【更新停止中】謀略のシャーロット 〜幼妻は呪われた第2皇子を皇帝にしたい〜

七瀬菜々

文字の大きさ
上 下
24 / 58
駒の確保

22:ヒーリエ夫人とお茶会(1)

しおりを挟む
『マチルダってば、まだ自分がお兄様のお嫁さんになれるって信じてるの?お馬鹿すぎない?』
『ほんと、身の程知らずだこと』
『しかし、そのおかげでこうして長い間騙せているのですから、元男爵の教育に感謝しなくてはなりませんね』
『あの男はちょっと顔が綺麗なだけの、何の取り柄もない娘を心の底から可愛がっていたものね。可愛い可愛いばかりで、ロクに世間の厳しさを教えてこなかった』
『25にもなってまだ夢を見てるだなんて、恥ずかしいわ』

 ………などという皇后や夫人たちの会話を、アポを取るために訪れた本宮で聞いてしまったマチルダは、泣くでもなく喚くでもなく、魂が抜けたような状態で帰ってきたらしい。
 マチルダがそれを聞いてしまうよう仕向けたのは他ならぬイリスなのだが、呆然と立ち尽くす彼女の姿には流石のイリスも申し訳なさを覚えた。
 ちなみに帰り際、さらに追い討ちをかけるように、マチルダはすれ違った第一皇子から虫ケラを見るような目を向けられたのだとか。
 
「まあ、あの目はマチルダではなく私に向けられたものでしたけどね!」

 主人の夜の準備をしながら、イリスは『この国に来た時、広間で第一皇子に恥をかかせた主人のせいだ』とイリスは頬を膨らませる。
 だがシャーロットは『冤罪だ』と軽くあしらった。

「ヒーリエ夫人には会えたのか?」
「いいえ?皇女宮の侍女に言伝だけ頼みました。明日には日程の返事がもらえるらしいです」
「そうか」
「『第二皇子妃が夫人に会いたがっている』と伝えたら、何故だか哀れみの目で見られましたけど、大丈夫ですか?」
「本宮の方では、私は呪われた皇子に嫁がされたり可哀想な姫って事になっているのだろう。好都合だ」

 可愛らしい薄ピンクと夜着に身を包んだシャーロットはニヤリと口角を上げた。

「イリス。持ってきたドレスの中で一番古くて地味なドレスの用意をしておいてくれ」
「かしこまりました」
「あと、本宮に『離宮の皇子妃は離宮に十分な予算が割り当てられていないために、ひもじい生活をしている』と噂を流しておくように。その噂が花開くのはまだ先の話だが、4ヶ月後のギルベルトの誕生日までに多くの種を蒔いておきたい」
「……姫様、今、稀代の悪党である皇帝陛下もびっくりなくらいに悪い顔してますけど」
「イリス。返事」
「…御意です」
 
     せっかくフリルにリボンが盛り沢山な年相応の可愛らしい服を着ているのに、悪代官のような顔で指示を出す姿は残念極まりない。残念な女選手権があれば結構良いところに食い込むだろう。
 イリスは思わず半眼になった。

「昔は可愛かったのに…」

 ***

 後日、ヒーリエ夫人の指定した日時に皇女宮の庭園を訪れたシャーロットは地味なブラウンのドレスを身に纏っていた。
 イリスが流した噂も相待って、耳をすませば『あんなに美しいお姫様なのに、着飾ることもできないなんて可哀想』などという声が聞こえてくる。
 シャーロットはその状況に薄く笑みを浮かべた。
 
「わざわざお越しいただき、ありがとうございます。妃殿下」

    ヒーリエ夫人夫人はシャーロットの前にお茶を出すと、人好きのする笑みを浮かべた。
 ふくよかな体型と緩やかに波打つ色素の薄い髪のせいか、とても優しそうなご婦人に見える。
 イリスの集めてきた前情報や、後ろで青い顔をして控えるマチルダがいなければ、シャーロットでも騙されていたかもしれない。
 シャーロットはイリスから菓子の入った箱を受け取ると、それを夫人に渡した。

「こちらこそ、急なお願いでしたのにお時間を作ってくださり、感謝いたしますわ。こちら、心ばかりのお詫びです」
「まあ、ありがとうございます。このお店、王国の宮中で腕を振るっていたパティシエのお店では?」
「はい。急遽取り寄せましたの」
「まあ!わざわざありがとうございます!嬉しいわ」
 
   そう言って大袈裟に喜びながら、夫人はその箱を近くのメイドに渡した。
 メイドの顔を見る限り、それはゴミ箱行きなのだろう。
 得体の知れない王女からの贈り物を素直に口にするほど愚かではないらしい。

(…愉快な茶会になりそうだ)

    シャーロットは目を細めた。

 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

処理中です...