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「始まり、そして旅立ち」1
奪還9
しおりを挟む「なんじゃなんじゃ、黒衣の男は負けてしまったのか!?」
黒球研究室にはミシェルが研究用ベッドに横たわっていたが、部屋に入るとエニグマ博士が焦った顔をしながらピョンピョン飛び跳ね開口一番喋り出した。
「なんだこのちっちゃい老人は?」
「あんまり強そうに見えないから無害じゃないか?」
ニッシュとビルがエニグマ博士に対して感想を述べる。エニグマ博士はぷんすかしながら自分について喋り出した。
「ワシはエニグマ、研究者じゃ!博士なんじゃ!高尚な研究を行う尊い人物なんじゃ!研究所を守らせているあんな野蛮人共とは違うんじゃ~!」
自身を自ら尊い人物というエニグマ博士に呆れるニッシュとビル。ジョニーは、そんなエニグマ博士に諭すように言う。
「たとえ研究の為と言えど、ミシェルは私の大切な家族だ。危険の及ぶ研究をさせる訳にはいかない。ミシェルは返してもらう」
ジョニーはミシェルを心から思って言ったのだが、エニグマ博士は何を思ったのか反論する。
「この娘を、返してもらうじゃと~!」
そう言うと、エニグマ博士は黒球研究室にある防衛用と書いてある小さな扉から小さな銃の様な物を取り出し、三人にこう言ってきた。
「この娘は黒球に多大な影響を与える貴重な娘なんじゃ!黒球研究に凄く貢献するんじゃ!そんな娘を返せとは何事じゃ!これでもくらえ~!」
「危ない!」
エニグマ博士は小さな銃を撃ってきた。ジョニーが銃の弾道に入らないようにニッシュとビルを誘導する。
ビィイィィィーー!!
エニグマ博士が撃った銃からは光の光線が発射され、それが当たった壁は黒く焦げる。
「ふふふ、光線銃じゃ」
エニグマ博士は得意げにそう言う。ビルが「何だこの危ない老人は」と文句を言う。エニグマ博士は自身の研究の為、さらに三人に襲い掛かる。
「ワシは凄いんじゃ!もう一度くらえ~!」
ポチッ
光線銃を撃ったエニグマ博士だが、今度は反応がない。エニグマ博士が光線銃の引き金をカシャカシャするがやはり反応がない。
「クッ、電池切れじゃ!」
一人でドタバタと行動するエニグマ博士に呆れる三人。エニグマ博士は黒球研究室にある防衛用と書いてある小さな扉からもう一個光線銃を取り出した。
「ふふ、予備の光線銃じゃ!これでもくらえ~!」
エニグマ博士が光線銃の引き金に手を掛けようかという時、ジョニーが素早くレイピアでエニグマ博士の持つ光線銃に払いを入れる。光線銃はカシャーンと床に飛んでいき、ジョニーはエニグマ博士にレイピアを向けて、こう言った。
「ミシェルを助けにきたんです!それにビルやニッシュに危険が及ぶなら、ご老体でも容赦しません!」
ジョニーはそう言いエニグマ博士の鼻先にレイピアを突き付ける。エニグマ博士は「と、年寄りは大事にするもんじゃ!」と一度言ったが、諦める。
「い、命には、替えられん……のう……」
エニグマ博士はその場に項垂れる。
その時、研究所の外から研究所全体に聞こえる位の音量で、拡声器の様な物から人の声が聞こえてくる。
「我々は、警察だ!ここに女の子が捕らわれていると通報があった!サントモス山の麓の森の中で何をしている!捜索させてもらう!」
すると、ビルがピィーーと口笛を吹いた。
「ようやく、警察のお出ましか」
「け、警察じゃと!」
「エニグマ博士と言いましたね。ミシェルの拘束を解いてもらいます」
黒球研究室の中では黒球が落ち着きを取り戻したように小さな扉の中で佇んでいた。エニグマ博士はジョニーにレイピアを突き付けられ、渋々ミシェルが眠っている実験用ベッドの拘束具を外す。ミシェルの手と足、そして胴を拘束していた拘束具がシュインと外れる。
ニッシュはミシェルの下に行きミシェルに寄り添う。そして優しく声を掛けた。
「――ミシェル!もう大丈夫だ!――大丈夫だ!」
ニッシュはミシェルを抱きしめ安堵の声を上げる。だがミシェルは疲れ切って眠ったままだ。
「ニッシュ、ここはそっとしておこう」
「姉ちゃん、家に帰ればきっと元気になるさ」
ニッシュは、ミシェルが横になっている実験用ベッドの傍に、何か光るものが落ちているのを見つける。
「――これは……」
ニッシュはそれを手に取る。
「俺がミシェルにプレゼントした、銀色のイヤリング――」
ニッシュはそれを手に取ると、自分がリルクントン材木店で見つけたもう片方のイヤリングをポケットから出して、ミシェルの両耳に付けた。
「――おっ、ニッシュ、何やってんだ?」
ビルがそれを見つめる。ニッシュはミシェルの両耳に銀色のイヤリングを付け終えた。
「ミシェル、君が元気なら、この銀色のイヤリングも凄く映えるよね……」
ニッシュはビルに今日俺がミシェルにプレゼントしたイヤリングなんだ、と告げる。ビルは「ふ~ん」とだけ頷いた。
ジョニーがそんな二人に言う。
「さぁさぁ、ミシェルも助けたことだし、警察と合流して四人で脱出、帰ろう。こんな建物とはおさらばだな」
ジョニーがそう言い、ビルが「姉ちゃん連れて帰るか」と言う。だがミシェルは気を失ったまま、起きる気配がない。ニッシュは「俺がミシェルを連れていくよ」と金属製のレイピアをビルに持ってもらい、ミシェルを背負う。
四人は警察と合流しに行く。
ザザザッザザッザザザッ
ジョニー、ビル、ニッシュ、ミシェルの四人が黒球研究室から出ていき、研究所の外の警察と合流しに行ったところ。エニグマ博士は項垂れていたが、黒球研究室の実験用モニターに通信が入る。エニグマ博士は半分落ち込んで「なんじゃ~」とモニターを見る。
「――エニグマ博士よ、ワシに報告することがあるのではないか?」
「――は、博士!?」
先程エニグマ博士に通信を送った、エニグマ博士が博士と呼ぶ老人がモニターに映っている。再び通信を送ったのだ。博士は腕を組み、がっしりとした体躯がより強調されている感じがする。
「ミシェルという「ダーク・プリンセス」の娘が、侵入者に奪われていったのであろう!」
「はひーー!」
博士の威圧感に圧倒されるエニグマ博士。エニグマ博士は博士に叱責され、返事に聞こえない返事をする。博士は言葉を続けた。
「全く、何をやっているんじゃ!せっかく「ダーク・プリンセス」の娘を手に入れたというのに……じゃが……まぁよい」
「は、博士!」
「こちらにはあの〈黒球〉がある。研究所の資料も既に転送されておる」
「はひーー!」
「じゃがな、侵入者に警察を呼ばれたのであろう?ならば、〈黒球〉を持ち、研究所の中身もろとも逃げ出すのじゃ。警察に見つかる前にな。遅れを取った者はもう捨て去れ」
「はひーー!……しかし、どうすれば――」
「ワシに考えがあるのじゃ、詳しいところはそこにいるムガピが行う――それでは、またな」
博士は通信を切る。通信はザザザッザザッザザザッという音と共に途切れた。エニグマ博士は「博士、ムガピとは!?」と言うが既に通信は切れていた。
「ムガピは私です」
エニグマ博士が「なに!?」と振り返ると、そこには能面の様な顔の人物が立っていた。「お主がムガピじゃと?」とエニグマ博士が聞くと「そうです」と答える。
「それでは、研究所の中の大移動を行います」
ムガピはそう言うと、黒球に向かって何かをやりだした。
黒球は、そのエネルギー反応を示すと、研究所内に何かが起きた。
研究所は、辺り一帯が黒いエネルギーに包まれると、研究所内の人や物がグーンとどこかに消え去った。
後には、研究所の建物だけが残されていた。
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