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首都ボルマンの現実
34:指切り
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昼食を食べに行ったのに、昼食を食べずに傷だらけで帰ってきた二人を見て、イリスが大きく舌打ちしたのは言うまでもない。
そして、この大事な時期に、何も告げずに城下に降りた事がバレた二人にアスランが雷を落としたのもまた、言うまでもない。
「アスランは怒ると怖いのだな。イリスは怒っても怖くないのに。何だか悪戯をして叱られた子どもの気分になった」
「あながち間違ってないだろ」
「ははっ。確かに」
夜、ベッドに寝転びながら本を読むシャーロットは不意に昼間の話をした。
アスランは温厚な男だと思っていたが、怒るとかなり怖いようだ。
シャーロットは反省反省と軽い口調で呟いた。
絶対に反省していない口調である。
「…俺、何も考えずに、感情だけでニックに交渉の約束したけど、もしかしてまずかったか?」
「まずくはないけど、よろしくもない」
「だよなぁ…。ごめん」
「大丈夫だ。想定内だよ」
むしろ、あの場で約束できない男は好きじゃない。
シャーロットは慰めるようにギルベルトの髪を撫でた。
ギルベルトは恥ずかしそうに頭を振って、拒んだ。
「…なあ、聞いて良いか?」
「やだ」
「やだ却下。お前、ニックのこと知ってたのか?」
「どうしてそう思う?」
「夜会にはベルンシュタイン公爵が来る。だからこのタイミングで俺を城下に連れて行ったのは、お前の計算のうちだったのかと思って」
「ははっ。其方の中の私はまるで神のようだな。全てお見通しか」
「あながち間違っていないだろう」
「間違ってるよ。確かに、いずれは公爵を味方につけるよう動くつもりだったし、その準備として、まず夜会で挨拶くらいは交わせたらと思っていた。でもそれと今日のことは別。今日はただ、其方に首都の現状を見せたかっただけだよ。実際に見ないとわからないからな」
そんなに万能じゃないよ、と彼女は笑った。
その笑顔はあどけなく、年相応の少女のようで、ギルベルトは少し安心する。
「そうやって笑ってれば、年相応なんだがな」
「いつでも年相応だ」
「ぬかせ。……お前といると、なんか焦る」
「なぜ?」
「俺は何もできていないから」
これまでの間に、彼が玉座を目指すためにしたことは作法やダンス、教養などを身につけることだけ。
必要な根回しや策略などはすべてシャーロットがしている。
ギルベルトはこのまま、彼女に用意された玉座に座るのだろうか。何一つ自分で手に入れていないのに。
そう思うと何だかやるせない。
「ふふっ。当初はリスクは取りたくないとか言ってたくせに」
「気持ちが変わったんだよ」
「それは良いことだ。だかな、ギルベルト。焦る必要はないんだよ。其方に危険が及ばぬよう、裏で暗躍するのが私の仕事だ。約束しただろ?守るって」
「男前だなぁ」
「惚れても良いんだぞ?」
「誰が惚れるか」
ギルベルトはシャーロットのこめかみを軽く小突いた。
とは言え、自分が女で彼女が男だったならば、多分惚れていただろう。
彼はわずかに頬を好調させた。
「まあ、大丈夫だ。其方の1番の仕事は人心を掌握することだ。民に、魔塔に、ベルンシュタイン公爵に、『この人なら』と思わせる。それは其方にしかできぬ仕事だ」
「…できると思うか?」
「できると思うから色々と教えている。言っておくがな、私には其方を傀儡の王とすることもできるんだからな?」
「…怖いこと言うなよ」
ニヤリと口角をあげたシャーロットは、どこぞの悪代官のように見えた。
やはり敵に回してはいけないやつだ。
ギルベルトはジッと彼女を見つめると、『頑張る』と小指を出した。
シャーロットは彼の指に自分の小指を絡める。
「何を約束するんだ?」
「とりあえずは公爵の説得」
「できなかったときの代償は?」
「お前の奴隷になる」
「…それはなかなかに魅力的だ。むしろ失敗してくれ」
「絶対失敗しないからな!」
二人は絡めた指を、互いに切るようにして離した。
そして、この大事な時期に、何も告げずに城下に降りた事がバレた二人にアスランが雷を落としたのもまた、言うまでもない。
「アスランは怒ると怖いのだな。イリスは怒っても怖くないのに。何だか悪戯をして叱られた子どもの気分になった」
「あながち間違ってないだろ」
「ははっ。確かに」
夜、ベッドに寝転びながら本を読むシャーロットは不意に昼間の話をした。
アスランは温厚な男だと思っていたが、怒るとかなり怖いようだ。
シャーロットは反省反省と軽い口調で呟いた。
絶対に反省していない口調である。
「…俺、何も考えずに、感情だけでニックに交渉の約束したけど、もしかしてまずかったか?」
「まずくはないけど、よろしくもない」
「だよなぁ…。ごめん」
「大丈夫だ。想定内だよ」
むしろ、あの場で約束できない男は好きじゃない。
シャーロットは慰めるようにギルベルトの髪を撫でた。
ギルベルトは恥ずかしそうに頭を振って、拒んだ。
「…なあ、聞いて良いか?」
「やだ」
「やだ却下。お前、ニックのこと知ってたのか?」
「どうしてそう思う?」
「夜会にはベルンシュタイン公爵が来る。だからこのタイミングで俺を城下に連れて行ったのは、お前の計算のうちだったのかと思って」
「ははっ。其方の中の私はまるで神のようだな。全てお見通しか」
「あながち間違っていないだろう」
「間違ってるよ。確かに、いずれは公爵を味方につけるよう動くつもりだったし、その準備として、まず夜会で挨拶くらいは交わせたらと思っていた。でもそれと今日のことは別。今日はただ、其方に首都の現状を見せたかっただけだよ。実際に見ないとわからないからな」
そんなに万能じゃないよ、と彼女は笑った。
その笑顔はあどけなく、年相応の少女のようで、ギルベルトは少し安心する。
「そうやって笑ってれば、年相応なんだがな」
「いつでも年相応だ」
「ぬかせ。……お前といると、なんか焦る」
「なぜ?」
「俺は何もできていないから」
これまでの間に、彼が玉座を目指すためにしたことは作法やダンス、教養などを身につけることだけ。
必要な根回しや策略などはすべてシャーロットがしている。
ギルベルトはこのまま、彼女に用意された玉座に座るのだろうか。何一つ自分で手に入れていないのに。
そう思うと何だかやるせない。
「ふふっ。当初はリスクは取りたくないとか言ってたくせに」
「気持ちが変わったんだよ」
「それは良いことだ。だかな、ギルベルト。焦る必要はないんだよ。其方に危険が及ばぬよう、裏で暗躍するのが私の仕事だ。約束しただろ?守るって」
「男前だなぁ」
「惚れても良いんだぞ?」
「誰が惚れるか」
ギルベルトはシャーロットのこめかみを軽く小突いた。
とは言え、自分が女で彼女が男だったならば、多分惚れていただろう。
彼はわずかに頬を好調させた。
「まあ、大丈夫だ。其方の1番の仕事は人心を掌握することだ。民に、魔塔に、ベルンシュタイン公爵に、『この人なら』と思わせる。それは其方にしかできぬ仕事だ」
「…できると思うか?」
「できると思うから色々と教えている。言っておくがな、私には其方を傀儡の王とすることもできるんだからな?」
「…怖いこと言うなよ」
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やはり敵に回してはいけないやつだ。
ギルベルトはジッと彼女を見つめると、『頑張る』と小指を出した。
シャーロットは彼の指に自分の小指を絡める。
「何を約束するんだ?」
「とりあえずは公爵の説得」
「できなかったときの代償は?」
「お前の奴隷になる」
「…それはなかなかに魅力的だ。むしろ失敗してくれ」
「絶対失敗しないからな!」
二人は絡めた指を、互いに切るようにして離した。
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