ダーク・プリンセス

ノリック

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「始まり、そして旅立ち」1

研究所2

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* * *



 エニグマ博士はミシェルの反論に構わずミシェルを実験しようと試みる。

「ミシェル、まずは、そこに横になってくれんか、心臓を取り出しづらいではないか」

 エニグマ博士から言われるが、ミシェルは「誰がするもんですか!」とまた反論する。

 その時、黒球研究室に放送が入る。ガガガッと音が入ると、人の声が聞こえてきた。

『上からの報告だ。そのミシェルという娘は生かしておけとのことだ』

(この声は、黒衣の男!)

 放送の声があの黒衣の男であることにミシェルは驚く。エニグマ博士も「なんじゃ、黒衣の男め……」と何かぶつぶつ言っている。

『それとそのミシェルという娘に自分が何故実験に使われるか教えてやれということだ。上からの報告は以上だ』

 上からの報告だというが、ミシェルを生かしておけという放送に取り敢えずミシェルは安堵する。何故こんな事になっているかも知りたいところだ。

「むぅ、黒衣の男め。上からの命令なら、しかたないのう……心臓を直接黒球に反応させた方が、強いエネルギーを生むんじゃがのう」

エニグマ博士はまだ物騒な事を言っているが、ミシェルに黒球とミシェルについての説明を始めた。

「ミシェルという娘、お主は、あの超絶的なエネルギーを発する黒球を動かすのに必要な遺伝子の変異を持っているのじゃよ。ミシェルよ、お主は生物の遺伝的に、人類の中では百億人に一人、この世界の人口は現在四十億人超程じゃから、二百年以上に一度現れるたいへん貴重な存在なのじゃよ。その遺伝子の変異は、黒球を動かし、活性化させる。ミシェルよ、だからお主が必要なんじゃ。ミシェル、お主は黒球の力を最大限発揮できる人間の女性、ダーク・プリンセスなんじゃ」

「そんなの、私かどうか分からないじゃない!他の誰かかもしれないし……」

「いいや、お主じゃよ、ミシェル。現に、あの黒球から凄まじいエネルギーが発せられておる。まるでお主に呼応しているようじゃ」

 ミシェルは小さな扉の中の黒球に目をやった。

 それは、まるでミシェルの呼吸に合わせるかのように黒く瞬いていた。ミシェルが息を吐けば小さく、ミシェルが息を吸えば大きくなり、まるでミシェル自身の動きに呼応するかのように黒球は黒く輝いていた。

(――そんな、私がこの黒い球の――!?)

 得体の知れない黒い球を自分が反応させている事にミシェルは半ば絶望する。この訳の分からない組織に自分が使われることが、辛かった。

「ミシェルよ、だからお主にはこの黒球の実験体になってもらうぞい」

「――そんな!?」

「大丈夫じゃ、上からの命令じゃ、命までは取らんぞい……本当は、心臓を直接黒球に反応させた方が強いエネルギーを生むんじゃがのう……」

 エニグマ博士は「じゃあ、そこに横になってくれんかのう」と黒球研究室の実験用ベッドにミシェルを促した。ミシェルは「大丈夫でしょうね!」と念を押す。エニグマ博士は「大丈夫じゃ、死ぬような事はない」とだけ言った。

 ミシェルは実験用ベッドに横になった。今でもあの黒球は、禍々しく黒光りして光を放っている。これから自分はどうなるんだろうとミシェルは不安になったが、このままの状況では自分が圧倒的に不利だし、生かしておくという言葉を信じて素直にエニグマ博士に従った。

 エニグマ博士は「じゃあ実験をするぞい」と実験の準備を進める。まずはミシェルの手と足、そして胴を動かないように[シュイン]と自動拘束具で固定した。仰向けに寝ているミシェルは(どうか無事に済みますように)と祈りを込める。そしてエニグマ博士はコンピューターやら何やら機械で制御されている装置を使い、黒球とミシェルを実験し始めた。

「ミシェルよ、一つ断っておくが、命は保証するが、体への負担はあるかもしれんでのう」

「――!?何よ、こんな間際に!」

 こんな間際に何を言うのと憤るが、ミシェルはもう何とか耐えるしかないと諦める。(どうか無事に済みますように)ともう一度祈りを込める。

 ミシェルを載せた実験用ベッドは、[シュイーン]と黒球研究室の奥の方へと入っていった。ミシェルはもう祈るしかなかった。

「それでは、黒球投入じゃぞい」

 小さな扉の中にあった黒球は、その中から[ウィーン]と動くと、ミシェルのいる実験用ベッドに向かっていった。ミシェルは身体の何処かで黒球が来るのが分かると、自身の鼓動も早くなってゆく。

 そしてミシェルは、黒球を目の当たりにした。黒球は、黒く禍々しい光を放ちながら、自身の心臓の辺りに移動してきた。ミシェルはその衝動に耐え切れなかった。

「あああぁああああ!!!」

 ミシェルは堪らず叫び声を上げる。苦しいのか不安なのか分からない衝動で、どうしていいか分からなかった。

「この時点でもう凄いエネルギーじゃ!……では、黒球を開放するぞい!」

 エニグマ博士は黒球の制御スイッチを解除した。

 その瞬間、瞬くように爆発的なエネルギーの衝動が、〈研究所〉とその周辺一帯に波及する。

「あああぁああああぁああああ!!!」

 ミシェルはその衝動に耐え切れず、正気を失い訳が分からずにただ叫び声を上げた。

 そしてミシェルの瞳の色は、その澄んだ青色から黒く、髪は綺麗な金色から黒く、肌も透き通った白から黒く変わってゆく。

「凄いぞい!黒球のエネルギーが、この娘のおかげで満ち満ちているようじゃ!」

「あああぁああああああ!!!」

 叫び声を上げ続けるミシェル。エニグマ博士は狂気じみた興奮を抑えきれない。

「百パーセントを、振り切ったぞい!」

 エニグマ博士の手元にある黒球のエネルギーメーターは、計器の数値を大幅に振り切って溢れんばかりだ。エニグマ博士はたいへん満足したようだった。

「もうよいな。黒球の開放をやめるぞい」

 エニグマ博士は黒球の制御スイッチを入れた。

 しかし、黒球は制御スイッチを切っても、その圧倒的なエネルギーの放出をやめなかった。

黒球はミシェルに反応してそのパワーを強めていった。

「あああぁあああああ!!!」

 ミシェルは堪らず叫び声を上げる。

「――!!なんじゃ、なんじゃとぉー!」

 その時だった。黒球のエネルギー波がまた研究所を覆いつくし先程よりも強い衝撃波が辺り一帯を突き抜けていった。

 ドォオォーーーーン!!!

 ――――辺り一帯に轟音が鳴り響き、皆が何事かと驚いた。

「あああぁあああああ!!!――ぁぁあ……」

 ミシェルはもう既に悲鳴である叫び声を上げると、そのまま気を失っていた。

 黒球はそのエネルギー放出をやめると、制御装置がある小さな扉の中に戻っていた。

 ミシェルの瞳の色は青、髪の色は金、肌の色は白に戻っていたかのように見えるが、それはどこか黒みがかっていて、何よりミシェルは気を失っている上に、生きているという覇気が感じられなかった。

 黒球のエネルギー波が収まると、先程の騒ぎが嘘の様に研究所内は静けさを取り戻していく。

 黒球研究室の陰に隠れていたエニグマ博士は、騒ぎが収まると、中央に出てきた。

「――この、娘!――やはり凄いぞい!」

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