ダーク・プリンセス

ノリック

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「始まり、そして旅立ち」1

ミシェル10

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 ニッシュに告白された後、夏休み中のある日の学校でレイピア術部の練習をしている時のことだった。

レイピア術はレイピア術発祥後、過去の対戦が終わるまでは、当時、屋外でも行なわれてきたようだけれど、現代では主にレイピア術専用の武術館、もしくは武術やスポーツなどをする体育館などで行なわれる。私の家の武術館は何度か修繕が行なわれているけれど、百八十年以上の歴史のある武術館で、実用性も高く、代々私の家に伝い受け継がれてきた。

 私のいた中等学校と高等学校のレイピア術部でも、先輩たちから伝わる歴史や伝統もあり、今でもなかなかに強い生徒が多いので、普通の学校では稀有なことに立派な武術館が建てられている。

レイピア術の武術館は、快適性や通気性のために、主に木造で建てられることが多い。私の家の武術館もほとんどが木で出来ていて、修繕で補強された合成素材や金属なども使われている。

中等学校と高等学校の武術館は、私の住んでいるシティーからの助成金でほぼ同時期に建てられていて、どちらもなかなかに新しい。でも、新しいから木材の他に合成素材や金属がふんだんに使われている。建築工法も最新で、木材で培われる快適性はもちろん、耐久性や耐震性も抜群で、建てられて以来まだ一度も修繕をしていない。

私の家の武術館は柱にとても太く大きな立派な木が使われていて、武術館を温かく、華やかに彩っている。私は、木がたくさん使われた武術館が好きだな。

「ニッシュ……」

その学校での武術館で、私はニッシュにちょっと聞きたいことがあって、レイピア術部の練習が終わった後にニッシュを呼び止めた。

「え?なんだい、ミシェル?」

 ニッシュは急な問いかけに少し戸惑っていたけれど、真っ直ぐ私を見ていた。

「ニッシュは、どうして私に告白してくれたの?私のどこが好きになったの?」

「……ミシェル………」

ニッシュは私の名を呼ぶと、練習で使い終わった、壁にかけてあるレイピアをそっと手に取り私に話しかけてきた。

「―――レイピア、もともとは金属製が主流だったらしいけど、現代では木製が一般的な試合で使われるよな……俺は、アウバで出来たレイピアが好きだ」

 ―――現代において、厳密には槍であるレイピアは、レイピア術が興った当初は槍か刀剣かあいまいだったようで、だからこそ槍術と剣術が融合したレイピア術が生まれた。レイピアは当時、戦いに使うことを目的とするため、主に鉄や銀などの金属で作られていたようだけれど、練習用や決闘での試合用に使うため。それに斬ったり、刺したりするほかに、剣術の流れから槍術としての流れを汲むレイピア術ならではの打撃や、相手を突き飛ばすほどの威力の突きを放つため、木材でのレイピアが考案された。

木製のレイピアに使われる木は主に、アウバという、しなやかで伸縮性が高く、それでいて強靭で耐久性にも優れている木が使われている。長く木製のレイピアを研究された結果、アウバに白羽の矢が立った……という話を、私は幼い頃父から聞いた。

アウバは、建築用の木材としても優れている。私の家の武術館の柱にも、アウバが使われている。しかし、アウバの森は近年、乱暴とも言える伐採によって減少していて、アウバで作られるレイピアや建築物は高騰を続けている。それでもアウバはその質感と実用性から、今でも愛好者が数えきれないほどいるのだ。

「―――私も、アウバの木で出来た、しなやかで力強いレイピアが好きだな」

「そうだな―――ミシェル、中等学校のときのこと、三年の、二校対抗試合があった日のことを覚えてる?俺が初めて中将を務めたときのことなんだけれど……」

「ニッシュが初めて中将に………ああ!あのときの!!ニッシュは苦戦したけれど、相手の突きをすごく上手にかわして……」

「そう、その時の!俺、あのとき初めて自分が〈よく出来た!〉って思えたんだ」

「そう、そうよね……ニッシュあの時、その試合のことすごく喜んでた」

「その時の打ち上げのことを、ちょっと思い出してほしいんだけれど」

「あの時の打ち上げ……」
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