「キュルキュル―!」
キュリルの声が聞こえた。キュリルから嬉しそうな、祝福してくれるような雰囲気を感じる。
「キュルキュル―!夏稀ちゃん、涼太君と二人、おめでとう!」
祝福されて(ありがとう、キュリル)と心の中で呟く。
「キュルー、僕は、凄く疲れたのなの。凄く休むのなの。最後に、涼しさを贈るの。夏稀ちゃん、またねなの」
ふっ、とキュリルの気配が消える。トートバッグの中を見ると、キュリルのぬいぐるみが、大人しそうに、横たわっていた。
夜の日高山は、八月の熱帯夜で暑いはずなのに、風が吹いて涼しさを感じられた。そういえばキュリルが「最後に、涼しさを贈るの」と言っていたっけ。
「夏稀、これからも宜しくな」
涼太先輩の想いに「私こそ、宜しくお願いします!」と応える。
流れ星が一つ、光を伸ばし空から地上に降ってくる。涼太先輩と私は、手と手を繋いで、願いを込める様にその流れ星を観ていた。
「着いたな。日高山。ロープウェイが来たら、乗って山頂の広場まで行こうか」
「はい、流星群、もうすぐ観られますね」
と相槌を打つ。ロープウェイを待つ。そして、話をする時間は、付き合いたての仲睦まじい時だから?先輩も凄く嬉しく、楽しそうで、私も心から素敵だと思える。
日高山の麓には、他にもお客さんがいて、その人達も、流星群観測の為だろう。期待を込める様にロープウェイを待っている。
やがてロープウェイが来ると、私達や他のお客さん、係の人が乗って、日高山山頂へと出発する。
「夜でもライトアップされて明るいな」
「そうですね」
日高山のロープウェイは、夜でも照明でライトアップされてなかなかに明るい。私達の街ではメジャーで人気のある山の為、上り下りする人の為にも、夜も明るくして、夜登山も出来るだけやりやすい様にしているようだ。標高二百メートル程の山。親しみやすいけれど、もし夜登山をするなら気を付けなきゃね。
やがて、ロープウェイが山頂に着く。他のお客さんたちは降りて、それぞれ山頂の広場に向かったりしている。私と先輩も降りて、広場へと向かう。時間を確認する先輩。
「今、七時四十五分だな。そろそろ暗いから、ペルセウス座流星群も見えるかもな」
「はい!楽しみです!」
空は暗くなって、夜の闇が地上を覆う。きっと流れ星も綺麗に見えるのだろう。
私は期待感でいっぱいだ。佐伯先輩と流れ星を観る。素敵で、とてもロマンチックだ。いよいよね、と私も嬉しく、楽しくなってくる。
広場の照明がある所から、山頂の暗がりの方へ歩んでゆく。他にも観測者が居て、日高山はちょっと賑わっている。
日高山の山頂の暗がり。しかし、そこに着いて、星がよく見える筈の空を見上げると……。
「――空、曇ってるな……」
照明の届かない暗がりまで行って見上げた空は、曇っていて、星がほとんど見えなかった。先輩は残念そうにして、俯いている。
(そんな、せっかく来たのに……)
絶望に近い感情を私は感じる。先輩との取って置きのデート。上手くいかないで終わるの?私も俯いて、曇っている空が憎く思えてくる。その時……。
「キュルキュル―!」
キュリルが声を上げる。キュリル、急に鳴いて……。佐伯先輩に気付かれたらどうするの……?と先輩を見たが、先輩は気付いていないようだ。私のトートバッグの中、キュリルを見ると、大人しく動かないでいた。
「キュルキュル―!」
またキュリルの声がした。だけれどキュリルは口を閉じている。なに?と不思議がっていると、キュリルが喋る声がする。
「キュルキュル―!夏稀ちゃん、驚かせてごめんね。夏稀ちゃんの心に、直接話し掛けているの!」
キュリルの声に驚く私。やはりキュリルは、私のトートバッグの中で大人しくしている。
(えっ、キュリル、そんな事が出来るの?)
私が心の中で思っていると、再びキュリルが話し掛けてきた。
「キュルー!そうなの!それから、夏稀ちゃんが心の中で思っている事もキュリルは分かるの!キュリルは凄いの!心で会話するの!」
(そうなんだ)、と感心していると「そうなの!キュリルは凄いの!凄いの!」とキュリルは喜んでいる。
何だか、落ち着くな。と私は感じる。どうも、私はこのキュリルという妖精を憎めないでいる。愛おしく、可愛いくらいだ。
「池澤、どうかしたか?」
キュリルと心の中で会話していると、挙動不審に思ったのか、佐伯先輩に心配される。
「何でもないです――」
先輩に聞かれても誤魔化して、その場を収める。佐伯先輩は、「そうか」と言って空の様子を気にし出した。キュリルに大人しくしてもらわなきゃ。
(キュリル、今は佐伯先輩とのデートで、とても大切な時だから、大人しくしていてね)
「そうなの?でも、夏稀ちゃん、困っているみたいなの。キュリルが助けてあげるの!キュリルが何とかするの!」
キュリルが何だか私を心配して、想っている様に感じられた。
(キュリル……でも、どうするの?)
キュリルに問う私に、自信を持ってキュリルは応える。
「キュリルが、魔法を使って何とかするの!」
(キュリル、大丈夫なの?)と心で聞いてみる。キュリルは「大丈夫なの!」と自信たっぷりだ。
「でも、それは大きな魔法なの!天気を左右するのは、大きな力なの!でも、キュリルは頑張るの!夏稀ちゃんの為だから、キュリルは頑張るの!お天気を晴れにするの!キュリルは、頑張るの!」
天気を変える……。そんな魔法が、本当に使えるのかな?
(そんな事が出来るの?キュリル――)
キュリルは自信を持って、妖精としての誇りを持って、答えた。
「出来るの!」
そう言ったキュリルから、何だか凄い力が出ているのを感じた。
「キュルー!キュルキュル―!キュルー!キュルー!キュルルルル―!」
キュリルが言っているのが、何だか呪文のようだ。私の心の中だけで聞こえているのね、と辺りを見回して、皆はやはり気付いていない。やっぱり私にしか聞こえていないようだ。この凄まじいパワーは、私しか感じていないのね。
「キュルー!キュルキュル―!キュルキュルキュルキュルー!お天気が、晴れるのー!」
その時、空の様子が、変わった。曇っていた空は、雲が段々と切れて、晴れ間が覗いてきた。星々が、その姿を現してくる。
「あっ、晴れてきたな!」
佐伯先輩が声を上げる。キュリルの力なの?空が、星明りで、明るい。
(凄い、本当に晴れてきた!)
驚きと喜びで、口を開けて(凄い!)という顔をする私。そして、顔を空に向けて目を輝かせる。
(キュリル、ありがとう――)
「こちらこそ、ありがとうなの!キュリルは、疲れたなの。ちょっと休むのなの――」
すると、キュリルの声が聞こえなくなった。キュリル、本当にありがとう。と呟いて、佐伯先輩の方を見る。
「ほら、池澤、星が見えるよ」
空を指差す先輩。晴れてきて、星が見える。空を見上げる先輩は、やっぱり凄く嬉しそうだ。先輩の笑顔は、素敵で、魅力的だ。好きなものを好きなのは、うん、凄くいい事だ。
その時、空に、一条の光が流れた。
「あっ!流れ星!」
流れ星が、空から流れ落ちてきた。
「池澤!ペルセウス座流星群だ!」
一、二、三、四――流れ星が空から降る。佐伯先輩はデジタルカメラを手にして、流星を撮ろうとする。
「連写機能を使って撮るんだけれど……手で持って撮影すると、やっぱりブレるんだけれどな……。上手く撮れるといいな――」
佐伯先輩は流星を撮ろうと、デジタルカメラに顔を近づける。
その時、キュリルの声が聞こえた。
「キュルキュル―!」
(キュリル!)
キュリルから、また大きな力を感じる。キュリルは、私の心の中に話し掛けてきた。
「キュルキュル―!涼太君が上手く流れ星を撮れるように力を振り絞るの!キュルキュルー!」
キュリルから、どんどん大きな魔法のパワーを感じる。私、そんな力を感じ取ってる、と気付かされる。キュリルは、また魔法を使おうとしている。
「キュルー!キュルー!キュルルルルー!涼太君に、凄く綺麗な写真を撮ってもらうの!キュルルルルー!」
キュリルは呪文を唱えて、魔法を使う。
その時、一、二、三、四と、流れ星が流れた。
カシャカシャカシャ
「撮れたか!」
佐伯先輩は、連写機能を使ってその流れ星を撮る。上手く撮れたかな……?
カメラで写真を確認する先輩。「あっ!」と声を上げる。
「凄い!凄く綺麗に撮れてる!」
先輩は小躍りして喜ぶと、「池澤、ほら!」と私にも写真を見せる。
「ホントだ!凄く綺麗な流れ星!」
流れ星が四つ、空の星々と共に写真に映っていた。流れ星はブレる事もなく、長い尾を引いて光りながら、地上に降り注いでいた。日高山から見える流れ星は、こんなにも綺麗だ。
「やったな!」
「はい!」と答える。嬉しそうな先輩は、笑顔がとても魅力的だ。私も嬉しくなってくる。
――佐伯先輩と、目と目が合った。真顔になって、私を見つめる先輩。
その時、流れ星が、三つ、四つと流れた。「綺麗だな」と言う先輩。「そうですね」と私。
また佐伯先輩と目が合った。先輩の顔が、どんどん近づく。
私達は、唇と唇を重ねた。キスをした。
初めてのキスは、甘酸っぱくて、切なくて、先輩への愛おしさで溢れていた。先輩の、熱い吐息が聞こえる。先輩の体温が、唇を通して伝わってくる。
数秒間キスをして、私達は笑顔を見せあう。
「夏稀、って、呼んでもいいかな」
「はい!私も、涼太先輩、って呼ばせてください!」
「ああ」と答えると、佐伯先輩は照れくさそうに笑顔を見せた。私も照れてしまい、思わず笑みが零れる。
私と涼太先輩は、手と手を繋いで、二人寄り添った。温かくて心地よい空気が、私達を包む。
流れ星が、一つ、二つと流れる。こんなロマンチックで素敵な時間があるなんて、ちょっと前の私には想像出来なかっただろう。
「キュルキュル―!」
キュリルの声が聞こえた。キュリルから嬉しそうな、祝福してくれるような雰囲気を感じる。
「キュルキュル―!夏稀ちゃん、涼太君と二人、おめでとう!」
祝福されて(ありがとう、キュリル)と心の中で呟く。
「キュルー、僕は、凄く疲れたのなの。凄く休むのなの。最後に、涼しさを贈るの。夏稀ちゃん、またねなの」
ふっ、とキュリルの気配が消える。トートバッグの中を見ると、キュリルのぬいぐるみが、大人しそうに、横たわっていた。
夜の日高山は、八月の熱帯夜で暑いはずなのに、風が吹いて涼しさを感じられた。そういえばキュリルが「最後に、涼しさを贈るの」と言っていたっけ。
「夏稀、これからも宜しくな」
涼太先輩の想いに「私こそ、宜しくお願いします!」と応える。
流れ星が一つ、光を伸ばし空から地上に降ってくる。涼太先輩と私は、手と手を繋いで、願いを込める様にその流れ星を観ていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13





社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる