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「始まり、そして旅立ち」1
ミシェルのデート11
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カフェ『ミルキーウェイ』を後にして、デートの終盤に差し掛かり、私はニッシュに問い掛けてみた。
「さぁニッシュ、カフェから出てきたわ。この後のデートプランは考えてくれたかしら?」
私の問い掛けに、ニッシュは「うん」とだけ答えた。ニッシュはただそう答えただけで、私は(考えてるのかな?)と思ったけれど、ニッシュは落ち着いていて、何かを噛み締める様に言葉を口にした。
「なぁ、ミシェル、ここからは、当てもなく散歩してみる、ってのはどうだい?」
「えっ、散歩?」
私はニッシュが何か考えているのかなとは思ったけれど、散歩をするとは想定していなかった。でも、言われてみれば、ここまでデートを楽しんだ中、これからニッシュと二人でゆったりと散歩をするのも悪くないな、と思えた。
「そうねぇ、ニッシュとこれから二人で散歩するのも、なにかいいかもね」
「じゃあ、決まりだな」
「そうね!」
そして私達はウィングエッジの商店街から当てもなく散歩をすることにした。
――こうしてニッシュとゆっくり一緒に歩いていると、私達本当に付き合ってるんだな、ということが実感できる。ニッシュの隣を、歩幅を合わせて、こうして散歩していることがなんだかすごく恥ずかしいんだけれど、愛おしく、とても嬉しかった。ニッシュが私の隣にいてくれる事が、こんなにも幸せだなんて、この時初めて実感できた。
「――ミシェル、今日はありがとう」
「――うん」
ニッシュがありがとうと言うので、私もうんとだけ返事をした。
私達はその後ずっとゆっくりと散歩をしていた。ただ歩いているだけなのに、何気ない時間と街の建物、新緑の空気が二人を包み込んで、なんだか温かくほっこりとした気持ちになった。
そんな中、散歩をしている途中であるものを見つけた。
「あ、アウバの木!」
商店街の一辺に、大きく立派なアウバの巨木が立っていた。
「リルクントン材木店ね!」
立派なアウバの巨木がある敷地の建物の看板に、大きな字で『リルクントン材木店』と書かれていた。
「やっぱりリルクントン材木店のアウバの木は大きくて立派だな。ミシェル、ちょっと寄ってかないかい?」
ニッシュの問い掛けに「ええ!」と答えて私とニッシュはリルクントン材木店の中に入った。
「こんにちは」
「お邪魔します」
中に入ると、木々の優しい空気に包まれる。
奥からリルクントン材木店の主人が声を掛けてきた。
「いらっしゃい、ミシェルちゃんだね――そちらの男の子は?」
「こんにちはネイトさん。この人はニッシュ――私のボーイフレンドよ」
私はリルクントン材木店の店主、ネイトさんにニッシュを紹介した。
「ほう、そうかいそうかい」
ネイトさんが優しい頷きを見せた――ネイトさんはいつ見ても穏やかな表情だ。
『リルクントン材木店』は家具や木材の工芸品など、木で出来た様々な物を扱っている。ネイトさんが作る木材の品はどれも一級品で、密かな愛好者から好評を得ている。
「ミシェルちゃんのボーイフレンドっていう事はレイピア術で知り合ったのかな?」
「はい、ニッシュもレイピア術をやっています」
「こんにちは――ネイトさん、ですね。ミシェルのボーイフレンドのニッシュです。リルクントン材木店には何度か来たことがあります」
「――そうかいそうかい。ところで、いいアウバの木材が入ったからウッドレイピアを作ったんだが……ちょっと見ていくかい?」
「はい、喜んで!!」
ネイトさんが作る木材の品は、ウッドレイピアもその一つだ。中でもネイトさんが作るアウバで出来たウッドレイピアは、その品評会で高い評価を受けるほどだ。実際、ネイトさんが作るアウバで出来たウッドレイピアを使ってみると、その使いやすく、強靭なウッドレイピアに感嘆するほどだ。
そんなネイトさんとレイピア術をやっている私は、父の時代からウッドレイピアを使わせてもらっている。何十本とある私の家の武術館のウッドレイピアの多くがネイトさんが作ったウッドレイピアだ。ウッドレイピアで高い評価を受けているネイトさんと、代々レイピア術をやっていて世界大会にも出場している私の家は、昔からの古い付き合いだ。
「ミシェル、やっぱりレイピア術では有名人だな。俺は名前覚えてもらってなかったのに」
「何言ってるの。私の家は代々レイピア術をやっていて、父さんは凄く強いんだからそれはしょうがないわ」
「でもやっぱり凄いや、ウッドレイピア作りの名手のネイトさんに名前を覚えてもらえてるなんて」
そんな話をしていると、ネイトさんが奥から二本のウッドレイピアを持ってきてくれた。
それは、しなやかで強靭なアウバを使った、実に見事なウッドレイピアだった。アウバの素材もかなりいい物の様で、ウッドレイピアから見られる木目やその質感は、他の物と比べてもなかなかに優れているのが分かる。そして、ネイトさんが作った事が分かるように、ウッドレイピアの持ち手や先端の相手への衝撃が伝わる部分など、細部の細かい点まで行き届いたその技は実に見事で、圧巻の域だった。
「――凄いな、やっぱり凄い!ネイトさんの作ったウッドレイピアはやっぱり凄いや」
「うん、ネイトさんの力作ね!実に見事なウッドレイピアだわ」
私達は、純粋にネイトさんを褒めたのだ。ネイトさんは、語るように言った。
「私なりに、ウッドレイピアの事を学んで作ってきたつもりだ」
ネイトさんが、何かを含むように喋った。
「――もともとレイピアは、金属で作られてきた、戦いの道具としてな。その流れを汲んできたのじゃよ。レイピア術が生まれたのも、戦いのためじゃ。じゃがな、ウッドレイピアは武道の心得を学ぶことも重要なことが分かるんじゃよ――戦争の為から、訓練や修練で人を過度に傷つけず、且つ武道として上達する為に生まれた……わしはな、その心得を大事にしたいんじゃよ」
「――ネイトさん」
「――はい!」
私達は、ネイトさんの話に感心しきりだった。ネイトさんは、やはりその穏やかな表情を崩さずに私達を見つめていた。
「――さぁ、今日は見せるものも他にはないし、外にもわしが作った木材の品やウッドレイピアがあるから、それでも見とっといてくれ」
ネイトさんがそう言うので、私達は外に出ることにした。
「ネイトさん、ありがとうございます」
「ネイトさん、ありがとうね」
私達はリルクントン材木店の店内から出て、その敷地のアウバの木を眺めた。大きくて、立派なアウバだ。
「立派だな」
「ええ」
「このアウバ、こんなに凄いのにそう言えばネイトさんに聞いたことないや――聞けば良かったな――」
「そうね。私も聞いたことないなぁ……ところで外にウッドレイピアがあるのよね――あっ、あれね!」
リルクントン材木店の敷地の片隅には、木材の品やウッドレイピアがたくさんあった。売り物から外れたものや在庫が余っているものを置いているのだろう。建物の下に雨ざらしにならないように置いてあった。
私がウッドレイピアを手にしようとした時、ニッシュが私に話しかけてきた。
「ミシェル、またサントバーグの公園に行かないかい?」
私は、ニッシュの方を振り向いた。
「俺の夢、話したいんだ」
「――うん!」と私は返事をして、私とニッシュは再度サントバーグの公園に向かった。
「さぁニッシュ、カフェから出てきたわ。この後のデートプランは考えてくれたかしら?」
私の問い掛けに、ニッシュは「うん」とだけ答えた。ニッシュはただそう答えただけで、私は(考えてるのかな?)と思ったけれど、ニッシュは落ち着いていて、何かを噛み締める様に言葉を口にした。
「なぁ、ミシェル、ここからは、当てもなく散歩してみる、ってのはどうだい?」
「えっ、散歩?」
私はニッシュが何か考えているのかなとは思ったけれど、散歩をするとは想定していなかった。でも、言われてみれば、ここまでデートを楽しんだ中、これからニッシュと二人でゆったりと散歩をするのも悪くないな、と思えた。
「そうねぇ、ニッシュとこれから二人で散歩するのも、なにかいいかもね」
「じゃあ、決まりだな」
「そうね!」
そして私達はウィングエッジの商店街から当てもなく散歩をすることにした。
――こうしてニッシュとゆっくり一緒に歩いていると、私達本当に付き合ってるんだな、ということが実感できる。ニッシュの隣を、歩幅を合わせて、こうして散歩していることがなんだかすごく恥ずかしいんだけれど、愛おしく、とても嬉しかった。ニッシュが私の隣にいてくれる事が、こんなにも幸せだなんて、この時初めて実感できた。
「――ミシェル、今日はありがとう」
「――うん」
ニッシュがありがとうと言うので、私もうんとだけ返事をした。
私達はその後ずっとゆっくりと散歩をしていた。ただ歩いているだけなのに、何気ない時間と街の建物、新緑の空気が二人を包み込んで、なんだか温かくほっこりとした気持ちになった。
そんな中、散歩をしている途中であるものを見つけた。
「あ、アウバの木!」
商店街の一辺に、大きく立派なアウバの巨木が立っていた。
「リルクントン材木店ね!」
立派なアウバの巨木がある敷地の建物の看板に、大きな字で『リルクントン材木店』と書かれていた。
「やっぱりリルクントン材木店のアウバの木は大きくて立派だな。ミシェル、ちょっと寄ってかないかい?」
ニッシュの問い掛けに「ええ!」と答えて私とニッシュはリルクントン材木店の中に入った。
「こんにちは」
「お邪魔します」
中に入ると、木々の優しい空気に包まれる。
奥からリルクントン材木店の主人が声を掛けてきた。
「いらっしゃい、ミシェルちゃんだね――そちらの男の子は?」
「こんにちはネイトさん。この人はニッシュ――私のボーイフレンドよ」
私はリルクントン材木店の店主、ネイトさんにニッシュを紹介した。
「ほう、そうかいそうかい」
ネイトさんが優しい頷きを見せた――ネイトさんはいつ見ても穏やかな表情だ。
『リルクントン材木店』は家具や木材の工芸品など、木で出来た様々な物を扱っている。ネイトさんが作る木材の品はどれも一級品で、密かな愛好者から好評を得ている。
「ミシェルちゃんのボーイフレンドっていう事はレイピア術で知り合ったのかな?」
「はい、ニッシュもレイピア術をやっています」
「こんにちは――ネイトさん、ですね。ミシェルのボーイフレンドのニッシュです。リルクントン材木店には何度か来たことがあります」
「――そうかいそうかい。ところで、いいアウバの木材が入ったからウッドレイピアを作ったんだが……ちょっと見ていくかい?」
「はい、喜んで!!」
ネイトさんが作る木材の品は、ウッドレイピアもその一つだ。中でもネイトさんが作るアウバで出来たウッドレイピアは、その品評会で高い評価を受けるほどだ。実際、ネイトさんが作るアウバで出来たウッドレイピアを使ってみると、その使いやすく、強靭なウッドレイピアに感嘆するほどだ。
そんなネイトさんとレイピア術をやっている私は、父の時代からウッドレイピアを使わせてもらっている。何十本とある私の家の武術館のウッドレイピアの多くがネイトさんが作ったウッドレイピアだ。ウッドレイピアで高い評価を受けているネイトさんと、代々レイピア術をやっていて世界大会にも出場している私の家は、昔からの古い付き合いだ。
「ミシェル、やっぱりレイピア術では有名人だな。俺は名前覚えてもらってなかったのに」
「何言ってるの。私の家は代々レイピア術をやっていて、父さんは凄く強いんだからそれはしょうがないわ」
「でもやっぱり凄いや、ウッドレイピア作りの名手のネイトさんに名前を覚えてもらえてるなんて」
そんな話をしていると、ネイトさんが奥から二本のウッドレイピアを持ってきてくれた。
それは、しなやかで強靭なアウバを使った、実に見事なウッドレイピアだった。アウバの素材もかなりいい物の様で、ウッドレイピアから見られる木目やその質感は、他の物と比べてもなかなかに優れているのが分かる。そして、ネイトさんが作った事が分かるように、ウッドレイピアの持ち手や先端の相手への衝撃が伝わる部分など、細部の細かい点まで行き届いたその技は実に見事で、圧巻の域だった。
「――凄いな、やっぱり凄い!ネイトさんの作ったウッドレイピアはやっぱり凄いや」
「うん、ネイトさんの力作ね!実に見事なウッドレイピアだわ」
私達は、純粋にネイトさんを褒めたのだ。ネイトさんは、語るように言った。
「私なりに、ウッドレイピアの事を学んで作ってきたつもりだ」
ネイトさんが、何かを含むように喋った。
「――もともとレイピアは、金属で作られてきた、戦いの道具としてな。その流れを汲んできたのじゃよ。レイピア術が生まれたのも、戦いのためじゃ。じゃがな、ウッドレイピアは武道の心得を学ぶことも重要なことが分かるんじゃよ――戦争の為から、訓練や修練で人を過度に傷つけず、且つ武道として上達する為に生まれた……わしはな、その心得を大事にしたいんじゃよ」
「――ネイトさん」
「――はい!」
私達は、ネイトさんの話に感心しきりだった。ネイトさんは、やはりその穏やかな表情を崩さずに私達を見つめていた。
「――さぁ、今日は見せるものも他にはないし、外にもわしが作った木材の品やウッドレイピアがあるから、それでも見とっといてくれ」
ネイトさんがそう言うので、私達は外に出ることにした。
「ネイトさん、ありがとうございます」
「ネイトさん、ありがとうね」
私達はリルクントン材木店の店内から出て、その敷地のアウバの木を眺めた。大きくて、立派なアウバだ。
「立派だな」
「ええ」
「このアウバ、こんなに凄いのにそう言えばネイトさんに聞いたことないや――聞けば良かったな――」
「そうね。私も聞いたことないなぁ……ところで外にウッドレイピアがあるのよね――あっ、あれね!」
リルクントン材木店の敷地の片隅には、木材の品やウッドレイピアがたくさんあった。売り物から外れたものや在庫が余っているものを置いているのだろう。建物の下に雨ざらしにならないように置いてあった。
私がウッドレイピアを手にしようとした時、ニッシュが私に話しかけてきた。
「ミシェル、またサントバーグの公園に行かないかい?」
私は、ニッシュの方を振り向いた。
「俺の夢、話したいんだ」
「――うん!」と私は返事をして、私とニッシュは再度サントバーグの公園に向かった。
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